個性【蒼星】   作:指ホチキス

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※蒼星(原作:LobotomyCorporation)の簡易説明
障害物全てを無視する蒼い光(色)を放つもの。それを見た者の精神に多大なダメージを与え、発狂した場合は端的に言って消し飛ばされる。


1:超常黎明期

焦げ臭さを孕む風。

息を殺す無数の気配、路上には動かなくなった人間が横たわり、焼損跡の目立つ廃ビルが並ぶ秩序無き街。

 

 

そんな街の一角に、灰色の長髪と、目を覆う白い包帯が特徴の少女がいた。

その少女は杖も持たず、荒れたアスファルトの道を歩いていく。

 

 

その足取りは安定しており、障害物どころか道の凹凸や水たまりすら避けて歩く様子に、それを見た人は薄気味悪さを覚えて声どころか近寄ろうとすらしない。

この時代において目立つ特徴は、()()と結び付けられるものだ。

 

路地を歩いていくその少女は、髪と同じ灰色のダッフルコートのせいで、背後からは灰色の塊のように見えていた。

 

 

ふと、そんな少女の背を追う影。

 

 

路地裏へと迷うこと無く入り込んだ灰色の少女に走り寄った男達は、即座に少女を囲うように展開。

それぞれが下卑た笑みを浮かべ、逃さないように退路を断つ。

 

それを直視していない少女は、己を囲う物騒な気配に足を止め、焦るまでもなく口を開いた。

 

 

「何か?」

「おいおい、余裕だな」

 

 

リーダー格の男は口から火の粉を吹き、少女の前髪を揺らす。

 

 

「俺は異能持ちだ。抵抗しなけりゃ殺さないでおいてやるよ」

「……あぁ〜」

 

 

その応答によって男達が明確に悪人であると認識した少女は、先程までの歩行と同じように、一切の迷いなく顔の包帯を押し上げた。

目に関する異能だと薄々感じていたリーダー格の男は即座にその顔を焼こうとして、動きを止めた。

 

 

そこには、どこまでも深い黒い穴があった。

しかしてそれが穴ではなく、光を反射していない黒の瞳孔であることに気がついた直後。

 

路地裏の薄暗さの中で、吸い込まれるような黒い瞳が(あお)く輝き始める。

少女の瞳より放たれたその光は全ての隔たりをすり抜け、咄嗟に顔を仰け反らした男は元より、少女の頭部すら貫通して背後にもその色を伝える。

 

その色を前に、男達は情動を強く刺激されるあまり視界の揺れを錯覚した。

路地の外から聞こえるはずの音は消え、一帯を満たす低く響くような静かな音が耳に届く。

 

やがて、一人がその場へと跪くように膝をついた。

 

気付けばその瞳は少女のものと同じ、妖しく蒼い光を宿しており、体がぐねぐねと輪郭を失ったかと思えば、まるで少女の瞳へ吸い込まれる様に消失した。

 

悲鳴すらなく、どうやってそうなったかもわからない。

男達のギラついた目は先程の光景に恐怖に染まり、その場から逃げ出すこともできずに固まっていた。

 

そして少女はその美しい蒼く光を放つ瞳を、リーダー格の男へと意識的に向ける。

 

 

───それを直視した男は、その美しさに呼吸を止めた。

焦がれるほど美しい、宇宙(そら)に煌めく星が、手を伸ばせば届きそうなそこにある。

 

それは、蒼い星だ。

 

生涯で感じたこともないような衝動が脳を占め、生来よりその星を追い求めていたと、本能が理解する。

我々は皆、その光を求めるために産まれてきたのだ。

 

歓迎の歌声と喝采のような、脳で処理できない何かが耳を通って頭へと滑り込んでくる。

 

理性が蒸発した男は、祈るように両の手を合わせ、その場へ跪いた。

周囲の男達も瞳が蒼く輝き始め、やがて体の輪郭が曖昧になっていく。

 

これが理。これが本望。

苦痛すら無く、男達は消失した。

 

 

「───カスばっかだこの街は!」

 

 

先程までの大人しい口調を崩し、少女は目を覆う包帯を巻き直した。

世は異能と呼ばれる現象を、総人口のうち僅かな個人が持ちうる超常黎明期。

この時代を生きるこの少女もまた、超常を宿す者である。

 

 

 

 

○○○

 

 

個人に()()()が世で正式に認定されたのは、ほんの十数年前に中国で発光する赤子が産まれたことからとされている。

そしてそれを起点に、赤子が、幼子が、超常的な異能を発現したと世界中で報告されるようになった。

 

 

人間の規格をはみ出し、従来の常識を塗り替え、既存の法則すら破壊する超常現象を、個人が意図的に発生させることができる。

 

 

その超人的な能力を前に、しかしそれを持たぬ多くの人々は恐怖を覚えた。

異能を持つ者を迫害し、片やその運動に反対し、やがて度を越えた者が台頭していくことで徐々に法治国家の地盤は崩れていき、5年程度で内乱に近い状態となっていく。

 

経済は混乱し、世界的に通貨の信用性が暴落。

それに伴って雇用需要は失墜し、大量の失職者が発生した状態で()()()がそれらを煽り、治安は急激な悪化を辿っていく。

運輸を含む、全ての流通が滞ることで産業の大半は機能を停止。

国の地盤が崩れた状況ながら、幸運にも他国からの侵略が無いのは、他国もまた同様の状態だったからという救いようもない状態。

 

そうして社会が崩れゆく時代の中、平和という状態を知らない超常孤児達は、その恐れられる身を以て世に生を知らしめることとなっていった。

 

 

───願星(ねがいぼし) (あおい)という瞳を隠すように包帯を巻く少女もまた、その中の一人である。

5歳にして発現したその個性、この時代においては異能と呼ばれる超常により、身内が消失。

 

その別れこそ()()()()()()()()()()()()が、それを境に、この少女はこの超常黎明期を身寄りなくして生き抜くこととなった。

 

 

 

 

闇市の賑やかな声を遠くに、マンションの一室で蒼は目覚めた。

ガラスの嵌っていない窓からは遠慮無しに風が吹き込み、埃と焦げた臭いを運んでくる。

 

半分ほど覚醒した脳を占めるのは空腹感、そして虚無感。

 

親と別れた日より5年。

治安は悪化の一途を辿り、義務教育は半ば崩壊しかけている。

10歳としてランドセルを背負っているはずだった少女は、塗装が剥げ、地の見えた鉄骨造の天井を見上げた。

 

 

「相変わらず知らないヒロアカ世界すぎるなこれ」

 

 

寝起きのため、掠れた音で溢した言葉は、この世界に生きる者であれば絶対に口にしない言葉であった。

 

願星蒼は転生者である。

正確に言えば憑依と言ってもよい。

 

蒼は【僕のヒーローアカデミア】という情報を知っている。

この世界の結末を観測したことがある。

しかしそれ以外の記憶はない。

この体に入る前は誰だったとか、どこに住んでいたとかは知らないし覚えていない。

何故知っているのかを理解できておらず、更に言えばこれが本当に憑依なのかもわからない。

ただ、ここがどういった世界なのかを知っているだけ。

 

15年ほど前、発光する赤子から始まった超人社会。

そのキーワードが少女の知っている物語と強く紐づいていたからこそ、ここがそうなのだと認識できた。

 

どこか達観しているように見えるのは精神年齢が体に見合っていないから。

少女の体に、なにか別の意識が滑り込んでいるというような状態だと蒼は自覚していた。

かといって、それが明確に自分から外れたというわけでもないので、単に異能の発現と同時に認識が拡がったという表現の方が正しいのかもしれないが。

 

 

「仕事行くか……」

 

 

くたびれた顔で呟き、コートを羽織る。

 

知識と照らし合わせれば、現代は原作前の超常黎明期と呼ばれる時代。

作中においては過去の話として語られたもの。

原作の中では既に済んでいた、終わっていた全てだ。

 

USJや合宿編など遥か未来の知識があったとしても、今ここで役立たない事は重々承知している。

 

───唯一役立つのは、異能を消す、異能を渡すという噂には近寄るべきではないという事ぐらいか。

 

この時代において命は重くない。

生存第一という意志を固め、今日も蒼は瞳を隠すように包帯を巻くのだった。

 

 

 

 

白い包帯で目を包んだ蒼はマンションを降り、しばらく歩いて仕事先へと顔を出す。

そこは荒廃した住宅街の一角に居を構える売店。

個人経営のコンビニのようなものだった。

 

 

「おはざーす」

「おう、おはよう。今日も頼んだ。カスがいたら遠慮なく壊してくれ」

 

 

挨拶に反応したのはラフな格好をした筋骨隆々の男、店長である。

 

そして奥で眠るのは、小学校低学年ほどの店長の子供。

その子供の顔は鱗の生えた爬虫類的であり、ドラゴンっぽさがある。

 

───わかりやすい異形系の異能。この時代においては、明確に迫害の対象だ。

 

店の周囲はスプレーなどで口汚い落書きがあり、しかし誰もそれを気にしない。

ここに買い物に来る人々は、それを気にするほどの余裕が無いのである。

 

 

「了解でーす。壊したら寄せときますね」

「あぁ、一人あたり金は上乗せしとく。じゃあ表にいるからなんかあったら呼んでくれ」

「はーい」

 

 

制服は無い。

薄汚れたコートのまま、裏口に置かれたソファに寝転がった。

 

蒼の仕事は泥棒や強盗を防ぐ店番である。

治安の悪い超常黎明期において、物資は貴重だ。

それこそ餓えにより、異能持ちなどという異常者からは何を奪っても良いなどという建前の下で暴れ出す奴もいる。

 

蒼は困っていたこの売店へ異能を売り込み、ちょうどノコノコ現れた奴を壊す事で採用された経緯があった。

子に罪は無くとも、やはり異形系は迫害を受けやすい。

異能を持たない親から産まれた間違いなく二人の子供である少年を慮って時間を潰していれば、何やら複数の静かな足音が聞こえてきた。

 

 

「何か御用ですか〜?」

 

 

起き上がることもせず、足音の方へ声をかける。

ピタリと止まった足音と、何かをボソボソと話し合うような声。

 

 

「あぁ、用がある。怪我をしたくないならどいてくれ」

「うーん、ちなみに私は異能持ちですけど、そちらさんは気にするタイプですか?」

「───なに? 保菌者(キャリア)は街から出ていけ!」

「んんん、ボケカスの街〜!」

 

 

あまりにも治安が悪すぎる。

それが、どう見ても中学にすら上がっていない女子に対し、大人が直接投げかける言葉だろうか。

原作の大衆を考えてみれば悲しくもそこまで違和感は無いものだが、不安定化した時代においていえばこの程度は眉を(しか)めるという程にもならない。

 

これは、普通のことだ。

 

顔を上げて改めて知覚すれば、男女6人がいた。

それぞれが怯えを含む怒りの感情を発露しており、防護服を着用して金属の棒などを掴んでいることからかなり強い害意を感じる。

 

 

「はーい注目!」

 

 

面倒だったのでそれ以上の会話はせず、蒼は包帯を押し上げて瞳を露出させ、わざと明るい声を出す。

たったそれだけで、その顔へ、露出した黒い瞳へ視線が集中した。

それだけで、十分だった。

 

瞳から脈動するように蒼い光が瞬く。

喧騒は消え、空洞音にも似た低い響きが一帯に満ちる。

人の声どころか呼吸すら止まってしまったと感じられるほどの、鈍く耳奥へ届く音。

 

冷静ではない人間の精神は脆い。

抵抗すら無く、全員の瞳が同様に蒼い光を灯したところで瞬間的に異能を収めて瞼を降ろす。

 

次に瞼を上げれば、眼の前にいた人達は───

 

祈るように手を合わせ、口からは泡を噴く廃人。

倒れたまま痙攣し、幸福そうに笑いを溢す廃人。

跪くように身を丸め、ブツブツと何かを呟く廃人。

 

廃人、廃人、廃人。

 

 

「店長、来たけど終わりましたー!」

「おーう、片付けとくから裏口の横に寄せといてくれー」

 

 

抵抗の無い重量物を引きずり、ソファの近くへ積む。

生き残るために、先の時代の倫理観はとうに捨ててきた。

 

やがて出荷されるこれらを見て、痛める心など持ち合わせてはいないのだ。

 

 

僕のヒーローアカデミア。

超常黎明期を超えた時代、個性と共に生きるヒーローとヴィランを描いた超常【第五世代】達の物語。

 

超常【第一世代】である願星 蒼にとって、その時代は遥かに遠い未来の話であった。




資料確認しながら書いていますが、もし設定を明らかに間違えてたら教えてくださるとすごく助かります。
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