結月ゆかりは画面を見つめる   作:hikoyuki

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紲星あかりは確かめる

 ダウンロード数が2桁に達するかどうかすら疑問視されるようなゲーム【マジックファンタジー】。

 

 滅びへのカウントダウンがすでに秒読み段階に入った世界で、パーティを組みながら呑気に遊ぶ懐古ゲーマー『結月ゆかり』。

 

(お友達を誘って一緒に同じゲームをしてる?いや、違うか。それなら真っ先に私を誘ってくれるもんね)

 

 あかりは他のプレイヤーたちに少し嫉妬しつつも、わざわざ示し合わせて集まったメンバーではないと推測した。

 

 それでも、ダウンロード数が2桁のゲームで5人ものプレイヤーが同じ時間にパーティを組めているのは、奇跡に等しい。

 

 あかりはそんな疑惑あふれるゲームについて「何か特徴的なシステムがあるの?」と問いかけるが、「見ての通り普通のMMOですよ」としか返事が返ってこない。

 

「よしっ、それじゃあ私もこのゲームやってみよう!」

 

 だからあかりは自分で確かめることにした。本当にこのゲームが普通のMMOなのか。

 

「えっ?いやいや、大したゲームじゃないですよ。あかりちゃんのような未来志向のゲーマーには物足りないでしょう」

 

 ゆかりは椅子を軽く回してあかりに身体を向けながら、肩をすくめて否定的な言葉を返す。とはいえ結局のところ、たとえどんなゲームであったとしてもあかりはプレイすることを選んでいただろう。

 

「えー?でもゲームっていうのは必ずしもクオリティだけが面白さに必要なわけじゃないんだよ?私、ゆかりさんと一緒なら楽しめると思うな」

 

 ごちゃごちゃと理屈を並べてはいるが、結局根本的な理由は1つ。そう、『紲星あかり』は『結月ゆかり』と一緒に遊びたかったのだ。

 

「……恥ずかしいことを臆面もなく言ってきますね。まあいいですけどね。ダウンロード先はわかります?」

 

 ゆかりは椅子をモニターの方へ向け戻しながらもそう問いかける。しかし彼女の頬にわずかな赤みがさしていることにあかりは気づいていた。

 

(まったく、照れやさんなんだから)

 

 そんなゆかりの横顔を眺めながら、あかりはにやにやと笑った。

 

「うん、もう見つけたよ。【マジックファンタジー】だよね」

 

「合ってますよ、さすがあかりちゃんですね。【オグメレンズ】でも()()()プレイができるはずです」

 

「でもゆかりさんのレベルまで追いつけるかな?」

 

 MMOといっても実際にはゲームデザインごとにさまざまな違いがある。最前線環境を前提としたバランス調整を施した上で先行プレイヤーと後続プレイヤーを同じ土台に引き上げるゲームもあれば、そもそも最前線環境に行くこと自体が目的となるようなレベル上げを主体としたゲームなどもある。

 

 そして今回、あかりが【マジックファンタジー】をプレイしようと考えたのは、ゲームの秘密を探るためでもあるが、ゆかりと一緒に遊びたいからという理由も大いに含まれている。だからこそそんな疑問を投げかけたわけだが……ゆかりはそれを、どこか意味深な一言で打ち消した。

 

「このゲームはシステム的には『Time to Win』に入ると思いますが……大丈夫ですよ。()()()()()()()()()()()()()

 

「技術で簡単に覆るなら『Time to Win』じゃなくない?」

 

「細かいことはいいんですよ。はい、これ予備のコントローラーです」

 

 ゆかりは机の引き出しを開け、中からコントローラーを取り出し手渡す。

 

「ありがとー。……何だか変わった形のコントローラーだね」

 

 それを両手で受け取ったあかりはグリップを握りながらも感想を述べる。

 

 ……実際には、変わった形どころの話ではない。形状はゆかりの使っているコントローラーと同型ではあるが、そのあまりの歪な形状にあかりは困惑していた。

 

 まずボタンの数がやけに多い。正面・背面・横面……余すところなく丸いボタンが大量に配置されており、それぞれに『A』『B』『C』とアルファベットが刻まれている。『Z』が刻まれたボタンまで一通り揃っているらしく、『オグメレンズ』と接続してみるとボタンの押下と同時に文字入力が行われた。

 

「これ、実質キーボードだよね。キーボードで良くない?」

 

 あかりはコントローラーをがちゃがちゃと動かして操作感覚を確かめるが……明らかに一朝一夕で操れるような代物ではないと痛感した。

 

「使ってみればわかりますよ。【マジックファンタジー】をプレイするに当たっては必須のデバイスです」

 

(大量のキーボタンが掌に収まると言えば聞こえがいいけど……入力デバイスの慣れは重要だと思うんだけどな)

 

 心の中ではそう思いつつも、あかりはテキストエディタに文章を入力して軽く操作確認を行っていく。同時にゲームのインストールを開始しつつ練習を続けていき……表面だけではわからなかったコントローラーの異常性に気づいた。

 

「うわぁ……ボタンの押し込み具合だけで5段階くらい入力に変化がある……。いっそ思念入力にしたら?」

 

「思念入力は思考がとっ散らかりますよ。やはり物理キーが一番です」

 

「こんな無茶苦茶なコントローラーよりは遥かにマシだと思うな……」

 

「いやいや、あかりちゃんもこの機会にコントローラー操作に慣れるべきですよ。ゲームスタイルが今までとは一変しますよ!」

 

「そりゃあ、これが操作できるような超人になればゲームスタイルは変わるよねー」

 

 あかりは自信満々にコントローラーの良さについて語りだすゆかりに呆れつつ、同時にそんな複雑な操作が要求される【マジックファンタジー】に半ば恐れを抱いていた。

 

(やっぱり全然普通のゲームじゃないよ、ゆかりさん……!)

 

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