アンケートの結果、2000文字~3000文字を目安に投稿することにします。
「「「「……えっ?」」」」
なぜか二つ声が多く聞こえて、声の主の奥を見る。
すると、お目当ての本をカゴに入れていた二人がいた。
真っ先に口を開いたのも二人だった。加減を知らない声のせいでやかましい。
「ノア先輩、さすがにそれはやりすぎじゃない!? 気持ちはわかるけど!」
「さ、さすがにこれだけの本を全部買うのはノア先輩でもむちゃです!
コユキのためなのはわかりますが……」
ミネさんの顔は見えなかったけど、何か考えているような気がした。
手が顎に向かっていたから。
ミネさんの裾をつかみつつ、肩越しにノア先輩を見る。
ノア先輩は、またしてもほほえみが一切ない顔で私たちに話した。
「お金なら大丈夫です。ユウカちゃんほどはありませんが、私もセミナーの一員なので。
自費で買えるだけのお金はあります」
「それと、ここの本屋さんには配送サービスがあります。
それを使えば、運ぶ負担もなくなります」
落ち着いた低い調子で、反論を許さない口調だった。
私がアイデアを思いついてから、先輩たちはおかしくなってしまったのだろうか。
あの後、ノア先輩の注文で店員さんの笑顔が徐々に薄れていった。
続いてノア先輩のゴールドカードで笑顔が消えた。
そから複数人の店員さんによって、数十冊の本が配送ロボットに乗せられた。
申し訳ない気持ちになったので、私たちも手伝った。
私はその後、気になっていたいくつかの本をバッグに入れた。
ミネさんが買っていた本も入れた。もちろん、ミネさんの本とは別の本だ。
早速ミネさんが買っていた本を取り出してみると、クリスマスの曲の楽譜が載った本だった。
「楽譜……?」
真っ先に興味を示したのがアリスさんだった。
「アリス、知ってます! 演奏するとイベントが発生するんです!」
「……そうなんですか?」
「ゲームでは、扉に楽譜が書かれていて、その通りに演奏すると扉が開くイベントがありました。きっとこれも同じです!」
いつの間にか首が傾いていた。アリスさんの話は全部ゲームに例えられるから分かりにくい。
すると、モモイさんが注釈をつけてきた。
「きっと、それを買った……えっと、なんて名前だっけ」
「ミネさんです」
「そうそう! そのミネさんが演奏するんじゃないかな」
振り返って、ミネさんの方に首を回す。
二人もそれに続いてミネさんを見る。
「そうなんですか?」
「はい。もうすぐトリニティで行われるクリスマスイベントで、救護騎士団が演奏をするんです。
今皆さんが見ているのは鈴の楽譜ですね」
三人で楽譜を見る。
五本ではなく、一本の線にいくつもの音符が書かれていた。
ピアノとは違って一つしか音を出せないからだろう。
「鈴で演奏……」
ミネさんがポケットから一枚のチラシを取り出す。
「トリニティ・クリスマスコンサート」の文字が真っ先に入ってきた。
「こちらの場所で演奏を行う予定です」
ミネさんが指をさした場所を見ると、音楽堂で開催されることが書かれていた。
ミネさんが説明を続ける。
「クリスマスイベントでは、トリニティ・スクエアでスタンプラリーが行われます。
それをクリアすると、音楽堂へ入ることができます」
「つまり、スタンプラリーをクリアしないと、ミネさんの演奏を聞くことができないんですか?」
ミネさんがうなずいた。
私の雲行きが悪くなってきて、それを振り払おうと頭を回した。
モモイさんとアリスさんが見えると、二人はチラシを見ながら何か話していた。
「面白そう! ミドリとユズも誘って、ゲーム開発部のみんなで行かない?」
「はい! 早速連絡しましょう!」
ゲーム開発部。
ユウカ先輩がよく口に出していた。手間がかかるけど放っておけない子たちと。
それを思い出して、視界から二人が映らないように体を傾けた。
気軽に話していたけど、二人はユウカ先輩と仲良しなのを忘れていた。
きっとこのことも先輩に話してしまうだろう。いや、もうノア先輩がいる。
最初から私の望みは絶たれていたんだ。
それなら、なんで私に本を買ってくれたんだろう。
普段のノア先輩なら私のことは徹底的にしばりつけるのに。
あり得ないことのせいで、ノア先輩とミネさんとチラシに視線を体ごと行ったり来たりさせる。
5回ぐらい往復したとき、なぜかモモイさんが声をかけてきた。
「……コユキも行く?」
「……えっ?」
予想だにしない言葉だった。
「私を、誘ってくれるんですか? 反省部屋にいる私を……?」
突然体が軽くなって、頭の中が震える。
「うん。コユキ、チラシを熱心に見てたじゃん。だから行きたいのかなって」
「それに……コユキには、やりたいことをやらせてあげたいから」
「でも……ユウカ先輩とノア先輩は……」
ノア先輩の方を見る。
私をセミナーの監視から離れさせる、なんてことをするはずがない。
「大丈夫ですよ、コユキちゃん。クリスマスイベント、思う存分に楽しんでください」
私は息をかきこんだ。ノア先輩がこんなことを言うなんて。
「……あ、ありがとう、ございます……」
いつの間にか、口が笑っていた。今日は本当におかしな日だ。
「……ここならよさそうね。ここでお願い」
数十、いや百数十冊の絵本が入るであろう本棚の場所が決定した。
急ではあったものの、なんとか四人が帰ってくる前に終わらせることができた。
私の左隣では、完成した本棚をウタハ先輩が見ていた。
片方の眉を上げていて「ほらね?」と言いたそうな表情だ。
その後ろにいるヒビキとコトリは眉間にうっすらとしわを寄せていた。
それを見ていると、ウタハ先輩が話しかけてきた。
「それにしても、ずいぶんと急な依頼だったね。
走って私を呼んできたときはまたトラブルで怒られるのかと焦ったよ」
怒った、という言葉で心臓が跳ねたが、深く息を吐いて落ち着かせた。
「それについてはごめんなさい。急に頼んでしまって」
「いや、謝らなくても大丈夫さ。決められた期限で完成させるのは当然のことだからね」
そこへヒビキが入ってきた。犬耳がいつもよりだらしなく垂れていた。
「……でも、何の機能も入れられなかった」
私はうなずくことも話すこともしなかった。
余計な機能を入れたら、間違いなくコユキに疑われる。期限が短くて良かった。
すかさずウタハ先輩がフォローを入れた。
「まあまあ、たまにはこういう素朴なものを作るのもいいじゃないか」
それを聞いたヒビキもコトリも、眉間のしわを無くした。
「そうだね。いつもはこれよりずっと複雑な物ばかり作ってたから」
「新鮮な機会でした!」
二人の感想を聞いてから、ウタハ先輩が話をまとめた。
「そんな感じさ。それじゃあ、私たちはこれで」
ウタハ先輩はそう言って、ヒビキとコトリと共に反省部屋の出口に向かって行った。
出ていく直前に、私は三人を呼び止めた。
「あ、ちょっと待って頂戴」
三人の足が止まった。
「……さっき言っていた『トラブル』のことは、後で詳しく聞かせてもらうわ」
三人の足取りが重くなった。