肺が暴れていながらも声の方を向く。
ピンクの線が入った黒いネコのカチューシャをした金髪の人と、床まで届いている長い紺色の髪をした人がいた。
ミレニアムでは有名な人たちだった。
問題児として、人気者として。
そんな人たちが、私なんかの名前を知っていたことに驚いた。
ユウカ先輩から聞いていたのだろうか。
「げほっ……ごほっ…………」
紺色の方の人、アリスさんが口を開いた。
「これは…………水中訓練ですね! 酸素ゲージを拡張できます! アリスもやります!」
思わず変な声が出た。
「え?」
そういえば、この子はすべてをゲームに例えるんだった。
会ったことがなかったから忘れていた。
私が返事をする前に、アリスさんは洗面器の方に向かい、顔を突っ込んだ。
と思ったら、すぐに顔を水から上げた。
「つ、冷たすぎます!」
モモイさんが洗面器の方を向いた。
それはそうだろう、冬の水道水をためたのだから。
「えっ?」
小走りで洗面器に向かっていき、水に手を入れた。
「冷たっ!?」
アリスさんと同じ反応。
それから二人そろって頭を動かさずに私を見る。
先輩たちが昨日私に向けてきた目と似ていて、私は目をそらしてしまった。
震えた声が二人の口から出る。私は何かおかしいことをしたのだろうか。
「な、なんでこんなことしてたの……?」
「誰かに言われたのですか……?」
仕方なく、顎を少し引いて背中から力を抜いていく。
すると、頭が体の前に倒れた。どうせなら放っておいてほしかった。
二人から目を逸らして話し、その間に洗面器の方に向かう。
「私が何かすると皆さんが怒るので、せめて呼吸くらいはしないでいられるように……」
洗面器の前まで来た。
息を大きく吸い込み、洗面器の両端に手を付ける。
そのとき、モモイさんの声が聞こえた。
「アリスっ!!」
無視して顔を水につけようとした。
だけど、おなかが両腕に捕まってしまったせいで洗面器から引きはがされた。
すぐ後ろから澄んだ強い声がした。
「アリス、コユキを押さえました!」
アリスさんを引きはがそうとしたけど、彼女の力はとても強い。
ならばと、私が洗面器に手を伸ばした。
が、それよりも早くアリスさんが私を洗面器から離してしまって届かなかった。
振り返ると、髪より青くなった顔をしたアリスさんが目をつむっていた。
彼女の息が何度も私に当たってくる。私の目がさらに開かれ、アリスさんに視線を刺す。
「離してください」
出てきた声は低かった。
アリスさんから出てきた声は張りつめていた。
「だ、駄目です!」
もう一度大きく言う。口がゆがんでいく気がした。
「離してください! なんで邪魔するんですか!」
アリスさんが負けじと返してくる。頼むから言う通りにしてほしい。
「駄目です! あんなことはさせられません!」
視線をもっと冷たくする。あの水のように。
「あなたたちは何も関係ないでしょう!」
「だとしても、誰かが苦しもうとしているのを見過ごすことなんてできません!」
「これをすれば周りから怒られなくなるはずなんです! それなら苦しむほうがましです!!」
アリスさんの口が止まる。
そのすきに逃げようかと思ったけど、アリスさんはがっちりとこちらを捕まえていたために失敗した。
アリスさんが止まったまま私を見ている。それからまた震えた声になった。
「な、なんで息を止めたら周りから怒られなくなるんですか……?」
私はとげの付いたままの声で話した。
「私が何かすれば皆さんが怒るんです。だったら何もしないように息でも止めていれば怒られなくなるはずなんです」
「だ、誰にですか? 誰に怒られるんですか……?」
ため息が出てくる。ミレニアムで怒る人なんてすぐ思いつくのに。
「決まってるじゃないですか。ユウカ先輩とノア先輩ですよ」
それを聞いたとたんに、アリスさんはわけがわからないという顔になった。
ユウカ先輩に似て表情が豊かな人だ。
「えっ……?」
アリスさんが瞬きを何度もして、さっきまで合っていた目を離す。
「ど、どうしてですか? ユウカもノア先輩も、何かしただけで怒るような人じゃないです……」
私もアリスさんから目を離して、床へ視線を落とした。
「……私以外の人にはそうでしょうね」
アリスさんにはわからないだろう。
ミレニアムの人気者で、二人からも優しくされてるから。
「それなら、どうしてコユキだけに……」
歯を食いしばりながら話す。
「そんなの私が一番知りたいですよ」
私は口を閉じた。
アリスさんが何か言おうとしたけど、つっかえたのか口を閉じた。
短い沈黙が流れたあと、アリスさんが私から腕を離した。
それからお互いに、疲れた足から向かって床に座った。
もう訓練をする気になれなかった。
先に口を開いたのは、アリスさんの方だった。
「コユキ」
ぼんやりとアリスさんを見つめる。
「なんですか」
「アリスはおかしいと思います。何かしただけで二人が怒るはずありません」
「本当にそうなら、二人かコユキが呪いにかかったに違いありません」
「だからアリスが呪いを解きます。冒険家から魔法使いにジョブチェンジです!」
私は首をかしげて、すっとんきょうな声が出た。
「……はい?」
魔法使い? この子は何を言っているんだろう。
水色の輝く目がこちらを見つめたまま、アリスさんは立ち上がった。
そのまま飛びそうな勢いだった。
「アリスは新たなクエストを受注しました!」
「ク、クエスト……?」
ゲームのナレーターのようなことを言い出した。
「呪いの解除です! こういうのは呪いを出すアイテムがあるのが普通です!」
すべてをゲームのようなこととして話すものだから、私の体は自然にアリスさんの方に傾いていた。
「コユキ! 早速調査に行きましょう! まずはこの部屋からです!」
そういうとアリスさんはいきなり私の手をつかんできて立ち上がらせた。
断ろうかと思ったけど、普段の私より爽やかな輝きをした目を当てられたらできるわけがなかった。
現在は1話当たり2500文字をベースにしているのですが、今のままでもいいでしょうか?
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1000文字以上2000文字未満
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2000文字以上3000文字未満
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4000文字以上5000文字未満
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6000文字以上7000文字未満
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7000文字以上