個性【蒼星】   作:指ホチキス

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43:新聞紙

 

積み重なった死体の細部を感知によって詳細に認識していく。

射出機構や特殊な形状の喉、臓器、骨の形からして、その殆どが異能持ちである事は理解できた。

異最上の集団行方不明という状態と照らし合わせれば、自ずと答えは見えてくるもので。

 

 

「ん〜これ異最上が目を付けられたっぽいね」

 

 

後ろ盾はなく、社会正義もない。

居なくても良い存在として認識され、見なかったことにされているのだろう。

 

 

「修善寺さんさあ、身内の引き締めしないからだよ」

 

 

蒼の言葉に黙り込んでいるが、修善寺は反論のしようがない事を理解していた。

とはいえ元より人を率いることが向いていないという自己評価を持つ修善寺は、それをどこか他人事のように聞いていたが。

 

 

「……死ぬべくして死んだと、そう思うか?」

「どうだろうね。ただ、あんま悲しまれてはいないのは確かかな」

 

 

実験台として死んだ事に納得している奴がいるかといえば、いないとは思うが。

 

 

「うーん……面倒だなあ」

 

 

異能を後天的に発現させようという研究は、今まで蒼の周りでは聞いたことがなかった。

何故かといえば、AFOがいるからである。

 

AFOという存在の下にいて、その稼業を犯そうという者はいる訳もない。

正確には、いなくなったというものだが。

そのため諸国に比べて日本の研究が潰され、遅れている面もある。

 

───人体実験への敷居の低さから、細胞の調査を行う事で異能の詳細を割り出す研究を行っていた国から技術を持ち出した、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような例外が日本国内に入ってはいるが、あくまで例外。

 

この国では、公的機関での異能研究は殆ど行われなかったと言ってもいい。

それは法の改正、そしてそれに絡む申請が間に合わなかったからである。

良くも悪くも民主主義国家だった日本は、黎明期の動乱に対して全てが間に合わなかった。

それが、この国の全てを表していると言っても過言ではない。

 

 

それはそうとして、それらの事からこの国では異能の研究は殆ど行われていない事を蒼は知っている。

AFOですら、蒼の知る限り研究を行っているといった情報は未だ聞いたことがない。

 

原作から逆算してドクターこと殻木球大がこの時代に生存していることは予測できるが、まだ成年を迎えているかも怪しいので研究者となる存在もいないのではないかと疑っている。

 

 

「……貿易が起点かなぁ」

「国外か」

「じゃないかなって思ってる。この国にそんな事するような奴は……いな……いやどうだろ。思想だけ輸入されてたらわかんないか」

 

 

犯人は不明。

異能を掛け合わせるというよりかは、異能を移す、与奪に関する実験のように思えるが、真意は聞かねば分からない。

遺された死体の山からはそれ以上を読み取ることもできず、蒼は腕を組んで唸る。

 

 

「仇討ちとかする?」

「当然だ」

「じゃあ有力候補に話聞きに戻るかあ」

 

 

感知範囲内から未だ動いていない、火達磨女の異能に関わりがありそうな男の元へ戻れば、仮称火達磨男は呑気に腹に粘土を乗せて焼いていた。

 

 

「あれ、おかえりなさい?」

「……なんか、思ったより既に違う気配すごいけど……異最上の奴らについて、なんか知ってたりする?」

 

 

もしそうだとすれば随分と気の抜けた奴だなと思いながら尋ねるが、案の定、男は首を傾げるだけだった。

 

 

「いや……自分、役所から焼き物の仕事もらって、危ないからってこっち来たばっかでして。あの、さっきの話、同じ格好した少女がホントにいたんですよね? 逆にお会いしたいぐらいなんですが」

「何の関係なく奇跡な事があるのかよ」

「見掛けたら自分のこと呼んでもらっていいですか。実は生き別れの妹がいるって親が言ってたのを貴方がたと別れてから思い出して……!」

「いい、いい。もういい! 変な奇跡をこれ以上出してくるな!」

 

 

手をブンブンと振って、食い下がろうとする男を牽制して路地から離れる蒼。

 

 

「なんだったんだアイツ!」

「そういう事もある。血族の可能性があるというのは、少々驚きだが」

「……それはそれとして怪しいのいたよ。いたと言うか、見つけた」

 

 

立ち入ることが難しい室内に妙な作業をしている人間がいる。

最初は何かを縫い合わせて補修しているのかと思ったが、よくよく感じ取ればそれが生物から剥いだ皮膚であることがわかった。

普段はもう少し漠然とした情報を脳内で処理しているため、若干の頭痛を感じながら蒼はその場所を指さした。

 

それは、売春街の中にある建物の2階。

 

 

「あそこ。室内に3人いるね」

「逃げそうか?」

 

 

こちらに気付いた様子はないが、何やら不定形の小さな泥の塊にも似た、異形系の異能持ちを足元に置いている。

息遣いによる、微かな上下によってそれが異能持ちの人間である事がわかるが、年齢や素性は読み取れない。

実験を行う男女2人と、泥塊が1つ。

 

 

「……即座に殺す手段ってある?」

「ない」

「じゃあ逃げちゃうかもしれないな」

 

 

置かれたバラバラの死体に何かを突き刺すと、その部位より泥に似た何かが発生して知覚域より喪失。

ギリギリ範囲内であった処理場に、バラバラの死体が出現した。

この時代においてAFOが無理矢理にでも欲した、転移系の異能持ちである事が窺える。

 

 

「閉じられた死体の処理場……転送系の異能持ちが前提の場所だったか。かなり厄介かも」

「強襲するぞ」

「気付かれないようにゆっくり回って行こう、か……?」

 

 

室内で、女が慌てたように動き出した。

何かに引っ掛かったのか。異能による察知か。

急にその場から逃げるかのように自らに何かを突き刺すような予備動作を行った。

 

 

「なんか気付かれたかも」

「逃さん」

 

 

蒼の声を聞いた直後、修善寺が走り、そのまま壁をぶち抜く。

 

 

「えぇええ……」

 

 

周囲一帯を何ら気にせず突入した修善寺を前に、唖然とする蒼は一拍おいて思考を切り替え、顔を隠すコートをしっかりと巻き直して大きく息を吸った。

 

 

「なんか死体を漁ってる怪しい奴が逃げ込んだぞー!」

 

 

とりあえず、そういう事にした。

こういうのは言ったもん勝ちである。

人間は情報が錯綜したとき、真っ先に出た話をひとまずの答えとすることが多い。

慎重に様子見をしようなどという奴はこの時代を生きていけないので、当然ながら場の雰囲気がそういうものとなる。

 

 

そんな外を知らない修善寺は、突入後に一人を確保した。

 

泥に沈んでいく2人は掴めなかったが、動作の遅れた男を蹴り飛ばすことで異能の対象に取らせない。

容赦なく手足を踏み折り、対象を見下ろす修善寺。

 

この国の一般的な顔ではなく、何かを呟いている言語も聞き覚えがない。

襤褸布を纏う姿に、蒼の言っていた国外だろうという考えが合っていることを実感しながら、修善寺は折れた指を己に向ける男の観察を続けた。

 

 

「───!」

「む」

 

 

手が鋭利な金属へと変化し、喉を突こうと先端が迫る。

対し、修善寺はそれを腕で受けた。

 

先端が激突し、高音が響く。

()()()()()

 

 

「……そうして何人を殺した」

 

 

困惑は一瞬。

何度試されても、硬質な音を立てるばかりで刺さる様子はない。

ゆっくりと、その手を掴んで更に砕くと、見せつけるようにして布を摘んだ修善寺の指が、力任せに男の口内へ侵入する。

歯を噛み合わせて抵抗しようとするも、修善寺の力に抵抗できずに歯茎から内側へと引っ張られ、痛みに呻く。

喉に布を詰められ、吐気と窒息に暴れることしかできない男の上顎と下顎を修善寺は掴んだ。

力任せに開き、限界を超えて尚も力を緩めず。

 

 

「お前は、敵だ」

 

 

断裂と、破砕の音。

それは男の咬筋が断裂し、過剰な力によって修善寺の指の骨が折れる音。

四肢を暴れさせ、布の詰まった喉で叫ぶ潔癖症の男を見下ろしたまま、それでも修善寺は力を緩めない。

 

 

「痛み、苦しんで死ね」

 

 

開口角度の限界を超え、人の顎が力任せに裏返る。

もう二度とその口は閉じないだろう。

でも、それに困ることはこれから先には起こり得ない。

 

血を噴き出しながら痙攣する瀕死の男を見下ろし、無言のまま首を踏み砕いた修善寺は、自らの折れた指を確かめるように動かすと、よじ登ってきた蒼の方へ向き直る。

 

 

「2人は逃がした。すまんな」

「あー……情報は聞けそうになかった?」

「わからない言葉を喋っていた」

「じゃあ、いいや。それより指、折れたでしょ」

「あぁ、力が入りすぎたようだ」

「なんで他人事?」

 

 

流血はしていないが。

音からして骨折は確実にしているだろうに、表情一つ変えずに修善寺は手を振った。

 

 

「すぐ治る」

「そういう異能か」

 

 

その指を見れば内出血の跡こそ残るものの、動作に支障のないように見える。

 

 

「俺の異能は【修善】。大雑把に言えば傷を治す異能。コントロールはできず、常時発動している」

「……デメリットはある?」

「正しい形に戻るとは限らない事」

 

 

袖を捲くれば、腕の形状が露わになる。

骨が歪に、そして奇妙な形に変形した様子が皮膚の上から見てとれる。

そして何より、その表面。

石が、砂利が、そして僅かに錆びた金属が埋まっている。

拳で叩いてみれば、当然ながら本物であることが伺えて。

 

 

「……なにこれ」

「混ざったまま治った」

「すっごく良くない異能じゃない!?」

 

 

蒼は決して医学に精通しているわけではないが、この時代にしては珍しく雑菌の概念を知っている。

エメラルドグリーンの尿をジョバった時にあまりにも不安になりすぎて色々と読み漁った結果ではあるが、だからこそ自然物や金属が埋まっている危険性を理解し、修善寺の顔を見て引いた顔をした。

 

 

「えっ……死んでる?」

「生きている。俺のこれは補い、代用しようとする異能。生命は対象に取れないので、取り込む前に全て弾かれる」

「あー……?」

「そういう異能だと理解しろ」

 

 

修善寺の異能は単に治癒するのではなく、修繕、つまり不足分を繕う異能。

傷を負えば、それっぽい形に作り直してしまう異能であり、そこに何かを当てがえばそれによって補修を行うもの。

それを理解している修善寺は基本的に腕を攻撃にも防御にも多用している。

 

 

「デメリットとして、例えば腕の中でも幾つかの筋肉は死んでいる。無機物に置き換わったからな。恐らくは……臓器が置換された場合、それは機能を低下させるだろう」

 

 

死に直結するものとして、肺や心臓など膨らむ柔らかさを必要とする臓器は機能に支障をきたす。

弾丸のように体内へ貫通して侵入した場合は臓器不全になる可能性が高く、鉄骨などが突き刺さっても同様。

強い異能であり、複合的な出力は群を抜いて高いが、自らの命を脅かす異能でもある。

 

 

「デメリット、デカいね」

「まあ妥当だ。恩恵のほうが大きい」

「馬鹿力って言ってたのは?」

「わかりやすさを重視した。この異能のせいで体が壊れる程の怪力を発揮できるというのをあの場で説明する意味もない」

「常に火事場の馬鹿力が出せるってこと……?」

「頭の中身が、異能によって人間の制限を超えても問題ないことに気付いたようでな」

 

 

痛みが無いわけではない。

痛みがあるからこそ、自らの肉体を如何に効率的に、最適な力量で動かせばいいのかが自覚できる。

だが、怒りによってふと力が入るだけで、指の骨が砕けてしまう程度には、脳が力の制御を手放していた。

 

回復に関する異能でありながら、それ故に自傷を受け入れてしまうように()()()、異能に呪われる者。

 

 

「……修善寺さんさァ、異能からして復讐向いてなくね?」

「それに対する意見を受け入れる余地はない」

「そういうとこだぞ」

 

 

蒼から見た修善寺の本質的は愛が深く、真面目に見える。

故に止まれず、酉野と袂を分かつに至った。

言うなれば、修善寺は停滞し続けている。

 

修善寺は、この時代では珍しい存在だ。

過去を捨てられなかった人間は皆死んでいった。

皆が前を向く中で、足を引き摺りながらも異能によって動けてしまった死体のようなもので。

 

繕って、歩けてしまっているのは異能による身体だけでなく、心もまた同じ。

 

 

騒がしくなってきた建物の外へ目をやり、蒼は修善寺に問う。

 

 

「残党とか、探しに行く?」

「……近くにいそうか」

「いないよ。どういう異能なんだかね」

「当て無く探して、見つかると思うか」

「私がいるなら見つかるかもね」

「……頼めるか」

「しょうがないなあ」

 

 

蒼は修善寺の根底に燻る怒りを感じ取っていた。

まだ終わらない。止まらない事がよく分かる。

行く当てもなく、この街を離れたいと思っていたので丁度いい。

 

蒼は、頼られるのが嫌いではない。

それは、人間として生きたいという願いに拠るものだ。

 

仲間のいない寂しい背を引っぱたき、修善寺から頭を押さえつけられた蒼は文句を言いながら笑った。

 

 

───建物から飛び出し、人間離れした速度で騒然とする売春街を駆け抜けていく影。

ゴミや木箱などに当たりながらも、それは減速することなく駆けていく。

 

 

背も見えなくなった修善寺の足跡の上に、破壊された木箱から補修材やペンキ、そして梱包材代わりの新聞紙と共にゴロゴロと転がり落ちた。

輸入された木箱に入っている新聞紙は、当然ながら海外の事が書かれているもので。

 

 

淡く拡がった、この地では誰も読まない新聞紙には。

 

英語で、【ロードアイランド州新法制定】と記されていた。

 

 

●●●

 

 

───日本国内の小さな屋敷。

 

テーブルを挟み、男が二人座っていた。

片や苦労が滲む顔をしながら、若さと活力に溢れる顔で。

片や深く皺が刻まれながら、老いてなお威厳衰えぬ顔で。

 

 

「四ツ橋ィ、異能持ちってのはどれぐらいの比率で産まれる」

 

 

復興した政府の中でも異能に寄った派閥の上に立つ男は、比較的いい動きをする若手を1日の終わりに呼びつけ、そう問いかけた。

四ツ橋と呼ばれた男は、その言葉に悩むこと無く口を開く。

 

 

「異能を持たない親同士からは体感として2割程度、親が異能持ちであれば……8割とかでしょうかね」

「信頼できる情報か?」

「いえ、保証はできません。あくまで体感ですから」

 

 

四ツ橋は売春街と、裏社会の異能産を知っている。

それらから生まれてきた命を数として見ていた四ツ橋は、実感として得ていたものを脳内で計算して応えた。

老いた男は、溜め息を吐いて問いかける。

 

 

「選別はできないか」

 

 

その言葉に四ツ橋は苦笑すると、首を振った。

 

 

「出来るのであれば、既にやっていないほうがおかしいですよ」

「それも、そうか。そうだな……」

 

 

黎明期において、出産を制限しようという動きは確かにあった。

誰も異能の有無を選んで産むことはできないことは、初期のうちから断定されている。

異能派として公益を求める思想を持つ男はその有用性を理解しながらも、それを聞かずにはいられなかった。

 

 

「改めて聞くが。管理は、無理なんだな?」

「無理ですね」

 

 

脳内で試算し、ある程度の内容を組み立てながら四ツ橋は口を開く。

 

 

「今の最先端は第2世代。おおよそ30年周期で世代が変わるとして……第3世代で異能持ちは半数を超え、第4世代の頃になれば第1世代以前の人間は死に、異能を持たない人間の方が珍しいとまで言われる時代になるでしょうね」

 

 

異能を持つ者は増え、やがて異能を持たない人間は追いやられていく。

四ツ橋は異能の出生を見てそう試算し、それがあまり外れないであろうと思っていた。

 

 

「大多数が異能を持つ時代か……その頃に俺は生きていないだろうな」

「60年、頑張りますか?」

「バカ言え、人として死なせろ」

 

 

吐き捨てるようにそう呟いた老人は、酷く疲れたように目を瞑った。

過渡期にも辿り着けない、底で停滞する国の行く末を見てきた老人は、こんな時代を長く生きるものではないとすら考えていた。

奇跡的に生き延びることができたが、知り合いも両の手指で足りぬほどに無残な死を遂げている。

それでも、男は公益という一本の芯を基に政界に立った。

 

たとえ数多の異能持ちが何をしてきたとしても。

その有用性を見て見ぬふりをする嘘には耐え難い。

 

そう議会で言い放った覚悟ある老人を四ツ橋は好ましく思っており、表社会に出て最も慕っていると言っても過言ではなかった。

 

 

「……お前は、異能はどこまで出来るようになると思う」

「あー……いずれ生まれてくるであろう強力な異能持ちは、やる気になれば国を落とせると考えたほうが良いかと。たった一人で人類に致命的な被害を齎すことが可能になるのではないでしょうか」

「それが、既にいる可能性は?」

 

 

四ツ橋は、目を細める。

 

 

「───いると仮定した方が、現実的だと思いますよ」

「成程。理解した」

 

 

齢70を超えて尚、眼光鋭き老人は。

首を振り、耳を指で叩いた四ツ橋のそれだけでこの話を深堀りすることに意味がないところまでを探り当てた。

 

既にいる。

 

そしてそれは、真の意味で友好的ではない。

考えるだけ意味がないという部分までを察した。

 

 

「異能持ちによる軍の編成……いや、新規に組織作ったほうが早いかね」

「……アメリカの話は知ってますか?」

「米国はまあ、あっちはあっちで銃社会だから異能持ちの生存率が低いらしいとまでは聞いているが……」

 

 

アメリカでは、異能に関する衝突において死者数が多い。

それは日本とは違う多民族性、宗教観の違いなどによって溝が深まりやすい側面も影響しているが、何より銃社会によって衝突が死に直結している事もある。

 

 

「そこではなく、法による異能持ちのコントロールに乗り出している件です」

「……知らないな。聞かせてもらっていいか」

 

 

四ツ橋は売春街をのし上がった有力者であり、政界に入ってからも売春街から吸い上げる独自の情報網は活きている。

 

 

「自警団を、公的に召し上げるというか……そうですね、スカウトが近いでしょうか」

 

 

各地にて異能を使用する自警団。

恣意的に異能を用いるそれらを、公認と非公認に振り分ける為の法をアメリカのロードアイランド州が制定した。

 

 

 

 

それは将来、近代史において転換点として必ず触れられる事となる、【ロードアイランド新州法】。

 

 

 

 

未来においては、そこから紐付く全てを内包し、俗称としてヒーロー公認制度と呼ばれるもの。

どの時代においても人類の権利を侵犯するとして、是非が問われ続ける規則。

 

 

それの制定により、そこで初めて自警団の多くは法によって異能行使を保証されず認可されない、明確な犯罪者であると定義された。

異能の使用を、個人の身体機能であるそれを使用する事を違法だと言い放ったのである。

 

 

新州法の対象者189名のうち、公認として異能の使用を法的根拠を得て許可されたのはたった7名のみ。

 

 

189名中の7名という、絶望的なまでの狭き門。

それは、作為的な狭さでもある。

 

 

それを通ることができた彼等を後押ししたのは、圧倒的なまでの社会的支持。

恣意的に異能を使いながら人々を救い、社会に貢献したからこそ人々に支持された彼等を、国は()()()()()使()()()として正式に認可して矢面に立たせながらその活動を支援することで治安の制御を図り始めた。

 

 

銃社会の黎明期を生き延びるほどの強力な異能と、人々からの支持を持つ者は、当然ながらいい旗頭となる。

 

 

ある意味でリーダーシップを重視する国柄らしさが出た判断と言えるが、超人的な個を担ぎ上げての試みは、初期の鎮圧等によって信頼を喪失した警察などの組織から遠いからこその意味を持っている。

 

ロードアイランド州は、というよりもアメリカという国自体は、異能の管理を未だ諦めていない。

法によって恣意的な異能の使用を許可制とし、それを大々的に支援することで特別性を持たせて許可そのものに対する価値意識を刷り込ませる。

そうして異能の使用を制限し、許可性を受け入れさせるシステムをロードアイランド州が作り出したのも、異能という手に余る漠然とした力を制御しようとしているからに他ならない。

 

 

これが自己決定権や武装権などに干渉することを理解していて尚、ロードアイランド州はそれを強行した。

それに反する者は公認にはなれないという状況を作ることで、強い批判を封殺しながら、強い光である7人の影で事態の収拾を図ったのだ。

 

何よりアメリカにとって都合が良かったことは、7人のうち2人が退役軍人の子供であることだろう。

愛国心を掲げて真っ直ぐと育った2人は、非常に強い求心力を持っていた。

率いる存在が平和を説けば、多くはそれに倣うもので。

 

 

ロードアイランド州新法は反発も多くあるものの、異能を法によって制御するシステムとして史上初の成功例になりつつある。

 

その情報が、日本に入り始めていた。

 

 

「彼等を支持する人々からは、超常を纏い人を救う姿から()()()()なんて呼ばれているそうですよ」

 

 

英雄の時代が、海の向こうでは始まりつつある。

果たして初動から全てが遅れたこの国では、どのように転がっていくのか。

 

政府の誰もが、未だ想定もできていなかった。

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