そこは今まで見てきたお嬢様が住んでいそうな建物のどれよりも高級そうだった。
茶色い木のタイルの床、高級そうな金の模様で飾られた白い天井、とても高そうな緑色のカーテン、床から天井まである大きさの茶色の格子窓。
金で装飾された緑の王様が使うようなダブルベッド、ベッドの横にある真っ金色の棚。
縁が金と緑の白いカーペットの上にある、全部金色のテーブル、ふちが金色の白い椅子。
テーブルと棚の上には、白いビンに入った白い花をつけた何かの草があった。
白いお皿に乗った白いティーカップが、金色のテーブルの上に置かれていた。
棚には誰かのアクセサリーであろう、白い花で飾られた茶色の輪っかが置かれていた。
そして、なぜか枕も縁が金色の緑のものと、真っ白なものの二つがダブルで置かれているダブルベッドの片側に、誰かが寝転んでいた。
彼女はクリーム色のような黄色のような、腰の下まで届いている長い髪と、長い狐の耳を持っていて、白い服を着ている様は天使のように見えた。
私が口を開けたまま目だけぱちぱちしていると、彼女は上がピンク色、下が黄緑色の瞳を開けて、私に向けてきた。
それから、落ち着いたささやくような声で私に話してきた。
「ああ、君か」
その人は体を起こして髪の一部を耳の前に持ってくると、なぜかシマエナガが布団から一匹出てきて、彼女の右手に止まった。
ただ、彼女の手はリボン付きの白い服に隠れていて、シマエナガは袖の一部に止まった。
私の視線がシマエナガに固定されると、彼女はゆっくりと私の方に近づいてきた。足音がほとんどしなかった。後ろで彼女の尻尾が床につかずに動くのも見えた。
「ミネが言っていた、『守って欲しい子』というのは」
私はミネさんの方を見ると、ミネさんが私の方を見て話した。
「はい。もしもの時のために、私からセイアさんに頼んでいたんです」
続けてセイアさんも話した。
「ミネは今日、演奏で忙しいからね」
そういえば、ミネさんは今日、救護騎士団での鈴の演奏があるんだった。
「代わりに、このセーフハウスでコユキを匿うことにしておいたのだよ」
セーフハウス、と聞いて私はこのどこからどう見ても並大抵のお嬢様ではないであろう部屋を見渡した。
それからセイアさんに向かって目を細めると、セイアさんは首を傾げた。私は首を傾げた後、まっすぐに直して、腕を体の方に少し寄せた。
セイアさんはいつの間にかベッドに座っていて、布団をどけた。それから左手で開けた場所をぽんぽんと叩いた。
「疲れているだろう? このベッドはとてもふかふかで、休むにはちょうど良い」
私は黙ってセイアさんの横に座った。すぐに、セイアさんが言っていた通りだとわかった。
私はベッドの二つある枕を見る。あそこに頭を置いたらどれだけ快適だろうか。
そう思っていると、セイアさんが話してきた。
「欲望のままに動いてみると良い。ああ、上着は向こうのフックにかけてくれ」
言われるがままにして上着を脱いでフックにかけてから、私はベッドに寝転がって枕に頭を乗せた。
その後にセイアさんも寝転がって、緑の布団をかけてくれた。ずっとセイアさんの右手にいたシマエナガも、私たちの間の位置で布団に入った。
それを見ているうちに、瞼が重くなってきた。
「時間になったら、また起こそう。良い夢を―」
聞き終わる前に、私は意識を眠気に任せた。
ぼやけた視界が、私の意識に入ってきた。リース、木組みの建物、モミの木、オーナメントからして、ここはトリニティ・スクエアだろう。
しかしあらゆるものが近視になったかのようにぼやけている。私の体も重くなっていて、思うように動かしにくい。
そんな体で、スクエアの道を進む。視界の先には鈴をもらった広場があった。
そこに向かって歩く。音は私が出す足音だけ。
「…?」
辺りを見渡す。どういうわけか、私以外の音がしない。
それどころか、誰の姿も見えない。
「モモイさん?」
返事がない。上着を着ているはずなのに、内側から震えがやってくる。
「アリスさん?」
返事はない。震えが胸に伝わって、息が速くなる。
「ミドリさん!? ユズさん!? セリナさん!?」
声を大きくしても、返事はない。
私はさらにうまく動かなくなった足を無理やり動かして、走り出した。
広場を通り過ぎたと思ったら、すぐにスイーツの看板らしきものが見えた。
それと同時に、後ろから足音が近づいてきた。
私はさらに足を動かそうとした。が、風船のように軽くなりすぎた体が思ったほど動いてくれない。
私はとっさに声を出そうとした。
「カズサさ―」
途中で、声が出ないことに気づいた。足音がさっきより増えていることにも。
叫べないのに口を開けたまま、私は歪んだ視界の中走り続けた。
美術館の前を通って、右も左もわからない建物の間の道を走った。
グッズ売り場の広場に駆けこんだとき、何を言っているのかわからない、とても怖い声が後ろから聞こえ始めた。
私はすぐさま道を外れて葉っぱのない木の間に飛び込み、灰色の建物どうしの間を適当に走った。
その間も声と足音はどんどん近づいてきて、ついに手を伸ばして掴まれると思ったとき。
「―キ!コユキ!」
私の視界が金の装飾がある天井へと変わった。
私は体を起こして、なんども瞬きをした。金のテーブル、王様のようなベッド、一面の格子窓…セイアさんの部屋だった。
そのときやっと右手が暖かいことに気づき、私は右を見た。すると、セイアさんが両手で私の手を握っていた。
「大丈夫かい?」
そう言うとセイアさんは私の背中を左手で撫でながら、私を見ていた。
シマエナガもセイアさんの頭から顔を出していて、首を傾げて私の方を見ていた。
私も、瞳の星を明るくさせて、セイアさんの方を見た。
「…はい。もう大丈夫です」
セイアさんが微笑んだ。シマエナガも顔は変わっていないけど、目が暖かくなったような気がした。
「そうか。それはよかった」
そのとき、私のお腹がぐぅ~~~と音を立てた。
私が視線を下に落として顔が熱くなったとき、セイアさんが少しいたずらっぽい声で話した。
「ふふ、ちょうどいい時間だ。トリニティの友人から夕食が届いている、一緒に食べよう」