私が止まったとき、ヨシミさんが話した。
「ここは……グッズ売り場?」
木でできた建物に、リースで飾られたお店の名前の看板。その下にはお行儀よく並んだぬいぐるみの数々。丁寧にケースに包まれていて、寒くなることもなさそうだった。
ぬいぐるみは、クリスマスツリー・サンタさん・トナカイさん・そり・ゼリーズ・モモフレンズ……とにかくたくさんの種類があった。
私がそれらを眺めながら頭をあっちへこっちへ動かしていると、アイリさんが話してきた。
「コユキちゃん、もしかして何を選べばいいか迷ってるの?」
「はい。その……ミネさんは、何が好きですか?」
アイリさんの口と目が同じぐらい開かれて、声が大きくなった。
「ミネ団長? うーん……」
アイリさんは頭を体の前に出して、あたりを見回す。
「あっ! コユキちゃん、あの子なら知ってると思う!」
アイリさんと同じ方を向くと、白い鳥のような見た目のバッグを持った子がいた。黄色・黒・白のリボンで、クリーム色の髪を後ろの方でツインテールにしてまとめている。
私たちはその子のところへと向かった。その子の近くには、銀白色の長い髪と羽を紫の花飾りで飾った子と、頭と背中に一対の黒い小さな羽を持ったピンクの短いツインテールの子と、太ももまで届く長いピンク色の髪をストレートに垂らしている子がいた。
クリーム色の髪の子に近づくと、その子はクリーム色の瞳を私たちに向けた。それから少し高いおてんばな感じの声で、話しかけてきた。
「あっ、アイリちゃん! それにスイーツ部の皆さんも!」
その子は私と視線を合わせた。近くにいた他の三人も顔と体を私たちに向けた。
「初めまして。私、阿慈谷ヒフミって言います。よろしくお願いします!」
ぺこり。と効果音が鳴りそうなほどヒフミさんは頭を下げて挨拶した。つられて私も話した。
「黒崎コユキです。よろしくお願いします」
それから私も挨拶をして、お互い顔を上げた。その間にスイーツ部の皆と宇沢さんは、少し離れたところでヒフミさんと一緒にいた他の三人と話していた。
それを見ていると、ヒフミさんが私の方に話しかけてきた。
「通り道で話すのもあれですから、ちょっと広場の真ん中に寄って話しませんか?」
「はい」
そう言って私たちはグッズ売り場にあった広場の真ん中に移動した。
私は手足から体をモゾモゾ動かしながら、両手をモミモミしてヒフミさんに話した。
「えっと、その……」
ヒフミさんはこちらを笑顔や言葉の圧でせかすこともなく、ゆっくりと私を待っていた。
「ミネさんが好きなものって、分かりますか?」
そう言うと、ヒフミさんは右手を右頬に当てて、左手を右ひじに当てた。
「うーん……ミネ団長の好きなものですか……」
少したって右手を右頬から離し、右人差し指を立てた。
「あっ、思い出しました!」
そう言うとヒフミさんはグッズ売り場の一角へと歩き出した。
「こっちです!」
石畳の上を軽い足取りで歩くヒフミさんの後を、私は追った。
着いた先は、モモフレンズのグッズがあるお店だった。
「前にモモフレンズのグッズを買いに行ったときに、ミネ団長がいたんです。だから、ミネ団長はモモフレンズが好きだと思います」
笑顔で頭を上げて胸を張るヒフミさんだったけど、グッズの種類が多すぎてどれを選べばいいのかわからない。
ぬいぐるみ、キーホルダー、枕、ブックスタンド、ブックカバー……しかもキャラ事にある。
それらに視線を何度も行き来させながら、同じく体と足を細かく動かしていると、ヒフミさんが話しかけてきた。
「迷っているんですか?」
私は眉を下げてコクリとうなずいた。すると、ヒフミさんが少し落ち着いた声で話した。
「それなら、コユキさんが思い入れのあるものをプレゼントしてみたらいいと思います」
それを聞いた私は、両腕をまっすぐにして、体の少し奥の方へ動かした。
それから、足をまっすぐにある場所の方へと動かして、速く歩いた。ヒフミさんの足音も後ろからついてきた。
そしてお店の脇に置いてあったカゴ入れからカゴを取り出して、棚にあったものをいくつかかごに入れた。
それをヒフミさんに見せると、ヒフミさんは目を輝かせて、やや高く速くなった声で話した。
「わあ……モモフレンズのぬいぐるみですか! ペロロ様、スカルマン様、ウェーブキャットさん、ニコライさん、アングリーアデリーさん、ビッグブラザー様……みんなちっちゃくてかわいらしいです!」
様とつけて名前を呼ぶときだけ、声が大きくなっていた。
「モモフレンズが大好きなんですね」
「はい! とっても可愛いんです!」
可愛い……かはよくわからなかったけど、それでも目を輝かせてこっちのぬいぐるみをかがんで見られると、何か動かずにはいられなかった。
私はペロロ様の大きいぬいぐるみを取って、それとカゴに入れたぬいぐるみを一緒に買った。
カゴに入れたぬいぐるみはプレゼント用に、全部まとめて一つのプレゼントボックスにラッピングしてもらった。赤い箱と緑のリボンが、ライトに照らされて輝いていた。
それから、私はペロロ様の大きいぬいぐるみを持って、ヒフミさんの方に腕を出した。幅が私のおなかと同じぐらいあって、真ん中の当たりを持たないと顔が隠れてしまうぐらい大きい。
「これ、あげます」
そう言うと、ヒフミさんはしばらく口を丸く開けたまま、突っ立っていた。
と思ったら、私の後ろに回り込んで、満面の笑みでこっちに抱き着いてきた。両手を首に回してきて、首から熱が全身に伝わってくる。
私は自身の両手でヒフミさんの両腕を握った。両手から暖かさと心地よさが伝わって、私が空に浮かんでいく風船のように軽くなっていくようだった。
それからしばらくして、ヒフミさんが離れると、ペロロ様を受け取って両手で抱っこしながら話した。とても明るい声だった。
「ありがとうございます、コユキちゃん! 大事にしますね!」
そう言うと、ヒフミさんは首から体を傾けて、ペロロ様の左横から笑顔を見せた。つられて私も笑顔になった。
「どういたしまして、ヒフミさん」
そのまま言葉がこぼれた。
「にはは……久しぶり、なんです。私なんかの行いで、誰かが喜ぶのは」
「今までは……その、怒られたりして、迷惑しかかけられないと思ってたのに……」
「今は、違います。ヒフミさんが、とても喜んでくれて……私なんかでも、誰かを、喜ばせられる、って、思えて」
それ以上は、言葉を出すのが難しくなった。