無気力になったコユキ   作:ddddd / d5

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02 ミネ

「最近の食欲はどうですか?」

「うーん……あんまり食べる気になれないです。ユウカ先輩やノア先輩が置いていってくれるお弁当は特に」

 

お互い向かい合った状態で質問に答えつつ、なぜ急にミネさんがやってて診断をしているのかを考えた。

先生が「伝手をあたってみる」と言っていたから、それでやってきたのは間違いない。

でも、どうしてお医者さんを呼んできたんだろう? 

 

「その前はどうでしたか?」

 

本当のことを言って先生や先輩たちに心配をかけたくない。

でも、正座の立ち振る舞いと、こちらをまっすぐに見つめてくる瞳からはとても嘘をつけそうにない。

でも、この雰囲気の中では黙れそうにもない。なるべくいつもの元気な感じで声帯を動かした。

 

「えっと、前は普通に食べられてました」

 

私の声は上ずっていなかっただろうか? 瞳の中の星は揺れてなかっただろうか?

 

「なるほど。それと、無理に話さなくても大丈夫です。声が小さくても聞こえますから」

 

もくろみはとっくにばれていた。この人の前で隠すのは諦めるのがよさそうだ。

 

「睡眠はきちんと取れていますか?」

 

「うーん、前から寝ようとしてもうまく寝付けないときがあるんです」

 

そのとき、私の口が大きく開いて、引き締まっていた気を声から吐き出した。ミネさんの眉と羽ががぴくりと動いた気がした。

 

「その理由は話せますか?」

「お昼はお留守番があるから寝られないんです。夜は―」

 

言いかけたところで、昨日の夜に考えていたことを思い出した。

緩んでいた体が岩のように固まった。それに引きずられて顔が下がり、ミネさんの目と自分の目が合わなくなった。

 

「……ちょっと、その」

「いえ、話しにくいのなら話さないで大丈夫です」

 

すっとんきょうな声が自然と出ていた。

 

「えっ? 話さないでもいいんですか?」

 

岩のようだった体がすぐにだめにするソファのようになった。

ノア先輩と似たような人だから、てっきり無理やり言わされるのかと思ってたのに。

 

「はい。無理に聞き出してもいいことはありませんので」

 

くっついていた唇同士の間に空気が入ってきた。

いっつも二人に痛いところを突かれて吐き出されてたから、こんな言葉を言ってくれた人は先生以外で初めてだった。

この人の前では、少しだけ素直に話してもいいのかも。

 

そう思ったときに足が疲れてきたので、両足を前に、両手を背中の後ろに伸ばして床に座った。

ミネさんの質問はまだ続いていた。

 

「最近、自分の中で変わったことはありますか?」

「う~ん」

 

背中と両手を上げて下を見たけど、ぱっと思いつかなかったので周りの積み木を見つめた。

すると、積み木が引っ張ってきてくれた。

 

「あ、ありました。最近、積み木で遊ぶのが減ったんです」

 

ミネさんの腕が脇を押した。同時に羽もさっきより高くなった。

 

「なんだか遊ぶ気がおきないんです。本も長く読めなくなってきてるんです」

 

さっきの話に引っ張られて次の話が出てくる。連想ゲームのように。

 

「セミナーの仕事にも集中できなくなってきてます。先輩たちに声をかけられても反応できないこともあるようになってきました」

「先輩以外の人の声が聞こえても何も思わなくなってきました」

「あと……反省部屋に入れられても今まで以上に何も思わなくなってきました」

「それと、考えることが疲れるようになってきました。こうして何か話すのもです」

 

出てこなくなったので、口を閉じた。一気に出てきたせいか、頭がもやっとしていた。

 

ミネさんは一つ一つにうなずいた後、うつむいたまま指をあごに当てていた。羽も少し体の方に寄せられていた。

少したって、ミネさんが口を開いた。

 

「事情は大体わかりました。お話ありがとうございました」

 

ミネさんは立ち上がって、出口の方に歩いて行った。あれだけ長く座ってたのに、足がしびれた様子はどこにもない。

ミネさんが部屋を出ようとしたとき、心配することがあった。

 

「あっ、ちょっと待ってください!」

 

ミネさんがこちらに振り返って緑色の瞳がこちらを見つめた。

 

「今日お話したことは……ユウカ先輩、ノア先輩、それと先生に内緒でお願いします」

「わかりました」

 

そういうとミネさんは、今度こそ反省部屋から出ていった。

 


 

「ミネ、どうだった?」

 

私とノアと先生はミネ団長からの結果を待っていた。あちこちをさまよっていた目と足と髪をくるくる触っていた手が定位置に戻った。

団長が口を開くと、瞬きのせいでストップモーションのようにカクカクして見えた。

 

「診断の結果、無気力症候群の可能性がありますね」

「無気力症候群……?」

 

ふと、最近のコユキのことを思い出した。

そういえば、最近は仕事中退屈そうに足をぶらぶら振ったり、腕を後ろに上に横に曲げたりすることが少なかったような。

 

「やる気が起きない、自発性の低下、自分以外のことに無関心になる、集中力と思考力の低下、食欲の低下、症状は他にもありますが無気力になっていく精神疾患です。原因は過度のストレスや疲労と言われています」

 

自分でも気づかないうちに手が頬に触れていた。口はのどのつまりを解消しようと何度も唾を飲み込んだ。魚の骨なんてつまってないのに。

頭の中でコユキの様子が反響した。団長が言っていたこととぶつかり、一緒になって脳内をめぐっていた。

 

「このままだとコユキは……」

 

「そのまま放置すると、生活に支障をきたす可能性があります」

 

それを聞いた私の口は、きっとへの字に曲がっていただろう。

胸と腕には鉛がいつの間にか入れられ、肩と目はそれに引きずられるように、下へと向かった。

私はノアの言う通り感情表現が豊かなようだ。

 

「わ、私のせいなの……?」

 

自分を責める言葉が次から次へと出た。かろうじて声は抑えたけど、肌に爪を立てることは抑えられなかった。

 

私を見ていたのだろうか、ノアが私を呼んだ。隠してるようだけど、声に力が入っていなかった。

 

「ユウカちゃん……」

「改善させるには、会話とバランスの良い食事、質の良い睡眠。そして好きなことをして過ごす事ですね」

 

―どうにかしないと。

 

そう思っても、内側に向いた心は灰色の口調を出すよう命令した。

 

「はい……」

「できる限りやってみます」

 


 

ミネさんがユウカ先輩と先生に加えて、ノア先輩まで連れて戻ってきた。緩んでいた体が手先足先から石化した。

やっぱり怒られる? いや、ミネさんの診断で何かあったから? じゃあなんでミネさん以外も? 

ミネさんが口を開く。この人は悪いことは話さないだろうけど、その後は……。

 

前言撤回、悪いことだ、悪いことだった。私が無気力症候群の可能性があること、その改善方法だった。

気軽に話せる友達なんていない。好きなことは二人に迷惑がかかる。

 

三人がこっちを見つめてくる。

 

―そんな目を見たくなかったから今まで何もしなかったのに、どうしてこうなったの? 

 

ユウカ先輩が近づいてきて、体が先輩の髪色になった冷たい海のように冷えていった。

それにつられて体をひねった。叩かれてもいたくないように。

私に手が届く距離まで来た。とっさに出口がどこか探して、伸ばした足を体の方へ丸めた。

 

先輩の手を見ると、腰のあたりにあった手が上げられた。

 

「ピッ」

 

両腕を頭の方に上げて、両手も使って顔と頭を覆った。

そのまま後ろに後ずさった。心臓が一拍ごとに叫んだ。

先輩の足音が遠ざかると、先生が何か話したような気がした。

救いの言葉であってほしかった。

 

でもそれは近づいてくる二人の足音で壊された。

 

―やられる……! 

 

体を一気に前に出す。二人を見向きもせずにミネさんの後ろに走っていった。

この人なら私を守ってくれそうだったから。

そのまま後ろまできて気づく。出口の方には先生がいた。もう逃げられない。

私はミネさんの後ろに移動して、ミネさんの背中の服を両手で握り締めた。

二人が追ってきていたかはわからなかった。

現在は1話当たり2500文字をベースにしているのですが、今のままでもいいでしょうか?

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