揺蕩うが上手く消化できなかった。語彙力と読書量の少なさのせいです。
その先輩は、まるで妖精のような存在だった。自分が校庭で絵本を読んでいると、いつも声を掛けてくる、絵本の妖精。
校庭が一望できる大きな桜の木の下が、自分の特等席。そこで最近人気になっているという絵本を開き、将来のために研究するのだ。
「おい栄助! またサボって本読んでんのか? 担任にチクるぞー」
桜の木の裏には保健室があるので、養護教諭の先生には目敏く見つかってしまう。
しかし自分はこの場所でのこの行為をやめる気にはなれなかった。なぜなら、最近ここで妖精と出会うようになったから。
「栄助くん、今日はどんな絵本を読んでいるんですか?」
すらりとした細身の女子生徒の声が、桜の木の裏側から聞こえてくる。
彼女の方を向けばいつもと変わらず、木の幹に体を預ける形でそこに立っていた。制服はこの学校のものではあるが、どこかこの世のものではないような雰囲気を漂わせる彼女の魅力に、自分は既に取りつかれてしまっていた。
本を彼女に見せるように向けて、本の内容を説明する。彼女はとても楽しそうにそれを聞いて笑っている。華奢で細い腕で口を覆いながら、上品に。
「栄助くんは、将来絵本作家さんになりたいんですね!」
高校生にもなって絵本なんかを呼んでいる理由として、研究をしたいからだと伝えれば彼女は目を丸くして驚いた。テンションが上がりすぎてゴホゴホと咳き込んでいた様子に、ほんの少しだけ彼女に人間味を感じる。
きっと良い作家さんになれますよと太鼓判を押してくれる彼女のことを好きになるのに、時間はかからなかった。
今日は彼女がどのクラスの生徒なのか聞こう、名前ぐらいは聞いてみよう、そう毎回決意しているのに、彼女との会話が楽しくて終わってみれば肝心なことを聞けないまま。思い出して戻ったときには彼女は夢幻のように姿を消していて、やはり彼女は妖精なのかもしれないと思わされる。
「栄助くんと会えて、私はとても幸運です」
彼女は時々ひどく不安げな顔を見せる。それが故に、自分のこの醜い感情を伝えることを躊躇する。
もっと近づきたい。もっと彼女の事を知りたい。もっと自分を見て欲しい。もっと、もっと、もっと。
この今の名状しがたい関係値も捨てきれず、波に揺られる木の葉のように惑い揺蕩う自分の心の形を定められない。
「こんな遅い時間まで、熱心ですね」
彼女がいつでも現れるから試しに放課後の下校時刻ギリギリに校庭へ向かえば、当然のように彼女は現れた。
たまたまだと語る彼女の様子からはその真偽のほどは判断できず、本当に妖精のようだと思ってしまう。
「もうすぐ下校時刻ですね」
彼女はちらちらと校門の方を向きながら、しきりに時間を気にする様子を見せる。
それはまるでおとぎ話の中のタイムリミットがあるお話のように思えて、そんなことを口に出そうとしたとき。
キーンコーンカーンコーン、と、下校の準備をしろと時報が告げた。
運動部がラストワンプレーを終え、集合して片付けを始める。
早くも校門から出ていく生徒たちを見て、思い切って一緒に下校しようと彼女に提案してみようと思い立つ。
「あのっ」
そうして振り返った先には、桜の木が聳え立っているだけだった。
保健室の窓に挟まって外に取り残されたカーテンが、ゆらゆらと風に揺られていた。
簡単プロット
校庭で絵本を読んでいると、その先輩は必ずやってくる。授業中に抜け出したときも、放課後の遅い時間でも。彼女が保健室登校の生徒だということに、栄助は気が付かない。
プロットに答えを仕込んでいくスタイル。30分かかったのは初動が遅かったせいですね。
恋愛ジャンルに挑戦してみましたが、こんな感じでいいんでしょうか。自信を持てるぐらいまで続けていきたいところですね。継続は力なり。ぱわー。