ホラーと書いていますが、幽霊が出てくるだけで特に怖い要素はありません。
終業後のビル。ほとんどの窓から暗闇が除く深夜に、一つだけ明かりのついている窓があった。
そこはある会社の会議室。今年は言ったばかりの社員が、明日のプレゼンに向けて一人準備と練習を進めていたのである。
「HDMIの使えなかったケーブルは取り替えたし、パワポの準備も良し! あとは時間のチェックだけだな」
プロジェクターの使い方と操作方法を確認した諏訪明宏は、誰もいない会議室で一人発表練習を行う。
時計を確認してあと二、三回やったら帰ろうと考えてトイレ休憩に行き、戻ってきたところで明宏は先ほどまでなかったはずのものを会議室に発見した。
「空き缶? しかもお酒? 一体誰が」
ふと気配を感じ、顔を上げる。
すると会議用に並べられた長机の一つに、ジャージ姿で寝転ぶ男を発見した。その手には先程明宏が拾い上げた空き缶と同じものを持って、寝転んだ大勢のまま酒を流し込んでいる。
何をしているんだと指摘しようとした明宏は、あることに気が付いて言葉を失う。
コカン、と明宏の手から空き缶が転げ落ちた。
「んあ? んだぁ?」
ジャージ姿の男がこちらを見る。
その目が自分を捉えたのを見て、明宏はひゅっと自分の喉が鳴った音を聞いた。
「あ、もしかしておめえ、見えてんのか?」
こちらに話しかけてくる男の背後にも、未開封の空き缶が見える。
先程の言葉も相まって、明宏は目の前のジャージ姿の男が幽霊である事実に思い至る。
「いやーなんだ、プレゼンの練習かよ。遅くまで結構なこった!」
「そちらはブラック企業時代の方なんですね」
「そーそー! 俺のいた時代はタイムカードきったら飯買ってきてジャージとかに着替えて、段ボール敷いて泊まり込んでたもんよ! 早く終わった日とかはみんなで酒盛りもしたなぁ!」
話してみると、そのジャージ姿の男は明宏の勤める会社が今の体制に変わる前に勤務していたようで、ブラック企業時代の話がポンポンと飛び出してきた。
明宏も自分の会社が少し前まで有名な地雷企業であることを聞き及んでいたために、入る時代を間違えていたらと震えあがる。
「そういやプレゼンの練習してたんだろ? 俺が聞いてやるからやってみろよ!」
「え? ああ、ぜひ。ですが終電も近いので、多くても二回ですかね」
そうして明宏は酒を片手に持つ男相手に明日のプレゼンを披露する。
先程とは違って明確に聞いている人がいるということで、話すペースも資料のページ送りなどもぐしゃぐしゃになって、上手くできなかったと明宏は肩を落とす。
「あんま気にすんなって! 入りは良かったし気になるところだけ練習しようぜ!」
そう言うとジャージ姿の男はどこから持ってきたのか明宏のプレゼンの資料を明宏に渡し、ペンで囲った部分やコメントを見てもう一回やってみろと宣った。
いつの間にそんなことをと思ったが、折角添削してくれたのだからと明宏はもう一度該当部分のプレゼンを行う。コメントのアドバイスを参考にしてみたら、完ぺきではないものの先程より少しだけ上手く行った気がした。
「よしよし、良くなったぞ! おっと、もう終電がやべぇだろ? こいつ渡すから、明日の朝にでも見てくれや!」
言われて明宏が時計を見れば、確かにもう準備をしなければ終電が怪しい時間になっていた。練習を手伝ってくれたジャージの男にお礼を告げて、明宏はその日は帰路についた。
翌日、朝一番に会議室に来てみたが、あの男はおろか空き缶一つ落ちていなかった。誰かが掃除したのかと思ったが、入室記録には明宏が最後の退出者となっている。
その日の明宏のプレゼンは成功だった。大成功とは言い難いが、初めてにしてはよくやったと上司から褒められる。
明宏はプレゼンの練習に付き合ってくれた男の幽霊に感謝するのだった。
所要時間30分弱。最後の部分で苦戦しました。
簡単プロット
皆が帰宅し、静かになった会議室。明日のプレゼンに備えて会議室で深夜まで準備を行っていた明宏は、会議室に空き缶が転がっているのを発見する。
そこにはブラック企業時代に泊まり込んで死んだ幽霊が、ジャージ姿で酒を飲んでいた。幽霊を練習台にして明宏はプレゼンを成功させる。
プロット通りには書けたと思う。続けていきたい。