個性【蒼星】   作:指ホチキス

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20:血族/1st

売春街の配送では、あれ以来四ツ橋の事は見なくなり、第2世代の襲撃も沈静化した。

 

蒼はAFOの敵対者ではないと理解を得られたうえに、しっかりと都市伝説的に噂が根付いた事で狙われることが減り。

四ツ橋はAFOと繋がることによって消される可能性が浮上したため、異能産から手を離して政府の立て直しに本腰を入れ始めて。

受付は強奪マッチポンプがバレると消えるかデコレーションに仲間入りとなるため、大人しく自分の業務へ集中し。

第2世代の子供たちはちゃんと超常遺児として、売春街の路地裏に住み着くか、カスのような治安の街へ出ていった。

 

あくまで四ツ橋が第2世代を売春街に留めておいたのはAFOと繋がるためであり、すぐさま必要という訳ではなくなった事で第2世代達は野に放たれた。

それが果たして吉となるか凶となるか───

 

 

 

「蒼、街の輸送行ってくれ」

 

「蒼、今日は売春街の輸送な」

 

「蒼、工場の輸送」

 

「蒼、明日は───」

 

 

「雑に危険度が上がりすぎだろ!」

 

 

そうして3カ月間仕事をしてきた蒼は、流石にバインダーを地面に叩きつけて心の底から叫ぶ。

街に散った売春街生まれの第2世代は、その異能によってじわじわと、しかしわかりやすいほどに周辺一帯の危険度を跳ね上げたのだ。

 

潔癖症は絡んだ時点で第1世代より無惨な死に様を晒すこととなり、未だにひっそりと第1世代の超常遺児を虐めていたヤクザもどきもまた同様。

和反は辛うじて敵対関係には至ってないものの、常識も良識も無い彼等と対話は諦めている。

 

そうした中でも、まともな言葉すら喋れずに強力な異能を振り回す姿が悪目立ちし、潔癖症未満の人々からも異能という感染症が進めば知能を失い、ああなっていくのだと猛烈な悪印象を残していった。

 

やがて早すぎる第2世代はかなり強い拒絶と差別意識を以て()()()と蔑称で呼ばれることとなる。

 

それは潔癖症に並び、後の世から見た時に時代を示す言葉の一つであった。

 

配達を終えて椅子にドカリと座り込んだ蒼へ、玄野は報告書に目を通しながら苦笑する。

 

 

「いずれ世代が変わっていくとは思っていたが、流石にこれだけ変遷が早いと困るな」

「ウチは私抱えてるから良いですけど、売春街みたいなのって絶対各地にありそうですし、他とかすごいことになってますよこれ絶対」

 

 

しかしそうは言うものの、実際のところそれほどではない。

他の地に売春街があるのも、早すぎる第2世代がいることも事実ではあるが、他のエリアには蒼がいないからこそ、それ程ではなかった。

 

 

蒼がいないということは、AFOが動きやすいということに繋がり、それらを容易に狩る事ができる。

特に強い異能はよく目立つので探りやすくもあり、いい養分であった。

 

 

むしろここは蒼がいることで重症者が放置されているのだが、AFOの居場所がある程度特定されると蒼が動き出す可能性があるため情報は絞られており、永景會でそれを知るものはいない。

 

流石のAFOも想定外に襲撃を仕掛けられた事から末端の管理の重要性を学んだため、暗躍し続けながらその行方を悟らせる事はしなかった。

 

 

「千並ちゃんぐらい強い人、どうにか見つけてくださいよ。ワンオペですよこれじゃあ」

「それがいねえんだよな……マジで千並って突然変異的というか、お前が言う第1世代の中でも異様に強いよな」

「自身からはみ出した異能は本当に希少ですからね。実感出来ているようで何よりです」

「糸旗に期待してくれ。親の異能を考えれば確実に強いから」

「まあ……そうですね」

 

 

一応だが、千並という異能産によって生まれた胎のある旧甲野組は、突然変異同士を組み合わせての異能産を行う事ができる珍しい場所だ。

特に、自身以外を対象に取ることができる異能を持つ種はまだしも、胎の確保は非常に難しい。

第2世代が産声を上げ始めた時、裏では蒼やAFOの異能がある程度広まったことで数より質を重要視する声が増え、強力な異能を模索し始めたのはどの組織も一緒である。

 

その点で見れば、千並の血筋は期待値が高いので旧甲野組は模索する方向性が定まっていた。

 

 

この時代に安定して強力な異能を生み出すには突然変異同士による外れ値を模索するか、未だ知られていない方法として、発現に偏りが出やすい事から異能をより深くするために血を濃くする方法が挙げられる。

 

個性婚の概念がそこまで定着していないこの時代に後者へ至るところは少ないが、既に氷叢家以外にも幾つかは意図的かはともかくとしてそこへ踏み込んでいるだろう。

 

 

「そう考えるとお前ってなんだ?」

「……まあ、異能を奪い与える異能なんてのがあるんですから、突然変異の更に上をいく異能だってあるんですよ」

 

 

蒼は包帯の下でスッと目を逸らした。

なんだと言われても困る。

超常以前、人の旧規格上においてなぜ頭は一つしか無いのかと言われても、それはそうだからとしか答えようがないのだから。

 

 

「正直なところ、和反の第2世代は強そうなので結構不安なんですよね」

「まぁ、あそこは生存者しかいないからな」

「私レベルの異能持ちが出てきたらどうします?」

「…………出ないことを祈る。切に」

 

 

そうして1日を終え、家に戻れば千並が糸旗をあやしていた。

 

 

「おかえり〜」

「ただいま。忙しいから早くおっきくなってね糸旗ちゃん……」

「んに」

「そうだよね〜早くおっきくなりたいよね」

 

 

手足をバタつかせる糸旗の小さな頭を撫でながら包帯を解き、蒼はいつも通り晩御飯を食べ始める。

 

 

「今日はどっち行ったの?」

「工場ルート。あっちは掃除の手が入ってる分、逆に中途半端なのが残ってなくて手強いね。明日も行って欲しいって」

「ふぅん、今日はどんなのがいた?」

「それが先手必勝で光ったからなんとも……」

「手強いとは。相変わらず情報収集には向かないねえ」

 

 

その言葉に、蒼は不貞腐れたように口を尖らせた。

千並の平面化は生物を対象に取れないが、例外として自分だけは対象にできる。

薄くなって隙間に張り付けば諜報も熟せる千並に言われると、蒼としては返す言葉もない。

 

 

「くぅ〜! 私がポコジャカ産んで掃除班でも作るか!?」

「やめてね」

「真顔じゃん」

 

 

これより少し未来では裏社会で突然変異の異能胎に金額が付き始めるのだが、その中で蒼だけは強力な異能を持ちながら一度も金額が付くことはなかった。

AFOが類する異能が増えることを危惧したのもあるが、果たしてその異能を手元に置いたとき、万が一暴走したときのリスクを許容できるかという疑問に頷ける者がいなかったのもある。

 

晩御飯を食べ終えた蒼は箸を置き、少しだけ考えるように視線を糸旗へと向ける。

 

 

「……重症者はその殆どが1代で終わると思う」

「次世代まで続かないかぁ」

「今の感じ、人間の形をした異能の塊ってイメージが近いかな。人間に戻れる道筋が見えないんだよね」

「第2世代未満……1.9世代?」

「あ、それいいね」

 

 

社会性も無く、超常遺児の中で親という見本がいなかった重症者達は、身に余る異能に振り回され続けていた。

次代へ繋げるには、彼等はあまりに物を知らず、味方がいない。

裏社会においても厄介に思われている現状からすれば、早すぎた第2世代という表現は間違いであり、第2世代に数えられない第1.9世代というのが正しいだろう。

 

 

そんな話をして、蒼は1日を終えた。

 

 

翌日、仕事として工場の方へ車を走らせていれば、前方に何やらバリケードが置いてあるのが見えた。

 

 

「お、こういうの久し振りだな」

 

 

知覚範囲を拡げると、周囲に人の気配はない。

車を降りてバリケードに近寄ると、チョークか何かで文字が書かれているのが見える。

 

 

「───蒼い星であればクラクションを鳴らせ……」

 

 

その文字は、恐らく駆藤が書いたのだろう。

何か重要な連絡事項ができたのか、はたまたAFOに何かアクションがあったのか。

拉致してから数年越しの初呼び出しに、蒼はトラックのクラクションを5秒ほど鳴らす。

 

 

「よし、一旦バリケード壊すか」

 

 

とりあえず待つ間にバリケードを壊そうと、トラックから工具などを取り出して解体を始めることしばらく。

固く釘打たれた木材を全力で破壊しようと試みる蒼の背後に、近寄る人がいた。

 

 

「こんにちは」

「え、あ、はい」

 

 

振り向けばこちらを見下ろす、艶のある瞳。

 

背は高いが細く、長く白い前髪がかかる幸薄の童顔に表情はない。

原作で覚えのある決意を秘めた喋り方ではなく、未だ若い厭世観を孕むような声。

 

 

AFOの双子の弟であり、いずれOFA(ワン・フォー・オール)を託す者───死柄木 与一が、そこにいた。

 

 

「……!?」

 

 

驚きに言葉も出ない。

 

こちらを見る兄とは色の異なる瞳だが、やはり兄と同じように蒼い色が灯りそうにないなと、蒼は本能的に感じ取った。

 

奥には頭を抱える駆藤が見えて、これが想定通りではない事を知る。

 

 

「えっ、えっと、なんすか」

「君かい? 僕の兄を……AFOをコテンパンにしたのは」

「弟さんですか。アイツ家でなんか言ってました?」

「必ず殺さねばならないって」

「家族間共有するなよそんなこと」

 

 

嫌な顔をした蒼に、与一はほんの微かに笑ったような気がした。

蒼は困惑しながら、以前に拉致した頃より背が大きく伸びた駆藤へと声をかける。

 

 

「おいニキ、なんすかコレ」

「AFOの居場所を探っていたら幽閉されていたから助け出した。奴の双子の弟らしい」

「改めて、与一という。よろしく」

「え、あ、うっす」

 

 

握手をすれば、細くて折れそうな、おおよそこの時代に生きている手ではない事を蒼は感じ取る。

少なくとも与一の年齢で、街に生きているような奴の手はもう少しボロボロだ。

 

駆藤は与一に親指を向け、蒼に対して面倒くさそうに言葉を切り出した。

 

 

「お前に聞きたい事があるんだとよ。答えてやったらどうだ蒼い星」

「えぇ……いいですけど、質問によりますよ」

「当然だね。それでもありがとう」

 

 

軽く頭を下げ、与一はどこか祈るように蒼へと質問する。

 

 

「君、僕の兄を倒せるかい?」

「無理っすね」

 

 

その即答に、与一は驚いたように少し目を見開いた。

 

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