意地でも
次の小説の舞台は、旅館にした。山奥の旅館というクローズドな空間で起こる殺人というありきたりな内容ではあるが、良いトリックとプロットが思いついたのでそのまま書いてみることにしたのである。
今日は自分のイメージとぴったりの温泉宿に取材に来ている。山奥の秘湯で、最寄りのコンビニや民家までですら車が必要な場所だった。
「角山
そこは小説の舞台にするにはちょうどいい、小さめの宿だった。私以外の客はいないようで旅館の運営が心配になるが、逆に言えば好きに取材ができる好機とも思えた。
事前に小説の舞台にしたいと言っていたこともあってか、私が館内を歩き回っても特に苦言を呈されることもなく、のびのびと見て回ることができた。むしろ手隙の人間が案内をしてくれるような状況で、これは傑作を書き上げなければと気合いを入れ直す。
この宿の一番の売り文句である温泉に入っていざ構想をまとめようと思っていると、トントンと控えめなノックの音が私の耳に届いた。
何か用があるのだろうかと扉を開ける。
そこには、葱を抱えた宿の従業員がいた。
「
思わず口にしてしまうほど予想だにしなかった光景を目にして、私の頭は混乱する。
こちらをにっこり笑っているのも訳が分からずにだんだんと怖くなってくる。
私が思わず一歩足を後ろに引いたのと、目の前の人間が葱を見せつけるようにして言葉を発するのはほぼ同時だった。
「ウチは土地柄上、ちょっと変わった儀式をやってるんすけど、良かったらご覧になりますか?」
「へ?」
小説の構想を練りたいから断ろうと思っていたのだが、好奇心に負けた。
だって、葱。葱だぞ、ネギ。鴨が背負ってくるやつ。電子の歌姫がよくわからないけど持ってるやつ。
どんな儀式なのか、気になってしまうのも仕方がないと思う。
「この辺は昔祟りがあったみたいで、今も定期的にこういう魔除けの
そう紹介する女将と私の目の前で、従業員たちはせっせと魔方陣を作っている。葱で。
てっきりお供え物なのかと思っていた私の予想を裏切り、葱は魔方陣を構成する主成分として用いられている。葱が魔方陣の線の役目を果たしているのである。
「昔は牛などの臓物を使って儀式をやっていたみたいなのですが、昔の伝染病の時にここらでは牛が全滅してしまいまして。仕方なしに葱で代用してみたら問題なかったようで、それ以降は葱で魔方陣を構成するのが一般的になりました」
「……どこから突っ込めばいいですか?」
どうしてそこで葱を選んだのか。どうして葱で魔方陣を加工だなんて発想に至ったのか。もっとあっただろう。せめて曲線が描きやすいものにした方が良いだろ。
いろんな言葉が頭の中をぐるぐる回って、私を落ち着かせてくれない。
「では儀式を始めますねー」
宿の女将は混乱する私を置いて儀式を始めてしまう。
祝詞自体は普通にちゃんとした
私がそうしている間に儀式は終わり、部屋に戻され、夕食を終え、何も手につかないまま床に入った。
小説は変なカルト要素が加わった結果、なんか売れた。
簡単プロット
花音は旅館を舞台にした小説を書くために温泉宿を訪れていた。
そこで魔除けのための呪いをしていると言われ、葱で魔方陣を描く奇妙な儀式をさせられるのだった。
プロット通り。かんぺき~。時間も25分ちょうどぐらいでオールクリア。個人的にも大満足。
この調子で続けていきたいところです。