個性【蒼星】   作:指ホチキス

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27:蒼と黒紅

始まりはどうあれ、己の思うがままに自我を出す。

相手へ殺意を向ける内容なんて、この時代では些細なことだっていい。

あの時のことが気に入らないから殺意を向けるなど、この時代にしては、立派過ぎる程の理由だ。

 

 

輝かしくも悍ましく、醜悪でいて美麗。

果てしない蒼の色が瞳より溢れ出る。

瞳という出力器官はその形を適したものへと変化させ、結膜が灰色に塗り潰されて。

 

 

低く唸るような音は、まるで変換器を介したかのように美しい音色と歓声へと変わっていく。

しかしそれは変わったのではなく、周囲に知覚のチャンネルを押し付けているのだ。

演奏のようでいてノイズにも聞こえるそれは、しかし聞いた者の脳へ意味を突き刺すように届けていた。

 

周囲一帯に存在した人々はそれら総てが蒼い星を知り、次々に蒼の下で消えてゆく。

驚くほど静かで、人の気配一つ無い街で、その音だけが聞こえていて。

 

やがて蒼の存在そのものが異能に侵食されるように、皮膚に、衣服に、灰色の脚が模様のように浮かんでいく。

 

それは遺されたもの。

星へ至る道に不必要なもの。

宙へ浮かぶ星へ、歩いて辿り着く事はできない。

手を伸ばし浮かべばいいのだから、脚なんてものは要らないだろう。

そうして入口へと積もったそれらが、自我の解放、よりそれへと近付いた蒼の表面へと現れていた。

 

 

「ぜーんぶ、私の元へ」

 

 

蒼い光はもはや明滅ではなく、周囲を塗り続ける。

 

───嘲笑。

天にて歪な形を創り出すAFOを蒼は見上げ。

そして蒼い星の能力範囲外より堕ちる星は、その形を徐々に整えていた。

 

 

多腕、分裂、筋肉増強、肥大化、圧縮───

数多の異能を用いて密度と質量を上げた。

 

岩石、硬質、先鋭、操液、凝滞───

数多の異能を用いてより良い形状に。

 

空気発射、爆破、思考加速、誘導───

数多の異能を用いて加速し、目標へと。

 

それはやがて訪れる未来にて、消失を前に余裕無く全てを無造作に発動したものではない。

自らのものではない異能ですら手足の如く制御を可能とする抜群の才覚、そして天性のセンス。

それらによってより鋭く、より貫き、より穿ち、殺すための機能をこの世代での限界まで突き詰めたもの。

 

それは人に向けるには過ぎた程の殺傷性。

 

それは薄く、尖った黒紅の棘。

密度は鋼を超え、尋常ならざる速度を以て空を裂く。

 

 

 

「───」

 

 

声は置き去りに。

撃ち抜く事だけを目標とし、全速力を以て蒼色へと棘が突入した。

沈むように色へ触れた事で、必要だったからこそギリギリまで発動していた数多の異能が消えていく。

 

 

肉体強化の異能類が消失。

しかし既にその速度から身体を護る形は整った。

 

造形を維持する異能類が消失。

しかし既に崩れるより当たる方が早い事は確定した。

 

速度を上げるための異能類が消失。

しかし既に加速は十分な程に済んでいた。

 

制御を行う異能類が消失。

しかし既に命中への道は定まった。

 

思考加速が消失。

しかし既に、覚悟は終わっていた。

 

それでも肉体は残っている。

必要な事は既に済ませていた。

 

 

 

 

「は」

 

 

 

 

破裂音が宙を抜け。

周囲の建物がその余波で崩れていく。

総てを賭して、唯一つのために。

 

緻密な異能制御によって、失われた総てが遺したそれは真っ直ぐに蒼へと届く。

心臓へと吸い込まれるように先端が接触し、抵抗へと衝突した事で鈍い音が鳴り───

 

 

そして、抜けた。

 

 

頭と膝から下のみを残し、その物理的抵抗では抑えきれない衝撃により蒼の肉体は文字通り破裂した。

擦過により地面は燃焼し、残心の余裕も無くAFOは棘の中で強烈な振動を味わい意識を朦朧とさせる。

 

 

「……」

 

 

残された蒼の頭は裏返るように内部へと吸い込まれ、最後に黒いハートが残り、重い音を立てて地に落ちた。

もう蒼い色は残っておらず、埃っぽく薄暗いように感じる黎明期の空気が残るばかりで。

 

 

ここに鎮圧は果たされた。

 

 

蒼の覚醒より僅か30秒以内。

願星蒼の敗北で決着となる。

 

地へと転がり、徐々に薄れていく黒いハートを見て。

AFOは痛みどころか、喪い、掌から溢れていった全てすら今だけは忘れ、起き上がることもできない体で腹の底より笑い声を上げる。

 

 

崩壊した街に、唯一つ残った者の声だけが響いていた。

 

 

 

 

「───うぅん、負けたか……」

 

 

山の中腹で、影がのそりと起き上がる。

それは灰色のコートに身を包み、瞳を隠すように包帯を頭に巻いていた。

それは灰の髪と、漆黒の瞳を持つ女だった。

 

異能の成長による新たな能力か、存在がズレたような感覚と共に気付けばここにいた蒼は、敗北を実感しながら少しばかり悔しげに唇を突き出した。

勝てるとは思っておらず、その上で死亡もしていないとはいえ、それでも敗北は悔しいものだ。

異能の容量感覚として今では光ることも満足にできないと判るため、すぐに再挑戦というのもできない。

 

遠く、周囲一帯が崩壊して人の気配がない街を眺め、蒼は感情任せの結果に若干の居心地悪さを感じて。

 

 

「暫くの間、隠居するか」

 

 

そう言うと同時に、ブルリと震える。

決意を口にしたことで戦闘が終わったと実感し、気が緩んだのか突如尿意を催したのだ。

どうしたものかと周囲を見渡せば、当然ながら人影など一つもない。

 

 

「……まあいいかここで。誰もいないし」

 

 

飛び散るのが嫌なのでもぞもぞとジーンズとショーツを完全に脱いでその辺にしゃがむと、遠くに見える荒廃した街へと視線を向ける。

かなりの被害を与えたので、AFOは当分表に出てこないだろう。

原作通りならば駆動は既に継承しており、どのタイミングでバトンを渡すのかはわからないが、今回のこれで何かが良い方向に変わっていればよいのだが。

 

水音を聞きながら、漠然とこれからを考える。

 

 

「んー……あ、紙どうし、んえ?」

 

 

そうして事が済んでから紙が無いことに気付き、どうしたものかと下を見れば。

 

そこにあるのは、薄暗い中でも妙に輝いて見える、非常に明るいエメラルドグリーンの水溜まり。

そのおおよそ尋常ではない色に驚いて秘所へ触れてみれば、同じ色が指に付着した。

どうも、この異常色の液体が蒼の体内から出てきたのは確かなようで。

 

 

 

「───病気ィ!?」

 

 

 

当事者達しか知らない対決は幕を閉じた。

こうして歴史はまた一つ、転換期を迎える。

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