難産でした。
強面の男と紙袋を被った少女が、都市の一角の更地の前に立っていた。
男が顎で促すと、紙袋が縦に振れる。
そして、紙袋を被っているハンデを誰も気が付かないであろうほどの美声が辺りに響き渡る。
「相変わらずバケモンみたいな歌声だな」
呆れたように言うその言葉が、その声音と口調に反して純粋な誉め言葉だと理解しているのか、少女の歌声に僅かばかりの喜色が混じる。
そこに気が付いた男は息を吐きつつも、目の前の土地が予定通りの変化を始めていることを見て取った。
少女が歌うのは、豊穣の唄。実りを祈る儀式のための詩。
火事で何もかもが燃え切って完全に痩せた土地に、少女の声が命を宿らせる。こんな歌声を聞いたのだから再起せねばと、土地を奮起させる。
事故が起きた物件だからと叩き売りされていた土地を買った男は、まるで悪事の計画がなったかのようにその相好を崩す。通り掛かりの人間が何とはなしにその様子を見て、ヒッと小さく声を漏らしたが、男は気にする様子もなかった。
「おい、土地の方はもう良い。さっさと草生やせ」
紙袋が男の方を向き、一つ縦に揺れた。
そこから、歌姫は一つギアをあげる。先程までですら聞き惚れるような音色だったというのに、今の彼女は神すらも手を止めるのではないかと思わされてしまう。
その奇跡を証明するように、彼女の周りの土から植物の芽が顔を出した。
何も植えていないのに、何の種も撒いていないのに、植物がそこに根を下ろし始める。
歌声をトリガーにその奇跡が実現できるならば他の使い方などいくらでもあろうというのに、男は歌姫の顔を隠させて土地を潤すためだけにその力を行使させる。自分の快楽や悦楽のために彼女を使うこともできたはずなのに、男が彼女に望んだのは枯れ地を畑に変えることだけだった。
「よし。そんなもんだろ。ほら、収穫するぞ、手伝え」
そう言うと男は自身が抱えていた鞄の中から軍手を投げ渡し、袋を広げて土地に足を踏み入れる。
歌姫はそんな男の様子を見ながら思う。こんなことを自分にさせるのはこの男だけだろうと。他の人に拾われていたら、もっと楽だったのではないかと。
もっと涼しい部屋で、ただ望まれるがままに歌い、快楽に身を預ける。思考を放棄して、身も心も預け、享楽に耽る。そんな未来。
畑仕事で荒れてしまった自分の手を見て、彼女は紙袋の内で苦笑する。
今の生活に満足していないかと問われれば、彼女はその紙袋を横に揺らすだろうという確信がある。
思い描いていた生活とは程遠い。だがそれでも、歌姫は自身の幸福を疑うことはないだろう。
30分少しオーバー。ちょっと合間で動き回ったから参考記録です。にしてもちょっと遅い気がします。
簡単プロット
瘦せた土地に歌声が響く。男が占有するその歌姫は紙袋で顔を隠し、男のためだけにその力を行使する。
歌姫の声に浄化された土地は痩せ地だったことが嘘かのようにその土壌を潤わせ、男の収入源になるのだった。
プロット通りです。ファンタジーなんだかようわからん世界観になりました。
真っ先に思いついたのがこれだったので仕方なし。たまにはこういうのもいいでしょう。