掌編集 三題噺   作:息抜きのもなか

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本日のお題は「秋風」「歯」「白墨」の三つ。
白墨ってなんのこっちゃと思ったらチョークの事らしいです。気分が乗ったのでいつもより長め。


ホラー お題「秋風」「歯」「白墨」

 夕暮れの河川敷を、息を切らして走る影が一つ。

 齢十に満たないほどの小さな童が、脇目も振らずに駆けていく。

 しかし小石にでも躓いたのか、アッと声を漏らした次の瞬間には、小さな体は血に這いつくばってその装いを汚してしまう。

 痛みに顔を顰めた童の耳に何かを引きずるような音が届いて、彼我の距離を確かめるようにそちらを向く。

 エッと短く声を上げてしまったのは、這いずる音の感覚からは想像ができないほど近くに、その巨体があったからだろう。

 呆然とする童の身体を一口に呑むことができそうな大きな口。なぜか流動的に動き続ける泥のような体。まるで物語に出てくる化け物と酷似するような容姿に、獲物を口に運ぶための二本の太い触手が伸びている。その一つでさえも子供の頭ほどの太さがあるそれは、捕まってしまえば人の身にはどうすることもできない膂力の差があることを容易に想像させる。

 そして大きな口の上に一つだけある大きな目は、人のそれを九十度回転させたように広がっていて見る者を気味悪がらせた。

 

「口の中に何か放り込むんだ!」

 

 どこからか男の声が聞こえて、童は辺りを見回す。

 その間にも自分を触手が捉えようとしているのを見て取って、童は自分の手巾(ハンカチ)を化け物の口に放り込んだ。

 自分の腕まで持っていやれやしないかと冷や冷やしていた童は、化け物が口を閉じたのを見て少しずつ後ずさる。そうして立ち上がって距離を取ろうと後ろを向いたところで、少し先に男が立っているのが目に入った。

 

「災難だったな、坊主。裏山にでも行ったか?」

 

 男の質問に童は頷いて返す。その返答に男は呆れたように息を吐き、しかし童を叱るでもなくただその頭をむんずと掴んで、雑に撫でまわす。

 されるがままになっていた童はブンと頭を振って男の魔の手から逃れると、あれは何かと未だ自身の手巾を頬張って動かない化け物を指さした。

 

「あいつは泡砕きだ。この時期になると裏山の方に出て、何でもかんでも食っちまう妖だな」

「泡砕き?」

「由来は知らんよ。ただ、泡だろうが人だろうが何でも食って骨も残さないからな。そういう意味で名付けられたんだろうよ」

 

 男がそんなことを童に教えていると、泡砕きと呼ばれた化け物がその体をもぞりと震わせた。

 先程まで味わうように閉じていた目をカッと開き、また獲物を探すようにギョロリと辺りに目を向け始めた。

 ヒッと童がその身を震わす。言うまでもなく、泡砕きがこちらを認めたからである。

 

「あいつの対処法は決まってる。どこかの祓い屋に痛い目にあったのか人気の多いところには来ないから、とりあえず人気の多いところまで逃げるんだ」

「追いつかれたら?」

「さっきみたいに口の中に何かを放り込んで、食事を楽しんでいる間に逃げる。あいつは柔らかいものより硬い物の方が食べるのに時間を掛けるから、なるべく硬いものを放り込むのが良い」

 

 そんでもって、子供におすすめなのはこいつだな、と男はこちらに近付いて来ようとした泡砕きに何かを放り投げ、化け物がそれを捉えて口を閉ざしたのを見て童に向き直る。

 男が見せたのは白墨(チョーク)だった。確かにそれなりに固くて、子供でも学校からこっそりと拝借しておくことは難しくない。

 

「砕いたら細かくなってくれるから、それも泡砕きと相性がいい。しばらくは持っておくといい」

 

 そう言って童に二本の白墨を渡して、男はそろそろ離れるかと河川敷を歩き出す。

 慌ててそこに追従した童は、男がなぜあの化け物について詳しいのかと問いを投げた。

 

「んまあ、ああいう妖どもを調べる専門家みたいなことをしてるんだ。あんまり風当たりは良くないがね」

「風当たり? どういうこと?」

「まあ坊主にはまだわからんだろうよ。世の中、大人になって化け物を追っているやつに優しくしてくれるの坊主みたいな童どもだけよ」

 

 きっと自分には何か察することのできない事柄なのだろうと童は追及したい心を抑え込む。

 男はまだ人がいるところまで歩くことを察したのか、童にその手を差し伸べて手を繋ぐ。

 

「面白いことを教えてやろう。泡砕きの歯は本当は真っ黒なんだ。だが、みんなが白墨を食わせるせいでいつの間にか真っ白になっちまったのさ」

 

 それから童が家の近くに戻るまで、男は童に妖の話を伝え続けた。退屈させないようにという配慮だったが、童は男が思う以上に楽しんでくれたようで、また話を聞かせて欲しいとせがまれる。

 また近くに寄ったらなと男は童を宥め、その頭をぐしゃりと撫でた。

 冬の気配を感じ始める、秋風が肌寒く感じる季節の記憶。

 それが思い出になるまで一度も姿を現すことのなかった男の再訪を、童はいつまでも待ち続けた。




簡単プロット
泡砕きは強靭な顎を持つ化け物である。秋口になると現れて人を襲うが、とりあえず口に何かを突っ込んでおけば黙る。
専門家を名乗る男は泡砕きにチョークを食わせ、アイツの歯が白いのはチョークが漂白剤の役目をはたしているからだと笑うのだった。

書くのは楽しかったけど、三題噺としては少し失敗な気がする。
ちなみに泡砕きという妖怪はいません。多分似てるやつはいっぱいいると思います。
こういう文体にすると、ちゃんと成立しているのか少し心配になるのでもう少し勉強をしたいところです。アウトプットばっかりだといつか枯渇するので、上質なインプットの機会を設けたい。
それも含めて精進しましょう。もっといいものを追求するのです。
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