Fate//////X 4
Ⅲ アサシン
——その仮面は既に、壊れていた。
第四話「クラスアサシン破砕」
——ランサー、バーサーカーとの激闘、そしてかろうじての勝利。思うところも様々にあるが、話さなければならないことも多い。それで俺は——
「それでなんで
深夜にシンジから猛ツッコミを受けていた。二十二時のことである。
「しょうがないだろシンジ。魔術師のことを話しやすい家で、なおかつ——」
「聖杯戦争に負けたサクラが駆け込むなら家か冬木教会かってんだろ? わかってんだよそんなことォ!」
「お、話が早くて助かる」
「その上で寝巻きまで持って来てるからツッコミ入れてんだよ!!」
「だって補導時間だからな、もう」
条例がそうなっているのでやむなくの判断なのだった。
「まあまあ。もう魔術の秘奥絡みでいがみ合う間柄じゃないんだし、な?」
そう言ってシンジの父・ビャクヤさんがミルクコーヒーを三人分淹れて持ってきた。
『マスター。毒物の気はなさそうだぞ』
先んじて飲んだセイバーが念話で伝えてきたが、そんなことはわかっている。間桐家は本当に、魔術の世界から離脱したのだから。権謀術数で俺を追い落とす必要などもうないのだ。
「サクラの分は、あの子が風呂から上がったら持って来るね」
そう言ってビャクヤさんは、デカい応接間から出ていった。遠坂邸も、かつてはこれぐらい大きかったなぁなどと思い出した。
「で、遠坂。わざわざうちに来たのは僕に用があってのことなんだろ?」
「ああ。魔術師じゃないシンジに頼むのも悪いんだが——」
「いいよ別にさァ。僕だっていつまでも冬木が物騒シティなのは嫌だからね。女の子と遊べないじゃないか」
こいつマジでモテるので平気でこういうことを言うのだが、事実陳列でしかないため腹立つが拳を収めるしかないのだった。あとその顔の広さで助けてくれているので、普通に助かっていた。
「なんかね、最近オフィスビルで一酸化炭素中毒の死亡事故あったじゃん」
「あったな。あれ魔術師のペーパーカンパニーだろ?」
「らしいね。で、本当は聖杯戦争に参加する予定だったみたいなんだよね。それが、あのザマ。社長はギレンって名前の男だったらしいんだけど、心当たりある?」
思い出してみるが、俺はまだそんなに時計塔の魔術師との関わりはない。せいぜい【煉獄】に用があって来日した魔術師と顔合わせした程度だ。そこにはギレンという名の人物はいなかったと思う。
とはいえ、それほどの組織力・経済力を持つ魔術師が、言ってはなんだが、ガスの元栓レベルのミスで死ぬとも思えない。そもそも一般人では致命的であろうとも、ギレンに刻まれている(と思われる)魔術刻印が——彼を無理矢理にでも延命させるべく術式を起動させるはずだ。となると、尋常ならざる要因で始末されたと見るべきだろう。
「——アサシンだろうな」
俺はつぶやく。シンジは魔術に関わっていないため——前当主死亡により継承が途絶えたからだ——細かい事情はわからないだろうが、ともかく俺の言わんとしていることは察してくれたようだった。
「土地を貸しているところにも色々聞いていたんだけど——例えばメールでやり取りしている中でさァ、『これは毒だねぇ。粘膜接触したんじゃなぁい?』なんて分析していた人がいたんだよね。それがさァ」
ミルクコーヒーをズッと飲み干すと、シンジは座った目をしてこう続けた。
「——『これはガス設備のミスだねぇ』ってさ。おかしくない?」
「……聖堂教会の隠蔽、だろうな」
「ま、そうなるよね」
とはいえこれは言峰キレイが聖杯戦争運営のためにやっている神秘の隠匿補佐だから、別段おかしなことではない。一般市民には平穏(?)を。ということでもある。つまり今回気にするべきは——
「隠蔽工作があったってことは、聖杯戦争絡みで確定。だから似たような事件・事故があった場所を探してまわれば——ってことだよな、シンジ?」
「ご名答。で、ここにいい感じの情報があってね。なんか可愛い女の人に話しかけられたナンパみたいな話の目撃談なんだけど。ホイホイついていった奴が数人いて軒並み行方不明なんだよね」
「ますますアサシンめいてきたな。ビンゴだろもう」
「くれぐれも気をつけてって補足は付くけど、追ってみる価値はありそうだよね——」
と、シンジがそこまで言ったところでドアが勢いよく開き、バスタオルだけで裸体を覆ったサクラが現れた! なんですの!?
「兄さん。あまり遠坂先輩を危ない目に遭わせないで欲しいんですけど」
「うわああああああサクラァ! 服着ろって! 兄妹っつってもさァ!」
「嫌な予感がしたから急いで来たんです。案外ウブなんですね兄さん」
「見てくれよ遠坂ァ! ランサー召喚してからコイツすげー主張激しくてさァ!」
この姿のサクラを見れるわけねぇだろシンジ。お前が言ったんだぞ兄妹つってもってな。
「兄さん。私は今まで溜め込んでいただけで、これぐらい毎回キレ散らかしていたんですよ? ランサーがいなくなってしまったのは寂しいです。でもそれが聖杯戦争の常ですから先輩を責めることはしません。けどもう微笑でやり過ごす私とはおさらばしたんです。ランサーとの約束でしたから。わかりましたか兄さん?」
「はい……すみません……」
蛇に睨まれた蛙みてぇになるシンジだったが、俺はそう簡単に諦める気にはなれなかった。
「悪いサクラ。それでも俺はまだ止まれない。セイバーがいる以上、俺にはまだ戦う力がある。事情を知っている俺たちが、聖杯戦争を投げ出すわけにはいかないんだよ」
それを聞いて、サクラの表情が渋くなる。
「強情ですね、先輩。確かにもう私じゃ、お二人を止めることはできません。けど、先輩が義務感だけで突っ走っているのは正直見ていられません……」
「サクラ……」
サクラの言いたいことだってわかる。先刻の決着後に、セイバーから言われた事は——夢の有無は——俺の心に突き刺さっている。
確かに夢がない。やりたい事も、なりたいものも、思いつかない。だから俺は空っぽで、虚無で、そして迷子なのだろう。けれど——
「それでもさ、サクラ——それに、セイバー」
俺は部屋にいる面々に意識を向けて、
「それでも、この町の異常を終わらせないと、夢だって見られないだろ?」
今はただ、暫定的な目標を語るだけだった。
◇
——翌日。十九時。新都中央公園。
シンジの情報によると、ここでナンパのようなことをしている女性がいたそうで、複数の目撃談や行方不明事件を照らし合わせた結果——第五次聖杯戦争開始後から発生した連続失踪事件であることがわかった。そして、この事件は、例の魔術師ギレン死亡事故——あるいは事件——より後にのみ発生している。
「セイバー。思うにこれは、魔力供給だと思うんだ」
「奇遇だなマスター。オレもそう考えている。マスターを失った推定アサシンが、退去対策で一般人や魔術師を攫い——そして生命力及び魔力を吸い取る——いわば『魂喰らい』を行っている。そういう推理だな?」
俺は肯定の頷きで返した。
「それで、この先の森まで歩いていっているらしいんだよな」
「そして時刻も今ぐらい、と。それにしては姿が見えんがね」
「問題はそこなんだよな。タイミングとしては三日に一回で今晩あたり。ローテーション的にも場所はここ。状況から見て、警察が動き出そうともやめるとは思えないしな」
退去の危機である以上、最悪の場合衆目に晒されながらの魂喰らいもいずれは起きかねない。そういう意味でもここらで仕舞いにしてもらいたいわけなんだが——
そういう思いもあり、俺とセイバーは森の中へと歩いていった。そして——
——最初に聴こえたのは破砕音。次いで打撃音、打撲音、吐瀉音、破裂音。
嫌な予感を抱いたまま、俺たちは森内部の開けた広場へと到着し——
アサシンを抹殺した、
その人物は——一対の、太鼓のバチの様な物を真紅の血で染めた、
第五話「Ⅴ 来訪者/七ツ夜」に続く