無気力になったコユキ   作:ddddd / d5

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16 スイーツ

 しばらく歩いていると、足跡や話し声が多く聞こえるようになってきた。私は鈴を手首にかけて、首を上げて前方を観察した。

 ちょうど目の前にアーチ状の門があって、中央の白い背景に金の文字で「スイーツ・ストリート」と書かれていた。見る時間が1~2秒ほどだったので、少し理解するのに苦労した。

 

 門をくぐると、開けた広場に出た。テーブルやいすやテントが中央に置かれている。広場をぐるっと取り囲むように、たくさんの出店が建物の上の方にメニューをでかでかと載せている。さらに奥にも広幅の道と出店が続いているようだった。

 ココアやコーヒーと言った定番の飲み物はもちろんだが、何よりも目を引かれるのが大量のお菓子。人型や星形の生地にクリームか何かでデコレーションしたクッキー、フルーツか何かがちょこちょこと入った茶色のパン、木の幹を切り取ったような見た目のロールケーキ、でっかい黄色の生地に小さいフルーツがいっぱい入ったパン……どれも聞いたことがない名前なだけにどれを取ればいいのか大変迷ってしまう。

 

 左隣にいたアリスさんの方に顔を向けると、やっぱりモモイさんと一緒に片っ端から店の近くにいって商品を眺めていた。

 代わりに左後ろからミドリさんのため息とあきれたような声がした。

「お姉ちゃん……はぁ」

 そういいつつも少し頭から上半身を乗り出しているので、ミドリさんも二人と同じ気持ちなのだろう。

 一方で、右隣にいるユズさんは私の右手を取りつつメニューの方を見ていた。私もユズさんをまねして同じようにした。

 ユズさんが頭を動かさないまま、こちらに声をかけてきた。

「ど、どれにするか迷っちゃうね、コユキ」

「はい」

 ミドリさんも話に入ってきた。

「夜ごはんのことを考えると、そんなに多くは食べられないから、余計に迷うよね。トリニティだから値段もミレニアムに比べて高いし」

 私は深くうなずいた。さすがにお嬢様が通う学校なだけあって、値段が結構張る。ユウカ先輩からもらったカードを使えば全部買えはするだろうけど、とても食べきれる量ではない。

 

 少しの間、視線を雪に落として考えていると、モモイさんの明るい声がした。

「みんなー!」

 ミドリさんもユズさんも私も声の方を向くと、モモイさんもアリスさんも手に飲み物を持っていた。

 ミドリさんがモモイさんに、少しだけ揺れた声で話した。

「お姉ちゃん……その人たちは誰?」

 モモイさんの左隣にいたアリスさんのさらに左隣には、同じく飲み物を持った四人のトリニティ生徒がいた。

 

 一番右には、チョコミントの髪留めを付けたチョコミント色の瞳の人。肩まで届きそうな黒い髪をストレートに流していて、四人の中で一番身長が高くおとなしそう。

 その左隣には、猫耳が生えている黒いショートヘアの人。耳と髪の内側は目の色と同じ濃いピンク色で、四人の中では一番物静かな感じがする。

 そのさらに左隣には、薄橙のような色の髪を一部ポニーテールにした人。暗めの赤い瞳を持っていて、四人の中では一番ぽわぽわしている。

 一番左にいるのは、橙に近い金髪をツインテールにしている人。茶色の瞳と眉がなぜかちょっと上がっていて、四人の中では一番小さい。

 その四人が、四者四様に私とミドリさんとユズさんを見つめる。そのせいか、ユズさんの手の力がちょっと強くなった。

 

 モモイさんがストローから口を離して、こちらに話し始めた。

「どれにするか迷っちゃったから、スイーツに詳しいこの人たちを連れてきたの!」

 モモイさんは左手を腕ごと伸ばして四人の方を指し、いたずらをしそうな子供の顔でこちらにウインクした。片方の目は閉じていたけど、もう一つの目も閉じかけていた。

 続いてアリスさんも口を開いた。

「みんな放課後スイーツ部のパーティーで、トリニティのほとんどのスイーツ店を攻略したと言ってました!」

 すると、ツインテールの人が声を上げてきた。ちょっと上がっている瞳の通り、ツンツンしたちょっと荒っぽい声だった。

「いや、いろんなスイーツのお店に行ったってだけだからね!? 何度か大会に参加してたりもしてるけど」

 アリスさんがツインテールの人に顔を近づけて、じっと見つめる。

「なら攻略したということではないのですか?」

 ツインテールの人は手を頭の方に寄せていき、髪をかき上げた。同時に足はちょっとスペースのある所に向かいそうだった。

「いや、確かにそうだけどそうじゃなくて……」

 ツインテールの人の声がだんだん聞こえなくなっていって、ブツブツとつぶやきながら広場の中をうろうろする変な人になりそうな気がした。

 

 すると、ポニーテールの人が突然話し始めた。誰もいない空に赤い瞳を向けていて、話すというよりつぶやいている方が近いかも。

「ふむ、われわれはスイーツを求めていたが、その実スイーツ店を攻略しに向かっていたのか? スイーツを買うことが攻略なのか? 大会を制覇することが攻略なのか? それとも、あの者から見ると攻略だったのか? 何をもって攻略と定義するのか……」

 雲みたいにつかみどころがない疑問を出しながら、パンのような生地のような粘り気のあるふわふわした声で話す様子は、ミレニアムの雰囲気と似てるようで全く違う人に見えた。アリスさんがポニーテールの人とツインテールの人の方へ向かって行ったのを私はぼんやりと眺めていた。

 すると、ショートヘアの人がこちらに話しかけてきた。

「ああ、あの子はいつもあんな感じだから。私たちが見ても不思議に見えるけど」

 ポニーテールの人とは反対に、はっきりとしている声。声の高さも低めで、この人はしっかりしてそうな感じがする。

「モモイとアリスから聞いたけど、コユキさんって言うんだっけ?」

 私はうなずいた。わずかに動く猫耳の方に視線が向かって、少し目線を合わせるのに困る。

「私は杏山カズサ。で、あの不思議そうな方の子がナツ。さっきアリスにいわれて考え込んでる子がヨシミ」

 ナツさんとヨシミさんを見てみると、ヨシミさんはアリスさんの質問に答えることに苦労していて、ナツさんは牛乳パックの牛乳をストローで飲みつつ見学していた。ナツさんが手に持っていたはずの飲み物は無くなっていた。

「そして、あそこでモモイとコユキさんの友達と話している子がアイリ」

 そう言われて、私はいつの間にかモモイさんとミドリさんとユズさんがチョコミントの人──アイリさんと話していることに気づいた。

 

 アイリさんは、三人にスイーツのことを教えていた。バッグから一つずつスイーツを取り出して三人に見せていた。見た目がメニューのものとそっくりだった。

「これはジンジャークッキーと言って、しょうがとシナモンの香りが効いたスパイシーな風味が特徴なの」

 そう言われて私は固まってしまい、アイリさんとジンジャークッキーとカズサさんを順にじっと見つめた。アイリさんは三人に、カズサさんは私にそれぞれ説明してくれた。

「しょうがは病気に効くから、昔の人は病気にならないようにという願いを込めてクリスマスにしょうがを食べたっていう説があるんだ。だからジンジャークッキーにしょうがを入れているのかも」

 私は頭を三回ほど上下に動かして、ジンジャークッキーの方に体を傾けた。人の形をしたジンジャークッキーだった。

「あれはジンジャーブレッドマン、またはジンジャーブレッドメンって言って、人気の形なんだよ」

 他の形もないんですか? と聞こうとしたが、普段のことから私は口を開けたまま、固まってしまった。頭が下がっていき、両手がおなかのところでくっついて、互いを組んだ。

 

「……どうしたの? 何か話したいことがあるの?」

 私は顔を上げないで、うなずいた。

「何でも聞くから、好きに話しても大丈夫だよ」

 私は顔を上げたが、目線がどうにも合わせられなかった。何度もゲーム開発部の方を見てはカズサさんを見ていた。

「ここじゃ言いずらいなら、別のところで話そうか?」

 私は深くうなずいて、少しカズサさんの方に近づいた。カズサさんは両手をパンパンとたたいて、みんなの視線を集めた。

「みんな、コユキとスイーツ買ってくるからちょっと離れるね」

 アイリさんが真っ先に答えた。ミントのように爽やかな、普通の声だった。

「わかった。いってらっしゃい、カズサちゃん」

 続いてモモイさんがアイリさんより明るく大きい声で話した。

「コユキ、私たちにも味見させてね!」

「わかりました」

 私はそう言ってから、カズサさんの後についていった。

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