最近DU地区に出来たという喫茶店に私は足を運んだ。こじんまりとした佇まい。うん、悪くない。
扉を開ければチリンチリンと可愛らしい鈴が鳴る。お客はぼちぼち。皆静かにこの喫茶店を楽しんでいる。
私は空いていたカウンター席の片隅に腰掛けた。丁度ドアが見える場所。
「ご注文は」
お冷やと手拭いを出してくれたロボットのマスターがハスキーな声で問い掛けてきた。私はメニューに手を伸ばす。
サンドイッチ。悪くないけど軽い。グラタンにビーフシチュー、ちょっと気分じゃ無かったり胃に重たいかな。カレーも良いけどもう少し喫茶店らしい物を…
そう悩んでいると1つ目に入ってきた。ミートソーススパゲティ。うん、これにしよう。
「アイスコーヒーとミートソーススパゲティで」
「畏まりました」
小さく会釈して料理に取りかかるマスターの姿を眺めながら手を拭き、お冷やを飲む。
店のラジオから流れてくるアンビエントなジャズが心地良い。
他愛なく、ケータイで最近のキヴォトスのニュースを見る。人の足を舐めたり体臭を嗅ぐ妖怪が居るとか居ないとか。
そんな下らないニュースに小さく笑いながら時間を潰しているとスパゲティとコーヒーがやってきた。
うん、ミートソースの良い香り。確り煮込まれてて、トマトの赤味は抑えめ、少しデミグラスソースみたいに茶色な感じ。期待出来そう。
取り敢えず。アイスコーヒーが飲みたかった私は先にグラスに手を伸ばして一口飲む。
あ、香り高い。風味も普通のアイスコーヒーと全然違う。これ水出しコーヒーだ。こんな所で飲めるなんて思いもしなかった。
私は心の中でこの喫茶店に二重丸を与えながら、フォークを手に取りスパゲティを食べる。
…うん、よく煮込まれてて、味が濃厚で美味しい。挽き肉も良い感じにボリューム感がある。
スパゲティが少し太い目なのも嬉しいな。食べ応えがあるから。
チラチラと降りかけられていたパセリの香りも心地良い。ミートソースに舌が染まってきたら、水出しコーヒーを飲む。
心地良い爽やかな苦みと酸味に舌鼓を打ちつつ、またスパゲティを食べる。
気が付けば、目の前のお皿は綺麗さっぱり何も無くなっていた。ご馳走様でした。
ほぅ…と心地良い溜め息を漏らしながら私は食後のボンヤリとした時間を過ごす。
時計の短い針が天頂から傾きだした頃、ドアを開く音とチリンチリンと鈴が鳴った。
ちょっと遅かったけれども、想像していた通りに彼女はやってきた。
「遅いよ、アコ」
私は優しく元恋人の名前を呼んだ。