個性【蒼星】   作:指ホチキス

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11:望まぬ再会

破壊されたトラックからのそのそと脱出し、蒼は瞳を覆う包帯を解く。

それに対し、未だにトラックに蒼が乗っている意味が分からず、ほぼ反射的に攻撃を仕掛けた死柄木は酷く怪訝そうな顔をして手を向けていた。

 

永景會で輸送成功率が極めて高いドライバーに関する噂を知っていた死柄木は、その強力であろう異能に目をつけて何ができるのか見ようとしたのだ。

しかしそれで蒼い星が出てきては堪ったものではない。

 

 

「何故お前がいる」

「仕事だよ仕事! お前が呼びつけたんだろうが!」

 

 

蒼の言葉に、死柄木は意味を理解するまで暫く時間がかかり、理解すると同時に心底理解できないという目を向けた。

死柄木の知る噂では、高温で人間を蒸発させる異能の筈で、蒼の事など欠片も疑っていなかったのだ。

あちこちで元の情報から尾鰭が付いてしまい、その信憑性は頼りにならないというのを死柄木も理解していたが、流石にこれほどまでに乖離しているとは夢にも思わず。

そこから死柄木は誤った答えを導き出すこととなった。

 

 

「運転手を殺してトラックを奪ったか? 無線機の粗い音質では声が誤魔化せるというお前の企みは見事に的中したわけだ」

「なんだお前、この歳で立派に働いてる私に向かって」

「クソ……なぜこんな訳の分からない奴がこの社会にいる……!!」

「こんな奴とか言うな。ほら、仕事あるから……あ、待ておいトラックどうすんだよ! 直せ!」

 

 

ダンダンと地団駄を踏む蒼を見て、死柄木の蟀谷に青筋が浮かぶ。

順調に裏社会の掌握が進む日々の中で、これほど苛立つことは無い。

 

本来であれば感情に動きが無い死柄木だが、蒼い光によって精神に影響を及ぼされた事により、その光を想起させる願星蒼に対して感情が動くようになった。

とはいえ、基本的にはマイナス方向の感情ばかりのため良い事は何一つとして無く、死柄木本人はそれを自覚できていないため尚悪い。

 

死柄木は蒼が本当の事を言っているとは欠片も思っていないため、単に敵対行為を仕掛けてきたのだという認識だった。

会話の噛み合わなさにこれ以上は不要だと判断した死柄木は、その異能を以て攻撃準備へと入る。

 

 

「殺す……!!」

「おい、ちょっと待て。別に喧嘩しに来たわけじゃない。トラック直してくれたら輸送に戻るから普通に直してくれ」

 

 

それを聞き、理解が及ばない、まるでエイリアンが喋っているのを聞いているかのような顔を浮かべる死柄木。

 

 

「お前まさか……ヤクザの小間使いなどしてるのか? いや、洗脳でもしたのか」

「失礼過ぎるだろマジでなんだお前」

 

 

死柄木にとって蒼は、異能の相性が悪く、人を誘惑し、時に消滅させる障害物を無視する光を放つ、おおよそ社会にあってはならない異能を持つ女という認識であり、普通に働いているなどという事実はその先入観から認められず。

まだ、ヤクザを洗脳して内部に侵入し、死柄木に攻撃しに来たというほうが納得できた。

 

 

ここで死柄木のしている勘違いが1つ。

死柄木はその桁外れの精神力によって、蒼い光が救いとなる情報を与えてくることに気付き、それを誘惑と考えた。

それを常人に弱く使えば教祖のように人を操る事など容易で、出力を上げれば人間は情報量に耐えかねて何らかの方法で消失すると考えている。

 

しかしそれは間違いで、蒼い光は出力の際に指向性を多少与えることは可能なものの、それが与えるダメージは調整など出来ずに一定である。

つまり精神力の弱い人間へ弱くした光を当てて洗脳するなどというのは不可能で、光を浴びたそれらは消失させることしかできないのだ。

 

ちなみに蒼自身は異能の能力強化訓練などを全く行っていないため、指向性すら未だに甘い。

近くに人がいれば、大体巻き込まれるぐらいの甘さである。

輸送中の対襲撃者は光量の調節などが必要な仕事でもないため、訓練になるはずもなく、4年前と異能の強さに関しては何一つ変わっていなかった。

 

 

「理解できないな……! お前が何をし、何を望むのかが理解できない……!」

「おい誰かァ〜! この錯乱した偉い人を止めてくださぁ───い!!」

 

 

その声を聞き、トラックの破砕音によって周辺で様子を窺っていた職員達が駆け寄ってきた。

その全てを打ち払うのは流石に外聞に影響すると判断したのか、死柄木は憎々しげに蒼を睨み付けながら職員達へ蒼を拘束しろと指示を出す。

 

抵抗する気も無かった蒼は、縄で縛られていくのを受け入れながら、その場へと座り込んだ。

人払いを済ませた上で、死柄木は息を落ち着けてから蒼を見下ろす。

 

 

「何をしに来た」

「輸送の仕事。お前がいるって知らなかったんだよ」

「それが真実だとして、仕事に関する情報は言えるのか?」

「永景會直系甲野組 玄野さんから和反に襲われたドライバーと一旦代われって言われて交代した。甲野組の下で働いてもう四年になる」

 

 

死柄木はその情報に聞き覚えがあり、その全てに嘘が見当たらないので更に困惑を深めた。

 

 

「お前……僕と連携する組織で平然と働いてたのか……?」

「まぁ、そうなる」

「スパイか?」

「いや、普通に働くだけで食事もらえるから」

「頭がおかしいんじゃないのか。その異能を使えば、思うがままに振る舞えるだろう。それほどの力があればこの時代において人を動かし、支配し、好きなようにできるだろう!」

 

 

そう叫ぶように声を荒らげる死柄木に、蒼はどこか納得した。

死柄木は蒼を過大評価している。

己の手による管理、支配が不可能だと思わせた異能を扱う願星 蒼を、等身大で見れなくなっているのだ。

 

まるで子供が、大昔に痛い思いをした小動物を大人になっても未だ苦手とするように。

 

 

「……名前、そういえば聞いてなかった。なんて呼べばいい?」

「───AFOとでも呼べ」

「長いから適当にオーフォーでいいか。オーフォーはさあ、初めて会った時に言った私の夢を覚えてる?」

 

 

真面目な顔でそう言った蒼に対し、なんの表情も浮かべずに死柄木は即座に首を傾げた。

 

 

「いや全く」

「ほんと人の話聞くぐらいはしたほうがいいよ?」

 

 

蟀谷の青筋が更に浮き出るのを見つつ、蒼は過去に語った夢を再度口にする。

 

 

「生きてこの世界を見ていくという夢。だから、それを邪魔されない限りはわざわざ光ることも無い」

「……」

「私の異能がそんな夢には不相応なほど強力なだけで、別に私自身は世界征服なんてのを望んではいないのさ」

 

 

その言葉に、少し考え込むような様子を見せる死柄木。

 

 

「お前は、金さえ出せば僕の下でも付くのか?」

「それは無理」

「何故だ。僕の元で動くなら食事どころか好きな事をさせてやるが。自由に生きるのも敵対しないという条件で黙認しよう」

「苦手な上司のとこで働くのはちょっと……」

「お前は本当に頭がおかしいな。今の答えは敵対宣言と同じだが」

「オーフォーの直下は無理だな。もしも永景會を取り込もうとしたなら、私は諦めて違う仕事を探す。ただ、私ほど優秀な運送ドライバーは中々いないぞ」

 

 

独特な命乞いに、死柄木は面倒になって腕を下げた。

ここで強硬的に戦闘を行った場合の被害が無視できないため、それを押してでも攻撃を行う気になれなかったのである。

 

折角支配の手を広げて人間の出荷までたどり着いたのに、そのシステムを壊されると流石に色々な部分に支障が出るものだ。

この資源の少ない時代では、修理や新規立ち上げに時間がかかりやすい。

流石の死柄木も未だ若く、ほぼ一からやり直す事への抵抗感があった。

 

異能を並列使用して蒼のトラックを修復し、最後に蒼を縛る縄を燃やす。

 

 

「お前が代わりのいない優秀な運送屋だと言うのであれば、その原因となる和反を片付ける」

「えっ」

「そうしたらお前である必要はない。その暁にはどこかへ飛んでもらう。たとえ連携先の末端であっても、お前が存在すると目障りだ」

 

 

つまり、他社からの実質的なクレーム左遷である。

あまりにも横暴なそれに、蒼は疲れた顔でため息を吐いた。

 

 

「お前、私のこと嫌い過ぎじゃないか」

「いつか、必ず殺してやるからな……」

「ほっとけって言ってんだろ!」

 

 

全てを支配するとき、必ず障害となる蒼を敵視する死柄木だが、原作を知る蒼は死柄木がいつかオールマイトに負け、更にその先で死を迎えるのを知っているのであまり付き合う気が無いという温度差がそこにはあった。

 

そうして比較的平和に別れることができた蒼はきちんと輸送の仕事を完遂し、トラックの駐車場へとなんとかして帰ると玄野の部屋をノックし、中で報告を行う。

 

 

「すみません玄野さん、クレーム貰いました」

「あーマジか。輸送ミスったか?」

「いや、客先の偉い人が過去に因縁ある感じで」

「ふーん、どの人?」

「異能の貸し借りする人っす」

 

 

サァ、と顔を真っ青にした玄野が、詳しく話せと蒼の肩を掴む。

そうして過去の因縁を掻い摘んで話し、今日の出来事をそれなりに伝えれば、玄野は慌てて部屋から飛び出していった。

 

不安になりながら待っていると、甲野が後ろに付き人をつけた状態で部屋へと入ってくる。

 

 

「蒼、なんで黙っとった」

「その、まさかいるとは思わなくて」

「だが俺らが奴と手を結んでいるのは知っていたはずだ。つまり、お前はこちら側に負債をつけるような事をしているとも取れる」

「はい……」

 

 

言い訳も特に無いため、異能の相性が悪く、向こうの天敵のように思われていると添えて言えば、甲野は暫く考え込むように俯いた。

 

 

「蒼」

「はい」

「運転手クビ」

「えっ」

 

 

願星 蒼、勤続4年目にして解雇される。

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