個性【蒼星】   作:指ホチキス

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21:打ち克つ条件

徐々に冷静になっていく思考回路の中で、蒼はようやく状況を整理し始めた。

 

いつの間にか原作通りに与一の連れ出しは済んでおり、蒼い星、つまり自らの情報も共有されている。

それはAFOが零したであろうものと、駆藤がある程度把握している情報の両方によって己が評価されていることを蒼は理解した。

 

 

「兄は君の異能を制御できない無比なるものだと評価していた。例えば今は無理であっても、いずれは兄を越えられる可能性があると踏んでいたんだけど」

「……まあ、与一さんならいいか。私の異能の詳細について話します。あ、どうせならニキも聞く?」

「聞くが……まず、ニキってなんだ」

「兄貴から取ってニキ。嫌だったら名前教えてよ。私、そっちの組織の人から情報とか聞き出せないから未だに知らないよ」

「……駆藤だ」

「駆藤さんね。で、聞く?」

「あぁ」

 

 

道端の瓦礫に腰を据え、蒼は何から話そうかと考え始める。

与一の存在に対して思ったよりも驚いて見えないこと、そして自らへの雑な対応と異なる扱いに若干思うところがありながら、駆藤は与一と共に蒼の前へと立った。

 

 

「まず、私が見せる蒼い光は精神に作用する」

「催眠術のようなものか?」

「……まあ、そう考えてもらってもいいかな」

 

 

前提を話そうとするも、わかりやすい例えが存在しないので蒼は早速言葉選びに迷う。

 

 

「なんていうかな、異能らしく既存法則に則ってないからな……わかりやすい表現方法……」

 

 

暫く悩み、閃いたとばかりに手を叩く。

 

 

「わかった、じゃあまず、私の異能をUFOだと考えて」

「は?」

「地球にそんな光はないでしょう? だからまず、この星の外に存在する概念だと捉えてみて。あ、そもそもUFOってわかる?」

「まぁ、知ってはいる」

「僕もコミックを読んでたからね。それぐらいなら……」

 

 

それを聞き、理解は出来ないがひとまず頷く二人。

前提として提示されたそれが二人の知る異能の常識から既に外れているものの、先入観を取り払う意味では突飛な例えというのは時として正しいものである。

 

 

「私の異能は複合的で、精神に作用する光と音を発し、それによって精神が一定以上不安定になったときに消滅させることができる。これはUFOによる誘拐、アブダクションってやつに似てる。帰っては来れないけど」

「兄が言っていた、誘惑する光というのは?」

「……この光を客観視できるのはAFOだけでね。壊れたり、消えた人間がこの光を受けてどんな影響を受けているのかは私には詳しくわからない」

 

 

誘惑する光、人に救いを見せる色。

それそのものを大まかに把握はしているものの、蒼は自身の異能が人にどう作用しているのかまでは詳しくは知らない。

 

全ての障害物を貫き、その蒼い光を届かせた先でどうなっているのかというのを蒼は理解していないのだ。

 

 

「ま、そんなわけで私の異能はUFOとかエイリアンって思ってくれると話が早いかな」

「一つ確認だが、お前は……異能の始祖に関係しているか?」

 

 

駆藤は少し強張った顔で蒼へと問いかけた。

街などで囁かれる、異能は宇宙人より齎された性病という話に関する確認だったが、それを聞いて蒼は面白いものを見たかのように笑う。

 

 

「それは普通に違うよ。私よか与一さんのほうが歳上だし、何より駆藤さんも私より歳上でしょ」

「……」

「陰謀論とか信じるんだね、かなり意外」

「お前が思わせぶりに話したから可能性があるのかとな。違うならいい」

 

 

不服そうな顔で黙った駆藤に、未だ口端をひくつかせながら蒼は話を戻す。

 

 

「まあ基本的な話はそこまでにして。ここからは何故AFOに効かないかって話なんだけど、まず私の異能は意識のない人、そして最初から精神が限界まで不安定になっている人には効かない」

「……そうか、物理的じゃない事で条件が発生するわけだ」

「そこまで聞くと光を見ただけで消滅させる異能というのはわかりやすいが、細部を詰めると認識は大きく変わってくるな」

 

 

精神が壊れきった人間は蒼い光を視認しても正常に情報を処理することが出来ないため、輪郭を失うことはない。

これは今までにおいても時折生じていて、限界を迎えて壊すだけに留めた人間はもう消し飛ばせなかったりする。

 

 

「そして精神力が並外れて強い人、救いを求めない人、何かに狂っている人は、それが極端になるほど効きが悪くなっていく」

「狂ってる奴らなんかその辺にいるだろ」

「中途半端な狂い方じゃなくて。そうだなあ……AFOの様に自分が頂点へ立ち、己のために全てが存在する世界にすることを本気で掲げるぐらいじゃないとね」

「君、そういった話も兄さんから聞いているのか」

「……まあね」

 

 

初遭遇時に夢を語り合った、と言えば聞こえはいいが、どちらかといえばあれは決裂の宣言だった。

懐かしい記憶にげんなりとしつつ、蒼は与一へと顔を向ける。

 

 

「そして与一さんにも、恐らく効きが悪い」

「……! 僕もかい」

「この世界の支配へ乗り出した兄弟を、世のために本気で倒そうという意思は、正気のそれではない決意だ」

「……」

「強い決意、意思は精神を支えうる。ともすれば、狂気と言えるほどのそれは、蒼い光をはねつける」

 

 

蒼は包帯の下で目を閉じ、自らの異能が効きにくかった人間を思い出していた。

単に精神が不安定なだけでは蒼い光に呑まれ易くなるだけ。

記憶に残る数少ないそれらは、純度は低いが蒼い光に価値を見出さないかのような目をしていた。

 

 

「それは救いを求めない心。自分が誰かの救いとなる決意、他に委ねない確固たる精神──」

 

 

この世界を客観視した上で表現するとすれば、それは。

 

 

「魔王、英雄であろうとする決意、または狂気。それによってのみ、蒼い光に真っ向から抗える」

 

 

原作を知る蒼は、あえてその語彙を選んだ。

やがて平和が訪れ、救いを求めない自立した精神を持った人が多く現れたとして、しかしただのそれが蒼い光に抗えるかと言えば否である。

己の道を疑わず、ただ狂い続けてようやくその色をただ見る事ができるのだ。

 

 

「だからAFOに光は届かないし、逆に与一さんもまたその決意がある限り私の異能は効きが極めて悪い」

「なるほど、条件によって兄さんには効かないのか」

「そして駆藤さん、一応貴方にも可能性はある」

「なんだと?」

「まだ私の光を見てはいけないけど……仲間を効率良く浪費し、命を賭けて一矢報いる覚悟を抱けばきっとその精神は蒼い光を乗り越えられると思う」

 

 

怪訝な顔でそれを聞く駆藤の瞳は、このままであれば蒼い光を受け入れてしまうと直感が囁いている。

この時代であれば当たり前に抱くであろう、救いを求める節がある駆藤の精神は、まだ蒼い光に向き合えない。

 

 

やがて来たる、総てを乗り越え阻む意志を抱く時。

 

 

その瞳は、決して蒼く輝く事はないだろう。

 

 

目を閉じ、黙っていた与一は、十数秒の時間をかけて今の話を反芻し、そしてその大枠を理解した。

 

 

「君の異能で兄を倒すには、兄の夢を諦めさせなければいけないのか」

「そうなります」

「ま、即死させられる呪文がボスには効かないってのはお決まりか」

「まあ……効かないとは言ってませんけどね」

 

 

その言葉に、与一と駆藤は目を見開いた。

そうして、蒼はようやく本題へと辿り着く。

 

 

「私の光は精神に作用する光」

 

 

「そして異能、そのものは本人の気質を持つ」

 

 

「奪った異能は、AFOの気質ではない」

 

 

「今の出力であれば、私の光はAFOに直接は効かずとも、光の当たった異能をある程度消し飛ばすことは出来ると思う」

 

 

その答えに駆藤は言葉を失った。

与一は言葉を噛み締めるように脳内で整理し、驚きからゆっくりと手を口へと当てる。

 

 

「できるのかい、そんなことが」

「恐らくは。記憶が曖昧ですが、過去に私の異能が奪われた時、内側から発した蒼い光によって数多もの異能が消えていったはず」

「……15年前ぐらいに大荒れしていたのはそれかな」

「あ、ちょうどそれぐらいの時期です。答え合わせができましたね」

「よく奪われてそのまま戻されたな」

「それはまあ……これ複雑なので説明は雑になるんですが、私の異能は異形系でして、私みたいに上手く制御できないと常時光り続ける事になるんですよ」

「世界を滅ぼす気か二度と奪われるなよ馬鹿が」

「そんな言いますかね!?」

 

 

口調は荒いものの、その話を聞いた駆藤の背筋には冷たい汗が流れていた。

対し、与一は納得したように数度頷き、蒼の異能の本質を掴み始める。

支配を望む兄にとって、絶滅を引き起こしかねない異能は必要無い。

更に奪って己の手で保管しようと思えば、その異能以外を消し飛ばす、正に天敵とも言うべき異能だった。

 

 

「君、よく殺されなかったね」

「この時代に殺しにかかってくるカスは全員消し飛ばしてきたので……」

 

 

この深く考えずに口から出した蒼の回答について、与一は兄は直接対決を嫌い、刺客は全て消し飛ばしたものと認識した。

本当は異能そのものが形を成す規格外を殺す方法に目処が立たないため本気で扱いに困り続けているのだが、蒼に居場所を察知される事を(いと)うあまり与一周りの把握すら甘くなっていたAFOから与一がそんな情報を聞いているはずもない。

ほんの僅かなすれ違いを生じさせながら、与一は改めて兄が蒼を殺さなけばならないと称した理由に納得する。

 

駆藤から聞いただけでは、ただ単に出力の強い異能程度にしか思えなかったのだ。

無茶を押し、嫌そうな駆藤から倒されてから頭を蹴飛ばされて歯が欠ける可能性もあるぞと脅されてでも来た甲斐があった。

 

 

「わかった。話をしてくれてありがとう」

「はい。今は奴の下で働いているようなものですが、私の異能が必要になったら声をかけてください」

「というか最近お前以外の奴がこっちのルート通ってる事多くねえか?」

「あ、忘れてた。ほらあの……重症者の対応が出来るのが私しか居なくてあちこちに……」

「……」

「えっと、すみませんこればかりは仕事なので」

「いやいいが……お前、AFOと明確に敵対してるんだよな?」

「え? はい」

「なんでアイツの下っ端として仕事に真面目なんだよ」

「ちゃんと働くとご飯たくさん食べられるので……」

 

 

蒼の言葉になんとも言えない顔をする駆藤と、少し表情を緩めて噴き出す与一。

 

 

「……まあどうしても必要になったら連日バリケード張るようにするか。それなら何らかの異変としてお前も呼ばれるだろ」

「すみません本当に……」

「まあいい。お前の話を聞いて俺としても収穫があった。そろそろ与一を連れ出した事でAFOも何らかの動きを見せ始めてもいい頃だ。お前もなにかあればこの辺でクラクションを鳴らしまくれ。遅くても12時間以内には誰か寄越す」

「はい」

 

 

そうしてその場は解散となり、仕事へと戻った蒼は各工場を周り、最後の工場にて担当者との雑談で気になる話を耳にする。

 

 

「───えっ政府の復活ですか」

「儂は無茶だと思うがねぇ」

「今だと、どの勢力に得があるかって話になりますよね」

 

 

市民の、公共のためなどというお題目は裏社会に反抗するようなもの。

先を見れば裏社会の利権を確立するための寄せ集めになりそうなものだが。

 

確実に四ツ橋が絡んでいるであろうそれが既に動き出している事に多少なりとも驚きを得る。

 

 

「少なくとも、時代が動き始めたのかもしれんな」

「ですかねえ」

 

 

英雄も敵も、自警団すら存在しない。

そんな時代の終わりが近付いているのかなど何一つ実感できない蒼は、バインダーに書類を挟んで伸びをした。

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