Fate//////X   作:耳民美

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#08「究極の一/集束する一」

Fate//////X 8

 

 

 

Ⅴ キャスター

 

 ——そして、魔は来たる。

 多くの0と1に干渉し、操りながら。

 想定範囲のタイミングで、魔は来たるのだ。

 

 

 

第八話「究極の一/集束する一」

 

 

 

 ——エリクシール・エルドラゴ。それはもはやサーヴァントにあらず、それは——聖杯の器であった。

 

 意思が内在するのかさえ不明瞭にして不明確なその正体不明の聖なる異形はしかし、明確な殺意と共に紛い物のバルムンクを()()()()()()。擬似的な宝具生成など、もはや造作もないのだろう。

 

 いや、そもそもだ。イリヤスフィールではなく、あちらが小聖杯だというのなら——()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 能力の使用まで可能かはともかく、()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 

 出方を伺う他ない今、俺ができることを——震える脚を奮い立たせながら——どうにか練ろうとする中——ふと、トウコさんが俺へと振り向き口を開いた。

 

「少年。殺し合った間柄ではあったが、実のところキミと私の目的は意外に近い。聖杯戦争を終わらせようとしているワケだからな」

「——トウコさん?」

 

 このタイミングでそういった発言をするのは、どうにも胸騒ぎがしてならない。トウコさん、あんた何を——

 

「——少年。つまりキミは私の次善だ。互恵関係だ。

 派手でなくともいい。今は小市民であれ。闘争(魔術師)の責務より——逃走(逃げること)を選べ」

「……! でも、トウコさんは!」

「気にすんな! 俺もマスターも、まだ戦い足りねぇだけさ。だから——ここは俺らに暴れさせろ」

 

 バーサーカーの魔力濃度が再び上昇していく。……もう令呪はないはず。つまり、単純に魔力供給のタガを外したということ——

 

「——セイバー」

「抱えて走るが、構わんかね?」

「ああ、それでいい。……今は、逃げよう」

「心得た。舌を噛むなよ、マスター!」

 

 そして俺は、セイバーと共に戦線を離脱する。それしかなかった。魔力濃度で既に負けていた。ファヴニールの状態はむしろ抑えていたのだ。知らず知らずのうちに、俺はあの圧倒的な魔力濃度に怯え、竦み、自身の魔術師としてのスペックを活かせないまま死にかけていた。あの時トウコさんが話しかけてこなかったなら——俺はどうなっていたのだろうか。

 

 仮定など今はどうにもならない、考えるよりも先に、俺はまず生き延びる選択を取らなければならないのだ。あの恐ろしいハイ・サーヴァントをどうにかするための選択を——攻略法を。

 

 しかし、何をどうやって——

 

「——先のエルドラゴについてなんだが、マスター」

 

 セイバーが口を開く。その表情は彼本人でさえ詳細を掴みきれていないようにも思えるが——

 

「戦闘直後でマスターの魔力消耗が激しく、そしてエルドラゴからのプレッシャーによる魔術回路の一時的な萎縮が見られる。だから今は使えない手なんだが——」

「なんだよ、勿体ぶらず言ってくれ。そっちもまだ自信ないのかもだけど、アイデアゼロより全然いいだろ」

「そうだな。実は、オレの宝具『X(エクス)カリバー』についてなんだが——」

 

 セイバーが策——のようなものについて話し始めたその時。夜の冬木市、丘の上の教会へと至る坂道を、()()()0()()1()()()()()()()()

 

「————! なんだよこれ……!?」

「なんだ、0と1がそれぞれ我々を飲み込もうとしているのかッ!?」

 

 セイバーの即時分析はおそらく正解で、0の群れはセイバーを、そして1の群れは俺を飲み込んでいく。俺はセイバーに担がれていたにもかかわらず、強制的に分たれていく——いや、これは物理的にではなく、()()()()()()()? 精神干渉魔術への防御策を学んでいた時に体験した感覚に似ている——これは、精神のみを幻惑させる種別の術式!

 

「くっ、くそ、セイバー——」

「マスター——……!」

 

 声は遠くに。俺の意識は埋没していった。

 

 ◇

 

 ——気がつくと、俺は夕刻の普通電車で微睡んでいた。

 がたんごとん、がたんごとん。走行音が、一定のリズムで小気味よく鳴り響く。

 どうしてここにいるんだっけ。そんなことを思いつつ、俺はうつらうつらしていた意識を覚醒させ、俯いていた頭を起こす。すると——

 

「あ。やっと起きたね遠坂」

 

 向かいの席に、見覚えのある女生徒——衛宮ツカサが座っていた。

 

「……ん、ん? なんで衛宮が? よくわかんねぇけど、衛宮がここにいるのはおかしくないか?」

 

 戸惑う俺に、彼女は「んふふ」と笑った。夕焼けの中でも、不思議とはっきりくっきり見える笑顔である。

 

「変なのー、んふふ。電車乗ることぐらいあるでしょ」

「そういう問題じゃない気がするんだよな、上手くは言えないけど」

「私がこの場にいるのが変だと思ったんでしょ? でも別に変じゃないんだよね。今の遠坂はわかんないかもだけどね」

 

 衛宮ツカサは、心底楽しそうにそう言った。無垢——というより、無邪気。ニュアンスとしては後者がより適当だと思えた。

 

「衛宮。俺さ、ちょっとまだ寝起きでボーッとしてっけど——ちょっと急いでんだよな。この電車、次いつ止まる?」

「うーんそうだね。セイバーが『集束拘束(パラライズ・パラダイム)』を(はじ)くまでかなぁ。(わたし)の拘束はそこまで強くないから、持って数分だと思う」

「パララ……? セイバー……? よくわからんけど、次で降りるからな。もうちょい話したかったけど」

 

 よくわからないまま答えると、衛宮ツカサは少し伏目で微笑んだ。

 

「そっか。あんまり絡みなかったけど、そう思ってくれてたんだね」

「ん、ああ。ちょっと前に昇降口で会ったろ? あん時も大した話はしなかったけどさ、そういうなんでもない会話が、不思議と楽しかったんだよ、俺」

 

 いつだったかもあやふやな思い出を口にする。本当に何気ない、わざわざ会話内容を思い出すほどですらないやり取り——そうであっても、どうしてだか俺は、ひどく大事なことだったとばかりに、脳内から引っ張り出せていた。

 

「なぁ衛宮。俺もしかして、もっと前にも会ってたのかな? 会って、それで話してたのかな?」

 

 俺がそう言うと、衛宮は少しだけ寂しそうに笑い、そして俺へと視線を向けた。

 

「——ううん、会ってないよ。すれ違ったりはあったかもだけど。……でも、(わたし)があなたを必要だったのは本当で、その関係であなたは、無意識のうちに(わたし)を意識しているかもしれないね」

 

 彼女の言っていることの意味はよくわからない。わからないうちに、駅へ近づいたことを車内アナウンスが告げた。

 

「じゃあね遠坂。凛になれなかったレン。お話できて楽しかったよ。だからまた——今度は【煉獄】で会いましょう」

 

 意味のわからない言葉の羅列。意図のわからない遭遇。ただ——どうしてだか、()()()()()()()()()()()()()だけは、明確に、俺の心に刻まれていた。

 理由はわからない、けど——

 

「——衛宮ツカサが、キャスターだったんだ」

 

 そう呟いて、俺は現実世界へと引き戻された。

 

 ◇

 

「マスター、無事だったか!?」

 

 ふと横を見ると、宝具で拘束(何か)をぶった斬ったらしいセイバーが駆け寄ってきていた。

 

「セイバー。すまん、キャスター……だったんだよな、今の」

「何……? そこまでの断定はできんが、だが確かに消去法としてはありえるな。残る未知のサーヴァントがアーチャーとキャスターで、なおかつ対魔力スキルを持つオレに対して有効な拘束術式だったんだからな」

 

 先刻の夢——のようなモノ。あれはおそらくキャスターによる精神攻撃。結局何が言いたかったのかはハッキリとはわからなかったが——単なる顔見せだけが目的だったとも思えない。彼女なりの思惑があっての接触だったのだろう。

 だとしたら、【煉獄】で待つというのは——

 

 そこまで思案を巡らした時、坂の頂から誰かが二人、姿を見せた。それらは俺たちへと接近してくる。魔力は高く——間違いなく一人はサーヴァント。であればもう一人はマスターか。

 

 剣を構えるセイバー。だったが、一向に相手側から戦意が見えてこなかった。

 

 街灯で姿が見える。

 一人はスーツを着た赤髪の女性で、筒状の礼装ケースらしきものを背負っており、もう一人は銀髪のシスターだった。魔術協会と聖堂教会それぞれの関係者か? その上で片方——シスターは魔力量から鑑みてこちらが英雄なのか? けどマスターらしき赤髪の人が持つ礼装からも尋常ではない魔力が感知できる。宝具だろこれ!? なんなんだこの二人は!??

 

「バゼット。あちらのマスターさん、どうやら混乱しているみたいよ。可憐な私から明らかにサーヴァントな魔力が検出されただけでなく、戦士そのものなあなたから——というより装備品からも宝具の魔力濃度を感じ取ったことで『このムキムキレディだけでなく美少女シスターの両方が英霊!?』とかドッキーンって驚いてしまったのかしらね?」

「全部言いましたねカレン。ですが時間の問題ではありました。

 ——そこのマスター。私はバゼット・フラガ・マクレミッツ。魔術協会からの出向で、普段は【煉獄】内部の警備を行なっています。そしてこちらが——」

 

 状況を把握しきれていない俺を尻目に、バゼットと名乗った魔術師は、カレンというらしい少女へと手のひらを向けて、こう言った。

 

「悪魔祓いカレン・オルテンシアを依代に、アーチャーの代わりにマスターなしで召喚された——裁定者(ルーラー)、アムール神の疑似サーヴァントです」

 

「どうもこんにちは。それはそれとしてほとんど実務は任されている、依代側のカレンちゃんです。仲良くしてね♡」

 

 

 

次回「マスクドカレン」に続く

 

 

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