個性【蒼星】   作:指ホチキス

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19:社会提唱

身を乗り出す勢いで探りを入れてきた四ツ橋に、蒼は若干引き気味で頷く。

その肯定に、四ツ橋は笑みを深めた。

しかしそこには、和反のように正義に基づいた根底ではなく、何かの目的にとって邪魔だという認識が見え隠れしていて。

 

 

「私はね、秩序を作ろうと考えているんです」

「はぁ……」

「異能を法によって当たり前とし、混沌とした時代を纏め上げて終わらせる。要するに、この超常を普通へと落とし込むために政府を再建したいのです」

 

 

どんな思想が飛び出してくるかと身構えれば、その思想は、思ったものに近いが違う。

子か孫か、はたまた親戚か。

何処かで血が繋がっているであろう、四ツ橋 主税の主張する、異能解放軍の思想としては正しくない。

むしろこれが、原型だったのだろうか。

 

その違和感が強すぎて、蒼は思わず口を開いた。

 

 

「異能を法で縛るつもり?」

「……何?」

 

 

四ツ橋の年齢は二十代半ば。

異能を宿していてもおかしくはない年齢だ。

 

その男が語る思想において、自身をどう定義するのか。

この時代において、秩序を語る価値がこの男にあるのか。

 

 

「何を仰る!」

「うわ」

「超常を当たり前にするのに、()()()()()()()()()()()()()()()!?」

「……」

「しかしその法を整備するにあたって、必ず裏社会は手を出してくる。そのための繋がりを探していたのですが───」

 

 

熱弁を振るう四ツ橋を冷めた目で見ながら、蒼はこの時代に、ヒーローがいないことを思い出していた。

更に言えばこの時代には、(ヴィラン)もいない。

 

そこには混沌を当たり前とする、人々の群れがいるだけだ。

誰もが自分のために生きる時代。自分の手の届く範囲で精一杯だった過渡期より、人々に余裕はない。

異能を持つ人が異能を持つ人として過ごしやすい社会を独善的に望む事は、この時代において当たり前の事だった。

 

四ツ橋の語ることは結局のところ、異能解放軍と方向性は同じである。

ただ、政府が機能を停止しているからその思想が政治の話になっているだけで。

 

 

「それは……」

「はい」

「私の異能も抑制する必要はないという考えでいいの?」

「いいえ、はい。異能の輪郭は噂に聞いておりますが、それでも法によってそれは抑制されず、貴方はそれを自身で抑制するでしょう」

 

 

先程までの笑みを消し、四ツ橋は蒼の包帯へと目を向けた。

 

 

「私は法による抑制を提案しない。全てが自己によって管理される、異能を当たり前とする社会を作りたい」

「相容れないね、その構想」

 

 

間髪入れずに、蒼は口を開く。

表面を飾った四ツ橋の言葉が気に食わない。

 

まるで原作の時代の個性抑圧社会のような装飾をしていながら、そこには真なる平和を願う意志が無いのだから。

 

 

「その社会は異能を持たない過半数を想定しない」

「人は善意によってそれを乗り越える!」

「いいや、貴方は悪意を以てそれを打ち建てるつもりだ」

「裏社会ではなく、表をコントロールする人間がこの時代に必要だとは思わないのか!?」

「それはきっと貴方の役割ではないし、この時代にその思想は早すぎる」

 

 

未だ無個性が8割強を占める時代にその法によって世を纏めるには余程の強硬手段を必要とするだろう。

少数派が力を以て多数派の上に立とうとすれば、反発は必至。

 

蒼の指摘に対し、そこで初めて四ツ橋は表情を歪めた。

 

 

 

 

「この時代に誰よりも強い異能を持ちながら、貴方は異能の抑圧を是とするのか!?」

 

「こんな使い勝手の悪い異能を持つからこそ、私は人の規格を定め直して異能を抑圧すべきだと思うんだよ」

 

 

 

 

異能、人の規格からはみ出した超常。

誰しもがそれに振り回される時代。

だからこそ人は縋るように、大いなる力に大いなる責任と価値を求めたがる。

 

四ツ橋の発現した異能は、強力ではなかった。

だからこそ、比類無き異能を持つ蒼が同意してくれると、願うように打ち明けたのだ。

AFOのように己を中心とした秩序ではなく、あくまで異能持ちを中心とした不自由ない社会性を構築したいというその考えを。

 

しかしあくまで第1世代の異能の延長線上、蒼のそれを強力な異能程度にしか捉えていない四ツ橋をAFOが見れば鼻で嗤うことだろう。

 

 

蒼い光は、秩序社会において最も抑圧しなければならない異能である。

 

 

「貴方が抑制無き自由を叫ぶ時、私もまた抑制を取り払われる事を意識しなければならない」

「……」

「力そのものに責任は無くとも、率いることには責任が伴う。思想だけで人は生きていけない」

 

 

口を閉ざした四ツ橋に、蒼は静かに語りかけた。

 

 

「その思想を主張するにあたり、行使するだけで無差別に数多もの人命を奪い去る異能の存在を貴方達は正しく認識すべきだ」

「……無差別?」

「これ以上の詳細は教えないけどね」

 

 

やはり、詳細まで知らなかったということに納得しつつ、話は終わりとばかりにトラックへと向かう。

考え込む四ツ橋に、蒼は最後にと振り返らないまま言葉を紡ぐ。

 

 

「……AFOへ繋ぐのは止めておくよ。もしどうしてもというのであれば他のルートを辿るといい」

 

 

そうして売春街の配送は終わりとなり、戻ってきた蒼は事務所にいた玄野へと書類を渡した。

何処か疲れた表情を見せる蒼に、玄野はコーヒーを渡して座るように促す。

 

 

「何か分かったか?」

「情報筋が信用できませんが、異能産の種は客との事で、恐らくそれは事実です」

「そうか」

「異能胎の確保数も消し飛ばした遺児の数を考えるに思ったよりも多そうですね」

 

 

疲れて切り上げてしまったため、四ツ橋から引き出せた情報といえばそれぐらいだ。

道中で消し飛ばした数が予想より多かったので総数が想像以上だという想定はできたものの、それ以上の判断材料もない。

 

特に、今日はこれ以上廃車にされないよう、知覚範囲も普段より拡げていた。

通常より疲れるが、それによって蒼い光を先制で届けている。

異能の発動前に消しているので、それが果たして第2世代なのかは判断できていなかった。

更にマッチポンプの邪魔で、なおかつその時はAFOの仲間だと思われていたので若干多めに刺客が差し向けられている。

 

これら2つによって実際の人数と蒼の体感は乖離しているのだが、それを指摘できるとしたら売春街の遺児をそれなりに把握している四ツ橋ぐらいだった。

 

 

「あと、政治家志望がいました」

「この時代に? 自殺志願者か?」

 

 

まるで珍獣を見つけたかのような顔で椅子から背を起こした玄野はコーヒーに口を付け、十数年前あたりを思い返す。

 

異能の発生が増え始めた頃、異能という危険性を見誤った政府は様子見に入った。

当然ながら、未知への対応など過去にあるはずもなく、多くの国はそうする。

そうして、全ての国は初動を失敗した。

 

日本で言えば、法が動くより先に世論が動き、刑罰が作用するより先に私刑が横行して。

議会の動きにデモが連日のように続き、異能持ちが襲撃を仕掛け、逮捕者が出て、やがて死者が出て。

購買数を伸ばすために政府の批判を煽り続けたマスコミが気付いた時にはもう遅く。

 

そうして地盤が崩れるように、動乱の黎明期が始まった。

 

議員などはその多くが異能持ちによって殺害され、これまでの法との決別をアピールするために幾つもの屍が晒されて。

永景會との繋がりがあった者も無惨な死を遂げたのが玄野の記憶にも残っている。

 

 

「……異能派か?」

「はい。異能持ちで、異能の自由を掲げたいそうで」

「表に立ったら十中八九消されるな」

 

 

今の日本は裏社会が表へと侵食している状態だ。

 

そして、それら組織を運営する年代にとって異能は持ち得ないものであり、だからこそ道具のように使うものである。

異能側に有利な法は、その実裏社会にとっては利益が薄く、むしろ異能産によって生じた道具に権利が発生してしまう。

故に、異能派の議員は裏社会にとって排除対象になる。

 

それにこの時代を迎える原因となった異能持ちへ、世間は厳しい目を向けるはずだ。

それはいつまでも、どこまでも。

この時代を生きた人間は、それを忘れることはない。

 

 

「───いや、でも今だと逆に生き残る可能性もあるのか」

 

 

そこまで考えた辺りで、今の裏社会の情勢が大きく動いていることを思い出した。

 

最大勢力の筆頭は異能を持ち、異能を奪う超常第1世代のAFOである。

彼にとって異能側に利する法は、養分の繁栄を意味するので通す意味も出るというもの。

 

 

「ま、ウチからしてみれば放置だな。上が勝手に動くだろ。報告は通すか?」

「あー……そういえばその人、第2世代をAFOに売ろうとしてたので止めたんですよね」

「じゃあ聞かなかったことにしとくわ」

「お願いします」

 

 

そうして退勤し、寝て、起き、出勤して。

売春街へと荷物を運べば、受け渡し場所には影が2つ。

 

 

「待ってたよ」

 

 

どこか晴れ晴れとした顔の四ツ橋が立っていた。

トラックから降りた蒼は怪訝な顔を作り、何事かと眉を寄せる。

 

 

「……あの?」

「君のような化け物じみた異能に、抑制を自己責任とするのは確かに考えが足りていなかった」

「化け物じみた異能を眼の前にしてその言い草はあまりにも肝が据わりすぎているだろ」

「だから考えを重ね、私は法律よりなにより、ひとまず政府の立て直しを第一に進めることにした」

「……」

 

 

急に失礼をぶちかまされてなんとも言えない顔をしながら、蒼は四ツ橋の話を促すように顎を動かした。

 

 

「今政府を立て直すと、議員は異能を持たない世代が大多数となり、強硬な案が出やすい」

「急にまともな話をしないでもらえますか?」

「だからこそ私はこの時代に異能の自由を掲げて真正面からぶつかりに行く……!」

「あの」

「必ず、必ず成し遂げる……それだけだ!」

 

 

それを言い放ち、四ツ橋は何処かへと去っていく。

取り残された蒼と受付はポカンとした顔でその背が遠ざかっていくのを眺め、顔を見合わせて。

 

 

「なんでこの時代に聳え立とうとする人間はどいつもこいつも話を聞かねェかな」

 

 

この時代において特異点と呼べる強大な異能に対し、それぞれが意味を見ているだけなのだが、その自覚が薄い蒼はそれに気付かなかった。

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