Fate//////X 9
Ⅵ アーチャー→ルーラー
調停者にして裁定者あり。
魔への対抗手段、抑止力からの介入か。
しかし、魔にも介入手段はあり。
長きにわたる因果操作。
それが魔を、第五次の終局まで残らせる。
ゆえに——
神明裁決も、真名看破も使わせない。
第八ではなく、七騎の内の一騎として。
ルーラーにも、そのように振る舞ってもらう。
それが
第九話「マスクドカレン」
疑似サーヴァント。詳しいことはよくわからないが、一例として——本来聖杯戦争では召喚できない存在を、現世の人間を依代として憑依召喚する——というものがあるとか。それで、人格がどちらに寄るのかもケースバイケースらしいのだが、今回の場合は『人格:ほぼカレンちゃん』『能力:双方』という状況らしい。ちなみにカレンちゃん呼びは彼女に強制されている。何?
閑話休題。
ところで、正確にはアムール神とエロース神の力が憑依しているようなのだが、カレンちゃんとの相性によるものなのか——エロース神についてはあまり触れず、基本的にアムール神の疑似サーヴァントとして振る舞っているようだ。
で、俺とセイバーはというと——
なぜか聖骸布で拘束されて引っ張られていた。なんでだよ。ていうか全然外れねぇ!
「ふふふ、その聖骸布は男性への絶対的な拘束能力を持ちます。このままおとなしく冬木教会まで向かいましょう」
「元から俺らもそのつもりだったんだよ。エルドラゴは明らかにサーヴァントの域を超えてるからさ、キレイの監督者権限でどうにかなんねぇかってな」
と俺が言うと、カレンちゃんはややムスッとしながら口を開く。
「今更あのダニ神父がどうこうできることなどありません。ただ中立地帯という場所を使いたいだけですので」
「え、ダニ?」——今なんて?
「ダニです。まあそこはいいのですそこは。とにかくダニ神父が監督者権限を振りかざしたところで、あんなデカブツどうにもなりません。なにせ小聖杯の機能を移植されているのですから。
あれはおそらく、十年前に冬木式聖杯戦争が失敗したと認めたがゆえの手段でしょう。次代のホムンクルス——つまり、イリヤスフィールには小聖杯の調整を行わず、此度召喚したファヴニールにその機能を移植する——それを十年前の時点で決定していたとしか思えません。
そこまで入念に準備された切り札を
——小聖杯の機能を持ったハイサーヴァントを、意図的に暴れさせている。それも御三家のアインツベルンが。証を刻む——要は存在証明のようなものなのだろうが、ここまでするあたりに、不思議と悲壮感が湧いてきていた。もう他に成せることがないと、彼らは自身をそう結論づけてしまったというのか。それはどうにも、もの悲しい。
などと感傷に浸っていると、バゼット氏が俺の方へ顔を向けた。
「まあその、コホン。カレンの言峰キレイへの見解については物申したい部分もあるのですが、しかし発言内容は概ね事実。【煉獄】を警備している私としても、これ以上この町を混沌に陥れるような真似はさせたくないのですが——いささか相手が規格外だ。私の切り札も刺さるかどうか」
切り札。彼女が背負っている、筒の中身だろうか?
「へぇ、切り札って?」
「ああ。それはまだ話せません。あなた方が味方であろうと、この状況下では下手に手札は晒せません、悪しからず」
「それはそうですね。ところでこの聖骸布、外してもらえませんかね。とりあえず敵同士ではなさそうですし」
「それは私の管轄外です」
くそ! マジでこのまま教会まで行くのかよ!
「セイバー、外せない?」
「どうやら概念的な拘束能力のようでな。先刻の——推定キャスターによる拘束スキルより強固だ。恐れ入った」
概念武装というやつか。しかもこっちはルーラーとしてではなく元からカレンちゃんが持っているらしい。強すぎんだろ。
「おっと。そろそろ教会ですね。ここから私は
とか言っていきなり目元まですっぽり覆うタイプの、ヘルメットみたいな仮面をつけ始めるカレンちゃん。その変装になんの意味が?
「あの、カレンちゃん。それ何?」
「カレンちゃんじゃない、マスクドカレンです。ダニ神父に合わせる顔、いえ逆ですね。あの男が合わせる顔などないでしょうから、私からの心遣いです。……とでも、思っておきなさいな」
「は、はぁ」
あの神父とこのシスター、さてはめちゃくちゃ仲悪いな? そう推測する俺なのであった。
◇
——で、冬木教会に到着したのだが。
「む、遅かったな少年。待ち侘びたぞ」
ポニーテールで袖付きコートのトウコさん(裸眼)が先に到着していた。何一つわからない。
「カレンと蒼崎氏。遠坂レンが思考停止しています。説明の必要がありそうですが」
「あら。か弱い生き物なのですね、ふふふ」
「一からか? どうしてこうなったか話さんといかんか?」
「——あッ、当たり前でしょーが! あんたさっき俺を逃してそれでさァ!」
「ああうん、それで死んだんだよ」
「はァ!?」
「で、新たなボディが起動したワケだ」
「はぁ——ハァ!??」
冠位人形師、なんでもありすぎだろ!!!
などという俺の叫びなどどこ吹く風とばかりに、キレイも奥から歩いてきて話が進んでいった。
キレイは、ファイリングされた調査書類を開きながら衝撃の真実を語り始める。
「まず、現【煉獄】において十年前に起きた極小事象収納——通称フェイタリティ・ゼロだが。これは
「は? なんでそんなことわかるんだよキレイ」
「【煉獄】中枢と、円蔵山地下に、魔力のパスが検知されたからだ」
魔力——あるいは地脈を通じた、パス。そういうことなのだろうが、にしたってなんでそんなところに——
「——いや、冬木式聖杯戦争の基盤術式がそこに刻まれているってことかよ」
俺の問いに、この場の全員が頷いた。なぜかセイバーまでも。
「いやなんでセイバーも知ってんだよ! いつ打ち合わせした?」
「いや、そんなことはないし、実際オレもそんなこと知る由もなかったんだが——」
想定外に困惑しているセイバー。それを見たキレイが邪悪(っぽい)笑みを浮かべながら口を開く。
「ふ、
「……困ったことに、そうなる。
だから事情通であると、セイバーはそういうニュアンスで言ったのだろうが、他ならぬセイバーが自身の来歴を思い出せていないため、誰よりも納得いっていないようだった。少し気の毒ですらある。
「まあ待て少年。セイバーの過去については、申し訳ないが一旦置いておこう。現時点でどうこうできる問題ではないからな。
次はうちのバーサーカーが敗れた件についてだ。私の先代ボディからログは送られているから、エルドラゴの情報や、彼らの向かった先はわかっている」
トウコさんはそう言って、プロジェクター型の礼装で
全ステータスがAで、取り込んだサーヴァントの魂が
「蒼崎氏。これはあまりにも均一的なステータスではないですか? まるでそのようにデザインしたかのような印象を受けるのですが」
バゼット氏の発言に、トウコさんは頷く。
「ああ。秩序だった均一さだ。芸術的ですらある。まるで
トウコさんの言葉に、キレイが口を開いた。
「——そうだ。それこそが大聖杯に混入したサーヴァント。
そこへ付け足すように、カレン——もといマスクドカレンが言を発する。
「ふふふ、私の出番はそこなのでしょうね。その魔性はすなわち悪魔。運命論に絡みつく、確率固定の悪魔。遡ること百三十年前、第三次聖杯戦争にてアインツベルンが召喚するも、存在確立に失敗して即座に爆散したとされる、キャスターのサーヴァント。
——その名は
実際は退去ルートを事象操作して、大聖杯に潜伏していた性悪なのです。ふふふ、これは迅速に祓わないといけませんね」
などと笑顔で愉しそうに話すマスクドカレン。俺この人もだいぶラスボス適性あると思います。
などと独白しつつどうにか状況についていっていると、キレイが俺の肩に手を置いた。
「ラプラスの事象操作は現状不完全だ。だがそれでも、バタフライエフェクトじみた工作は可能だった。
それによりヤツは、
「は……?」
俺の困惑をよそに、キレイは続ける。
「流石に事象収納まで起きたのでな、魔術協会とも共同で事後処理を行ったのだが——聖杯戦争中どころか、各陣営がサーヴァントを召喚していたであろうタイミング——もっと言えばさらに数年前ですら、何度か大聖杯内部にて魔力の蠢動が起きていたことがわかった。そしてその度に、
言葉が出ない。そんなことまでできるサーヴァントが黒幕だというのか。エルドラゴ以外に、まだそんな奴がいるのか。そんな奴らに、俺たちは勝てるのか——? 不本意だが、弱気な自分が溢れそうになる。
だというのに、ことの他頼もしく、キレイは続けた。
「だが、実際には受肉しなかった。ラプラスの目論見は防がれ、奴は未だ大聖杯の中から微かな干渉をするしかないままだ。これがどういうことかわかるかね、レン?」
「どう、って。因果干渉できるようなヤツに対抗できる規模の存在なんて、そんなの例えば神様とか世界とか——」
「そう、世界だよ少年」
人形師は不敵な笑みを浮かべる。
「アラヤの抑止力、あるいはガイアの抑止力。前者が霊長の集合無意識による、人理継続の力だとすれば——、後者は星の存続を望む、星そのものの意思だと言える。
今回の場合、アラヤの抑止力が干渉した可能性が高い。人理を守るために——第四次聖杯戦争で召喚されたいずれかのサーヴァントに
「守護者の役割……」
つぶやく俺から離れ、キレイは
「——ラプラスの受肉を止めたのは前回のアーチャー。セイバーの持つ聖剣を再現し、天に穿たれた、ラプラスの這い出る孔を破壊した守護者。
それはなセイバー。
——
キレイは、セイバーの真横でそう言った。
次回「エリクシール・エルドラゴ」に続く
あと三話で完結予定です!!!