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若干の曇らせ要素がありますのでご注意を。
普段しない書き方だったんで、新鮮だったけど難しいっすね……。
これは、私がトリニティに入学し、ティーパーティーに編入されてから、間もない頃の話です。
トリニティの歴史上、ゲヘナ学園との戦争状態となりかけたことは、1度や2度ではありません。
大抵は、トリニティは内部で別の問題が起こる事で、ゲヘナは学園の体裁を保つことに追われ、僅かに時を置いた後、互いの日常へと戻っていました。
しかしあの時、あの事件だけは、互いが握るナイフが、互いの首筋に振り下ろされようとしていました。
全面戦争の引き金を、ティーパーティーが引こうとしていたのです。
トリニティ総合学園と、ゲヘナ学園の、自治区境界線。
それが混じり合う僅かな場所を、ティーパーティーは『火薬庫』と呼んでいました。
互いが保有する治安維持部隊、その精鋭たちが常に睨みを利かせ合う、火の粉1つ飛ばしてはならない場所。
ティーパーティーと万魔殿の間に結ばれた、秘密協定。
『火薬庫』は政治的不干渉地帯と定められ、どちらかの明確な過失でない限り、そこで起きたことは内々に処理されます。
それが、無用な諍いを回避するための、当時の双方の答えでした。
ですが、1人の生徒が『火薬庫』に現れたことで、状況は一変しました。
身分を示すものを何も持たず、酷く衰弱し、目を覚まさない、彼女によって。
それは、私がトリニティのかつての姿を知るきっかけでもありました。
同胞であったアリウス分派を一方的に迫害した、おぞましい怪物の姿を。
この怪物を、殺さなければならない。
私にそう決意させる、きっかけでもありました。
『火薬庫』に現れた彼女は、現場の判断により、ゲヘナ自治区の病院へと移されました。
その後、彼女について判明した事実は、2つ。
過去の記憶を失っている事。虐待を受けていた可能性が高いという事。
彼女の全身には、人為的かつ日常的に付けられたとおぼしき傷跡が、いくつも残っていたそうです。
記憶を失っているのは、その事実から逃れる為であろう、と。
当時の私は、彼女の境遇に心を痛め、彼女を救う力を持たない自分を恨みました。
同時に、胸騒ぎを感じた事も、覚えています。
彼女の話が、ただのフィリウス派の1人に過ぎなかった私にまで、正式に報告として回ってきたのですから。
『火薬庫』での出来事は内々に処理される。それは外部のみならず、ティーパーティーの内部でも同様です。
ごく一部の高官のみが事態の全容を把握し、それ以外の者が知りたければ、噂から情報を得る以外ない。
ミカさんやセイアさんまで、彼女の事を把握していた当時の状況は、異常と言わざるを得ませんでした。
居ても立っても居られなくなった私は、事態を把握している1人である、広報担当官の元へ向かいました。
当然ながら、どんな質問をしても暖簾に腕押し。
『答えられないと答えるのが精一杯。』
彼女のその言葉が、私の胸騒ぎをさらに煽りました。
まずはやるべき事を。そう思い直し、一礼して去ろうとした私に、彼女は一言、こう告げました。
『ゲヘナ内部の動きが変わってきている。』
当時のゲヘナは、元万魔殿議長、通称“雷帝”が弾劾を受け更迭された直後だったため、混乱の渦の真っ只中にありました。
ティーパーティーの過半は、これを問題と捉え、一部は好機と捉えていました。
パテル派のごく一部から放たれる、『ゲヘナを滅せよ』という叫び声が、今も鼓膜に残っています。
同じ人であるはずなのに、なぜ排斥し合うのか。
手を取り合わずとも、いがみ合う事を止めるのは、夢物語なのだろうか。
同じ言葉を、当時のフィリウス派トップに伝えました。
『多くはあなたほど柔軟ではなく、賢明でもない。私を含めて。』
それは、ある種の失意からの言葉だったのでしょう。
困ったような笑顔が、彼女のどんな言葉よりも、雄弁に語っていました。
程なくして、私はホストからの推薦を受け、エデン条約に関わるようになりました。
唯一の1年生だった私がやる事など、事務と雑用くらい。
しかし、トリニティとゲヘナが少しでも良い方向へ向かうのなら。
そう信じて、日々を過ごしていました。
『火薬庫』に現れた少女が、病院から失踪した。
その知らせは、私がエデン条約のチームに配属されてから一月程で届きました。
ただの失踪ではなく、プロの手による、緻密かつ迅速な誘拐。
ごく僅かな目撃者と、万魔殿が正式採用している銃弾の薬莢だけが、現場に残されていたそうです。
今回は通常通り、限られた者だけにこの知らせが伝えられ、同時に緘口令が敷かれました。
今回は、その限られた者の中に、私が含まれていました。
生徒会直轄秘密部隊の所有及び運用。
これは、ティーパーティーと万魔殿双方にとって、公然の秘密でした。
だから、ティーパーティー上層部の多くが、誘拐がゲヘナ側の秘密部隊による犯行だと結論付けるのは、当然の帰結でした。
無論、この“事実”を表立って万魔殿に伝えれば、ただでさえ不安定な情勢が統制不可能になる事は目に見えています。
3派閥のトップ全員が、万魔殿に緊急秘密会合の開催を要請し、万魔殿も即座に答えました。
私達のチームも、エデン条約を放り出し、いかにこの会合を無事に終わらせるかに注力しました。
結論から言うのなら、その全てが無駄だったのですが。
秘密会合の会場が何者かの襲撃を受け、両校の首脳陣は全員病院に搬送されました。
当然、会場の場所を知っているのは、両校の首脳陣と、秘密部隊から選抜された護衛のみ。
現場に残されていたのは、万魔殿の銃弾と、ゲヘナ製の催涙ガスグレネード。
この襲撃をきっかけに、情報の統制が不可能になりました。
襲撃事件が、キヴォトス中に知れ渡ってしまったのです。
テレビから毎日のように流れる、襲撃事件のニュース。
インターネットで飛び交う、根も葉もない憶測の数々。
有志の方々による、誘拐された少女の捜索。
トリニティで急速に広がる、ゲヘナに対する不和。
事件が知れ渡ってしまった以上、トリニティ総合学園を治める者として、民衆を説き伏せなければなりません。
リーダー全員が不在の中、ティーパーティーが伝えると決めたことは、『今調べている』という一点のみ。
今無用な情報を広めれば、強大な力を持つであろう犯人達に動きを掴まれかねない。
何より、襲撃は万魔殿が仕組んだものである、などと発表すれば、十中八九戦争に突入する。
犯人を特定し捕えるまで、情報は可能な限り伏せておく。
それが、残された3派閥の副長たちの結論でした。
当時のティーパーティーでさえ、トリニティとゲヘナの全面戦争など、ごく一部を除き、誰も望んではいませんでした。
しかし、記者会見でクロノスのカメラの前に立ったのが、そのごく一部だったのです。
『襲撃の一ヶ月前、記憶喪失の少女がゲヘナ学園自治区の病院へ保護され、その後誘拐された。』
『誘拐は、万魔殿の秘密部隊によって実行されていた。調査により、我々が送ったスパイとして、ゲヘナ学園で取り調べを受けている事が判明した。』
『同時に、会合の襲撃も、同部隊によって行われている。万魔殿がトリニティを攻撃しようとしている事は明らかだ。』
『自校の首脳陣も合わせて襲撃したのは、カモフラージュに過ぎない。ゲヘナ学園の一連の所業は、トリニティ総合学園に対する宣戦布告である。』
私は、自分の目と耳を疑いました。
テレビに映っている広報官が、戦争を望んでいる。
少女が『火薬庫』に現れた時、眉間にしわを寄せながらも、私の質問攻めに付き合って下さった、あの人が。
この報道の後、開戦を望む声が一気に膨れ上がりました。
悪意の濁流が、ティーパーティーというダムを越えて、ゲヘナへ流れ込もうとしていました。
そのダムを崩し、ゲヘナを飲み込もうとしていたのは、他の誰でもないティーパーティーだったのです。
3人の副長は直ちに広報官を呼び出し、彼女を糾弾しました。
そしてその日の夜、副長全員が失踪したのです。
現場に残るのは、万魔殿の銃弾。
当然のように、広報官は3人の失踪を利用しました。
万魔殿も緊急会見を開き、一連の事件に自分たちが関わっていない事を説明しましたが、広報官のカウンターによって、すぐに情報の海へ埋もれました。
広報官の目論見通り、民衆はゲヘナとの和平という選択肢を捨て、敵を排除する事を選んでいました。
『多くはあなたほど柔軟ではなく、賢明でもない。』
私はその言葉の真意を、余りにも早く知ったのです。
ティーパーティーの一部と、多くの民衆が広報官に賛同し、ゲヘナ学園もタダでは転ばぬと臨戦態勢。
『火薬庫』には両陣営の精鋭部隊が大量に展開され、一触即発の状態へと突入しました。
ティーパーティーと万魔殿直通のホットラインも、何者かによって切断され、対話がほぼ不可能となっていました。
連邦生徒会による仲介も、広報官は聞く耳を持たず、ひたすらに『悪を滅する』と繰り返すのみ。
もはや戦争の回避は絶望的。
エデン条約のチームを始めとする非戦派の誰もが、そう思った時でした。
私達に宛てて、秘密会合に同行した護衛の1人から、有力な証言が届いたのです。
『襲撃犯は、ウィングアーマーを付けていた。』
キヴォトスでは、翼を持つ者は決して珍しくありません。
特に、トリニティは鳥の羽を、ゲヘナはコウモリに似た翼膜を携えている事が多いです。
翼膜はある程度伸縮出来る事が多く、普段は畳んでおき、使う時だけ広げる、この習慣を無意識に身に着けているそうです。
しかし、鳥の羽はそうもいきません。
そのため、トリニティの秘密部隊では、翼を守るための鎧が支給されるのです。
大空を飛ぶための、自由の象徴である翼を、トリニティの盾として捧げる。
それが、ウィングアーマーに込められた意味でもあります。
当然、翼膜があれば身に付ける事が出来る鎧です。
簡単に偽装できると言われれば、それまででしょう。
しかし、ある仮説を当てはめる事で、これまでの出来事の数々の、辻褄が合うのです。
病院の少女と3人の副長を誘拐し、会合を襲撃したのは、ティーパーティーの秘密部隊。
万魔殿が正式採用している銃弾を使ったのは、ゲヘナ学園の仕業であると誤認させるため。
それらを主導しているのは、広報担当官。
広報官は、“雷帝”が失墜し、ゲヘナ学園が混乱する時を待っていたのです。
事件に散りばめられたピースが、カチリとはまった瞬間でした。
まずは、味方を集めなければ。
誰を声を掛けるべきかという議題が上がった時、私は手を上げました。
秘密部隊を引き込んできます、と。
彼女たちはただ命令に従ったにすぎず、願わくば、広報官の暴走を止めたいと思っているのではないか、と。
無論、これは希望的観測でした。
トリニティそのものに忠誠を誓っている者達が、そう簡単に寝返るはずも無いと、分かっていました。
だからこそ、戦争という手段を望んではいないのではないか。
私は、そう信じていました。
私は単身、空き教室に偽装された秘密部隊の本部に飛び込みました。
ドアを開けた瞬間に、サイレンサーが額に押し付けられた事を思い出すと、今でも息が詰まりそうです。
促されるままソファに座ると、隊長が対面に座り、ライフルを抱えた隊員たちに囲まれました。
とても、とても、恐ろしかった。
それでも、戦争なんて間違っている。その一心で、隊長に私達の推理をぶつけました。
広報官からの指示で、偽旗作戦を行ったのではないかと。
私の話をひとしきり聞いた隊長は、表情を変えず、こう呟きました。
『私達が気づいていないとでも思ったのか?』
彼女たちは、初めから広報官の思惑に気づいていたのです。
しかし、トリニティに忠を尽くす事が任務なれば。
その一心で、心を殺し、命令に従ったと、そう語っていました。
私の見立て通り、戦争を望んでいなかったのです。
トリニティの未来を、ゲヘナとの和平を憂うのなら、ご助力を。
思うまま言葉を発すれば、隊員の1人があるファイルを渡してくれました。
それは、襲撃と誘拐の詳細な計画書でした。
通常は決して残さず、広報官からも消しておけとの指示があったそうですが、事の重大さを考え、独自の判断で残していたそうです。
お礼を伝え、立ち去ろうとした時、隊長がこう伝えてきました。
『武力が必要なら呼べ。力になろう。』
恐ろしくも、とても頼もしい方々でした。
私は本部を出た直後、ミカさんとセイアさんに連絡を取りました。
ただ、戦争を止めたい、助けて欲しいと、そう繰り返すだけの拙い説得でした。
しかし、2人はそれ以上を聞かず、快く頷いてくれました。
これがどれほど心強かったか。
争いを望まない者達が、そして私自身が、決して孤独ではない、そう思えましたから。
その後は、エデン条約のチームと、ミカさん、セイアさん、秘密部隊の隊長が集まり、作戦会議が開かれました。
議題はもちろん、どう広報官の暴走を止め、どう民衆の視線を戦争から逸らすか。
ただ広報官を引きずりおろしたとしても、民衆は戦争を望み続ける。
しかし、民衆が考えを変えてくれるのなら、広報官やそのシンパたちも、戦争に踏み切る事は難しくなるはず。
結論として、私達には指導者による鶴の一声が必要でした。
幸い、秘密部隊がティーパーティーのリーダーと副長の6名、そして『火薬庫』の少女を丁重に扱っていました。
それすなわち、広報官の嘘を暴く証拠が、私達の手元に有るという事。
ミカさんとセイアさんも、それぞれの派閥の非戦派に声を掛け、協力を募ると約束してくれました。
お転婆に屁理屈屋の友人達が、この時はとても頼もしかったです。
この場に集まった人々の願いが、1つにまとまった時、リーダーがそれを言葉に変えました。
『決して戦争を起こさせない。今必ず止める。』
最終的に、作戦はこう決まりました。
まず、ミカさんとセイアさんがティーパーティーの非戦派、そして市民団体と共に反戦デモを行います。
広報官とそのシンパの意識がデモに逸れている間に、ホストの指示の元、という体で秘密部隊が捕えます。
間髪入れずホットラインを復旧し、万魔殿に対し、トリニティに開戦の意志が無い事を伝え、臨戦態勢の解除を要請。
その後、事の首謀者たる広報官を反逆者として裁き、校外へ追放する。
校外追放はやり過ぎなのでは、とつい聞いてしまいましたが、そうでもしなければゲヘナと民衆は納得しない、とリーダーは伏し目がちに呟きました。
チクリと胸を刺す痛みを置き去りに、作戦は決行されました。
作戦通り、広報官は反戦デモに気を取られ、デモの封殺に人員を大きく裂きました。
このチャンスを逃せば、私達は捕えられ、戦争を止める事が出来なくなる。
秘密部隊の装甲車の中で、何度も深呼吸をしますが、心臓の痛みは離れてくれませんでした。
対面に座っていたフィリウス派のリーダーが、私に手を重ね、微笑みを向けてくださいました。
『大丈夫。きっと上手く行く。』
所々から包帯とガーゼを覗かせ、信頼していた部下に裏切られた彼女は、私よりも、遥かに苦しかったでしょうに。
広報官が立てこもるセーフハウスにたどり着いた瞬間、銃撃が装甲車を襲いましたが、秘密部隊が飛び出してから僅か数秒で、銃声が鳴りやみました。
私とリーダーは隊員に手を引かれながら装甲車を下り、広報官が待つ場所へと歩みました。
私がこの場に居た理由は1つ。
ただ、知りたかったのです。
あの方は、何故戦争を望んだのか。トリニティを裏切るほどの価値があったのか。
今にして思えば、私はただ、信じたかったのでしょう。
真の意味で戦争を望むものは、誰も居ないと。
私達が広報官の元にたどり着いた時には、彼女は隊員に取り囲まれながら、両手を上げていました。
隊員の指示でゆっくりと振り返った広報官は、虚ろな表情でリーダーと向き合いました。
『トリニティを謀りましたね。何故ですか。』
『謀るなど、滅相もない。』
広報官は、笑顔と呼ぶには余りに歪んだ表情で、私達を一瞥した後、言葉を続けました。
しかしその後は、意味があるとは思えない、支離滅裂な言い回しが続くばかり。
ただ、ゲヘナを滅する事こそ、トリニティの正義なりや。
笑っているのに冷汗をかきながら、まるで植え付けられているかのように、彼女はただ、そう繰り返していました。
言葉は無意味。そう判断したリーダーは、右の掌をそっと上げました。
しかし私は、リーダーが手を上げるより早く、脇腹からロイヤルブレンドを抜きました。
震える右手を、より震える左手で押さえつけながら、銃口を広報官に向け、引き金を引きました。
銃声を合図に隊員たちがライフル弾を浴びせ、広報官を気絶させました。
『よくやりました、ナギサ。』
私の震える手を握り、頬を撫でるリーダーの瞳は、少しだけ、悲しみを帯びていました。
その後、事態は急速に収束していきました。
ティーパーティーのリーダーと副長全員が無事に復帰し、一連の事態が広報官の暴走によるものだと、キヴォトス中に伝えました。
報道とホットラインによる説得を受け、ゲヘナ学園は臨戦態勢を解除。
開戦派の民衆の声も、少しずつではありましたが、時間と共に収まっていきました。
そして、首謀者の広報官は、学籍抹消の上矯正局へ収監。
シンパたちも多くが無期限停学、ごく少数が退学処分となりました。
それと、『火薬庫』の少女は、ゲヘナ学園の生徒として正式に迎えられました。
体の傷はすっかり癒え、学友たちと暮らしているそうです。
今も記憶を取り戻せてはいないようですが、その方が幸福なのかもしれません。
私達の計画通りに、戦争を阻止する事が出来たのです。
ええ、これが童話であれば、めでたしめでたしで絵本を閉じる時でしょう。
あの時、私が広報官に引き金を引いたのは、決して正義のためなどではありません。
ただひとえに、恐ろしかったのです。
あの時の私には、彼女が、怪物に見えていたのです。
大きく目を見開き、牙をギラリと光らせた、今にも私達に喰いかかってきそうな、怪物に。
あの事件の後、広報官とお話しする機会がありました。
あの時とは打って変わって、酷く憔悴している姿が、今も記憶に残っています。
私はただ、問いました。何故、戦争を望んだのかと。
彼女はうつむきながら、分からない、と呟くように答えました。
その後、彼女はこう続けたのです。
『訳も分からず、ただ恐ろしかった。』
彼女が広報官に就任したのは、万魔殿の議長に“雷帝”が選ばれた時でした。
力ずくでゲヘナを変えようとする雷帝に、大量の仕事とプレッシャー。
雷帝の強欲は、トリニティすら飲み込むだろう。
そんな与太話も相まって、彼女は次第に擦り切れ、恐怖に飲み込まれていたのです。
雷帝が恐ろしいなら、ゲヘナを消してしまえばいい。
彼女は恐怖に追い立てられた末、間違った救済に、手を伸ばしてしまったのです。
私は、トリニティの構造そのものが怪物だと思っていました。
広報官は、構造という怪物に飲み込まれ、ああも変わってしまわれたのだと。
それは、大きな間違いでした。
トリニティの怪物は、全く別のモノだったのです。
時は進んで、私はフィリウス派のトップとなり、エデン条約を推し進め、そして過ちを犯した。
トリニティの裏切者、アリウス、ベアトリーチェ、その全てが終わった後、部屋で1人になっていた時です。
私は自身の所業を恥じ、深く悔いていました。
自身の罪を、1つ1つ思い出し、どう贖罪するべきか、考えていたのです。
その時に、私は気付きました。
私は、あの時の広報官と、同じなのだと。
胃から何かがせり上がってくるのを感じ、すぐにお手洗いに駆け込みました。
自身の腸の中身全てを吐き出してもなお、体と心両方が、何かを吐き出そうと呻いていました。
僅かですが吐き気が落ち着き、口をすすごうと洗面台の前に立った時です。
鏡の中に、怪物が現れました。
目を大きく見開き、口の端からダラダラとよだれを垂らした、怪物が。
その怪物は、恐怖と名乗りました。
トリニティ、って言うかキヴォトスの歴史は複雑怪奇。
誰かキヴォトス史年表下さい。
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