Fate//////X   作:耳民美

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#05「V 来訪者/七ツ夜」

Fate//////X 5

 

 

 

 新都中央公園に存在する森——その中の開けた広場にて、その男は立っていた。血塗られたバチのようなものから滴る液体は、もはや様々なモノが混ざっており何とも取れない。ただそれが——サーヴァントを刈り取った後であることだけが克明な事実であった。アサシンと思われるサーヴァントは、粒子となって消えていった。

 

 

 

第五話「Ⅴ 来訪者/七ツ夜」

 

 

 

 冬木市は比較的温暖ではあるが、それでも冬季の夜間帯は当然冷え込む。二月も初旬、当然ではある。だが——

 

 ——それにしてもこの震えはなんだ?

 

 眼前の男から殺気が見えないことが、どうしてこうまで恐ろしい? 俺の恐怖心は、もっと根源的な部分から湧いてきているように感じられた。

 

「……マスター。そこから動くな」

 

 セイバーは剣を構えて男を見据える。その表情には切迫した印象を抱く。セイバーでさえ、対サーヴァント戦並みの警戒をしているのか?

 

「————」

 

 男は、ゆらり、と身体を左右に——流れるように動かし、そして——

 

 微風のようなさりげなさで、セイバーの眼前へと迫っていた。

 

「——!」

 

 セイバーは剣でバチによる殴打を迎撃するがその動きは実際サーヴァントに比肩する速度と精細さであり、サーヴァントでない人間がここまでの域・速度・膂力を内包する動作をどのように会得したのか、意味がわからなさすぎて夢かと疑うほどである。

 

「チィ——!」

 

 セイバーはバチの連続攻撃に適応して剣戟速度を上昇させていく。意図的なテンポのブレにも対応し、どうにかペースをこちら側へと傾けていく、その刹那——

 

「——脚ッ!」

 

 男は回転蹴りの要領で、あたかも己がヤジロベエであるかのような大回転を以て連続回転()()を繰り出す——!

 超強化した眼力でどうにか追えるその一撃一撃は、恐るべきことに、足先に神秘を帯びた小刀が装着されていることでその殺傷力を格段に向上させている。ていうかサーヴァント相手に勝ちを取りに行くその判断力と行動力と——何より説得力はなんなんだ!

 

 セイバーは斬撃脚を済んでのところで躱しながら自らも蹴りを下から上げて足先の得物を弾き飛ばす! だがその一瞬後には既に、男の蹴りがセイバーの腹部——鳩尾だけはどうにか回避——を直撃し、サーヴァントでありながら吹き飛ばされた。

 

 いや——どうやってサーヴァント相手にここまでの戦いを……?

 

 戦慄する他ない。セイバーの実力は、まだ数日とは言えしっかりとこの目に焼き付けており、明らかに練度が高く、そう簡単に押されることはないと確信できる。だというのに、()()()()()()()()()

 

「——マスター。こいつ、()()()()()()()()()()

 

 吹き飛ばされながらも体勢を立て直したセイバーが、結果的に俺のそばまで来て敵との距離を取ることに成功しており、それでできた僅かな猶予で言葉を交わす。

 

「人外と? サーヴァントってことか? あ、いや、魔獣とか、グールとかそういうやつとか?」

「——それもあるだろうが、知性ある上級魔性と闘った人間の動きと言える。つまり——()()()()()()()()()()()()()()

 

 セイバーの分析が正確だったのか、男は少しだけ目を見開き、そして口を開く。

 

「……俺の()()を凌ぐとは。毒の女共々、今この町には生半ではない者たちが集っているようだな」

 

 ようやく発した言葉により、眼前の男が会話可能な存在であることを理解し、少しばかり恐怖心が薄れる。喋らないまま襲いかかってくる存在ほど恐ろしいものはないのかもしれない。

 

「……あんた。俺と同じくマスター——って感じじゃないな。何しに来たんだ」

 

 どうにか言葉を紡ぎ出す。セイバーがすぐ隣にいなければ決して取れなかったであろう行動。だが、取れるのなら取る。使えるカードは全て使う。それしかなかったのだ。

 

「何しに——そうだな。()()()()()()()()()()()()

 

 事もなげに、男は答えた。サーヴァントとも撃ち合えるほどの技と力を持った男は——聖杯戦争とは全くの無関係であったのだ。悪夢じゃないならなんだというのか。

 軽く絶望しかけていた俺だったが、その背後から、聴き覚えのある(トウコ氏)の声がした。

 

「退魔四家——七夜(ななや)の人間とお見受けする」

「——トウコ、さん」

「また会ったな少年。そして、七夜と会ってよく無事だったな」

 

 トウコ氏はバーサーカーと共に前へと出て、そして七夜と呼んだ男へと言葉を投げる。サングラスの奥の目は、こちらからは全く見えなかった。

 

「不意打ちにせよアサシンを殺した腕前と、足捌き、噂に名高き七夜キリとは貴殿のことかな?」

「——然り」

 

 七夜キリと呼ばれた男は、感慨もなく即答した。

 

「すまんが七夜氏。これは部外者にいてもらっては困る儀式でな。人理にも、人魔の境界にも傷を残さず終わらせるよう運営は奔走している。過程はともかく、悪意で成された儀式でないことだけは保障しよう」

 

 保障OK。要はそういうことだった。

 

「そうか」

 

 そう呟いて七夜キリは踵を返す。その異様なまでに恐ろしくも美しい解体者は、まるで元からいなかったかと錯覚するほどのなんでもなさで冬木から立ち去って行く。その前に——

 

「——だが。退魔を生業にしてきた俺が()()足を運んでしまうほどの——それほどの【魔】がいることだけは、頭に入れておくといい」

 

 そんな不気味な発言を残していった。

 

 

 ——脱力で座り込んでしまいそうになる。なるのだが、まだそれはできなかった。なぜならば、そう——

 

「あークソ、俺も今のナナヤとかいうやつと戦いたかったぜ」

「たわけ。ライダー戦の前に不可逆の傷を負いかねん相手だったんだぞ」

「全力ってのは何も、万全だったらいいとも限らねェんだぜマスター。——なぁ、そう思わねェか、セイバー?」

 

 ——何故ならば、眼前のバーサーカー陣営と、今まさに一触即発だったからだ。

 

「——だそうだが、どうするマスター?」

「どうするも何もなぁ。……トウコさん。人形泥棒の件はもういいのか?」

 

 俺の——やや苦し紛れの——問い。それに、

 

「ああ、キャスターの仕業であろうことは消去法で分かった。だからもう後腐れなしというワケだ」

 

 歯を見せるほど吊り上がった笑みで、冠位人形師は答えてみせた。

 

 ——やるか、やられるか。おそらくシンプルな闘争になるだろうが、故にこそ地力の差が物を言う。環境に恵まれただけで勝てる相手ではない。バーサーカーだけでなく、蒼崎トウコにも。

 

 秘蔵の宝石、その使用も即断し、封印を解除する。

 

「——ほう。出し惜しみなしとは嬉しいな、少年」

 

 トウコ氏は担いだ筒状の匣を地面に突き刺す。それは瞬く間に変形し、巨大なエネルギー砲の形状を取った。

 

「——さて、始めようか遠坂の跡取り。

 セイバーがバーサーカーに殴殺されるが先か、或いは私の砲撃で主従諸共消し炭になるか。好きな方を選ばせてやる!」

 

 ——は。何を。舐めるなよ人形使い。ビームキャノンでビビってる暇なんざないんだよ。

 

「なわけねーだろ! 叩きつけてやるよ、()()()をな……!!!」

 

 そして、重い剣戟が始まった。

 

 

 

次回、「悪竜現象」に続く。

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