無気力になったコユキ   作:ddddd / d5

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05 探索?

普段通りになったアリスちゃんを見て、私とモモイは扉にかけていた手を離し、壁にもたれかかった。

その少し前、セミナーの部屋に、モモイが「コユキが洗面器に顔を突っ込もうとしてる!!」と扉を蹴飛ばしながら息を荒くして入ってきた。

そのときはあらゆる最悪な予想が頭を体をしばりつけていた。

 

でも、全部外れてくれて本当に良かった。

モモイも足と体を何度も前に出しては戻していたし。

 

そのまま反省部屋から離れようとすると、モモイが私に話しかけてきた。

 

「あれ? ユウカ、二人に会わないの?」

 

振り向くと、少し首を傾げたモモイが反省部屋に片足を出していた。

私は下に向いた頭をまっすぐに直して返事をした。

 

「私はいいわ」

「ええっ? あんなに心配してたのに」

 

モモイの眉が内よりになるのを見て、ポケットに手を突っ込む。握った手を隠すために。

 

「仕事があるから」

 

そういいつつ、スマホを取り出してスケジュールを確認する。

 

「少しくらいなら大丈夫だよ。それに、コユキもユウカに会いたいと思うよ」

 

スマホを握る手の力が強くなり、背筋が上に引っ張られる。

 

「そうかもしれないけど、もうすぐ年末で忙しいから。そういうモモイの方も、アリスちゃんが会いたがっているんじゃない?」

「うーん……」

 

モモイの頭が右往左往に揺れ動く。今のうちに。

 

「そういうことだから、私は部屋に戻ってるわね。アリスちゃんとコユキのことは頼んだわ」

 

握った手をスマホごとポケットに突っ込み、すり足で反省部屋から去る。

後ろで「あっ」という声がした気がした。

 

誰もいないのを確認して、3秒かけて息を吸い4秒かけて吐く。

普段から問題を起こしてばかりなのに、どうしてこういうときは私に気を使ってしまうんだろう。

 


 

アリスさんが積み木を手に取って調べ始めたとき、ちょうどモモイさんが入ってきた。

そういえば、いつの間にかいなくなっていたような。

 

「二人とも、戻ったよー」

 

アリスさんはたちまちモモイさんの方に駆けていく。

聞いていた通り、落ち着いた髪と目の色に反してよく動く元気な人だ。

モモイさんの目の前まで来たアリスさんは、私とモモイさんを交互に見る。

水色の瞳といいうっすら桃色になった頬といい肌といい、とにかく全部がまぶしい。

 

「モモイがパーティに帰還しました!」

 

急に理解が追いつかない言葉が来た。

 

「って、あれ? いつからモモイはパーティを離脱してたんですか?」

 

2、3秒たって、やっとアリスさんがパーティを私たちのこととして言っていたのを理解した。

 

顔を床からモモイさんの方へ戻す。

何一つ動じていないのを見るに、アリスさんはずっとこのしゃべり方なんだろう。

 

考えを寄り道から戻す。

 

―あのとき一切モモイさんの声がしなかった。どこに行っていたんだろう?

 

モモイさんがさっきよりは落ち着いた、それでいて快活な声で話す。

 

「私? 私はね」

「ユウカに助けてもらおうと、セミナーの部屋に行っていたの」

 

最初の三文字で私に振動が走り、視線がモモイさんの斜め下に落ちた。

 

モモイさんの言葉が頭の中で何度も何度も再生される。

ユウカ、ユウカ、助けてもらおうと、セミナーの部屋……。

つまり、さっきの私のことがユウカ先輩に知られた。

ということは、ノア先輩にも先生にも知られる。

 

私の体がなるべく小さくいようと、肘が体に引っ付く。それに合わせて息もひそめる。

両耳に感覚を寄せて、部屋全体の音を注意深く聞く。

アリスさんが先に話した。モモイさんがこの後なんて言うかで私の罰が決まる。

 

「ユウカに助けを求めたんですか?」

「うん。それで二人でここに戻ってきたんだけど、けんか中だったから入れなくて。だから外で見てたんだ」

 

私の目が皿のように開かれた。それと同時に口も開かれた。

 

「えっ!?」

 

二人が私の方に振り返ってくる。

私は胸から顎や唇まで震えあがってくる。

 

「み、見てたんですか? い、いつからですか?」

「え、えっと、『これをすれば』って言っていたところから、だけど……」

 

聞かれた。よりにもよってそこを。

震えが消えていく。代わりに体が重くなっていく。頭が重みでうなだれる。

それに合わせて、腕から手にかけて力が抜けていく。

 

「コ、コユキ?」

「大丈夫ですか……?」

 

ゆっくりと声の方に顔を上げる。しかし、目を合わせることはない。

そのまま首が横へ向き、頭が下がっていった。

どうしてこうなったんだろう。何もしないことすらだめなら、これからどうすればいいんだろう。

誰かが私の肩をたたく。私はビクッとして上を見た。二人が私をのぞきこんでいた。

 

「もしかして、私がユウカに伝えたのがまずかった……?」

 

少し口を開く。ろくに話す気になれない。目を見たくない。

下を向いてブツブツと話す。

 

「……はい」

 

モモイさんの足がもぞもぞと動いた。アリスさんの足はモモイさんの方を向いている。

そんな二人を無視して冷たくなった頭で考える。

 

―考えればすぐにわかることだった。

 

ユウカ先輩が二人のことをよく話すってことは、それだけ仲がいいってこと。

なので、何か起きたときに二人がユウカ先輩に頼るのはよくあること。

だから、二人が私を止めてきた時点で……。私の目論見が全部ばれるのは当然だった。

そしてユウカ先輩とノア先輩にまた怒られることも。

 

途中でアリスさんの声がした。耳に入らなかった。

 

こうなることを考えないなんて、あのとき私は何を思ってこれをしたんだろう? 

ああ、そうだ。あのときは褒められなかったから。それとミネさんのおかげでいつもより気分がよかったから。

 

途中でモモイさんの声がした。耳に入らなかった。

 

何かできると思いあがっていたんだ。そんなわけないのに。私は何をしてもみんなに怒られるのに。

 

反省部屋の外から音がした。耳に入らなかった。

 

いつからか、こうなるたびにつぶやいていた言葉があった。こうすると少しは気が楽になるから。だから今回もそうする。

周りを気にすることはしなかった。どうせ怒られて罰を受けるだろうから。

 

「Vanitas vanitatum et omnia vanitas」

「全ては虚しい」

 

ペンと手帳の落ちる音がした。

現在は1話当たり2500文字をベースにしているのですが、今のままでもいいでしょうか?

  • 1000文字以上2000文字未満
  • 2000文字以上3000文字未満
  • 3000文字以上4000文字未満
  • 4000文字以上5000文字未満
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