また知らぬ間に私の首が傾いていったが、それに気づく間もなく雪を踏みしめる音が左右と後ろから聞こえてきた。
いつの間にか四人が私の周りに集まってきて、一斉に天井を見上げていた。ちょっと狭くて暑苦しい。
すると隣で座っていたモモイさんが台の上に体を突き出して、ハナエさんに話しかけた。
「ハナエさん! ハードモードをプレイしてもいいですか?」
聞いた瞬間に腕が体を縮めて、押し出されたような頭と目でモモイさんの方を向く。モモイさんの目はハナエさんとカップが置いてあった台の方だけ見ていて、私はかすかにあった抵抗心を手放した。
助け舟と言えるかわからない言葉は、ハナエさんが出してきた。だってハナエさんの声は優しい声で、顔は自然に微笑んでいたから。
「もちろんです! あっ、四人は大丈夫ですか?」
アリスさんは今すぐはしゃぎたいという気持ちがわかる声で話した。
「大丈夫です!」
ミドリさんは落ち着いた小さい声で「はい」と言った。
ユズさんは口を開く代わりに、深くうなずいた。……まなざしがやけに険しかった。
私はというと、肩を落としてトーンの変わらない声で返事をした。どうせ懸念点を言っても聞かないだろうし。
ハナエさんが私たちをぐるっと見て、再び手で五つのカップを指した。一瞬、私と目が合ったような気がした。
「ハードモードの説明をします! ハードモードでは、先ほどのゲームを一人でプレイしてもらいます」
私はかろうじてカップに合っていた目線を合わせなくなった。しばらく忘れていた力のない感覚まで入ってきた。
あれほどよく聞こえていたハナエさんの声が遠くなっていく。聞き逃して大変なことになるのを避けるために聴覚に意識を無理やり引っ張る。
「三つ以上当てたら景品を一つもらえます。それ以上当てたときは、オーナメント一つにつき景品を一つ追加でもらえます」
「オーナメントとカップの数を増やすこともできます」
ハナエさんが一つ間をおいて口を開く。
「それでは、皆さんのうち誰が出場しますか?」
真っ先にモモイさんが手を突き上げて口を開いた。きっと誰に当たっても結果は変わらないだろう。
「はい! ユズが出場します!」
ミドリさんがモモイさんの方に頭を向けた。私もミドリさんと同じことを口に出しただろう。
「……そこは自分が出場するって言う流れじゃない?」
モモイさんは顎を高く上げたまま、生意気そうな笑い顔で返した。
「そうかもしれないけどさ。これは私よりユズの方がずっといいよ。ね、ユズ?」
ユズさんは声を出す代わりに、振り向きもせずにうなずいた。ユズさんはいつの間にか両手をすり合わせながらカップに目を輝かせていた。
ユズさんを除いた私たち四人は席から立ち上がって、台から三、四歩ほど引いた場所で二人を見つめた。モモイさんもミドリさんもアリスさんも体を小さくしていないので、本当にユズさんなら大丈夫だと思っているのだろう。
ただ一人、ユズさんをよく知らない私だけが両腕と肩をだらりと下げたまま、二人に焦点を合わせることができないでいた。
ハナエさんが瞳をユズさんに向けた。
「カップの数はどうしますか?」
ユズさんは両腕をハナエさんの方に向けた。私の位置からでは手が隠れてしまって、いくつにしたのか分からなかった。しかし、すぐあとのハナエさんの叫び声でそれは解消された。
「な、七つですか!?」
ハナエさんの光彩が小さくなっていく。ユズさんとカップを二度見した後、柔らかい声でもう一度話した。
「えっと……本当に、大丈夫ですか?」
ユズさんがまっすぐハナエさんに頭を向ける。背筋が伸びているような気もした。震えた声はしなかった。
「はい」
本当に自信があるのだろう。ハナエさんもそう感じたらしく、また夜になりかけの空の輝きを瞳に宿した。そして丁寧に袋の中から二つのオーナメントとカップを取り出して、七つのオーナメントとカップを横一列に並べた。
ハナエさんが台の角に両手を置き、ユズさんがオーナメントを見つめる。
「準備は大丈夫ですか?」
ユズさんはうなずいた。こっちはただ見ているだけなのに、口が小さく閉じていき、少し胸が締め付けられたような感覚がした。本当に大丈夫なのだろうか。
ハナエさんの口がゆっくり開く。さっきまでのハナエさんとは大違いの落ち着いた声に、私はわずかに押し出された。
「では……始めましょう」
ハナエさんがカップをオーナメントにかぶせた。
ハナエさんの腕は前回とは比べ物にならないほど早く動く。すでにあった腕は残像としておいていかれている。手はどう見ても三つ以上に分身をしている。カップはもう動き回りすぎて像がつながっているのか、銀灰色の横に長い何かがシャアシャア動きまわっているようにしか見えない。
ユズさんは頭すら微動だにしないまま、固まっている。石になっているようには少しも見えなかった。ただの石なら、標的をじっくりと観察しているスナイパーのような雰囲気を出さない。
数十秒とも数十分とも言えるような時間がたった後、ハナエさんがようやく手を止めた。そして面接官のような雰囲気で、しかし明るさを隠せない声で話した。
「回答をお願いします」
ユズさんは少し肩を動かした後、答えた。
「左から順に、青、緑、紫、桃、赤、黄、橙、です」
極限の沈黙。ハナエさんとユズさんの目が合ったように思った。しばらく眉を寄せていたハナエさんは、急に鈴を手に持った。
「パーフェクト! 七つすべて正解でーす!!」
鈴を大きく振り回しながら、商店街のくじ引きの大当たりのように叫ぶハナエさん。モモイさん、アリスさん、ミドリさんはユズさんのところに突っ走っていってそのまま抱き着いた。
私はというと、手足を動かさないままでいた。さっきまでの光景と今の心の状態を一体どう飲み込めばいいのかわからなかった。
ただ一つはっきりしているのは……ハナエさんは手がとても速くてユズさんは目がとてもいい、ということだった。
モモイさんのはしゃいだ声で、私は手足を動かせるようになった。
「コユキー! 景品を選ぼう!」
私は台の方に向かった。カップとオーナメントは片づけられており、代わりに様々なぬいぐるみやおもちゃが置かれていた。ハナエさんと同じうさぎさんもあった。
うさぎさんに手を伸ばしたところで、手が止まってしまった。指示もなしに自分から動いていいのかまだわからないから。
すると、アリスさんが声をかけてきた。
「コユキ、自分が欲しいと思ったものを選べばいいんです。遠慮は要りません」
その声のおかげで、私はハナエさんと同じ白いうさぎさんを手に取った。手のひら三つ分の大きさで、雪のように白く、耳が細長いうさぎさんだった。うさぎさんは後ろに赤い袋をぶら下げていて、頭にクリスマスの帽子をかぶっていた。
左の胴のところに服などに引っかける用のクリップがあったので、私は上着の左腹のところにうさぎさんを付けた。なんだか相棒がいるみたいで、お腹のあたりがくすぐったい。
他の四人は、丸っこい二つ目のかわいいスライムのぬいぐるみを選んでいた。モモイさんは緑色、ミドリさんは桃色、アリスさんは赤色、ユズさんは水色だった。
何のぬいぐるみかは、私が聞く前にモモイさんが勝手に話してくれた。
「これはねー、ゼリーズっていうキャラクターだよ! かわいいでしょ?」
「はい。なんだかさわりたくなりそうですね」
「でしょ! ゼリーズはねー」
……その後のモモイさんの説明はあまりにも長かったし、途中でミドリさんに「次のお客さんの迷惑になるからやめて」と止められたのでよくわからなかった。
その後、ハナエさんは大聖堂まで私たちを送ってくれた。私たちはハナエさんにお礼を言った。
ハナエさんはお礼を返した後、私の方に近づいてきてから話し始めた。
「団長とセリナ先輩からお話は聞いています、コユキさん」
それから私が手首にかけていた鈴に目を向けて、再び私に目を戻した。
「私たちの演奏、楽しみにしていてくださいね!」
輝く深い青空につられて、私の星も輝いた。
「はい」
その後、私たちは次の目的地へと向かって行った。