個性【蒼星】   作:指ホチキス

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14:和反

異能発現の待合所でのんびり3ヶ月。

トラックの修理にもありとあらゆる物品が足りておらず、思ったより長引きそうな部品の納品をのんびりと待ちながら、蒼は個性を発現した子の面倒を見たり、個性を発現せずに卒業していく子の背を見送ったりしていた。

そんな中、蒼の元へ玄野から情報が伝えられる。

 

 

「えっ、AFOが行方を(くら)ませた?」

「らしいって話だけで、どうにも情報は錯綜してるがな」

 

 

聞けば、ほんの一週間前辺りから本人の姿を見た者がいないらしく、関わっていた事業などはいつの間にか後任が据えられていたとのこと。

闇討ちで死ぬわけが無いので恐らくは何らかの目的を持っての失踪だとは思うが、という玄野の見解に蒼も同意した。

 

 

「潜んで異能持ちの子達を狙ってる可能性もありますし、後は……どうでしょうね。案外、和反の根絶のために動向を掴ませないという目的があるかもしれないですよ」

「俺の中の印象だと後者なんだが、お前から聞く印象だと前者なんだよなぁ」

「くそっ、私にも優しくしてくれー!」

 

 

AFOは裏社会において支配のために、ありとあらゆる事をやっている。

本心など一切出さず温和に、時に感情的を装って人の心を惹き寄せた。

人心の掌握に恐怖と異能を使わないあたり、支配の方法を楽しんですらいるのだろう。

 

対し、蒼には終始感情的なので、AFOについて語ると印象の齟齬が生じるのだ。

 

 

「正直、お前を抱えてるのは確実にバレてる」

「でしょうね。隠してないし」

「裏で抱えといても邪魔だし、表で壁として目立ってくれたほうが牽制になるから会合で名前を挙げたんだが、思ったより反発が大きかった辺り、想像以上に手が伸びてるっぽいんだよな」

「おい今邪魔って言ったか?」

「正直、異能ってのを舐めてる奴が多い。他のカスみたいな異能ばかりを見て、お前みたいな本物の化物を知る奴が少ないのは問題でもある」

「邪魔とか壁とか言った上に最後には化物呼ばわり!?」

「未だにAFOを制御できると思い上がっている奴が多すぎる。お前、室内で手ぶらのまま10人程度を殺すのに何秒必要だ?」

「2秒いらないですね」

「こんな化物が殺せない奴をどうやって制御できるなんて思えるんだか、俺には理解が出来ない」

 

 

玄野は酷く疲れた顔で、蒼の顔を見た。

 

 

「お前みたいなのを見てると異能が御せるなんて勘違いをしないからいいな」

「今これ酷いこと言われてるでいいんですかね?」

「じゃ、AFOについての報告は以上。こっちはお前を盾に交渉してく予定だったが、その先を失って一旦様子見になる。お前も何かあったら連絡してくれ」

「うっす」

 

 

報告ついでに散々好き勝手言って部屋から出ていく玄野。

話が終わったとみるや突撃してきた子供達を捌きながら、蒼はAFOの行動に若干の不安を感じていた。

可能性としては弟が連れ出されたあの日が来て、それを探すために和反を虱潰しに殺し回っている可能性も否定できないが、やるなら大々的に宣伝してやるだろう。

 

そしてその報告があった翌日に、それは起きた。

 

 

爆発音、そして悲鳴。

この時代の異能にしては大きい爆発からして、恐らくは人工物によるものだと察せられる。

窓ガラスが屋内へと飛んできたことで数人の子供が負傷、焦げ臭さと血の匂いが部屋に充満した。

 

 

真っ昼間から室内に突入してきたのはミリタリーベストと覆面を身に着けた十名。

 

 

その格好を蒼は知っていた。

和反が、異能産の拠点へ襲撃してきたのだ。

監視網をどう掻い潜ったのかなどと疑問を浮かべるより先に、黒煙の中で千並が瞬時に異能を発動。

 

腕に巻き付けていた先端の尖る鉄パイプをするりと手元に滑らせて平面から戻し、一人の頭を貫通して殺害。

更にもう片手で同様に隣にいた二人目を殺害。

断末魔すら上げさせない速度のままパイプを平面へと戻し。

三人目は反射的に顔を隠されたため、腹へとパイプを突き刺して体内で平坦となるように異能を発動。

激痛に苦悶の声を出した仲間に気を取られた四人目へ、パイプを斜め前方から突き刺すことで貫通しきらない刺し方を行う。

腹へと刺さったパイプから肉片混じりの血液が溢れ出す凄惨たる致命傷と、声で女と判別できた四人目の絶叫を前に、和反はその動きを止めた。

 

 

「フゥ───……」

 

 

全身に巻き付けていた平面化させている武器群をまるで包帯のように垂らして臨戦状態となった千並を前に、蒼は言葉一つ出せない。

 

それは何故か。

 

 

───普通に知覚できていなかったからである。

 

 

「……ぉう!?」

 

 

爆発にびっくりして知覚が途切れ、何事かと知覚し直したら臨戦状態の千並に、既に数人死んでる和反。

街にいた頃であれば爆発音など聞こえた瞬間には障害物の陰へと身を投げたものだったが、平和ボケしていた蒼はそれは見事な直立不動であった。

 

対して、運送の護衛として戦闘経験に長けた千並の動きは、疑問や迷いなど無い見事なものだ。

数を減らし、その上で数人にグロテスクな致命傷を負わせることで残党の戦意をへし折りにかかる。

事実、街においても滅多に見ることが出来ない、パイプから多量の血を噴きながらのたうち回る女に、和反のうち数人が顔を背けた。

 

 

「蒼ちゃん、子供達連れて逃げられる?」

「千並ちゃんの方が価値高いから、それだったら千並ちゃんが逃げて欲しいかも」

 

 

そう会話を交わせば、和反のうち一人が反応を示す。

それは和反の中で最も後から突入してきた男。

赤い髪のリーダー格であろう男が蒼へと瞳を向けた。

 

 

「お前が蒼か」

「…………まぁ、そうだけど」

 

 

このとき蒼が思ったことは、名前を知られていることに対する疑問でも、何故襲撃してきたのかという部分でもない。

その男がOFAの継承者では無かった事に対する安堵であった。

 

そして次に飛び出た言葉に、そんな安堵も吹き飛ぶこととなる。

 

 

「お前が、AFOと共に世に混沌を齎す女……!!」

「は?」

 

 

蒼は目が点になった。

 

 

「は?」

 

 

蒼が千並と顔を見合わせれば、千並も心底何を言っているのかわからないという顔をしていた。

数秒、その言葉を考え込んで。

意味を理解して、蒼は口を開けた。

 

 

「は?」

「どれほど誤魔化そうと意味はない。我々はお前がAFOと繋がり、人を無為に殺していた事を知っている」

「は?」

「我らの始まりとなった彼女の死を仕組んだのがお前だと知った日より、お前に償いを負わせることは我らの悲願」

「は?」

「異能によって人格を壊し、異能を持つ子供を選別するために産ませ続けるだけの母として裏社会へ売り捌く非人道性を含め、お前は必ず殺さなければならない……!」

「なんでそこだけ真実なんだよ」

 

 

そして、この会話で理解した。

AFOがわかりやすい形でこちらを嵌めに来たのだ。

知覚しただけで和反の精神の不安定さが手に取るように分かる。

全員が何らかの異能によって、精神または思考に干渉を受けていた。

 

 

「そこにいる幼子達に罪はなくとも……」

「くっ、ここは私を盾に逃げて千並ちゃん!」

 

 

男の声を途中で遮って放たれたその声の真意を汲み取り、千並は周囲にいた子供達や和反には一切の目もくれずに武器の平面化を解除して室内から飛び出した。

 

 

「じゃ、そういうことで」

 

 

包帯の奥でその瞳は蒼く輝き、光が宙に放たれる。

会話すら飛ばして攻撃に移ると思っていなかった男は、その光を直視することとなった。

 

 

「……ゴ、ぇ……」

 

 

こちらを囲っていた和反の人間達も、そして周囲で泣くこともなく息を潜めていた子供達も瞳を蒼くして同様に輪郭を失い、瞳へと吸い込まれるように失われていく。

 

光り輝く蒼い星。

誰もが救いを求める中で、それが確かな救いであると蒼い光は教えてくれる。

室内にいた全員はこの時代において、幸福と言える終わり方をした。

 

そしてそれを行った蒼に良心の呵責などは無く、むしろ誘拐を防いだ事で和反の勢力拡大を未然に防いだ形になったと考えていた。

 

静かになった室内で、蒼は天井を見上げる。

 

 

「アイツ、乗っ取るどころか直接潰しに来たか?」

 

 

こちらから和反に対して語りかける事がなかったのも災いした。

AFO側が明確な敵対組織である和反を利用する描写が原作では無かったので、ヤクザの組員としてはまだしも、個人での敵対をすることはないと思っていたが、和反ではない敵対存在がいれば利用しようと考えるのは当然と言えば当然。

 

とはいえ、突然このように直接攻撃を仕掛けてくるというのも妙な違和感があるが。

蒼は与り知らぬところであるが、蒼はその異能の特性上、監視や観察といった行為と非常に相性が悪い。

故にAFOは会いたくないという本心と共に、その性質を気付く限りで解析し、管理どころか行動把握すら難しい事に気づいていた。

だからこそ、どこに所属しているというのが明確になった事で動き始めたのである。

 

ひとまず、蒼としては和反のスタンスに理解は示すが、それはそれ。

わざわざ逃がすなどということもしないし、敵意を向けられれば消し飛ばすのも当然。

OFAの継承者がいれば行動に迷いは生じるが、いなければ躊躇もない。

 

 

「あ、千並ちゃーん、終わったー!」

 

 

声をかけて呼べば、暫くして千並が戻って来る。

 

 

「仕方ないけど、子供達巻き込んじゃったね」

「あ、ごめんね、悲しいよね」

「うん、甲野組員として、あそこまで育ててきたお金を考えるとちょっとね……」

「そっかあ」

 

 

血も涙もないコメントに、蒼は形だけのしんみりさを放り投げた。

 

 

「結構巻き込んじゃったし、損失で怒られるかな」

「うーん、結構お叱り案件かも」

「ヤバいなあ」

 

 

戦闘に巻き込まれて消失した子供達についてどう説明したものか考えながら、蒼は頭をポリポリと掻いた。

 

 

「まあそのうち玄野さん来るだろうから待とうか」

「そうだねえ……」

 

 

そうして破壊された室内で千並と待っていれば、飛び込んできた玄野によって永景會の本部が襲撃された事を知る。

会長や何人かの組長が討たれるなど被害は甚大、よりにもよって襲撃者が願星蒼の名を呼んだことで幾つかの組による決議で蒼の破門が確定。

スムーズ過ぎるその流れは、確実にAFO派が入り込んでいるのだろう。

 

 

「思ったよりマズいか」

 

 

ヤクザ側からは襲撃の原因となり、和反からはAFOに与する重要人物として認識された。

普通に生きるという望みをAFOなりに噛み砕いた結果、それをAFOの手によるものだとわかるように奪う事で蒼星という異能が集中して己の方へ向くように制御しに来たのだ。

 

自棄になって全てを消し飛ばさないよう、近すぎる身の周りには介入せず、しかし駒または指導者とならないように所属できる先を潰してまわる。

 

その上で自身の手の内を明かさない事で、企業や工場といった場所に対する蒼からの嫌がらせを遮断。

AFOはここに来て明確に盤面のコントロールを始め、蒼という存在の動き方を制限してきている。

監視できなかった存在の所属先をAFOが把握した事で、その手腕を発揮し始めたのだ。

 

支配という目的のために動くAFOに対し、その最たる障害となる蒼は。

 

 

「───思ったよりマズすぎるな!?」

 

 

早すぎる手の回し方にようやく思考が追いつき、ここにきて焦り始めるのだった。

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