そのころ見ていた読者の皆様をお騒がせしてしまい、すみませんでした。
カーン、コーン、カーン、コン。心地よい音が私と四人に染みては溶けていく。雪模様が無くなるのがちょっと寂しくて、アリスさんの持つ楽譜の音符をずっと見ては腕を動かしていた。
「ごめんなさい、楽譜を持たせてしまって」
「全然大丈夫です。アリスは勇者ですから!勇者は困っている人がいたら助けるのが使命です」
「そうですか・・・」
私は小さな声でお礼を言った。
「ありがとうございます」
私のお願いをわがままだと言わなかった四人もミネさんもずいぶん優しいな、と楽譜を持ってくれたときに思った。
それを思い出していると、後ろを歩いていたユズさんが声をかけてきた。両腕と両足を体の真ん中に寄せていて、歩きにくそうだった。
「コユキ、次の交差点を右に曲がって・・・」
私は顔を上げて、ユズさんの案内通りに進む。楽譜しか見てないから、ユズさんの道案内が私の道しるべだった。
モモイさんとミドリさんはというと、ずっと私の前を歩いている。二人とも右へ左へ上へ前へ後ろへ頭を動かしながらスマホで写真を撮ってばかりいた。そのせいでモモイさんは何度か人や物にぶつかりそうになっていた。
「・・・もう、お姉ちゃん。そうやってキョロキョロしてると何かにぶつかって―痛っ!」
・・・ミドリさんが道を外れて、木の枝に頭をぶつけた。すぐさまモモイさんがミドリさんに注意した。目が細くなっていたし、どうにか平静になろうとしている口がとても目立つ。
「ほら、だからキョロキョロしているとだめなんだよ、ミドリ?」
ミドリさんがモモイさんを見た後、ぶつかった木の根元に顔を向けた。への字の口と吊り上がった眉のせいで、睨んだようにしか見えなかった。
そんな一幕があった後、私たちは大聖堂の前についた。やっぱり何人かのサンタさんが大聖堂の前で立っていた。
モモイさんが近づいていくと、足まで届きそうなほど長い、薄い紫色のツインテールのサンタさんが小走りでこちらに向かってきた。クリスマスツリーのような色合いの袋を背負い、チェック模様のスカートに白いタイツを履き、セリナさんと似たサンタ服を着て、右手にセリナさんと同じ鈴を持ち、トナカイの角が生えたサンタの帽子をかぶっていた。よく見るとスカートにはうさぎさんがいた。
私たちのところまで来たサンタさんは、青く深い、夜になりかけの空のような目で私たちを見た。セリナさん色のハートの線がついた白いハートのヘアピンがはっきりと見える。
そして私をちょっと多く見つめたところで、私たちに向かって話し始めた。モモイさんよりさらに元気が余っているような明るい声だった。
「こんにちは!普段は救護騎士団、今はサンタさんのハナエです!」
鈴を振りながら手足を引っ込めたり広げたりととにかく動きが忙しい。こうなる前の私ぐらい動いているんじゃないかと思うぐらいにはよく動いていた。
ハナエさんが首を左右に傾げつつ私たちの前に体を出す。
「早速ですが、皆さんもここのスタンプを求めていらっしゃったんですか?」
すっかりリーダーになっていたモモイさんが返事をした。
「そうです!スタンプを押してくれますか?」
ハナエさんが二度うなずいて、右手を左肘に当て、左手を顎に当てる。
「そうしたいところですが・・・」
ハナエさんが鈴をこちらに突き出す。リリリリーン!と鈴が大きな音を出した。
「それにはゲームをクリアしていただく必要があります!」
ゲーム、と聞いた瞬間に四人の目が変わった。そういえば四人はゲーム開発部だった。
ミドリさんが切り出す。声が若干低くなっているし、背筋が伸びている。
「どんなゲームをすればいいですか?」
ハナエさんは全く動じずに返事をした。
「私についてきてください!」
大きな袋ごと振り返ると、ハナエさんは鈴を持った手を伸ばして私たちを案内した。
「こっちですよー!」
リーン!という鈴の音が後についてきた。
ハナエさんは大聖堂近くの木の屋根の下に私たちを案内した。赤いテーブルクロスが敷かれた二つの木箱があって、その上には数色のオーナメントと銀色のカップがあった。
その前に五人分の椅子があったので、それぞれで座った。箱を挟んで、袋と鈴を置いたハナエさんがゲームの説明を始めた。
やっぱり説明の最中も身振り手振りは欠かさなかった。疲れを知らないとはまさにこういうことなのだろう。
「ここに並べられているオーナメントを、今からカップに入れます。私がカップを動かすので、どのオーナメントがどのカップにあるかを当ててください」
並べられているオーナメントの数はちょうど私たちの人数と同じ五個だった。
人が少なくなったからか、少し緊張がほどけたユズさんが言った。
「一人一つ覚えればよさそう」
さっきまでからは考えられないほど落ち着いた声と整然とした様子で、私は両腕を脇に寄せた。
続いてミドリさんが補足した。
「椅子に座っている順番の通りに覚えればよさそうだね」
ということは、私は真ん中のオーナメントの紫色を覚えていればいい。
私は両隣の四人の顔を見た。四人も私を見てうなずいてくれた。
ハナエさんが両袖をまくって話した。
「では、始めますか?」
モモイさんが言った。
「はい!」
ハナエさんが動き回って両腕を素早く動かす。これまでの動きから予想はしていたけど、気を一瞬でも抜くとすぐさま見失ってしまいそうな速さだ。
しかし私も脱出の銃撃戦で動体視力は鍛えらえている。ドローンの銃弾宙返り三回横ひねり五回回避法に比べたらこの程度怖気づくまでもない。
しばらくたって、ハナエさんが手を止めた。そしてこちらに掌を見せた。
「さあ、どのオーナメントがどのカップにあるでしょう?」
私たちは並んでいる順番に言った。
「青色が三番目です!」
「緑色が四番目です」
「紫色が二番目です」
「桃色が一番目!」
「赤色が・・・五番目、です」
ハナエさんが漫画なら「むむむ・・・」と効果音がついていそうな顔でカップを見る。
すると、青色の目を輝かせて鈴を大きく振った。
「正解!正解でーす!!」
カラン!カラン!カラン!と祝福の音が鳴る。それを聞いて肩から全身の力が抜けていった。
「ふう・・・」
思わず息を吐くと、誰かが肩を叩いてきた。振り返ると、モモイさんが歯をむき出しにして笑っていた。
「やったじゃん、コユキ!一発クリアだよ!」
私は私の星の輝きをみんなに返した。
「・・・やりました」
そう言って椅子から立ち上がって、スタンプをもらおうとするアリスさんや感想を伝え合っているミドリさんとユズさんを見渡していたとき。
頭を上げると、屋根に書かれていた文字に目が止まった。思わず内容を口に出していた。
「ハードモード・・・景品つき・・・?」