―前までは運だめしや脱出が好きだったのに。
そう思いつつ、一階にある雑誌、漫画、小説、文庫本を横目に見つつ通り過ぎていく。
途中、ゲームの雑誌を見ているモモイさんとアリスさんがいたので、見つからないよう移動した。
これだけ本が多いと一つくらいありそうな気がするが、手に取ろうとまでする気になれない。
二階に上がってきた。
地図には一階の倍以上ある種類の本とカフェが書かれている。
そういえば朝ごはんを食べた気がしないからか、おなかがすいてきたような。
カフェに向かおうとしたものの、買ってみたい本を買うのを思い出してやめた。
余計なことをしたら怒られる。
二階の本棚を一列ずつくまなく歩きまわる。
医学、薬学は、難しすぎるから読む気にならない。
地学、天文学、気象学は、自分のイメージからして浮いているからダメ。
同じ理由で科学系はすべてパス。
政治・経済・倫理などの社会系は、脳裏に鬼となったユウカ先輩の顔が出てきたため、そそくさと逃げた。
運動系は、船での逃亡劇と、赤い空の下でこき使われたことを思い出してしまって入らなかった。
洋書とその隣にあった芸術系は、ノア先輩が本を探していたから回れ右で退散した。
あとで逃げたことを詰められそうな気がした。
どれも取れなかった私が最後にやってきたのは、児童書のコーナーだった。
児童書コーナーは、思っていたより本の種類が多かった。
未成年者が読む本が全部ここに詰め込まれているようだった。
そのせいか今まで見てきた系統の本はほとんどここにあり、参考書や入試対策本もあった。
どれにも興味は示せなさそうだったが、それでも何とかして見つけようと一個一個の本棚を一列一列見ていった。
途中からのどの渇きが出てきたし、最後の方は胃から震え上がるような気がした。
二、三周して回っても見つからなかった私は、コーナーの端で立ち止まった。
両手はいつの間にか握りしめられていた。
「これで見つからなかったら……どうしよう」
最悪のことだけは何としてでも避けないと。
これ以上迷惑をかけるのは嫌だ。
体ごと頭を動かして、本屋を360度見渡す。
そうすると、一つの場所に目が止まった。本棚の上になんの本か書かれていた。
「……絵本」
不思議と、私の心に入ってくる言葉だった。
散々、頭を使う本や目をひっきりなしに動かす本ばかり見てきて、嫌気がさしていたのかもしれない。
私の足がその本棚に向かおうとする。
が、一、二歩歩いただけで止まってしまう。
よくよく考えなくとも、高校生が絵本を買うことは変なことだ。
首から体を180度回して別の場所に行こうかと思ったが、もうここ以外に場所はなかった。
かといって買って三人に見せるのは、自分のイメージとしても高校生としても変だ。
でもここ以外は―
思考が堂々巡りに入ってしまい、私の体もぐるぐる回る。
十五周目でも答えがでなかったとき、誰かが私に声をかけてきた。
「コユキさん、何かあったのですか?」
突然軽くなった体を動かして振り返る。
「……ミネさん? どうしてここに……?」
なぜかミネさんが、絵本コーナーの前に来ていた。
頭の中はクエスチョンマークが埋め尽くしたままだけど、口元から全身が緩んでいく。
「絵本を買いに来たんです」
さらに思いがけない言葉が出てきて、思わず声が出てしまった。
「絵本?」
こんないい話があるだろうか。
「はい。もうすぐトリニティでクリスマスイベントがあるんです。その準備のために絵本を買いに来たんです」
クリスマス。
絵本よりもっと気になる。でも、その前にやることをやらないと。
「あの、実は……」
視線をミネさんの瞳から絵本コーナーに向け、軽くなった指を本棚へ動かす。
指は少ししか動かなかったけど、ミネさんならわかると思った。
ミネさんは、期待に応えてくれた。
「コユキさんも絵本を買いに来たんですか?」
私の喉が緩んだからか、明るい声が自然に出せた。
「! はい、絵本が気になって……」
私の中でさらなる欲が出てくる。ミネさんはそれも受け入れてくれた。
「では、一緒に買いに行きますか?」
「はい!」
そうして私は、ミネさんと絵本コーナーに入っていった。
曲がっていた姿勢もまっすぐになっていた。
絵本は思った以上に種類が多く、年齢ごとに読む本が区分けされていた。
あるコーナーには、ページをめくるたびに飛び出してくる本があった。
どの本も難しいことは一つもなく、読むまでもなく絵を見ればわかりそうだった。
こうして表紙だけ見ても、バリエーションが多い。
あっちへこっちへ頭から身を乗り出すようにしてしまう。
ミネさんはというと、何冊かの本を取ってはかごに入れていた。
その手つきには一切の迷いがなく、目的の物だけを確実に取るようだった。
そうして歩きながら見ていると、いつの間にか最初に出会ったところについてしまっていた。
こんなに時間が早く過ぎたのは久しぶりだった。
私はまだ決められず、足がどこに動くか迷い始めた。
ミネさんは私のことを察したのか、吸い込まれそうになる緑色の瞳を私に向けた。
「気になった絵本はありましたか?」
私はミネさんの方を向いたものの、すぐに首が横に動いていった。
「あっ、えっと、その……」
すかさずミネさんがフォローしてくれて、私はまっすぐミネさんの方を向けた。
「思いつく限り、いくつでも言っていただいて構いません」
私は遠慮なく興味がある本を片っ端から挙げていった。
桃太郎、シンデレラ、浦島太郎などの童話。
ミネさんが言っていたクリスマスのお話。
お猿の話や14匹のねずみの話、百階建ての家の話。
その他気になった表紙の絵本。
時折それらを指で指しつつミネさんに話した。
このときだけは、前までの明るく元気だった私になっていた。
これ以上本を思いつかなくなって、私は最後に悩んでいることを話した。
「―大体こんな感じです」
「でも、絵本は思ったより高くて、全部買うことはできないんです」
「かといって選ぼうとするとすごく迷ってしまって……」
予想通りにミネさんが顎に手を当てて考え始めたとき。
ミネさんの後ろから爽やかな怖い声が聞こえてきた。
「わかりました。全部買いましょう。そしてコユキちゃんに全部プレゼントします」
私もミネさんも、一緒に声の方を見た。
それから私はひとまずミネさんの後ろに避難した。
空に近い水色の羽が私を両腕から包み込んで守ってくれた。
現在は1話当たり2500文字をベースにしているのですが、今のままでもいいでしょうか?
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