ホラーと言いつつそこまで怖くはないですね。
昼休み、昼食を摂り終わって眠気と戦っていると、無遠慮に向かいの席に座る影があった。
相席は許可していないことを伝えようとするとそれが見知った人間であることを悟り、航大は口から出かかった言葉を引っ込める。同期でこの会社に入社して、会社に残っている蒼井という男だった。
「眠いのか、航大。眠気が吹っ飛ぶ話をしてやろうか」
「頼むよ」
目をしぱしぱと瞬きつつも、航大は蒼井の話に耳を傾ける。
一体どんな話をするこのかと思えば、蒼井は最近自分が見ているという夢について話し始めた。将来の夢ではなく、寝ているときの夢。逆効果ではないかと思いつつ、航大は話のオチが来るのを待つ。
聞けば、気が付くとどこかの廊下にいるらしい。
古い学校のような廊下なのだが、左右は緑の画鋲が刺さりそうな壁があるだけで、入れそうな部屋はないらしい。光源はどこからか差し込んでくる光だけで、電気はどうやら通っていないとのこと。確かにそれは不気味ではあるものの、かといって航大の眠気を晴らすものではない。
「しばらく歩くとな、廊下に終わりが見えて、机が置いてあるのが見えてくるんだ。その机にはあるものが置いてあるんだが、航大、何だと思う?」
「さあ?」
こういうどうでもいい引き延ばしをしてくる蒼井は正直航大の苦手なタイプではあるのだが、えり好みしすぎた結果が現在の会社での立場だということもあって、最近はあまり表に出さないように心がけている。蒼井という人当たりの良い人間と絡みがあることでなんとか保っている立場を失わないためにも、この無駄話に最後まで付き合ってやろうと航大は肩をゆすって眠気と格闘した。
「正解は、麦茶だ」
蒼井の声音はいかにも面白いだろうと訴えてくるような軽やかさがあったが、こちらを見るその目は笑っていなかった。その様子にどこか違和感を覚えて続きを促す。
しかし、夢自体はその麦茶を飲み干せば目が覚めてしまい、終わるらしい。
確かに変な夢ではあるが、そこまで眠気が吹っ飛ぶというほどのものではないように思った航大は、蒼井に全然恐ろしくないぞと抗議の声を上げる。
「まあ待て待て。こっからだぜ、面白いのは」
蒼井は変わらずハイライトを忘れたかのような瞳をこちらに向けつつ、楽しそうな声音でこの話題を続ける。
曰く、麦茶を飲まない限り夢から覚めることはない。夢の体感時間は眠っている時間と比例しているようで、麦茶を飲み切るまでの時間で起きる時間を大体調整することができる。
それらを先週の金曜日と土曜日の就寝時に確かめたという蒼井は、ついにこの話の核心に触れた。
「――実は麦茶の量が、日に日に増えているんだ」
航大はそこでようやく、蒼井の瞳に恐怖の色が混じっていることに気が付いた。
そしてふと、今日の始業に蒼井が遅れてきたことを思い出して、一つの可能性に思い至る。
「おい蒼井、昨日はどのぐらい飲んだ?」
「机が学校の机から長机に変わってると言えばわかるか?」
航大はようやく理解した。蒼井が何に恐怖しているのか、その全容を。
体調に影響はないのだろう。隈は無いように見えるし、睡眠の質に影響は与えていない。しかし、このまま続けば何が起こるかを想像してしまって、そして日常に支障が出始めているが故に、蒼井は瞳の色をどこかに置いてきてしまったのだ。
「どうだ、航大。眠気は吹っ飛んだか?」
言われて、蒼井が今の話を自分にした理由を思い出す。
眠気が吹っ飛ぶどころか眠ることが怖くなっている自分に気が付いて、航大は「おい、どうしてくれる」と恨みごとを吐き出した。
20分で設定して30分弱で完成。30分を基準にするといい具合かもしれませんね。
意識したのはお題の使い方。2分で立てたプロットは相変わらず無視しましたが、このぐらいの温度感のものもいいかもと思う今日のこの頃。