個性【蒼星】   作:指ホチキス

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16:拉致

いつも通りの朝。

いつも通りの始業前点検。

 

いつも通り───ではない、同乗者。

 

 

「あの、運転代わる?」

「はい……」

 

 

運転開始してすぐに門でガリッといき、歳下の千並に気遣われながら運転席を代わった蒼は、情けなさに助手席で丸くなっていた。

 

比べることが烏滸がましいほど運転の上手い千並によって、更に心の居場所を失いながら道を進んでいく。

包帯で目が隠されていて良かったと思いながら、蒼は鼻を啜った。

 

 

「計画は行き当たりばったり?」

「ううん、一応場所については目安があるよ」

 

 

千並の疑問に、蒼は人の形を取り戻す。

玄野に事情を()()説明し、千並と同乗して向かうは先日のバリケードがあった一帯。

誘拐対象はこの先、OFA2代目継承者となる駆藤。

誘拐とはいえ穏便に済みそうになければ拉致へと切り替えるが、できれば平和に済んでほしいところ。

 

 

「あ、ごめん千並ちゃん、ちょっと停まって」

「はいさ」

「目を瞑って絶対に出ないでね」

 

 

崩れた工場区画で停車するとトラックの後部へと移動し、まるで荷台を確かめるような動作をしながら瞳を蒼く光らせる。

千並を巻き込まない方向へある程度の指向性をもたせ、こちらを見る人間がいればその視界へ蒼い光が映るようにした。

 

蒼い光の性質として、射程範囲内であれば障害物を貫通して強制的に認識させる他に、射程距離外であっても蒼を注視している場合は蒼い星を認識させることができる。

20秒間光らせても誰も消えていない事を確認し、蒼は助手席へと戻った。

 

 

「監視とかいなさそう」

「一応気にする心とかあったんだ」

「今回のはバレると流石にね」

 

 

そんな事をしなくとも、通常の仕事において不用意に光るのでAFO側も監視できないと判断しているのだが、蒼はそれを知らない。

ついでに言えば蒼い光も、低く響くような音も、蒼の異能によって生じる全てを受け入れたくないAFOは、居場所を人伝に確認してはいるものの、直接的な監視は行っていなかった。

 

つまり、蒼のしている警戒の殆どは無意味である。

発進したトラックの中で、千並は先程聞いた音を思い返さないようにしながら前方へ意識を集中させた。

 

 

「やっぱり蒼ちゃんの音、苦手」

「そりゃまあ、常人が聞く音じゃないよ」

 

 

蒼の出力される異能には、光と音がある。

光は視認によって蒼い星の情報を叩きつけるが、音はその過程が異なる。

低く響くような音を聞くだけで精神は徐々に蝕まれ、不安定化し、限界へと近づくにつれてそれは祝福の喝采と拍手のように聞こえ始めるのだ。

そうして、音によって精神の不安定さが限界を迎えると蒼い光が視界を染める。

 

光に対して音には指向性をもたせられず、光を出力し始めれば蒼を中心に音も出力される。

あまり意図的に使うことのないものであり、大体の場合音の聞こえる範囲で光を出力する時はその音が聞こえてる奴を消し飛ばしたいときなので利用方法も思い当たらない。

 

一応、マイクが拾えばその先にも聞こえはするのだが、全くもって利用方法が思い当たらない上に巻き込む可能性が高まるのでいらないものである。

片方だけの出力などできないので、いらないと言って無くせるものでもないのだが。

 

 

「不便な異能だなあ」

「でも不便だからこそ、AFOの天敵なんでしょ」

「そうなんだけどね……千並ちゃんの異能の利便性をちょっとでも分けてほしい」

「AFOにお願いしてみる?」

「やっぱ今の無し」

 

 

そんな事を話しながらバリケードのあったエリアに辿り着き、道端に停車して近くの物陰へと隠れる。

雰囲気としては街に近いが人の気配は薄いため、トラックの走行音は耳を澄ませば聞こえていた筈だ。

 

 

「これ本当に(おび)き出せるの?」

「トラックと私の情報が連動しててこの辺りにいるって漏れてたから、あのトラックがあれば……」

 

 

そうして知覚範囲を拡げてすぐ、背後に四人立っている事に気付く。

足音も気配もなく、知覚範囲を拡げた時には既にそこにいた。

 

 

「千並ちゃん止まって」

「そこで何をしている」

 

 

声は同時。

蒼が声を発していなければ、驚いた千並は攻撃を仕掛けていたことだろう。

 

 

「えっと……」

「……超常孤児か?」

 

 

蒼の瞳を隠すように巻かれた包帯を見て、蒼達の背後に立つ数人は少しばかり気を緩めた。

蒼はゆっくりと振り返りながらその顔を鮮明に知覚してみて。

先頭にいるのが、駆藤である事に気付く。

 

 

「あっ千並ちゃん、この人ね」

「は?」

「わかった」

 

 

その顔を前に、蒼は思った事をそのまま口から出した。

そして隣の千並はそれを指示だと誤解して。

即座に平面化していた投げ縄結びのロープを展開し、動きを止めていた駆藤に引っ掛けると、足裏の石を平面化して即座に解除することでバネの如き初速を以てトラックの方へと走り出す。

 

当然、駆藤は投げ縄が締まる事で千並に引き摺られる事となる。

異能を発揮して加速し、少年一人を引き摺る程度で力負けしない鍛えられた肉体を前に、さしもの駆藤であっても踏みとどまることなどできはしない。

 

あっという間に二人は現場から離脱し、残るは三人の和反と蒼。

顔を見合わせ、ゆっくりと駆けていった千並の方へと顔を向け。

 

 

「───ッ!?」

「えっ」

「えっ?」

「───蒼ちゃん!?」

「ア、やば……ッ」

 

 

荷台へと飛び乗って駆藤を押さえつけ、そこでようやく蒼が付いてきていない事に気づいた千並が驚いたように声を上げる。

それを見て和反より数秒先に我に返った蒼は、遅れてトラックへと走り出した。

 

 

「待ッ」

 

 

 

和反の声に構わず、トラックまで10メートルほどを駆ける。

筋骨を違和感がない程度に()()()()()()蒼の運動能力であれば、追いつかれることはない。

 

 

「千並ちゃん援護!」

「ちょっと待っ、───フンッ! はい!」

 

 

かなり暴れているのか、四苦八苦している様子の千並は蒼の声を受けると何か力を込めたような声と若干の衝撃音を発し、荷台から蒼の方へと平面化された何かの塊を投げた。

それは地面に当たると同時に弾け、元の形を取り戻す。

 

大量のパチンコ玉が蒼の背後へと転がった。

 

 

「うわっ!」

「殺しは無しだからこれは平和的解決!」

「誰に弁明してるの?」

 

 

飛んでくるなら異能の直接的な攻撃だと思っていた和反は顔を隠して動きを止め、その隙に蒼は運転席へと飛び込みエンジンを掛けて。

 

 

「行くよ!」

「うわ発進も荒い」

「今回は仕方なくなァい!?」

 

 

ボソッと呟かれた千並の言葉に怒鳴り返しながら、その場から走り去る。

残る和反はそれを、呆然と見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

遠く、周辺に人の気配がない廃墟に駆藤を寝転がせる。

暫くして、駆藤が気絶から目覚めると同時に動けないことを確認するよう身動(みじろ)ぎし、見下ろす二人を()めつけた。

 

 

「まずはごめん」

「誰だお前ら」

 

 

その横っ面は赤黒い痕が痛々しく残っており、血が滲んでいる。

 

 

「千並ちゃん、結構やったね?」

「静かにさせるのは顔を蹴飛ばすのが早い。殺してないから平和的」

()()()()だねえ」

 

 

回答に答えずに会話をする二人へ、駆藤は歯軋りした。

かといって強気に出て逆鱗に触れた結果、無惨な末路を迎える可能性が否定できない現状に、それ以上の反応は返せなかった。

 

 

「さて、えーっと。名前は……答えてくれないよね」

「……」

「まず私の説明をすると、AFOが敵対視している存在。具体的にはずっと殺し方を模索されてるぐらい」

「……」

 

 

怪訝そうに眉を歪めるが、駆藤からそれ以上の反応はない。

仕方無く、蒼は自身の情報を明かすことにした。

 

 

「そして私の名前だけど、願星 蒼」

「……ッ、お前が!」

「ご、誤解! 誤解があります!」

「チッ、散々殺しておいて何が誤解だ!」

 

 

劇的な反応があったが、あまりにも攻撃的すぎるその言葉に蒼は若干腰が引ける。

原作より若いとは言え、明らかに自らより歳上である駆藤の形相に、流石の蒼であっても強気に出ることはできず。

それを見た千並が仕方ないと息を吐き、蒼をどかした。

 

 

「私は千並。永景會の甲野組員」

「……」

「つい最近、多分AFOに乗っ取られた事務所に所属してる」

「……」

 

 

話が掴めず、駆藤は蒼を睨みながら耳を傾ける。

 

 

「蒼ちゃんは、AFOから厄介に思われて貴方達と敵対するように仕向けられている」

「……」

「話だけ聞いて」

 

 

そう言って蒼を前に押し出し、千並は後ろで座り込んだ。

蒼を見る駆藤の目から鋭さは失われていないものの、ひとまず口を閉ざす。

何から話そうかと蒼は少し悩み、まずは情報を開示する事を選択した。

 

 

「正直、信じなくてもいいんだけど、まず、私の異能の情報をちゃんと教えておくね」

 

 

実践は出来ないけれど、と前置きをした上で、蒼は自らの瞳を指差す。

 

 

「私の異能は瞳が光る異能。そして光を見た人間を……わかりやすく言えば消滅させる異能。そしてそれは、一定の距離以内の場合、全ての障害物を貫通する」

「───な、んだそのイカれた異能は」

 

 

その情報を聞き、流石の駆藤も困惑の声をこぼす。

ある程度の情報を広められていると思った蒼はむしろその反応に面食らい、首を傾げた。

 

 

「あれ、なんか違う話聞いてたり?」

「……お前が光る姿を見たら死ぬ話は聞いている。障害物すらすり抜ける話は聞いた覚えがない」

「それ、罠だよ。私の異能に障害物も目隠しも意味が無い。私が光っている時に一定距離に入ったら必ず光を目視することになる」

 

 

考え込むように黙り込んだ駆藤へ向け、蒼は更に情報を並べていく。

 

 

「で、私の異能をAFOが奪うと、私の異能は内側からAFOの持つ異能を無作為に消滅させ続ける」

「……」

「だから、AFOに反する貴方達と手を組まないように偽の情報を流されている。これが現状」

「アイツは消滅しないのか」

「並外れた精神力を持つ場合は消滅しない。ただしアイツが奪った異能は元の持ち主と同じ精神力として存在するから、光によって消える」

 

 

それを聞き、駆藤は未だ信用できないと思いながら組織内へ流れる蒼の情報と今の話を照らし合わせた。

そこに矛盾は無い。

が、逆に言えば蒼がAFO側で、こちらを騙そうとしているということに対する矛盾も無く。

 

無言の駆藤へ、蒼は口を止めない。

 

 

「なんかそっちの人を私が罠にはめて殺したみたいな話も聞いてるけど、私が話すのは永景會の二人ぐらいで、逆に言えばそれ以外の人と会話といえるような話はしていない」

「横からだけど、それは本当。人見知りすぎて初期の頃、輸送先から愛想が悪いってクレームが入った」

「ねぇそれ今言うこと?」

 

 

千並の横から飛んできた言葉に胸を刺されつつ、本題へと入る。

 

 

「私が貴方に望んでいるのは特に無い。ただ、私のところへ襲撃を仕掛けてきた人達は精神に何らかの干渉を受けていた」

「……」

「私はこれからも輸送を続けるけど、少なくとも精神に影響を受けてなさそうな人達は可能なら私への襲撃には加わらないように水面下で動いてほしい。私の異能は無差別に消し飛ばしてしまうから」

「……何故、俺にそれを言う」

「若くて、私が見る限り精神に干渉を受けていなくて手頃だったから。それだけ」

 

 

眉間に寄った皺は薄れ、駆藤は歳相応の呆れたような顔を作った。

特に理由がないと言われると駆藤としては傍迷惑も良いところではあったが、逆に言えば有用な情報を持ち帰る事ができる。

 

ただこれに関しては、OFA継承者が万が一に巻き込まれる可能性を排除したかったというのが本当のところだが。

 

 

「私は私が生き残るために異能を使い続ける。ただ、無意味に殺したい訳じゃない」

「……」

「私がそっちに動くとAFOが過激化する可能性があるから今は動けないけど、潜在的にAFOに敵対する身としては数を無意味に減らす必要はないと思ったの」

「……信用はできないが、そういう話なら俺達で勝手に判断して良いんだな?」

「いいよ。正直、これまで通りに襲撃されても私は構わない」

 

 

伝える事は伝えたので、蒼は話はこれで終わりと手を叩いた。

千並が折りたたみナイフを駆藤の手が届く場所へと投げると、それを手に駆藤が蒼を見上げる。

 

 

「光りたくないから、そのまま帰ってくれると助かるな」

「……お前は」

「ん?」

「もしも、もしも俺達がお前の異能を必要としたら、その時はAFOの前へ立つか?」

「立つよ。そうだなあ……」

 

 

蒼は顔を天井の方へと向け、その時を考え。

 

 

「私はAFOに目を付けられてて、その上で無差別だ。だから最終手段として必要な時には、いつもの道のバリケードにわかりやすく紙でも貼っておいて」

「あぁ、覚えておく。この頬の痛みと同時にな」

「うちのコが本当にすみません……」

 

 

それを最後に蒼と千並はその場を後にし、トラックへと乗り込む。

少しばかり気が楽になった蒼は、ミラーなどを合わせながら上機嫌に鼻を鳴らしてエンジンを掛けた。

 

 

「蒼ちゃん」

「ん?」

「上手くいって良かったね」

「そうだね!」

「……蒼ちゃん」

「ん?」

「蒼ちゃんは、こっちでしょ?」

 

 

そう言って流れで座ってしまった助手席をボスボスと叩く千並に、蒼はしょぼしょぼとした顔でシートベルトを外すのだった。

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