投稿者には何の関係も無い事です。
安売りされるフライドチキンでも食べます。(血涙)
という訳でヒナちゃんが甘酒的なホットワインで酔っぱらう話です。
キャラ崩壊上等なのでご注意を。
クリスマス、冬の祝祭。
聖人の生誕を祝う祭り。
多くの生徒にとって、1年で最も楽しみにする日。
そして一部の生徒にとって、仕事が激増する忌まわしい日である。
ゲヘナで開かれたクリスマスマーケット。
雑踏の中を並んで歩くのは、ゲヘナの風紀委員長とシャーレの先生。
互いにコートとマフラーを身に着け、白い息を吐きながらマーケットを歩く。
「こんな日に付き合わせて、ごめんなさい。気づいたら予定が組まれていて……。」
“良いんだよ、ヒナ。こうして一緒にマーケットを巡れて、私は嬉しいよ。”
「もう……。でも、良かった。私も、先生の隣にいられるのは嬉しいから。」
先生に向けて、ヒナはにこやかに気持ちを返す。
今回の事は、ヒナの右腕たるアコが発端である。
普段から働きづめの委員長に、クリスマスぐらい休んでもらいたい。
しかし、普通に休息を勧めても突っぱねられるのみ。
ならば、クリスマスマーケットの警備として、業務から引き離せばよい。
責任者として、シャーレの先生をあてがえばなお良いだろう。
そんな思惑の果てに生み出された状況だった。
だが、ヒナは聡い。アコの思惑を、なんとなくだが関知している。
そして、部下にして友人の計らいを、そしてそれに付き合う恩人の思いを無下にできるほど、彼女は薄情ではない。
「とはいえ、仕事に変わりはない。しっかり見張っておかないと。」
しかし、身に沁みついた風紀委員としての矜持が、警戒を解くことを許さない。
ヒナは辺りを鋭い眼光で見回し、左手は無線機に伸びている。
“そうだね。でも……。”
“こんなに警備員がいるのに、私達の仕事はあるのかな……?”
「お祭りが普段通りなら、まずない。でもゼロとも言い切れない。」
「気の緩みが見逃しにつながる。先生も、怪しい人を見たら教えて。」
先生の言う通り、会場にはマーケットが用意した警備員が、重武装を身にまとって立っている。
そして、クリスマスマーケットを襲撃する愚か者は、ゲヘナにすらほぼいない。
このマーケットでしか取り扱わない、振舞われない特別なものが沢山あるのだ。
そんな場所を襲おうものなら、即座に取り囲まれ石炭を投げつけられるだろう。
プレゼントを奪われた恨みは、何よりも恐ろしい。
しかし、このままではここに来た意味が無い。
先生は脳をフル回転させ、ヒナに仕事を忘れさせる言い訳を作り出す。
そして、1つの答えを導き出した。
“もしかしてさ、もうこの中に入り込んでるんじゃないかな。”
“出店の店員になってたり、売り物に何か仕込んでたりしてるかも。2人で一緒に確かめない?”
無理がある。口に出して初めて、先生は自覚した。
先生の素っ頓狂な言葉に、ヒナもついポカンとした顔を浮かべてしまう。
だが、その言葉の意図を汲んだヒナは、顔を伏せて頷いた。
「……そう、ね。確認は、大事だから。でも、周りを見るのも忘れないで。」
それじゃあ行こうと先生が差し出した手を、ヒナはおずおずと握る。
満面の笑みを浮かべる先生の隣で、ヒナの頬は少し濃い赤に染まった。
それから2人は手をつないだまま、賑わうマーケットを歩いた。
ツリーやごちそうを彩るオーナメント。
マーケット限定の、少し浮かれたデザインの食器。
クリスマスの為に作られた特別なお菓子たち。
赤い服を纏う聖人を模した人形。
もちろん、イルミネーションで彩られた大きなツリーも。
白い口髭を付け、ホホホと笑う先生と一緒に、ヒナも年相応の顔で笑った。
兄弟や親子には、見られたくない。
手袋越しに手を握るヒナは、ふとそう考える。
出来るなら、もっと先の関係に見られたい。
そんな年相応のワガママが頭を過るが、すぐに分不相応だと振り払った。
すると、先生はある店の前で立ち止まる。
2人の鼻を、ブドウとシナモンがくすぐった。
“ワイン?お酒を、こんなに堂々と……?”
「大丈夫。グリューワインは、甘酒みたいなものなの。アルコールはほぼ入ってない。」
グリューワイン。ゲヘナのクリスマスにしか振舞われない、特別なモクテル。
軽く温めたブドウジュースに、香辛料とはちみつなどを入れ、甘く仕立てたもの。
生徒達にとって、来たるプレゼントへの期待を膨らませ、大人への憧れと共に飲み干すものだ。
僅かに発酵している点は、ご愛敬という奴である。
先生は特性のマグカップと一緒に2杯購入し、ヒナと一緒にベンチに座る。
レモンが浮かぶワインは、2人の指先をそっと温める。
“そうだ。ヒナ、乾杯しようよ。”
「そうね。それじゃあ、クリスマスに。」
“そして、頑張ってるヒナに!”
「――ッ!もう……!」
カップを軽く打ち合わせ、グイッと一口。
1人は気恥ずかしさと一緒に、もう1人は彼女を含めた全ての生徒達の幸せを願って飲み込む。
香辛料の複雑な香りが鼻を通り抜け、甘いブドウが体を芯から温める。
だが、先生は僅かに残るアルコールの風味を無視できなかった。
ふと心配になってヒナの顔を見つめるも、既に半分を飲み干した彼女は、普段と変わらずケロッとしていた。
「大丈夫。この程度で酔ったりしない。もっと小さい頃に飲んで、何とも無かったんだから。」
“そっか。残念……。”
ヒナは顔を赤く染め、また1口。
でも、いつか大人になったら、その時は2人で。
この時2人は、同じ景色を考えていた。
しかしその時は、想像より早く訪れる。
その後も2人は、巡回警備と称したデートを楽しんだ。
焼いたヴルストの盛り合わせを2人で分け合い、別の店のグリューワインを飲み干す。
風紀委員や他の生徒のお土産を吟味し、1切れのシュトーレンをかじる。
異変が始まったのは、ヒナと先生が3杯目のワインを飲み干した時だった。
先生の腕に、ヒナの体重が寄りかかる。
ヒナに軽く声を掛けるも、うにゃうにゃと口を動かすばかり。
明らかに様子がおかしい。
先生は空のマグカップを握りしめるヒナに屈みこむ。
彼女の頬は、数分前より鮮やかに染まっていた。
「んぅ……。せんせ……。」
“ヒ、ヒナ?もしかして……。”
「酔ってない……。酔ってないもん……。」
“ああダメだ。出来上がってる。”
明らかにとろけた顔で、酔ってないと主張するヒナ。
確かに、今まで彼女がグリューワインで酔っぱらう事は無かった。
だが、状況の違いを失念していたのだ。
クリスマスに、恩人の隣で、僅かに酒精を含むワインを飲む。
そこに無意識の緩みと高鳴った心拍が重なり、彼女の脳をマヒさせた。
すなわち、彼女は場酔いしていた。
仕事どころではないと即座に判断した先生は、連絡を取るためにヒナの手を離す。
しかし、彼女は泣き出しそうな顔を浮かべ、先生のコートをつまむ。
「やだ。手、離さないで。」
“ごめん、ちょっとだけ待って!アコ達に電話するから!”
「むっ……。じゃあ、こうする。」
すると、ヒナは先生の胸元へ迷うことなく抱き着いた。
先生の背中を、彼女の紫の翼膜が覆い隠す。
普段の様子からかけ離れた、願望へ素直になった姿が、先生の胸を締め付ける。
先生は彼女の背を軽く叩きながら、アコに救難信号を送った。
結論、ヒナはシャーレで介抱する事になった。
現在ゲヘナ寮は、今のヒナを介抱できる者は出払っており、適切な対処が難しい。
また、それを見た良からぬ者が、ヒナの不調を拡散するかもしれない。
そうなれば、治安は急速に悪化する。風紀委員会として、それは避けなければならない。
結果、先生が面倒を見るのが1番丸い、という結論に至る。
そんな話し合いの最中、電話越しに響くアコの声を遠ざけようと、ヒナは自分の頭を先生にグリグリと押し付け、先生の心臓を締めあげていた。
“ヒナ、シャーレまで行くけど、歩ける?”
「うん。手を繋いでくれたら、歩ける。」
“分かった。でも無理しちゃダメだよ。”
先生はヒナの手を取り、ゆっくりと歩き出そうとする。
だが彼女は、不貞腐れた様子で、その場から動こうとしない。
口を尖らせ、拳を握り、地面を睨みつけるその姿は、駄々っ子そのものだった。
「……してないもん。」
“ホントに?”
「してないもん!皆に平和に過ごして欲しいって思って、頑張ってるのに……。」
“ああ、そっちじゃなくて……。でも、確かにヒナは頑張ってるよ。凄く偉いよ。”
ヒナの目線まで屈みこみ、頭を優しくなでる先生。
尖っていたヒナの表情が、見る見るうちに柔らかくなる。
「ホントに?本当に思ってる?」
“うん、本当にそう思ってる。”
「ホントにホント?」
“本当に本当。”
「……えへへ。良かった。」
あれ、この子は私の娘だろうか?どうしてこんな所に居るんだろう。
その大人は狂っていた。
悪魔が浮かべる天使の如き笑顔に、狂わされたのだ。
しかしすぐに正気を取り戻し、ヒナを連れてマーケットを後にする。
シャーレに向かうまでの道中、生暖かい視線と訝しむ表情が丁度半々で向けられていた。
無事に執務室にたどり着いた先生は、ヒナをソファに座らせた。
半分閉じていた彼女の瞳を、肩を軽く叩いて開かせる。
“ヒナ、シャーレに着いたよ。気分は?”
「うん、へーき、うん。」
“絶対眠いでしょ!?”
「そんなこと、ないもん……。はふ……。」
“も~!典型的な酔っ払いになっちゃってまあ!”
すぐさまお冷を用意し、ヒナに飲ませて水分補給。
コップが空になったらコートを脱がせ、手を握って仮眠室までエスコート。
首元を緩めてベッドに寝かせ、羽毛布団でヒナの小さな体を覆う。
“ゴメンね。シーツ代えて無いから、臭いがするかも。”
「ん~ん……。せんせぇのにおい、あんしんする……。」
毛布にくるまれながら、緩み切った笑顔を浮かべるヒナ。
彼女を愛しく思う感情と、自分の部屋に帰してやれない申し訳なさで、先生の内心は滅茶苦茶であった。
それを喉元までで押し留め、ヒナの頭を撫でてから部屋を出ようとする。
“……明日洗うから、今日は我慢してね。”
「せんせ……?」
「いっちゃうの、せんせ……?」
先生が振り返れば、ベッドから体を起こし、今にも泣き出しそうなヒナがいた。
私はつくづく、単純な大人だ。
心の中でそう自嘲しつつ、先生はベッドの端に腰掛けた。
“寝るまで傍に居るよ。それじゃ駄目かな。”
「ヤダ。一緒に寝て。」
“もう、ヒナ……。”
「ヤダ!一緒に寝たい!良い子にするから……!お願い……!」
“……今日だけだよ、いい?”
娘が私を信頼し、ワガママを言ってくれる。何と幸せな事か。
大人はまた狂っていた。
先生は目じりに涙を溜めていたヒナの横に寝ころび、同じ毛布をかぶる。
すぐにヒナは先生の胸元に顔を埋め、腕を回して抱きしめる。
「ふふ、あったかい……。」
“ヒナ、やっぱりもう少し――”
微かに正気を取り戻した先生は、目線を下げた瞬間に言葉を飲み込んだ。
頑張り屋の生徒が、自身の胸の中で、寝息を立てていたのだから。
“お休み、ヒナ。”
先生はヒナの頭をそっと撫で、自身も眠る事にした。
夢にすら邪魔されない、穏やかな夜だった。
翌朝、ヒナより早く目が覚めた先生は、彼女を起こさないようそっとベッドを出る。
服を着替え、歯を磨き、眠気覚ましのコーヒーを淹れた時、仮眠室のドアが開いた。
中から、真っ赤な顔と寝癖が付いた髪を翼膜で覆い隠した、ヒナが現れた。
「あの、その……!おっ、おはよう、ございます、先生……!」
“ヒナ、おはよう。大丈夫?気分はどうかな?”
“コーヒー淹れたんだけど、一緒に飲む?”
「あっ、あの、その、私……!昨日、私は……!!」
昨夜のヒナの痴態は、両者の記憶にクッキリと刻まれている。
片や大切な記憶として。片や今すぐに消し去りたい記憶として。
“えっと、気にしなくていいよ。酔っぱらったヒナは、すっごく可愛かったし。”
「~~~~ッ!!!」
悪手。その2文字が先生の頭を過る。
フォローのつもりで放った言葉は、彼女の羞恥に注ぐ油であった。
真っ赤な顔を隠したまま、ヒナは自身の荷物とコートをひったくる様に拾い上げる。
「本当にごめんなさい!!始末書を今日中に提出する!!それじゃ!!」
“ああ、待って――!行っちゃった……。”
そして、何度も頭を下げた後、執務室を飛び出した。
先生の手には、昨晩のマーケットでワインと共に買ったマグカップが、2つ残された。
先生は軽く顔を上げ、ため息を1つ。
昨日の事は、中々ワガママが言えない彼女の為の、サンタからのプレゼントだったのだ。
先生はそう解釈して、僅かにワインの香りが残るコーヒーをすすった。
その後彼女の宣言通り、夕方に風紀委員会からの始末書が千枚の反省文と共に提出された。
そして同時刻、シャーレに関するうわさもまた、1つ増えた。
時期と重なり、噂が新たなトラブルを、正確には多数の生徒達を先生に呼び込んだことは、言うまでも無いだろう。
季節ネタを始めて書いた気がする投稿者です。
この手のコメディも初めて書いた気がする投稿者です。
初体験ばっかじゃねぇかよお前よォ。