無気力になったコユキ   作:ddddd / d5

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07 本

アリスさんとモモイさんが、本棚の前で本を選んでいた。

二段しかないし、一段に10冊もないからすぐ選べるはずだった。

だけど、なぜか二人は迷っているようだった。

 

「うーん、これは……」

「レベルの高い本が多いです……」

 

ここには位相幾何学とか物理学とか代数学とか、ミレニアムなら普通に使うようなものしかない。

でも、この二人にとっては難しいようだ。

ここでも自分のアイデアはまずいものだったらしい。

 

数十秒か十数秒かたって、二人はようやく手にして読み始めた。

私以外の人が暗号解読でもしているかのような表情だった。

一方でノア先輩はというと、確率論の本を選んで読み始めていた。

 

ノア先輩が休憩中に詩集を読んでいるときは怖くない笑顔だった。

だけど、今は笑顔すらなしに目を開いているから不気味でしかたない。

 

三人が本を読み始めてから、私は誰かに命令されているような感じがした。

セミナーでよく感じていたあの気持ちだった。

とにかく周りと同じことをすれば迷惑にはならないだろうと思い込んで、私は最初に目についた本を手に取った。

最近のお気に入りだった、位相幾何学の本だった。

 

本には集中できなかった。

さっきのことがまだ引っかかっていたから。

そのとき、お気に入りの本を読んでも喜びを感じなくなった自分がいることに気づいた。

私のページをめくる手が止まった。

 

そのとき、またしてもモモイさんが一番に口を開いた。迷いがどこにもない言い方だった。

 

「ねえ、コユキ。他の本も読んでみない? ここにある本じゃなくて、もっといろいろな本を」

 

すぐさまアリスさんが落ち着いた声で話した。

アリスさんは飛び上がると思わせるほどに、大きく足と足の間を開けて立った。

 

「図書館の探索イベントです! 本から知恵や謎解きのヒントを得ましょう!」

 

最後に、ノア先輩が二人のことをまとめた。

 

「では、四人で本を買いに行きましょう。コユキちゃんもいいですか?」

 

指示だったから賛成した。

 

「はい」

 

モモイさんやアリスさんは、次から次へと言葉を出した。

 

「やったあ! アリスは何を買う? アートブック? 攻略本?」

「アリスはアートブックを買います。最近、欲しいと思っていた本があったんです。モモイは何を買いますか?」

「私? 私はー……攻略本かな。ちょうど行き詰ってたゲームの攻略本を見つけたから」

 

私の瞳にある星のように、輝くような表情をしている二人。

でも、私の星は二人とは反対の明るさだった。

 

―本が変わっても、どうせ変わらない。

 

私の中でそんな気持ちがうねっていた。

 

冬の太陽光は夏より弱いと言われている。

しかし、この真っ白い雪のせいで目を八割も閉じてしまう現実を見ていると、そうとは思えない。

しかも前にいる三人についていかなければいけないから、目を閉じるわけにもいかない。

 

おまけに、厚着できたというのに両手両足から冷たさが襲ってくる。

こんな外で喜ぶのなんて二人ぐらいだろう。

 

両腕でおなかを抱え込むようにしていると、アリスさんが急にこっちを向いてきた。

水色の瞳が私に向いてきたとき、私は足を止めて視線を地面に向けてしまった。

しばらく道を歩いていると、今度はモモイさんがこちらに目を合わせようとしてきた。

私は思わず、足を正反対の方向に押し付けた。

 

二人は何がしたいんだろう。

私の監視でもしているのだろうか。

そう思っていると、今度はノア先輩がこちらを見てきた。

私が一番見たくない表情だった。

 

―そんな顔をするなら、もういっそ私を見ないでください、ノア先輩。

 

心の中で呟いても、三人は本屋につくまでに時折こっちを見てくるのだった。

 

楽観的な二人は、時折手を振ってくることもあった。

なるべく二人と同じようにするつもりで振り返した。

そのたびに肺が締まって、息が荒くなった。

 

本屋についてすぐに、三人は私を置いていってそれぞれの目的地に消えていった。

入ってすぐの場所に残された私は、放り出されたような感じがした。

 

空っぽになった気持ちを抱えて、私はあてもなく本屋を見渡した。

 

本屋の外観は、ミレニアムで定番の金属光沢と寒色系の色で構成されていた。

 

内装はそれとは真逆だった。

暖色系の照明と木でできた床や壁や柱。

いつも私を冷めた目で見つめるような、息苦しい感じがここでは全くしない。

むしろこんな私を包み込んでくれる優しさがある。

 

そんな雰囲気に当てられたからだろうか、いつの間にか私は身を乗り出すような姿勢をしていた。

そのまま、私は吸い寄せられるようにして本屋を回り始めた。

久しぶりに来たせいか、どこを見ても本・本・本しか映らない景色は、私の星をかすかにでも瞬かせる。

 

そういえば、モモイさんが「他の本を読んでみない?」と言っていたのを思い出した。

無数にある本の表紙は誰かに手を取られることを今か今かと待っているように見える。

一番近くにあった一冊の本に手を伸ばす。

これで三人は満足するだろう。

 

―いや。

 

その声が聞こえたとたんに、私は手を引っ込めた。

いや? 

嫌? 

首を振って周りを見渡す。

右にも左にも二回確認しても、誰もいない。

 

声の主は私だった。

 

手がとにかく動こうと、あっちこっち制服を触っている。

手が動くたびに声が一文字一文字発声する。

 

―なんで嫌なんですか? 

―渡せば終わりでしょう。

 

そう自分に言い聞かせて手をまた伸ばす。

しかし、また手は引っ込んだ。

どうして引っ込むのだろう。何か懸念することがある? 

 

頭の中から三人の言葉を探る。

モモイさんが本を読んでみないかと言ったあと、アリスさんが図書館の探索イベントだと言っていた。

実際は図書館じゃなくて本屋だったけど。

その後にノア先輩が本を買いに行こうと言った。

 

だから適当に本を選べばいいはず。

会話はこれで終わっていた。

 

あとにないなら、前? 

 

モモイさんが何か言う前は、私を入れた四人で本を読んでいた。

本を読むことになったのは、私が提案したからで。

その理由が、ミネさんの「好きなことをして過ごす」を思い出したから。

 

……好きなこと? 

 

そういえば、アリスさんもモモイさんもゲームが好きだとユウカ先輩が言っていた。

で、二人が買いに行った本もゲームに関係するもの。

そういえば二人とも、買ってみたい本があると言っていた。多分ノア先輩もあるだろう。

それなら、三人と同じことをすれば……一人だけ買ってきてないせいで怒られる、なんてことはないはず。

 

結論が出たことで足は動き始めた。

しかし、目的地はなく歩みも遅い。

 

好きなことが思いつかないせいだ。

現在は1話当たり2500文字をベースにしているのですが、今のままでもいいでしょうか?

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