永景會の会合で、蒼の紹介が行われた。
とはいえ組長などが多数集まる会に、光っただけで多人数を消し飛ばせる本人は不参加であるが。
「甲野よォ、この時代に奴と敵対の道を選ぶってか?」
「臆したか笹崎! この時代、引けば斃れると何故わからねぇ!」
「俺は反対だね。そいつがいるだけで
紹介にあたってAFOとの関係を明かせば、単に運び屋として優秀であった評価から一転して、蒼の扱い並びにAFOとの関係について組長達でも意見が割れた。
永景會を残すにはAFOに
「───おい、甲野よお」
そして怒号飛び交う中、永景會の会長がその日初めて声を出した。
老齢にして、垂れた瞼から覗くその眼光は、刃物のような鋭さを帯びており。
ピタリと声は止み、全員が居住まいを正す。
「お前やれんのか」
「腹、括ってますよ」
「そうか、そうか……」
真っ白の顎髭を指で擦り、頬がコケて骨ばった組長は、見た目は今にも砕けそうにも拘らず、永景會を引っ張っていく事を納得してしまうほどに気力に満ち溢れていた。
「お前ら、こんな時代だ。各々がうちの看板背負って動いてみろ。この時代に永景會の名を響かせてみろや!」
その言葉に数人は顔を引き締め、また数人は顔を俯かせる。
「ただよう、看板に泥塗る奴は落とし前付けろ。必ずだ。以上」
そう言って付き人と共に会合を去る会長へ皆が頭を下げ、それぞれが相反する意見の組長を睨み付けた。
先程の言葉から、会長はどちらかといえばAFOを厭っている事を甲野は読み取る。
しかし明確に表明すれば、既に心臓を鷲掴まれた組長が大義名分を得たと大きな動きを見せる可能性があり、会長は当然のことを言うに留めた。
看板に泥塗る奴は落とし前をつけろ。
親父と交わした
甲野は付き人を伴に、ゆっくりとその場を後にするのだった。
○
そんな頃、蒼は何をしていたかと言えば、言い訳のしようもない事故によって玄野に叱られていた。
何かといえば、輸送先でトラックの後ろ側を思い切りぶつけたのである。
「お前は運転が本当に下手クソだな。その包帯で眼の前見えてねえのが原因じゃねえのか?」
「知覚は完璧。教習してねえんだコッチは!」
「お前の異能が唯一無二だからこれぐらいで済んでるが、普通だったら気絶するぐらい殴ってるからな。気をつけろよホント」
「ウッス……」
運転手をクビになったとはいえ、輸送許可は出てるのでウキウキで輸送に行ったら普通にぶつけて蒼は萎えた。
運転が上達しないのに異能は関係しておらず、蒼はただただ運転が下手である。
───電気の供給が不安定化したことで部品の質は限りなく悪化した。
工業の大半は安定しない電力では事業として成り立たず、結果として車という精密部品の集まりはこの時代で動く宝石とまで表現できる域にある。
それを破壊しておきながらただ叱責で済んでいるのは、蒼そのものの価値がそれを超えていると判断されているからであり、そうでない有象無象はその身を部品と等価交換することになるだろう。
「本来だったら二人で運輸するんだが……お前の異能、そろそろ制御できたりしないのか?」
「そのへんで勝手に光るわけにもいかないので」
「そりゃそうだ。敷地内で光るなよ」
「光りません」
発光に関してはきちんと制限が設けられており、それに反した場合は余程の事情でもない限り叩き出されるので蒼はしっかりと守っていた。
そして玄野の言う二人で、というものだが、永景會の輸送とは運転役に一人、護衛に一人という形が基本である。
時には護衛に異能を発現した子供などを連れ、殺人の経験を積ませておくこともあるが、基本的には二人組だ。
それを前提とした上で、改めて蒼はどうかと言えば、ずっと一人だ。
それは何故かと言えば、誰かと共に出た場合、和反などの対処で相方を消滅させる可能性が極めて高いからである。
一人であれば全てを無視できるので、結果的に管理側の玄野が蒼を一人で働かせているのだ。
「感覚として、現状以上の制御は可能なのか?」
「光が届く範囲を拡げられはしそうですね」
「使いにくい方向に伸びていくなよ」
現状はオンオフができる前提の下、蒼の瞳を中心に約6メートル四方の範疇に光が届く。
それ以上の距離からでも注視されればその受容器官へ蒼い光は映ることもあった。
そして蒼の直感が、少なくとも本格的に個性強化訓練を行えばその範囲を拡げることが出来そうだと囁いている。
しかし現状の使い勝手からその範囲を縮める事には成功しておらず、拡がっていけばその性質は一方的で固定されていくはずだ。
つまり、蒼の異能は使い勝手が悪くなり続ける方向に成長する。
ある意味で、蒼は中途半端に戦闘が成り立つ異能ではない事に感謝していた。
そうして熟練する結果、光がただその届き行く範疇を拡げていくだけなのだから。
「うーん……とりあえずお前の都市伝説トラックが直るまでは載せたくねえから、一旦育児の方行くか」
「産めないっすよ?」
「知ってるよ。というか産めたとしてお前の光が遺伝したら絶対に持て余すから産むな」
玄野は蒼が二人に増えるのを想像して嫌な顔をした。
蒼は大人びた性格をしているため光ることはほぼ無いが、果たして幼少期に発現した子供が事故を一度も起こさずに成長できるだろうかと想定すれば、どう頑張っても上手くいくわけがないという結論が出る。
よくもコイツはオンオフできるとはいえ、これ程までにコミュニケーションが取れる性格になったものだと玄野は密かに思う。
異能産で発現と同時に暴走した子供を数人知っているだけに、周辺の人間全てを消し飛ばし続ける幼児となる可能性もあっただろうに。
「育児っつってもお前が行くのは異能
「あ、ひょっとして千並ちゃんのいる方ですか」
「そうだ。制御教え込むのに的として最適だろお前」
「人として扱ってくれせめて」
どの口がという要望を出しつつ、蒼はその内容に納得していた。
甲野組の異能産の中で、今年は過去と比べて最も発現数が多い予測だ。
移植をしない甲野組では異能の管理に人手不足が表面化してきていた。
「じゃあ明日からそっち行きますね」
「おう、直ったら連絡するわ」
「今回は本当にすみませんでした」
「今回
そんな会話を交わした翌日。
蒼は途中で合流した千並と話しながら、別のアパートの騒がしい一室へと足を踏み入れた。
「あ! 包帯マン!」
「包帯マンだ!」
「はいお前ら異能使えるようになったか〜? 生意気言ってるとピカッとして消し飛ばすぞ〜」
育児用アパートと呼ばれる建物の一階。
壁を壊して広場となったそこは、沢山の幼児が遊ぶ、この時代ではここ以外では見ることができない景色だった。
幼い笑い声、遊び回る小さな足音。
微笑ましく思えるそれが、裏では生存と引き換えに産み続ける母親によって出来た光景である事を蒼は知っている。
中には蒼が壊して、胎を利用されているだけの存在だっているだろう。
それに罪悪感を感じることはないが、これがこの時代における影響力の増大と直結している事実には少しばかり怖れを抱いてしまうものだ。
原作にこれは描かれていなかった。
誰もが、記録として残すべきではないと考えたのか。
主役である高校生が直面するには酷な史実だから言及されなかった可能性も高い。
黎明期を語る大人は皆言葉を濁していた。
原作の、全人口のほぼ全員が異能を、個性を持つ時代に産まれた人々では想像も出来ないだろう。
異能を持つ子供を求めるために、ただひたすらに母胎を消費する時代があったのだと。
「うわっ!」
「きゃーっ!」
「はーい離れてね〜」
ふと、幼児達の集団の中から火花が散った。
悲鳴が上がると同時に、奥で幼児の相手をしていた千並がすぐに駆け寄って平面化していたクッションで子供を隔離する。
「火花の異能ね、とりあえず怪我はない?」
「……うん、俺、遂に出たんだ……!」
「よし大丈夫そうだね。じゃあちょっと離れるから蒼ちゃん、誰か発現したらよろしくね」
「ほいさ」
そうして男児を連れてアパートの外へと出る千並の背を見送った。
ここは異能産の待合所。
異能を発現するのを待つ場所だ。
そして、異能無き子供を選別する場所でもある。
発現したり、発現しないまま