フレデリカは魔女だった。   作:ニッカリ

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Chapter5

「「………」」

「ええっと…なに?」

 

呆然と自分を見つめてくる小さな少女と顔を赤らめて俯く赤毛の少女。

二人の反応に困惑する男の子―――ハリー・ポッター。

ジニーは隠れ穴にいる間もこんな感じだったが、この小さな少女は知らない。

 

長く伸ばされた黒髪、前髪は右に流され小さなヘアピンで留められている。

一房だけ赤い髪が印象的だ。

こちらを見つめる瞳は綺麗なグリーン。

(僕と同じ色だ…)

 

「なんだぁ~?ジニーに続いてまた一人落としたのか?ハリー」

「あだだだだだっ」

「え?あ、…う?」

 

フレッドだかジョージだかがハリーにネックホールドをかます。

ようやく我に返ったフレデリカは自分が男の子を穴の空くほど見つめていた事に気付き、赤面。

大人たちは初々しい少女たちの反応を微笑ましそうに見ていた。

(なんだったんだろう?…いまの)

 

「ちょっと、フリッカ!!それホントなの!?一目惚れっ!?」

 

新たなライバルの出現か、とジニーがフレデリカに詰め寄った。

女のジニーから見てもフレデリカは可愛い。無論、負けているとは思わないが。

おどおどしている態度も男性からすれば庇護欲を誘うやも…。

 

「ち、ちが…」

「ほんと?ホントねっ!?」

 

流石に友情を感じてから一時間もしないうちにライバル視するのは避けたい。

 

「……(こくこく)」

「なら…いいけど」

 

(ジニーはこのひとがすきなんだ…)

ほっと胸を撫で下ろし、ハリーの怪訝な視線に気が付くと再び俯くジニー。

その様子を見ていればいくらフレデリカでも察することが出来た。

(こ、ここは手伝うのがおともだちかなっ!?)

友人っぽい事が出来そうで心弾ませるフレデリカ。

 

「ハリー、この子はフレデリカ。今年からホグワーツに入学するの」

 

ウィーズリー夫人が三人に紹介する。

 

「僕はハリー・ポッター」

「私はハーマイオニー・グレンジャーよ。よろしく」

「ロン・ウィーズリー」

 

ハリーはにこやかに、ハーマイオニーは自信たっぷり、ロンはそっけなく。

挨拶の仕方に個性がにじみ出ているかのようだった。

 

「どうも…はじ、はじめまして。フレデリカ・ウィンクルムです」

「君ってマグル育ちなんだろ?」

 

ロンがフレデリカの言葉もそこそこに尋ねた。

流石ロナルド、彼にデリカシーという概念はまだ早いようだ。

 

「もうっ、ロンったら…大丈夫?」

「はい。事実ですし…」

 

ロンの脇を肘で小突き、申し訳なさそうにするハーマイオニー。

『なんだよ、ホントの事じゃないか…』とロンは不満げだった。

 

「私もハリーも―――『きゃーっっっ!!』」

 

何か言おうとしたハーマイオニーの声は、店のガラスを砕きそうな嬌声に遮られた。

ロックハートの登場だ。

 

 

 

 

 

今を時めく話題の小説家、ギルデロイ・ロックハートはなかなかにイケメンだった。

他者からの視線を常に気にかけているだけあって身だしなみもばっちりだ。

歯ブラシのCMに出られそうなほどに白い歯が煌めく。

(はー、かっこいいー)

フレデリカも感心したようにため息をつく。

まぁ、彼女にとってはそれだけなのだが…。

 

「きゃーーっ!!」

「…女ってみんなバカだよな?」

「君の隣で叫んでるのは、学年一の秀才だけどね…」

 

鼓膜を突き破るかと思うような嬌声に片耳を塞いで顔を顰めるロンと苦笑するハリー。

ウィーズリー親子とハーマイオニーはうっとりと彼を見つめ、一挙手一投足にため息をつく。

グレンジャー夫人も他ほどではないが少し顔が紅潮している。

 

「ああ、みなさん落ち着いて。まずは写真を撮らせて頂きたい。…私がここで皆さんと共に時間を過ごした、証としてね」

「どいてください。日刊預言者新聞です!!」

 

新聞社の写真家がロックハートをカメラに収めてゆく。

応じるロックハートは自身の最も自信のある角度で微笑んだ。

毎日朝の二時間をかけてチェックする自慢のスマイル。

 

キラン

「はうあ!?」

キラキラン

「HOOOOOOOッ!」

 

流し目の方向に立っていた夫人連中が次々と腰砕けになった。

その様子に男性陣(と言ってもフレデリカたち一行しかいないのだが)は辟易とした表情を浮かべる。

女から見て素敵な存在も、男からすればただのキザ野郎なのだ。

もっとも二年後、ヴィーラに見惚れる自分たちが同じような目を逆に女性陣から向けられることになるのだが。

 

「もしや、ハリー・ポッターでは!?」

 

女性に混じった男というのは案外目立つ。

ロックハートはたまたま露わになっていたハリーの傷跡を見て叫んだ。

 

「いえ、違います」

 

ハリーは即座に否定する。

厄介事は勘弁していただきたい。

 

「いやしかし…」

「NO」

「その傷は…」

「あ、これ?…眉毛です」

「………」

「なにか?」

 

にっこりと笑うハリーにロックハートは言葉を詰まらせた。

ふー、と息を吐き首を振る。

 

「そうですか…残念です」

 

あくまで優雅に、イケメンはがっつかないのだ。

しかし、こんなチャンスを無にする彼ではない。

悲しそうな、心底残念そうな顔をして口を開く。

 

「もしも君が彼だったのなら、今の光の時代を築いてくれたせめてもの感謝として自著を全て送らせてもらおうと思ったのですが…………全てサイン入りで」

 

チラリと意味深な視線を近くに立つ女性―――ハーマイオニー、ウィーズリー夫人、ジニーに向ける。

 

ドンっ

 

「うわッ!?」

 

唐突にハリーは後ろからド突かれた。

たたらを踏んで前進し、自身の意志とは関係なくロックハートの眼前に押し出された。

嬉しそうな顔の他の客もさりげなく誘導する。

『二人の英雄』―――絵になるではないか。

 

「ハーマイオニーッ!!裏切ったな!?」

「「「~~~♪」」」

 

三人の女たちはわざとらしく目を逸らす。

(うわぁ…)

けれどフレデリカには見えていた。

夫人が体格を活かしてハリーの向きを変え、ジニーが膝カックン、とどめにハーマイオニーのショルダータックル。

見事な連携だった。

 

「おや?…やはりそうかっ!?いやはや、若き英雄は謙虚であらせられる。しかも気落ちした私を気遣って出てきてくれるとは!?」

 

白々しく驚愕して見せ、ロックハートはハリーの肩を抱き寄せる。

相手をほめる事も忘れない。彼の評価が上がれば、交友があると認知された自分の名声にも繋がるのだ。

 

「ほら、笑って笑って!!」

 

再びイケメンスマイルでカメラに向き合う。

ハリーも『桃色三連星(ジニーたち)』に恨めしげな視線を向けていたが、カメラが向けられると精一杯の笑顔で応えた。

気がのらないとはいえ、新聞に載る写真だ。

 

二人の英雄は肩を組んで笑い合う。

女性陣はその光景にため息をつき、写真家はいい絵になるとほくそ笑む。

 

彼らは知らない。

見えないところでハリーがロックハートの足を踏みにじっていることを。

そして、脂汗を流しながら意地でも笑顔を崩さないロックハートの努力も。

 

 

 

 

 

 

「ひどい目にあった…」

 

げっそりした顔のハリーが戻ってくると、一行はジニーたちを残して書店の出口に向かった。

フレデリカもそれに続く。

ジニーと一緒に居たいという気持ちもあったが、慣れない人ごみに体力を奪われてしまったのだ。

 

「いい気分だったろうねぇ、ポッター?」

 

そんな一行に皮肉気な声がかけられる。

嫌味ったらしい薄ら笑いを浮かべた金髪の少年、ドラコ・マルフォイ。

 

「有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に寄っただけで新聞の一面大見出しかい?ぷっ、なかなかいい笑顔だったじゃないか」

「喧嘩なら買うよ?ちょうどいまイライラしてたんだ」

「おいおい、そうカッカするなよ?ほら、さっきの笑顔だ」

「黙れ、〇ふぉい」

 

二人は険悪ににらみ合う。

ウィーズリー三兄弟も今にも飛び掛かりそうな雰囲気だ。

 

「あ…わ…」

 

フレデリカはおたおたと慌てるしかない。

(ど、どうしよう)

 

「おっと、失礼。ごめんなさい」

 

ロンが杖を取り出そうと懐に手を入れたその時、ウィーズリー氏がようやく人ごみから現れた。

後ろから『痴漢!!』と叫ばれてぺこぺこしつつ。

 

「なにをしてるんだ?早く出よう。ここは我々には鬼門だ」

「これは、これは、アーサー・ウィーズリー」

 

ドラコの後ろから黒ずくめの男性が現れた。

皮肉気にゆがめられた顔はドラコをそのまま大きくしたよう。

金髪のオールバックはしっかりと決まっていた。

 

「ルシウス…」

 

ウィーズリー氏は心底嫌そうに顔を顰めた。

 

「こんな場所でお会いするとは…てっきり古書をお求めになるものと」

 

そう言いながらフレッドの抱えた鍋や、そこに入った学用品を眺めて鼻を鳴らす。

中に入っていた古着を持ち上げる。

 

「これも…何かね?これは…ああ、新しい制服か…雑巾かと思ったよ」

 

そう言って如何にも汚物だというように鍋へと叩き込んだ。

子供たちはギリギリと歯ぎしりをして顔を真っ赤に染める。

 

「あれほど残業をこなしながらも薄給とは…薄いのはその赤毛だけで十分では?」

「ぬぐっ……き、君も気を付けるといい。オールバックは禿げるというからね」

 

だんだん子供たちよりも親が険悪になってきている。

ドラコは父…その頭を見て、自分の撫でつけられた髪をしきりに触っていた。

 

「ウィーズリー、こんな連中と付き合うとは…。純血の家系も堕ちたものだ。魔法界の面汚し、祖先も草葉の陰で嘆かれておられよう」

 

マルフォイ氏はせせら笑うようにグレンジャー氏に目を向けて吐き捨てる。

これにはウィーズリー氏も我慢ならなかった。

マルフォイ氏の胸ぐらを掴んで本棚へと叩きつける。

本棚から落ちた本がフレデリカたちに降り注いだ。

そのサイズからは当たればシャレにならない…が

 

「大丈夫か?」

「は、はい…」

 

フレデリカをジョージが庇った。

(うわー、うわああ!?)

抱き寄せられたフレデリカは初めて感じる感覚にドギマギする。

 

そうこうしている間にも大人二人は喧嘩を続けていた。

ステッキで殴られれば本で応戦。

杖が出ないのは辛うじて残った理性の賜物か。

そこまで頭が回っていないとは考えたくないモノだ。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿モン!!本を傷つけるな、猿どもがっっっ!!!喧嘩なら外でやらんか!!」

 

テラスの上から店主の老人に怒鳴られるまで二人の喧嘩は続いた。

ウィーズリー氏には悪いが、フレデリカも同意見だ。

 

「ちっ」

「ふんっ」

 

渋々と離れた二人は互いに左右反対の目に紫の痣を作っていた。

最後の体制はクロスカウンター。

 

「いくぞ、ドラコ。ここにいるだけで虫唾が走る」

 

襟元を軽くなおすと、出ていこうとしたのだろう。

マルフォイ氏は最後に一家を一瞥し―――固まった。

 

「な…」

「???」

 

つかつかとフレデリカに歩み寄ってその顎を掴んで顔を覗き込む。

フレデリカは抵抗するが大人の力にはかなわない。

 

「ひっ」

「なぜだ…なぜ貴様が…」

「父上…?」

 

色合いこそ違うが、ルシウス・マルフォイはこの顔を知っている。

学生時代は後輩が執心していた。

後にマルフォイ氏の運命を大きく変る存在を生み出した者。

忘れるはずもない。

それが生き残った男の子と並んで立っているだと?…笑えない冗談だ。

 

「や、やめ…」

 

その鬼気迫った表情に、体がすくんでしまうフレデリカ。

力ずくで拘束されるという状況にトラウマが刺激されて体が震えた。

 

「ルシウスっっっ!!!!」

 

尋常では無い様子で怯えているフレデリカを見たウィーズリー氏は今度こそ杖を取り出し、マルフォイ氏を吹き飛ばした。そしてすぐにフレデリカを後ろに庇う。

子供たちは殺気立ち、周囲の人々もマルフォイ氏にあからさまな非難の目を向けている。

今度ばかりは店主も止めなかった。

 

「くっ…」

「父上!!」

 

ドラコが慌てて駆け寄り、父を助け起こすと同時に杖を取り出した。

 

「おのれ、よくも―――」

「やめろ、ドラコ」

「で、でもっ…」

「やめろと言っている!!」

 

肩で息をした状態でマルフォイ氏はドラコを一喝した。

とこかで引っかけたのか、額からは血が滲んでいる。

 

「……」

 

もう一度、庇われているフレデリカを見てから二人は店から出ていった。

ドラコが足を挫いた父を支える形で。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だったかい?」

「はい…ご、ごめいわくを―――」

 

あれから顔を真っ青にしたフレデリカを気遣って一旦漏れ鍋に戻ってきた。

トムの出してくれたホットミルクを両手で包んでフレデリカは座る。

隣にはジョージが座った。

 

「買ってきたものは部屋に置いといたからな」

 

二階から降りてきたフレッドもそう言いながらジョージの反対側に腰掛ける。

 

フレデリカの学用品は杖以外全て揃った。

ウィーズリー家の人々が採寸の必要な服や、本人が行かなければいけない杖以外はジニーのものと一緒にそろえてくれていたのだ。

鍋はジニーの兄のお下がりを貰った。

 

「ありがとうございます…」

「気にすんなって。女の子にあんな重いモン持たせたとなっちゃ男がすたる」

 

フレッドはフレデリカの荷物をまとめて持ってくれていた。

フレデリカでは鍋や学用品を抱えたまま買い物するのは不可能だったから。

 

「…ねぇ、貴方の妹も一応女の子なんだけど?」

 

『あんな重いモン』を担いだままだったジニーが不満げに頬を膨らませる。

 

「「そうだっけか?」」

「もう!!」

「あの…他の人たちは?」

 

大分落ち着いたフレデリカが尋ねた。

ここにいるのはジニーと双子だけだ。

 

「パパとママはハーマイオニーたちを送って行ってる」

「ハリーたちはハグリッドと一緒だ」

 

双子が連携して答える。

この二人のノリにもフレデリカは慣れてきていた。

 

「ハグ…リッド?」

「ああ。ホグワーツの森番だ。たまたま今日はこっちに来てたらしい」

「…森があるんですか?学校に?」

「ああ、立ち入り禁止だけどな」

 

フレデリカは学校に関して聞くのはこれが初めてだった。

興味津々で質問をする。

 

「他にもいろんなものがあるぜ?動く階段とか―――」

 

フレデリカの調子が戻ってきていることに安心した三人はホグワーツのいろんな話をフレデリカに聞かせた。

ジニーも兄たちから聞いたことを話し、双子がそれを補足する。

事あるごとに目を丸くしたり、感心するフレデリカはいい聞き手だった。

 

「兄さんたちったら組み分けの儀式については何にも教えてくれないの」

「組み分け?」

「そうさ、ホグワーツは四つの寮に分かれててな。入学したときに割り振られるんだ」

「グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー…そしてスリザリン」

 

スリザリンの時だけ二人は声を落とした。

(なにかあるのかな?)

 

「うちはみんなグリフィンドールなの。きっと私もそうだわ」

「さー?わっかんねぇぞ?すべては組み分け次第ってな」

 

不安を煽る双子をジニーが本でバシバシと叩く。

 

(寮かぁ…ジニーと一緒がいいな)

三人の会話に耳を傾けながら、フレデリカはミルクに口をつけた。

 




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