AFOが本格的に動き出すも、対する蒼はどう動こうか未だに迷っていた。
「くそっ嫌がらせ先がわからない……!」
本来であればAFOの手先であろう企業や組織の下で蒼く光り輝きながら
何故ならAFOが行方を晦ませた事で、どの企業がAFOの下なのかが更にわからなくなったのだ。
インターネットどころか碌に通信機器も使えない時代に、代表取締役やその他役員などを知る術は無い。
こんな時代に自らが地位の高い人間だなどと従業員に教える馬鹿は生き残っておらず、故にAFOへの嫌がらせ先が不明。
裏社会の企業は全て傘下または提供先かと言えば、この時代ではまだそんなことはなかった。
下手に突けば無駄な敵を増やすだけではなく、より社会的に弾かれて飯すら食べられなくなる事を思えば、自棄になって無差別的に光る事はできない。
常人にとって最終手段である略奪や窃盗という行為は、蒼にとっては常人以上の忌避感がある。
餓えて死なずの身体をしながら、防衛でもなく欲望のためだけに餓えて死ぬ人々から奪うなど人間味に欠けるものだ。
流石の蒼も、そこまで人という形を失いたくはない。
そうこうして動けずに様子見と数日を置けば、更に世の動きは加速して止まらない。
破門の流れもおかしいので追い出すのはやめておこうと千並と玄野が引き留めた事で、アパートに変わらず住むこととなった蒼。
そんな蒼の部屋へと上がり込んだ千並は、困惑した顔で手紙を読みながら永景會の現状を教えてくれる。
「蒼ちゃんを引き込んだ事でうちの組そのものが解体って形になると思ってたんだけど、扱いが妙で私も知らない人が組長になってるっぽい」
「なんだそれ!?」
「言ってることや指示は穏健派っぽいんだけど、おかしいよね……」
「そりゃ変だよ。甲野さんはなんて?」
「
「確実にAFOの仕業だよそれ!」
だが、新しい組長は特に何をするわけでもなく、蒼は大いに首を傾げることとなる。
そして次いでおかしな事に、蒼への配達の仕事がある。
破門されたというのに、蒼がバイトのようなものだった頃のように配達の仕事が来ているのだ。
それを受ける玄野もまた、妙なものを見たかのように嫌な顔で蒼の部屋へと上がり込む。
「トラックの修理が勝手に終わってた」
「勝手に……?」
「まだ時間がかかるはずだったのが、朝起きたらトラックの修理が完了していたんだよ……」
「確実にAFOの仕業ですってそれ!!」
訳が分からないまま、誘導だけされているような感覚。
和反という存在をけしかけたにしては、それ以降明確に敵対する様子がないというのも気持ち悪い。
それが何を目的としているのかが分からず───
「ふぃー……積み込みお疲れ様です!」
「おう、包帯ちゃんも帰り道気を付けてな!」
「はーい!」
───そうして元気に労働して半年が経過した。
心臓に毛が生えるどころか蒼く光り輝いている蒼は、AFOの魔の手に対してそんな事もあるかと割り切ったのである。
直接的な所属や、わかりやすい直属の上司となれば嫌な顔をしたものだが、顔など見ないし組長の指示に変なところはない。
千並もいれば玄野もいるので、蒼としては薄っすらAFOが上にいるのは分かっているものの別に辞めなくてもいいか、という結論に至った。
「蒼ちゃんおかえり」
「おう、配送おつかれ」
「ゔぁーただいまー」
最早家族の距離感と化した蒼、千並、玄野とその他組員で事務所に集まり、配送の予定や計画を確認する日々。
永景會としては大きく変わったのだが、甲野組においては何ら変わりないものだった。
念の為、襲撃から同室となった千並と共に部屋へ帰り、晩御飯を食べながら、蒼は最近の世間について話を聞く。
「そういえば配送先で聞いたんだけど、巷の治安が悪化したらしいよ」
「あれ以上に!? あれ以上となると人間の死体でオブジェ作ってその辺に飾られてるとかになってくると思うんだけど」
「それ治安どころの話じゃないと思う」
少なくともご飯時に出すような話題ではないが、ご飯を食べる少女は二人ともその辺りを気にするタイプではないので今更だ。
「なんかね、潔癖症が復活してるって話」
「なんでまた」
「よくわかんないんだけど、今度はちゃんと組織みたいになってたって」
「うーん……」
「しかも武器とか結構あるみたいで、和反とも結構揉めてるみたい」
「あぁまあ、そことは上手く行かないだろうけど」
和反は
その理念はAFOの横暴に怒るものであり、どちらかと言えば秩序側に属する者達で、むしろ蒼達の方が正義の側にはいない。
対して潔癖症は、治安悪化の権化のような存在だ。
異能という少数派を受け入れずに暴力で以て除染を謳うそれらは、平和からは程遠い。
立ち上がった理由が異能持ちの少女の死であった和反とは、それはそれは相性の悪い事だろう。
和反からすれば敵対する理由は無いだろうが、潔癖症からすればこの時代の中で異能持ちの最も大きな組織である和反は明確な除染対象だ。
「でもなんで今更」
「リーダーってのが出てきたらしいよ」
「どうせAFOの仕業でしょ」
「私もそう思う」
その力を糧とできる異能持ちを不必要に減らす潔癖症を叩き潰したかと思えば、和反の敵対組織として再編する、人間を数としてしか見ていないかのような動きぶり。
嫌な話であるが、今は停止しているものの異能産なんてのを行っていた組織に属するのであまり言えた事ではない。
さて、そんな話を聞いてから数週間。
明らかにキルスコアの溜まり方が増えたなと思いつつトラックを走らせていれば、いつものバリケードが見えた。
「最近多いなぁ」
包帯を取って瞳を蒼く光らせながらバリケードを取り除いていけば、それなりに気配を消して隠れたり近寄ってきたのであろう人間達が輪郭を失って瞳へ吸い込まれていくのを感じる。
そうして20分程度分解に費やし、頑丈に地面へと縫い付けられた部分に苦戦していると、何やら銃声が聞こえてきた。
「……ん、銃声?」
中々聞く機会のなかった音が気になり、瞳を黒くしてその方向へ向かってみれば、武装した潔癖症と異能を使う和反、各十数人程度が睨み合う現場を目撃する。
「あ」
その騒動の和反側、その後ろの方に立つ少年。
未だ顔に傷はなく、鋭い目つきと明るい髪色が目を引く。
OFA2代目継承者、駆藤敏次がそこにいた。
原作に登場する人物に会うのはAFOに次いで二人目であり、それが襲撃されたとかではなくたまたま見つけられたというのは嬉しいところ。
原作より幼さの残る顔立ちだが、間違いない。
集団がどんな事を話しているのか、知覚範囲を集中させる。
「気色の悪い病人共」
「第一陣はどうなってる」
「保菌者は焼却しなければならない」
「蒼い星が近くに来てるっていうのに……!」
最後に和反側から聞こえてきた言葉を聞くに、やはり嬉しくないかもしれない。
どうも和反は蒼い星と呼称して明確に蒼の事を狙っており、情報の横展開も完璧なようだ。
ここ最近のバリケードの多さに納得がいくと同時に、流石にOFAの継承者からも敵対視されるというのは少々居心地の悪さを感じる。
そのまま耳を傾けていれば、気になる情報が聞こえてきた。
「AFOの弱点ってホントなのかね」
「アイツを殺した流れから見て、AFOと深い関係なのは間違いない」
「見たら死ぬ異能ってなんだよ……」
「やっぱ様子見すべきだったんだって」
中途半端な形とはいえ、蒼の異能はまだしも、和反にAFOの弱点であるという情報が流れている。
それがAFOの情報操作に依るものなのかは不明だが、裏社会側と繋がりがなければその情報は知るはずが無い。
もしも情報操作だった場合、OFA継承者の近くにまでAFOの手が伸びているというのはあまり好ましくない話だ。
「……一人ぐらい捕縛して情報聞くべきだったかな」
完全に敵対していると思ったため、接触の機会があれば常に瞳を光らせていたが、早まった行為だったかと少し悔やむ蒼。
蒼の異能は多人数との相対に向いているが、汎用性に欠けるというのをこういう時に実感するものだ。
そうして本格的となった抗争を後に、仕事へと戻る。
配送を終え、無事に本日も数回角へ擦りながら家に着いた蒼は、先にご飯を食べていた千並へ今日聞いた情報を共有した。
すると千並は情報漏れの部分に驚きは示しつつ、蒼の異能に関する点については少し考え込むように顎に手を当てる。
「蒼ちゃんの異能って情報隠蔽してないけど詳細はみんな知らないんだよね」
「そりゃAFO以外、見た人みんな消えてるからね」
「だから私達は蒼ちゃんの言葉を信じるしか無いし、逆に言えば信じたくない人はそれっぽい話を作っちゃう」
かといって知らしめたところでどうという訳でも無いし、結局狙われるのは変わらないのだが。
「正しい情報を持ち帰ることができないっていうのも相まって、正に都市伝説みたいになってるんだよ」
「あぁ〜……遭遇したら帰れないみたいな噂が独り歩きしてるのか」
「だからある意味では、蒼ちゃんの異能は信じられてない分、性能がナメられてるとも言えるね」
「不意を突けるって点ではいいことか」
「うん。加えてAFOの仲間みたいな情報もあるでしょ。和反からすると輪郭は掴めてるけど実体は無い、みたいな状態になってるんだよ」
「……そういえば育児の方に突入してきた奴も私の顔は知らなかったな」
蒼が何をしたのかは聞いていても、蒼がどういう存在なのかは知られていない。
蒼い星と呼称され、その存在の輪郭だけが知られている現状は、和反にとってどうアクションをすれば良いのか定まっていない要因でもある。
「じゃああの襲撃って」
「案外、暴走したのかもよ」
「ちょっとありそう」
そしてそれは真実であった。
AFOからの情報、そして精神の指向性操作によって和反側の数人を仕立てたのは良いが、蒼という存在に対して各々のアクションが異なったのだ。
監視を提案する者、排除を望む者、真実を知りたがる者───
その中で正義感を暴走させたグループが襲撃を仕掛けることとなった。
本来であれば永景會本部の襲撃で終わるはずだったAFOの計画にとって、蒼本人への襲撃は想定外だったのである。
故にリカバリーとして蒼に便宜を図った形となったが、そのせいでむしろ蒼からすれば一貫していない気持ち悪さだけが残ったのだ。
「あー……ひょっとしてAFOって最初から私の事を手元に置いておきたかった感じか」
「そうなると破門に関してもなんかの理由がありそうだけど、なんだろうね」
「そのうち聞く機会があればいいけど……」
そんな話をしながら着替え終わった蒼は、モソモソと晩御飯を食べながら和反に対してどういう動きをするべきか考え始める。
これまではAFOが何をしたいのか分からないのと、和反側が完全に敵対関係にあると思っていたため仕事に徹していたが、どちらもそんなにアクションを起こしていないのでそろそろこちらから動き出すべきかという思いが蒼の中で大きくなっていく。
───ただ、どちらもアクションを起こしていないというのは全くの間違いで、AFOは和反と蒼が手を組まないよう情報操作を行い、和反の一部はバリケードと襲撃を行ったうえで消し飛ばされているのだが。
蒼からするとその程度は戦闘にすらなっていないので、認識の外となっている。
「千並ちゃん、人を掻っ攫いたいんだけど手伝ってくれる?」
「ん、いいよ。何人?」
「一人、狙いたいのがいてね」
狙うは唯一人。
誘拐計画が始まる。
「これから?」
「いや、流石に寝たい……」
まあまあ疲れているため思い立ったが吉日とは言えず、シャワーを浴び、眠気が限界となった蒼は千並の布団へと潜り込んで千並を大いに困惑させながら眠るのだった。