無気力になったコユキ   作:ddddd / d5

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投稿するときに毎回前書きに本文を原稿から貼り付けてしまいます。
今回もやりました。


13 鈴

 あれから私たちはご飯を食べて、電車でトリニティ・スクエアに向かった。

 スクエアの問をくぐると、そこから先は別世界のようだった。前に絵本で見た景色、それがそのまま現実にある。木組みの建物、緑色のリース、モミの木、オーナメントの光……。私はそのすべてが私の星に焼き付くまで見つめた。知らないうちに体が近づいていた。

 四人も私と同じ気持ちだった。モモイさんは栗みたいな口を大きく開けながら歩き回り、アリスさんはその長い髪をたなびかせてもっと奥の方へと突っ走っていき、ミドリさんは同じように輝いた目をしているモモイさんを落ち着かせようと、ユズさんは食堂のときより軽くなった足取りでアリスさんを追いかけていった。

 

 二人がブレーキを踏んだところで、モモイさんが普通の声で話した。

「……さて、景色に魅了されるのはここまでにして。スクエアの中央の噴水に行こう!」

 モモイさんが「おー!」と拳を突き上げて、アリスさんも同じように「おー!」という。なんだか同じことをしなければならない気がしたで、私も同じようにした。少しだけそれより遅れて全員が同じ動作をした。

 

 スクエアの中央の噴水は、周りから流れてくる音楽にも負けていない音を立てていた。水をアーチ状にして立たせている様子は、ここら一体で一番の存在感を示していた。

 その噴水の周りで、何人かのサンタさんが一枚の紙と二つの鈴を渡している。モモイさんも気づいたらしく、私に声をかけてきた。

「あれじゃない? コユキ」

 私がうなずくと、モモイさんが真っ先に、手が空いているサンタさんの方へと早歩きで向かって行った。一歩遅れた私たちは、モモイさんより駆け足でついていった。

 

 金色の十字架のついたリボンを右側に留め、左側にお団子のついた、肩まで届きそうな髪形のサンタさんだった。

 薄いピンク色の髪と、一緒の色をした優しそうな目。赤い帽子と、スカートと一体化した赤い服を着ている。

 その下には黒いタイツと、長くて白いブーツを履いている。いくつも交差したくつひもとあったかそうな裾がブーツについていて、高級感を漂わせていた。

 左には赤い楽譜台があり、楽譜が留められている。サンタさんの後ろには薄いピンク色で装飾された、白いトランクケースがある。足元には大きな箱があり、くまのぬいぐるみと二つのプレゼントボックスが中から顔を出していた。

 左手には赤と緑のリボン付きの金色の鈴を持っていた。同じ髪色でも、あそこまで印象が変わるんだと思った。

 モモイさんが真っ先に話を切り出した。

「スタンプカードをもらいに来ました!」

 サンタさんは柔らかいほほえみでモモイさんに返した。笑顔の仕方がミネさんと似ている気がした。

「かしこまりました。何名様ですか?」

「私とミドリとユズとアリスとコユキの五名様です」

 順番に指をさしながら言った。私の名前を呼んだとき、サンタさんの口が丸くなった。

「まあ……! あなたがコユキさんですか? 団長があなたのことをよく話してましたよ」

 スタンプカードを受け取るモモイさんを横目に流しつつ、私は話した。

「……ミネさんと同じ救護騎士団の人だったんですね、サンタさん。だから鈴を持っていたんですね」

「はい。私は救護騎士団のセリナと言います。今はサンタさんのセリナです」

 

「セリナさん」

 そうつぶやきつつ、私はモモイさんがもらったスタンプカードを見る。ところどころにクリスマスの装飾がついた、白いカードだった。凝った模様があって高級そうな印象を与えてくる。

 まじまじとカードを見ていると、セリナさんが私を呼んできた。

「コユキさん」

 セリナさんはトランクケースから二つ色の違う鈴を取り出して、私の方に渡してきた。

「こちらをどうぞ」

 手に掛けるためのひもがついていること以外は、セリナさんが持っている鈴と同じだった。

 続いてセリナさんは、折りたたまれた紙を渡してきた。開いてみると、それは楽譜だった。

「これ……」

 この楽譜、最近一緒に見たような気がする。

「こちらはミネ団長が買ってきた絵本に載っていた楽譜です」

 ああ、だから見覚えがあったんだ。そう思いつつ、楽譜と手に掛けた鈴を交互に見つめる。

 すると、セリナさんが声をかけてきた。

「鈴を鳴らしてみますか?」

「いいんですか?」

「はい。手に持って、軽く振ってみてください」

 

 言われた通りにやってみる。コーン、とさわやかな音が出た。心が洗われていくような、頭に残り続けるような音だった。誰かが言葉を漏らした。

「わあ……」

 私は音を響かせた鈴をずっと見つめていた。そうしている間にも、セリナさんからの教えは続く。

「今度は、横向きと縦向きに、交互に振ってみてください」

 言われたとおりに振ってみる。今度は低音と高音が交互に出てきた。私の心を揺らがせるようだった。

「振る強さを変えてみてください」

 腕を小さく動かすと、鈴も小さく鳴る。逆に大きく動かすと、大きくなる。私の腕が一つの楽器になったよう。

「振る速さを変えてみてください」

 遅く振ると、コーンコーンとゆったりとした音。速く振ると、コココココココとせかせかした音。

「もう一つの鈴もどうぞ。さっきの鈴とは出る音がちがいますから」

 もう一つの方を振ってみると、さっきの鈴より全体的に出る音が低い。

「では最後に、楽譜の始めの方を弾いてみてください」

 そう言われて、片手で楽譜を持ち、もう片方の手で鈴を鳴らす。先ほどまで自由になっていた音が、急に一つの流れに沿った。私の中で、あの絵本の雪模様が流れた。弾き終わった後も、私はしばらく鈴と楽譜とセリナさんを何度も見ていた。久しぶりに心臓の鼓動を感じられた。

「音楽堂につくまでに練習していると、いいことがあるかもしれません。それでは、スタンプラリー、頑張ってくださいね!」

 そう言われて、やっと本来の目的を思い出した。同時に四人のわちゃわちゃした声も周りの音楽も入ってきた。

 モモイさんの元気な声が聞こえる。

「よーし、コユキ! 練習しつつ回ろうか!」

 私は先を行くモモイさんについていった。

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