Fate//////X   作:耳民美

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#07「スケイル・オブ・ファヴニール」

Fate//////X 7

 

 

 

Ⅶ ライダー

 

 さだめを変えるな。

 その竜はまだ戦うべき相手ではない。

 其はアインツベルン最後の一手。

 失敗に終わった聖杯戦争という試み、

 そこに対し、せめてもの証として呼び出されし竜。

 

 アインツベルンは失敗した。

 だが、最後にここまでは成し遂げたと。

 これまでの結果を刻みつけるが為の切り札。

 

 『ラインの黄金』を触媒に召喚した、錬金竜。

 ——そう、それは、単なる悪竜現象ではない。

 ファヴニールとは偽りの名。其は——

 

 

 

第七話「スケイル・オブ・ファヴニール」

 

 

 

 ……突然の乱入者。イリヤスフィールとライダー——ファヴニール。

 かの竜殺しジークフリートが討伐したという竜種が、人の形をとって現界している。ファヴニールは、例えばだが魔法使いが変身したという話もあり、そういったいくつかの竜化エピソードが混ざり合った結果が、眼前のライダーなのだろう。

 

 黄金がエピソードに絡むこともあり、そしてアインツベルンといえば錬金術の大家。ラインの黄金を有しているという噂も立つほどの陣営がファヴニールを召喚したというのは、不自然ではなく、そして——この上なく奥の手のようにも見えた。

 

 ——トウコ氏が口火を切る。

 

「だが解せんな。このまま私か遠坂の陣営が敗れるのを待てば良かろうものを」

 

 それにイリヤは目を細めて寂しげに微笑む。

 

「それでは駄目よ。アインツベルンは失敗したの。大規模な術式を組み上げて、失われた第三魔法を取り戻す大儀式——冬木の聖杯戦争(ヘブンズフィール)は頓挫した。

 だから、せめて私たちが存在したことを、聖杯戦争を以て第三魔法を成さんとしたことを。

 此度の勝利と戦功によって、世界に刻み込むのよ」

 

「——それでファヴニールか。竜種の持つ圧倒的な力でセイバーもバーサーカーも諸共叩き伏せて、証を残すと?」

 

「——そうだ。それがマスターの望みゆえ、竜たるオレは、力を振るうのみ」

 

 白黒の竜人——ファヴニールは黒い大剣を出現させる。彼は竜ゆえに、おそらくは剣を使うタイミングはなかったはず。であれば——ランサーが脳裏をよぎる——あれは、ファヴニールの死因に由来する宝具!

 

「——“やっちゃえ、ライダー”」

 

 令呪の起動。イリヤスフィールの体全体が赤く輝く。アインツベルン、令呪にも特殊処理を施しているのか!?

 

 ライダーの大剣が一瞬で出力臨界に達し、宝具が発動される。

 

「セイバー!」「バーサーカー!」

「——『秘匿すべき勝利の剣(エクスカリバー)』!」

「——ぶち抜け、『赤原猟犬(フルンディング)』!」

 

 セイバーの黒い斬撃と、バーサーカーの赤い投擲が同時に撃ち出される。本来互いにクイックドローめいて繰り出されていたであろう一撃は、剣を構えたライダーへと殺到する!

 

 ——それを。

 

「 ——『悪竜現象/偽・幻想大剣(フェイタリティ/バルムンク)』—— 」

 

 漆黒の横薙ぎが諸共轢き潰した。

 

「セイバー——!」

「無事だッ」

 

 爆炎の中、傷を負いながらも立ち上がるセイバーとバーサーカー。それぞれの宝具の火力によって、致命的なダメージに至る前に威力を殺すことに成功していたのだ。

 

 だがそれでも激烈な威力。ランクにしてAを優に超えている。次はない。そう言えた。

 

「……トウコさん」

「なんだ少年」

「何か手は?」

「バーサーカーの逸話を信じる他ないな」

 

 バーサーカー——ベオウルフの逸話。そこには確かに竜殺しのエピソードが存在する。だが、それは——

 

「なんだ兄さん。俺の心配かァ?」

 

 ——それが相打ちによる幕引きであることを、俺もトウコ氏も、そして他ならぬバーサーカーが、知っていた。

 

「心配、っていうか——いやまあ、心配かもな」

 

 いくら殺し合った相手とは言え、共闘状態にある以上、死にゆく姿は見たくはない。それがある種のエゴであろうとも、俺としては気分のいいものではなかった。

 

「は、ガキが。自分の心配をしろよな」

 

 バーサーカーからの返答が、棘のないものなのは、その穏やかな口調からも見てとれた。

 そうだ。この英雄は戦士としてだけではなく、王としても民を守った人物。

 荒ぶる戦いと、政と、救国を成し得た大英雄。叙事詩に謳われしベオウルフ。

 そんな凄まじき王を、俺がどうこう言えるはずもなかった。彼はすでに、多くを成し遂げているのだから。

 

「俺らサーヴァントは、既に死した者たちの影法師。んならよ——『自分の願い』だけじゃなく、『人理の後輩』であるお前らを、先輩として助けたくなることだってあるだろうよ」

 

 お前は? と、バーサーカーはセイバーに視線を向ける。

 

「そうだな。オレは自分の霊基すら霞んだ歪なサーヴァントだが——それでも、漠然と()()()()()()()()()()()。この身は無銘の英霊なれど、自分のマスターぐらいは守ってみせるさ」

 

「んなら決まりだな」

 

 バーサーカーの言葉と共に、セイバーは再び剣を構え、そしてバーサーカーは()()()()()()()

 

「いいのかバーサーカー? それは貴殿の宝具では?」

「あ? いいんだよ。こっからが俺の本領だ。——殴って蹴って、最終的に立ってた方の勝ちなんだからよ」

「そうか。それは楽しみだ」

 

 その会話が引き金だったのか、二騎の英霊は高速でライダーへと突貫する!

 

「——『秘匿すべき勝利の剣(エクスカリバー)』!」

 

 出力を上げ、二メートルほどの黒い斬撃を以てライダーへとぶつける! だがそれは、鱗のようなオーラによって阻まれる!

 

「 ——『悪竜現象/竜鱗障壁(スケイル・オブ・ファヴニール)』—— 」

 

「——ぐ、ダメージカットか!」

「超えてみせよ、戦士たちよ。オレはその前に貴様らを灰燼にするのみ」

 

 そう呟き、ライダーは再び宝具展開の構えをとる。ここでイリヤスフィールに令呪を使われたら終わりだ。バーサーカーは——

 

「 させるかよォッ! 」

 

 大打撃——あるいは既に宝具——によるラッシュを以て、ライダーの気を削ぎ続ける!

 心なしか、ライダーの表情が陰って見える。ファヴニールの障壁を突破する可能性が見えているのか——?

 

「すまん少年。今あの防御宝具の耐久性及び突破確率を算出している。しばらくイリヤスフィールを引き付けておいてくれ、ガンドとかで」

 

 サングラスの人形使いが俺に結構な無茶振りをしてくる。

 

「いや、俺のガンドまあまあ威力あるから加減できないですけど」

「死なんだろ、アインツベルンの魔術師だし」

「嫌な信頼だな!」

 

 しかし他に手はないため、イリヤスフィールが令呪を起動しないよう努めることとする。

 

「イリヤスフィール! 耐えてみせろよ!」

 

 叫びながら俺は十本の指全てからガンドを放つ!

 

「容赦ないわねレン!」

「この聖杯戦争にもう意義はない! 死ぬ必要なんてないだろッ!」

「私にはあるのよ!」

「それはアインツベルンの理由であってキミのじゃないだろッ!」

 

 俺は指の位置を微調整してガンドの弾幕を複雑化させるも、イリヤスフィールは錬金術による糸の結界を展開させ、それらことごとくを切断していく。

 

「いいかしらレン! 私にはもう他に拠り所なんてないの。お母様もキリツグもいなくなった世界に、人としての私の居場所なんてないのよ——ッ!」

 

 イリヤスフィールの背後で、あたかも渦を(かたど)るかのように複数の銀鳥が弧を描きながら放出されていく。

 それらは俺を包囲するかのように全方位(オールレンジ)から銃口(くちばし)を俺に向けている。

 

「レン。魔弾の射手はあなただけではないのよ。

 ——行きなさい、『銀鳥(Vogel)』!」

 

 銀の鳥たちから魔弾が撃ち出される! 俺は指を総動員してガンドで迎え撃つ!

 

 撃ち漏らした数発を、身体を捻って無理やり躱し、掠る程度にどうにか抑える。この程度ならば魔術刻印の自動治癒で凌ぎきれる。だが、今の芸当を連発するのは気力が保たない!

 

「トウコさん……ッ!」

 

 俺は祈りを内包した叫びを放ち、冠位人形師はそれに——

 

「承知!」

 

 魔力の隆起で応えた。——準備が整ったのだ。

 

 

「ちっ、間に合ったのね!」

 

 イリヤスフィールが視線を逸らしたタイミングで、俺はすかさず距離を取る。あの銀鳥は健在だからだ。

 

「待たせたなバーサーカー! 既に魔力をぶち込んでいる!」

 

 トウコ氏の雄叫びの先——バーサーカーの方へ視線を投げる。

 

 そこには、未だかつてない気迫のバーサーカーが存在していた。

 

 その肉体からは、血風が如き濃度の魔力が放たれており、その目は獰猛な狂戦士を思わせる血眼で、今まさに、令呪によって一時的な狂化ランクの向上が行われているのがわかった。

 

 その上昇値、E -からA+++。

 

「——令呪を以て命ずる。バーサーカー。

 ——“狂気を振るい、竜を滅せよ”」

「応とも————ッ!!!!!!!!」

 

 その瞬発力は暴風が如し。セイバーの宝具を凌ぎ切ったファヴニールの防御宝具——その規模を精密に計算したトウコ氏が叩き出した結論だった。

 

 武器すら持たぬ徒手空拳。されどそれこそがベオウルフの真髄。

 武器すら通じぬ難敵を前にかの英雄は、拳で立ち向かった。

 それこそが闘争のルーツ。巨人を、そして竜種を、その手で屠った男——彼の持つ宝具の名は。

 

 

 

「   ——『源流闘争(グレンデル・バスター)』——ッ!!!!!!!!   」

 

 

 

 隕石すら超越する凄まじき拳が、ファヴニールの障壁を爆砕しそのまま胸部に炸裂する——!

 

「ぬ、『悪竜現象/偽・幻想大剣(フェイタリティ/バルムンク)』……ッ!!」

 

 

 それをどうにか間に合わせたであろう宝具によって押し留めようとするも、ただの一撃で鱗の障壁を打ち破った拳——それが()()()()()()()()

 

「————! ライダー……ッ!」

 

 さしものイリヤスフィールも驚愕の表情を隠せない。だがそれもまた現実であり、令呪によるブーストを得た、竜殺しの源流闘争は今度こそ明確に、ライダー・ファヴニールの上半身を爆散させた。

 

 

 ——確かな手応えと破砕音。

 それは俺でさえも、肌がヒリつくほどの大気中魔力振動によって理解できた。

 そう。確かな感触があった。ライダーを、アインツベルンの切り札を倒したという感覚が。

 

 ——だというのに。

 

 魔力嵐が収まっていく。そこには、勝者であるバーサーカーしか立っていないはずだった。だが、しかし——。

 

 そこには、上半身が()()()()()()()()()()()()()()、ライダー()()()何者かが立っていた。

 

 巨大な白き杯は、荘厳なレリーフに彩られ、垂れ下がった細長い腕と脚は、もはやファヴニールの面影を残していない。

 だがその上で、竜の翼と尾は残されており、ますます異形感を高めていく。そして何より——

 

 ——杯の内部には、イリヤスフィールによく似た()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 眼前の存在は、もはやサーヴァントではない。それが嫌でも感じ取れる。

 

「——は、アインツベルン、そこまでするか」

 

 トウコさんが冷や汗を流しながら呟く。

 ベオウルフの眼前に佇むそれが何であるか、彼女はもう気づいたのかもしれない。

 いや——俺でも察しがつく。

 

「——嘘だろ。そいつ、()()()()()?」

 

 俺も思わず声が出る。それに対し、少し離れたところから見ていたイリヤスフィールが答えを告げる。

 

「ええ、そうよ。でも正確には『小聖杯』。本来アインツベルンのホムンクルスが持つ、英霊七騎の魂を一時的に保管するための器。

 でももうこの儀式もおしまい。だからアインツベルン(わたしたち)は生み出したの」

 

 ——ファヴニールなぞ偽りの真名。

 其は人類悪ではなくとも、人類と共に歩んできた概念。

 ——其は欲望。金欲。悪竜現象の起因が一つ。

 

 黄金への憧憬。エルドラドの幻想。

 それこそが、アインツベルンが此度呼び出した()()()()()()()()だった。

 

「——この者こそ我らの切り札。

 名を——黄金の錬金竜(エリクシール・エルドラゴ)

 ラインの黄金、ファヴニール、そしてアインツベルンの魔術基盤を合成した、一つの極致よ」

 

 

 

次回「究極の一/集束する一」に続く

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