「そうだったんですね……」
二人の視線はミネさんと似た感じだった。
だから、ミネさんに調子を聞かれた時のように、言葉が続いていった。
「はい。だから、あの二人はちょっと怖かったです」
「私のことが先輩たちに、知らされるかもって思うと」
「ミドリさんとユズさんは、二人よりは怖くなかったです。話は聞かされていないようでしたから」
「でも、ゲーム開発部の皆さんはいつでも一緒にいます。なので、アリスさんとモモイさんが来るかもしれないと思うと、怖かったです」
「だから、本当に怖くないのは、トリニティの皆さんだけです」
「先輩たちへ連絡することがないからです」
私は口を閉じて二人を見た。
ハナエさんは自分の胸をさすっていた。セリナさんは慰めるようなまなざしで私と目を合わせていた。
それからハナエさんが話した。
「ここに来てからはどうでしたか?」
すぐに私の口が開いた。
「とても楽しかったです! すべてが新鮮で、温かくて、輝いてて……」
「怖いことも何度かありましたけど、ミレニアムよりはずっとずっと少なかったです」
「皆、私に優しくしてくれましたし、プレゼントももらえました」
私は忘れずにつれてきていた白いうさぎさんを、両手で持って机の上に座らせた。雪のように白いうさぎさんで、心臓が暖まった。
すぐにハナエさんの夜空色の瞳が、魚眼レンズで見た夜空のように丸くなった。口も同じように丸くなった。
「あっ!」
それから初めて見たときのような、あの笑顔になって立ち上がった。
「うさぎさん、持っててくれたんですね!」
そう言って、白いうさぎさんを両手で机の上に持ってきた。私と同じで、赤いサンタ帽子と赤い袋が付いたものだ。
それから、二つのうさぎさんが向かい合うような場所に置いた。
そうして、ハナエさんは深く息を吐いてうさぎさんたちを見て笑った。
つられて私も笑い息が出た。セリナさんも、見ていると落ち着く口元とまなざしになっていた。
そのとき、私はもう一つプレゼントがあったことを思い出した。
赤と緑のリボン付きの金色の鈴。
いつからだったか、その鈴から音が鳴らなくなっていた。
上着のポケットに手を突っ込んでも、音がしなかった。ポケットは膨らんでいなかった。
上半身を右にひねってみても、背中側にポケットはなかった。
体をもとの向きに戻したとき、服の裾が音を立ててた。
それと同時に、腕の肌が服と違う圧力を感知した。
左手を右の裾に入れてみると、ふわもこの綿毛に包まれた中で、金属のような感触が指から伝わった。
引き抜いてみると、それは探していたものだった。
目を細めて、右手を左の裾に入れて探ってみれば、やっぱり同じ感触がした。
そして同じ鈴が出てきた。
ハナエさんの上ずった声と、それに隠れたセリナさんの柔らかい声がした。
「わあ、そんなとこにあったんですか!?」
「そこにあったんですね」
私は二つの鈴をそれぞれの手で、指先が手を押すぐらいに握った。
両腕に力を込めて振るうと、あの心地よい音が部屋いっぱいに響いた。思わず体まで震えてしまった。
もう一度力を抑えてから、方向を変えて振ってみた。
さっきとは違う高さで、音が部屋を満たした。
セリナさんを見ると、最初に会ったときより頬がほんのり温かそうな微笑みになっていた。
「鈴を気に入ってくれたんですね、ありがとうございます」
私は素早く首を縦に二回振ってうなずいた。
「どういたしまして」
「よろしければ、明日鈴の楽譜をお持ちしましょうか?」
「お願いします!」
いつの間にか、顔が机の中ほどまで出ていた。
それからハナエさんが「お話はこれで以上です! コユキさん、ありがとうございました!」と言ったので、私は扉の外へ出た。
外に出ると、ピンク色の方に届くぐらいのツインテールの髪を持った子と、アイリさんと、ヨシミさんがいた。
「あ、コユキちゃん!」
「コユキ、話は大丈夫だったの?」
私はうなずいた。
「よかった」
ヨシミさんとアイリさんは、ポケットから袋を一つ取り出した。お菓子のデザインと名前が書いてあった。
お菓子の袋に目を向けようとしたとき、もう一人の同じ髪色の子も、同じものを見ていることに気づいた。
「あっ……」
その子は私と目を合わせると、すぐに目をそらしてしまった。
それから視線を膝のあたりで泳がせて、私も顔を下げた。
そのとき、アイリさんが声をかけた。
「二人とも、直接会ったのは初めて?」
「はい」
「うん」
私とその子の声が重なった。それからお互い目を逸らさずに合わせた。
「紹介するね、コユキちゃん。この子はコハルちゃんって言うの」
「コハルさん……」
コハルさんは両手を自分で握って、酸っぱさの中に柔らかさが入っている声で話した。
「よ、よろしく」
「よろしくお願いします」
それからヨシミさんが袋を開けて、中から一つお菓子を取り出した。
半透明でぶどうの形をした、黄緑色のグミだった。
「はい、どうぞ」
そういって私の方に手を伸ばしてきた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。コハルも、はい」
私は手を伸ばしてグミを受け取り、コハルさんも同じようにグミを受け取った。
私はグミを口に入れた。ちょっと冷たかったけど、温かい気分がのどから頭に伝わった。
グミのぶどうのような甘味と酸味は、楽しげに舌からおなかへと入っていった。
「おいしいです」
「……おいしい」
それを聞いたヨシミさんも、グミを口に入れて笑顔になった。
すると、アイリさんも手に持っていた袋からお菓子を取り出して私たちに手渡した。
「こっちの味もおいしいよ」
エメラルドグリーンの丸い形をしたそのお菓子を口に運んでみると、爽やかさと酸っぱさが合わさった味がした。
同じお菓子を食べていたコハルさんがつぶやいた。
「チョコミント……?」
「そんな感じの味ですよね」
「シュワシュワした感じもするけど……」
「ラムネと同じような感じですか?」
「うん。私もそんな感じがする」
いつの間にか、コハルさんの表情筋にあった固さが消えていた。
そのとき、アイリさんが調子の高くなった声で話した。
「正解! チョコミント味のラムネだよ」
続いてヨシミさんが、袋の口を大きく開けて話した。
「まだまだあるから、好きなだけ食べていいわよ」
「私のラムネも大丈夫だよ!」
「あ、ありがとうございます」
「あ、ありがとう」
私もコハルさんもぎこちない反応になったけど、それが悪い気分ではなかった。
カズサさんもヒフミさんも他の皆も見えないけど、三人が普通にしてるってことはきっと大丈夫だろう。
―そういえば、他の皆は私と離れてるときに何をしてたんだろう。