個性【蒼星】   作:指ホチキス

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24:肉の偉大さ

「誰が私の事って言ったんだぁ!? ウチの組織だよウチの組織!」

「いや、お前自身はともかくとして……所属はAFOの下部組織だろうが。なぜ敵対組織の増強を俺達が手伝わなければいけない」

「いや、増強とか難しい事は良くわからないですね。とりあえず異能持ちで性欲を持て余した男への慈善事業。そういう感じでどうですか?」

「……」

 

 

心底理解できないものを見るような目となった駆藤に、蒼はあえて空気を読まず、押せば勝てるとばかりに一息。

 

 

「まず組織のことは忘れてほしくて、私はAFOの敵だということを前提としてですよ」

「……あぁ」

「私の手元で強い子が産まれた時、AFOは手を出せないし、出せば強い私の反感を買う。そう考えると、優秀な種を預けておいて私のところで育てておけばAFOの駒とはならずに立派な強い異能持ちが育つってわけです!」

「それで俺達に何の得がある」

「売春街と違ってなんか貰ってくる事がないですし、ウチも組織の影響力が上がって一石二鳥ってやつですよ」

「……遠回しではあるが、AFOの戦力が増強されるということに変わりない気がするが」

「……」

「…………」

「………………一理あるな……」

「帰っていいか? そして二度とくだらないことで呼ぶな」

 

 

ぐぅの音も出ない言い負かされ方をした蒼は、しかしその程度で諦めることはしなかった。

肉の魅力に目が眩んだ蒼は、確実に負ける試合であっても何度だって立ち上がる。

 

 

「でもでも、ほら、ご飯とか付けますよ。風俗街よりサービスもよくて、お土産も持たせます!」

「だとしても……いや、そうだな。それはどうでもいいが、裏社会がウチの組織に手を出してるだろう。お前、それをどうにかできるか?」

「えっ」

 

 

ふと、思い出したかのように駆藤が条件を出したので、驚きつつも蒼はそれについて考え始めた。

どうにかできる手段と方法の模索。

そしてそれに伴うリスク、そして考えられるデメリット。

それを肉食べ放題という条件と天秤に掛けた時───

 

 

「どうにかと言われても……最大規模の被害を出したいなら会場で光ればそこだけは終わりにできますがデメリットがすごいですし、ウチが運営してるわけでもないので細々(こまごま)とした救出は無理ですね」

「救出できないのは残念だが……会場と言ったな? そこでぶちかますのであればお前の話を呑んでもいい」

「えっ……それやると多分私から手綱が外れたと思ってAFOが比べ物にならないぐらい動き出すと思いますが」

「俺からすればむしろ丁度いい。そろそろこの辺りもAFOが手を出しそうでどうしようか考えているところだった。お前の異能を利用できるなら特大のトラブルで時間を稼ぎたい」

「やらかしたあと、あいつ絶対私に何らかの干渉してくるじゃないですか」

「交換条件としてそのリスクを呑めるなら受けるというだけだ。受けないなら俺達は別に構わない」

 

 

そうして真剣に悩み始めた蒼を見て、駆藤は自らが提示した条件へ、思ったよりも食いついている事に内心ではかなり驚いていた。

話した事に嘘はなく、時間稼ぎをしたいのは事実であるが、蒼に提示した内容は言ってしまえばAFOの目を逸らすための囮となれと言っているのである。

 

それは、黎明期に生きる誰もが自らの死を覚悟しなければならないほどの役割だ。

与一の最期の顔が脳裏に浮かび、無意識の内に拳を握りしめる。

駆藤は、たとえ蒼であってもその役割に抱く重さは変わらないと思っていて。

 

───それを肉への誘惑一つで揺れ動いている存在が眼の前にいるという真実を知れば、流石の駆藤も困惑を越えて戦慄する事だろう。

 

それはそうとして、駆動達は裏社会においてAFOまでもが強力な異能を持つ子供を産ませようとしているのを掴んでいた。

まるで玩具の様に仲間を壊し、それらを使ってまでこちらを挑発したという報告に奥歯を軋ませたのは記憶に新しい。

だからこそAFOの手に組織の異能が流出するのであればいっそ命ごと消してほしいというのがほぼ全員の共通する願いだ。

 

 

蒼の言う()()を破壊し、それによってAFOの目を一時的にでも逸らす事。

 

それは組織として最も優先すべき作戦の一つで、その手段の模索に苦心していた駆藤からすれば蒼という存在を利用できる機会は逃せない。

元よりAFOとの直接対決用として考えていた蒼を使う発想が無かったため、駆藤は構わないとは言いながらも譲歩して協力を仰げないか悩むこととなる。

 

 

「───ある意味で俺等は命が懸かっている。逆に呑むというのであれば、こっちの条件を上乗せしてもいい」

「まさか、2人とか……」

「3人だ」

「やりますぅ!」

 

 

食い気味に頷いた蒼に、駆藤は小さく安堵の息を吐いた。

釣れた条件としては微妙だが、組織の延命を天秤にかけたとき、この選択は多くの命を救うこととなる筈だ。

 

 

「ただ、AFOの発言権が増すことには変わりなく反対だ。あくまでお前を使う代価として許容はするが、そこは忘れるな」

「うっす! どうしようもなく奪われそうだったら消し飛ばします!」

「……命が軽いのは今更だが、そう聞くと、都合で産んで殺されるとは憐れなものだ」

「いざって時には仕方ないですよ。むしろ我々の手によって強い異能を発現できれば自分を保てる。この時代に自分が自分のままでいられる可能性を秘める事ができますよ?」

 

 

この時代らしい倫理観から飛び出した蒼の言葉に眉を顰めた駆藤だったが、返しの言葉には少しだけ目を見開く。

強い異能の行く末は、AFOの下か、それに対抗するか。

そのような先入観を抱いていただけに、自分らしく生きていけるという前向きな言葉は駆藤にとって不慣れなものだった。

 

 

「お前には……この時代らしさと、まるで超常以前の人間のような能天気さがあるな」

「バカにされてます?」

「さてな。ひとまず種に関しては先払いでいいな? 終わった後に落ち合うのは難しい可能性がある」

 

 

不満そうな顔から一転して、何度も頷く蒼。

 

 

「ありがとうございます! あ、一応駆藤さん以外でお願いします!」

「……何? 俺はダメなのか?」

「えっはい、ダメです」

「…………」

 

 

生温い風が吹く。

気まずい沈黙の中、黎明期特有の埃っぽくも焦げた臭いが運ばれてきて。

 

将来、AFOが与一との関係から逆恨みとして駆藤の血筋を根絶やしに掛かる。

どれほど有用な異能に目覚めようと、万が一の事を考えれば目をつけられる可能性は減らしたいので、蒼からすれば駆藤の種だけは不要だった。

 

 

「…………まあ、わかった」

 

 

元より他の男を提供するつもりだったとはいえ、名指しで断られると流石に思う所があるものだ。

自身以外の対象に干渉できる、第1世代としては珍しい異能だと自負していただけに、明確にいらないと言われれば釈然としないものの、とはいえ詰め寄ったところで得もない。

 

振られ返す形となった微妙な雰囲気のまま、一応は後日売春街で引き合わせの形として条件を決め、蒼は仕事へと戻る。

 

 

夕方に事務所へと帰ってきて早々、ウキウキで玄野の下へと駆け寄る蒼。

 

 

「種の確保、OK出ましたよ!」

「お前やるなぁ!」

「しかも3人も!」

「えっお前マジですごいな」

「そして代わりに種売買の会場で光ることになりました〜!」

「お前ッ、おい、クソ馬鹿!」

 

 

期待、笑顔、困惑、そして焦慮(しょうりょ)へと表情が数秒で変わっていった玄野は深呼吸を一度挟み、可能な限り冷静に努めようとした上で蒼を見る。

 

 

「和反の条件か?」

「はい。リスクも承知の上です」

「……会場の破壊、ギリギリだが言い分によっちゃAFOへの叛意とはとられないが……」

「確実に現状維持にはなりませんね」

「だろうな。接収って形で子供が奪われたら本末転倒だが……考えはあるのか?」

 

 

玄野の言葉に、蒼は薄く笑った。

 

 

「そろそろいいかなって思ってたんです。自治会もできて、表も多少は活気を増しました。裏の影響が大き過ぎてはそれを遮ってしまうこともありますし」

「……この時代を終わらせる気か?」

「いえ、そこまでは。ただ台頭し始めた表へAFOが手を伸ばすことは防ごうかなと。光って、排除に動き始めたら御の字ですね。そうなったら本気出します」

「案外、表でも上に立って平和維持に尽力してくれるかもしれんぞ」

「反対勢力が多いのでダメですね」

「あぁ……名が強すぎるのか」

 

 

AFOに敵対心、または嫌悪感を抱く人は多い。

それは駆藤達によるネガティブキャンペーンもあれば、その所業に巻き込まれた当事者達でもある。

それに加えて原作の時代と違い、異能の売買や収集など表でも噂として流れる程度にはその存在が薄っすらと認知されていた。

 

仮に社会がある程度立ち直った後、そこの中枢にAFOが関わっていたという事実が出た場合、ただそれだけで不信感を抱いてしまう人々が多すぎるのだ。

下手をすれば法治の崩壊をもう一度やり直す事にもなりかねないので、その可能性を減らすという意味でAFOの目を引くのは悪いことではない、ということを蒼は帰路で考えていた。

 

これは肉に釣られて頷いた後に、ゆっくりとこれから先を噛み砕いてそうするべきと結論に至ったものだが、頷いた時にはここまで考えていない。

 

要するに、肉を大量に食べた上でなんとかしてそれっぽい形に持っていこうという、最悪の行き当たりばったりである。

 

それを一切顔に出さず、さも真面目にこれからの世を憂いていますという表情で口を開く蒼。

 

 

「なので種を受けた後に、AFOの動き次第ですが本格的に動き始めることになります。組には悪いですが……」

「まあ、誰でもないお前から潮時って言われれば納得するしかねえよ」

 

 

玄野はAFOより僅かに歳上であり、幼少期とはいえ超常以前の時代を知っている。

黎明期が始まり裏社会へと身を投じたが、裏社会だけが手を広げる時代は、やはり繁栄とは程遠い。

黎明期以前のような、法治国家としてある程度の体を成さねば裏社会も先細りしていくのを体感としては理解していた。

 

AFOと敵対する蒼が、裏の大々的な台頭はもういいだろうと言うのであれば、玄野としても引き下がるしか無い。

 

異能を持たない玄野であっても、蒼の異能を前にすればお前が言うならばと納得してしまう意味がそこにある。

 

 

「ただ、できる事なら徹底的にやってくれ。報復でウチが襲撃されたら面倒だからな」

「千並ちゃん達の異能とか取られたら面倒ですからね……そこは、はい。ウチはともかく永景會がどうなるかはわかりませんが」

「残るとは思うがね。千並達は暫く隠すしかねえな」

「どうしようもなければ和反に出しちゃえばどうですか。ただ奪われるだけにはならないかと」

「それもいいかもな」

 

 

そして、一息。

 

 

「さて、それで本音は?」

「この時代に肉を山程食えたらそれはもう思い残すことなんてないなと」

 

 

明るい笑顔を玄野へと向ける蒼。

 

食材に関しては、前提としてどの国も混乱しており、国家間での貿易は大半が機能を停止している。

それに伴って食品などの流通もかなり絞られ、7年ほど前に比べると値段が跳ね上がっているものだ。

 

その中で、AFOは国外との貿易に成功している。

金銭はレート変動が信用ならないため物々交換のようなものではあるが、強力な異能そのものを与えられるというのはそれだけで莫大な価値を持つ。

そうして輸入された食品類は安価ではないとはいえ裏社会に回っていたりする。

ただその安価ではないというのも、玄野が種を1人分で食べ放題を提案する程度のものだが。

 

ただこれについて、果たして食肉が人間1人分程度というのはどちらの価値が高く見積もられているのか難しい話であるものの。

 

とはいえそれぐらいには高価とされる肉を食べ放題ともなれば、蒼としてはいい区切りだと腰を上げるキッカケにはなった。

帰路で自身を納得させられる程度には良い条件と言える。

 

 

「……これ俺のせいか?」

「7割は」

「比重が大き過ぎないか……?」

「えっ今更冗談とは言わないですよね」

「流石に3人分確保されたらそんな事言わねえよ」

 

 

そうして数日後、売春街で丁度いい時期だった女を男1人あたり3人ほど付け、当たるか当たらないかはさておいて約束は果たされた。

 

そうして売春街の裏路地で駆藤と軽く会話を交わした蒼は、キッチリと会場で光る日程を伝え、その場を立ち去ろうとすれば最後にと呼び止められる。

 

 

「……俺が今回、名指しで外された理由はあるのか?」

「与一さんと仲いいじゃないですか。AFOがそれを知って子供に影響出ると嫌なので」

「あぁ、成程な。理解した」

 

 

無表情ながら寂しく、それでいて嬉しそうな雰囲気を出した駆藤に、意外と気にしてたのかなどと面白く思う。

駆動としては与一が死してなお、仲が良かったと対外的に言われるのは己に宿る意志との繋がりを意識させるもので、組織の人間ではない、蒼という存在からその関係を指摘されるのは与一という友人が肯定されたかのような喜びを抱かせるものだった。

 

そうしてついでとばかりに先日の発言を思い出したので、蒼も駆藤に聞いてみることにした。

 

 

「ついでに、私のどこが好みじゃないんですか」

「痩せた超常孤児を嫌と言うほど見てきたのでな」

「おい今私のことを遠回しにガキ体型っつったか?」

 

 

結局、地団駄を踏む結果となる。

顔付きや体格は細身ながら女性的で、決して子供と間違われるものではないとはいえ、痩せた低身長というのはこの時代において超常孤児を想起させる特徴なのは事実である。

蒼の場合は遺伝的にそうであるため、暮らしや食生活が原因という訳では無く、これはもはや諦めるしか無い。

 

───更に帰宅後、2児の母でありながら肉体美を維持する千並の風呂上がりに出くわし、蒼は地団駄すら踏む気力も失せ、部屋の隅で打ちひしがれることとなった。

 

 

そうして何事も無く時は流れ、2週間後。

会場での種売買が行われる前日に、ひっそりと元甲野組の敷地内でBBQセットを組む女達がいた。

 

 

「千並ちゃん、これ合ってるの?」

「肉焼ければ合ってるよ」

「なんの保証にもならないコメント出たな」

 

 

片手に長女の糸旗を、もう片手に長男の板葵を抱える千並が見守る中、ガチャガチャと上手く組めずに梃子摺る蒼。

 

 

「あおちダメそ?」

「蒼ちゃん、代わろうか」

「いやいける、任せて!」

「肉持ってきた、が。まだ出来てねえのか」

「使われてないせいでねじ部が錆びてるの! 私が悪いわけじゃないですからねこれ!」

「まあ肉の準備してるから別にいいけどよ……」

 

 

家族のホームパーティのような雰囲気の中、ようやく準備が終わったところで蒼がウキウキとした感情を隠さない表情のまま肉を焼き始めた。

 

 

「じゃあ明日、決行となりますのでね、今日はしっかりと食べて精をつけていきたいところ」

「誰に言い訳してるの?」

「こんな時代にお肉食べ放題なんて贅沢、罪悪感抱かずに出来ないからね……!」

「お裾分け貰う私が言うのもアレだけど、蒼ちゃんって大概感性が変だよね」

「千並ちゃんが言うかねそれを」

 

 

そんな会話を挟みつつ、焼けた肉を摘んでご満悦の表情で腹をさすった蒼は、そういえば言っていなかったなと思いつきで真面目な顔を作ると明確に意図を言葉で表明する。

 

 

「明日はキッチリ仕事して、遠回しとはいえAFOに宣戦布告とします」

「口元をタレでベッタベタにしながら言う事か?」

「蒼ちゃん、コートにタレこぼしてるよ」

「あおち、んま」

「いたがしきのやつとった!!」

「締まらないな〜」

 

 

明日以降、ここがどうなるかもわからない事を考えないようにしながら、蒼は肉をひっくり返すのだった。

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