Fate//////X   作:耳民美

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最終回です!!


#12「フェイトエクス——」

Fate//////X 12

 

 

 

 ——終局である。

 

 時を集束させるラプラス。その力の一端を受けて誕生していた俺もまた、無限の並行宇宙を受け取るフィルターとなっていた。ゆえに——ラプラスの事象固定に対抗し得る存在だったのだ。

 

 その俺が、最後の令呪を消費して——セイバーへとオーダーを送る。

 

「——令呪を以て命ずる。

 ……“世界を救え、セイバー”!」

 

 本来、アルファとオメガの間に存在する無限の可能性——あるいは量子の揺らぎ。それらの可能性を一身に受けた俺が——俺の魔力が、令呪と共にセイバーへと至る。

 

 かくして——聖剣『QuuuuuuX(クァックス)カリバー』は更なる次元へと到達した。

 

 聖剣から放たれる魔力の奔流が、運命の固定を解き放っていく。事象操作によって動けなくなっていた面々は、自由を取り戻していた。

 

 ——カレンちゃんは、そもそも複数の存在が重なった疑似サーヴァントという揺らぎゆえに——そのおかげで動けていたようだが、それでも崩壊を食い止めてくれている以上——これ以上の要求はできない。後は、俺たちで決める。

 

 それぞれが、この状況でできることのために奔走する。

 

 地下空洞組はおそらく術式の破壊に着手してくれているだろう。トウコさんが爆弾を用意していたので。それはどのみち行わねばならないこと。これ以上聖杯戦争を起こさせないためにも。だからこそ、あらゆる懸念を、そして事象介入を食い止めるためにも——受肉を果たしつつあるラプラスを、今こそ倒す。

 

「——そう。そこまでして私を否定するんだね、遠坂は」

 

 一見寂しげに、エミヤ・ラプラスは話す。

 

「——運命支配なんて、なんでやった?」

「それは、私の力としてそれがあったから。私のやりたいことだったからだよ」

 

 エミヤ・ラプラスは事も無げに——いやむしろそれこそが己の存在意義であると、そのような意思で答えた。

 

 ——決裂を、意味していた。

 

「なら、この先も、迷いながらでも進みたいっていう——()()()()とは相反するわけだな」

 

 俺は、ようやく生まれた願いを口にして、

 そこで彼女は、納得したようで——今度こそ本心で、寂しげに笑った。

 

「ああ、そっか。これ聖杯戦争だもんね。

 “汝、自らを以て最強を証明せよ。”

 ——お互い譲れない、願いのために」

 

「——ああ、そうだ。だから。ラプラス、俺はお前を否定する。決まりきった未来に、自由はない」

 

 俺の言葉の直後、セイバーの聖剣はついに虹色の輝きを放出する。

 それこそが無限の可能性——カレイドスコープの輝き。

 俺の魔力と令呪、そして持ってきていた残存宝石全てのブーストを受けて——セイバーはその真名を高らかに叫ぶ!

 

「——この輝きは宇宙の心、自由の奔流。可能性の剣よ、揺らがぬさだめ(Fate)を解き放て!

 

 ——『運命拓く万華の剣(クォンタムカリバー)』ーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!」

 

 その光は揺らぎの輝き。虹色の極光は剣より放たれ、ラプラスごと大聖杯を消滅させた。

 そして世界は、再び万華鏡の如き無限の可能性を取り戻したのだった——。

 

 

 

 ——吹き荒れる光の奔流の中、俺はセイバーと向き合う。

 役目の終了、そして大聖杯消滅により、セイバーは今にも退去しつつある。

 そんな、光の粒子となりつつある相棒に、俺は最後の会話を投げる。

 

「——セイバー。俺、まだ何者にもなれてない。けど、けどもう——()()()()()()()()()()()()()

 

 まだまだ頼りない願いだ。それでも——今やっと俺は、魔術師でもなく遠坂凛のなり損ないでもなく、俺という、遠坂レンという一人の人間としての願いを持つことができた。

 それは間違いなく、たった数日とはいえ共に戦い、何度も支えてくれた——俺のセイバーのおかげだった。

 

 俺の言葉を受けたセイバーは、「そうか」と呟き、そして、消える寸前で言葉を紡ぐ。

 

「その先は荒野だ。まだ見ぬ光景を切り拓かねば倒れるだけの、果てしない道筋だ。

 でも——自由だ。レン、そこでキミは自分の意思を貫き通せ。であればきっと、例えキミが誰かの偽物であろうと、迷子であろうと、自分だけの道を——未来を、見つけ出せる。

 ずっともがいてきた先輩として、それだけは保証するよ」

 

「セイバー……!」

 

 消えていく、セイバーが、消えていく。もっと色々聞きたかった、話したかった。なんでもない、どうでもいい話もしたかった。なのに、ああ——セイバーが、消えていく——

 

「——大丈夫だよ、遠坂(マスター)。オレもお前も、頑張っていれば、またいつかその夢は——道は、交わるから」

 

「——!」

 

 そうして、セイバーは笑顔を見せながら、消えていった。

 ——夢は、そして道は交わる。

 俺はその言葉を、しかと胸に刻んだのだった。

 

 

 

 ◇幕間Ⅰ◇

 

 そして、戦いは終わった。役目を終えたルーラーもまた退去していったが、依代となった少女——カレン・オルテンシアはその場に残る。彼女も一人の、今を生きる人類なのだから。

 

「——さて。やることはまだ沢山ありそうですね」

 

 気だるげに、その上で慈愛の色を重ねながら、彼女は辺りを見回す。

 

「遠坂レンは大丈夫でしょう。あれだけ啖呵を切ったんですから。問題は——」

 

 そう呟きながら、彼女は眼下のイリヤスフィールへと目を向ける。次元融合は解除されつつあり、カレンは【煉獄】側へ移動していたのだ。

 

「——ま、大丈夫ですね。御三家同士、どうにでもしてくれるでしょう」

 

 その上で、投げやりだった。ある意味共闘したレンを信頼しての発言だったのかもしれない。が、単に面倒だった可能性もゼロではなかった。それでも、彼女の精神性は高潔である。ラプラスをどうにかしたレンであればなんとかできるだろうと、そう思ったのだ。

 

「あとはダニ神父ですが——」

 

 彼女は後ろを振り返る。既に次元融合は解除され、冬木地下空洞は元の円蔵山地下へと戻っていった。

 

 言峰キレイは、蒼崎トウコは、そして——バゼット・フラガ・マクレミッツは。地下空洞へ転移していた。

 

 

 

 ◇幕間Ⅱ◇

 

 爆発物の用意もしていたが、それごと大聖杯は吹き飛んでいった。セイバーの聖剣による一撃で、ラプラスも大聖杯も、跡形もなく。

 

 ——準備の意味がなかったとは思わない。プランは幾重にもあった方が良かったであろう。かつて聖杯戦争に参加した身としても、歴戦の代行者としても——私、言峰綺礼はそう述懐していた。その上で、尚。

 

 ——私は、あの悪魔の生誕を否定したくなどなかった——と、身についた道徳観とは真逆の本心が浮かび上がってくる。

 何度振り払おうとも消えることのない想念、あるいは強迫観念。産まれ落ちた瞬間より抱き続ける、悪徳。

 

 そして悪徳であると同時に——ただ純粋に、何者かの生誕を祝福したいという願いの発露。その感情が、私をこの場へと誘っていた。

 

 これが、これこそが——言峰綺礼の在り方なのだ。

 十年前の戦いで次元が歪もうとも、その心根が変異することはついぞなかった。ならば、次元異常が完全に解消された今も当然、私の心は歪んだ悪徳を孕んだままだ。

 

「ところで言峰神父」

 

 背後で蒼崎橙子が口を開く。敵意こそ見せてはきていないが、信頼はなく、精々戦力としての信用程度と言ったところか。——そのような値踏みをしつつ、私は彼女の方へ向き直る。

 

「なんだね、人形師殿?」

「いや何——()()()()()()()()()()()()()()とな」

 

 ——よもや、そこまで見透かされていたとはな。私は思わず噴き出しそうになった。

 全く、まるで未来でも見てきたかのような口ぶりだな。

 

「信頼されていないな、私も。私のような手合いに何か心当たりでも?」

「あるよ。劣等感の塊、真面目すぎるヤツに悲観主義の男。思い返せば両手でも足りんかもだ」

「君の交友関係は暗黒次元か?」

 

 私の問いに、女は笑った。

 

「はっ、そうでもないさ。お前みたいな外道は案外そこらじゅうにいるというだけだよ。だからしばらく話していれば察しがつくこともある。今回もそうだ。ただその上で——よく大人しくしていられたな」

 

 蒼崎橙子の言葉に、私もまた小さく笑う。

 

「——いや何。本当なら手を出したかったのだがね。ここぞというタイミングで、私を貫く殺気が見えてしまってな」

「殺気? ——ああ、そういうことか。

 ——お前、宝具(フラガラック)を持ち出されるほどだったのか!」

 

 腹を抱えて笑う人形師。だが確かに言われてみれば面白おかしい。

 少し離れた距離とはいえ、あの逆行剣ならば私を穿つだろう。私が我欲に走った瞬間を、あの執行者は見逃さないだろう。

 

 ——思えば。【煉獄】警護の関係で、彼女ともそれなりの付き合いになっていたなと思い至る。

 こちらにも、見透かされていたようだ。

 

 

 “——言峰綺礼。お前の望みは、叶わない”

 

 

 かつて告げられた言葉がフラッシュバックする。おそらく全ての時を見たのであろう、衛宮切嗣の発言。その言葉は重々しく、そしてどこか清々しく感じられた。

 

「——そうか、十年か。ふ、私も衰えるわけだ」

 

 戦いは終わり、日常が舞い戻る。我が悪徳は成されることもなく、後天的な善性で駆動する日々がまた始まる。

 

 それも、余生か。

 

 ならばせめて——今も向けられている刃——それに穿たれぬ生き方でも極めてみるか。そう思ったのであった。

 

 

 

 ◇エピローグ◇

 

 春が来た。

 俺、遠坂レンは晴れて高校三年生になり、忙しない日常を送っている。

 

 朝食を二人分作り、食卓へ持っていく。

 

「イリヤ。いつまで寝巻きなんだよ」

 

 パンとスクランブルエッグを置くと、イリヤは少し不機嫌そうに目を細める。これで一つ年上ってマジ?

 

「後で食べるからほっといて」

「それはいいけど、そろそろバイト探さないか?」

「気が向けばね」

 

 帰る場所のなくなったイリヤを居候させたわけなのだが、絶賛ニート中なので、このままでは家計がやばい。そういうこともありバイトを提案したのだが、コイツ今まで箱入り娘レベル一〇〇だったせいでまるでその気を起こさない。綺礼なら何か策を出せるか——?

 

「いや、あいつに借りは作りたくない。

 というわけで俺は学校に行くから、留守番よろしくな」

「はいはいー」

 

 手をひらひら振りながらテレビをボケーっと見るイリヤスフィール十九歳(になる年)。無理矢理生かしたのは俺なだけに、実のところそこまで強く出られなかったのだった。

 

 

 ——そう、無理矢理生かしたと言えばもう一人。

 

 穂村原学園の昇降口に到着するも、生徒はまばらで——つまりは少し早めに登校したのだが、それにも理由がある。

 

 この時間に登校している同級生がいるのだ。

 

 そいつは赤茶色の髪をゴムバンドで留めた少女で、本来ここにはもう存在しないはずの存在で、俺がラプラスの力——その残り滓を使って無理矢理存在できるように操作した元・宿敵で——

 

「——朝早いんだね遠坂。会いたくなかったなー、私」

 

 ——要は、衛宮ツカサであった。

 

「そいつは悪かった。でも俺はお前と話がしたかった。衛宮にも新しい夢とかできてねぇかなってな」

「はぁ? 何度も言ってるけどウザいよね遠坂。現状でもうんざりなのに、考えの押し付けとかサー」

「お前もやってたろ? 人にされて嫌なことはするんじゃないよ」

「じゃあアンタはどうなのさ!?」

 

 ギャーギャー喚く元ラスボスに笑顔を向けて、俺はこう続ける。

 

「確かにエゴだよ。俺のエゴ。でも、聖杯戦争を戦い抜いたんだからさ、願い事叶えさせてくんない?」

 

「う、それ大聖杯に混ざってた私への当てつけ?」

 

「あ、バレた。でも俺、本当にお前とももっと話してみたかったからさ。

 事象を固定できなくなった、ただの人間のお前と、どうでもいい——なんでもない会話をしたかったんだよ」

 

 朝日が廊下を照らし、春風が吹き抜けていく。

 

「……変わってんね、遠坂。私みたいな性悪が好きだなんてさ」

「大丈夫だよ。俺の周りそんなんばっかだから」

 

 キレイとかカレンとかを思い浮かべながら俺は答える。

 

 でも本当に、大丈夫だ。

 

 未来は未知で、荒野を切り拓くのは俺自身。

 それでも俺は、進んでいける。

 

 その道行きの先で、夢が交わることを信じているのだから。

 

 あの赤い剣士と、いつかまた会えると信じているのだから。

 

 

 

最終話「フェイトエクス——」、了。




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