作者は好きな映画を聞かれると決まって「スウィーニー・トッド」と答えます。ヤバいやつです。
オルゴールが響く店内。
通りからはガラス越しに店内を覗くことができ、思わず立ち寄ってしまいたくなるような装飾が道行く人を手招きする。
鈴の音が来店を告げれば笑顔でこちらを見る店員と小腹が空くようなお菓子の香りが出迎えて、手ごろな価格も相まって一つぐらい買ってから帰ろうかと思わされる。
「おすすめは何ですか?」
初来店の場合に決まって聞かれるその問いに、まるで用意していたように店員は答える。
「当店のおススメは、こちらのミートパイとなります」
その店員が手で示す先には、手のひらサイズのミートパイがその存在を主張している。
なるほど確かに美味しそうである。自信をもってお勧めするだけはあるその造形は意識を向けるとよりそれ以外のものよりも随分と魅力的に思えた。
そんな和やかな雰囲気の店内に、その日は珍しく乱入者がやってきた。
「ちょっと、うちの子がここのミートパイを食べてひどい顔をしてるのよ! 一体何を入れてるの!?」
「ミートパイの材料は企業秘密となっておりますので……」
子供を連れてクレームを入れに来た母親に、店内の様子は一変する。
様子を伺う者、少し緊張しながらも会計を済ませる者。店を出ようか思案する者。
このままでは良くないことになってしまうのではと店内にいた誰もが考えたその時、その場を一蹴する一声が届く。
「これはこれは。ご子息に不快な思いをさせてしまったようで申し訳ありません」
厨房から登場した白衣の男に店内の人間の視線が集中する。
「本来ならば良くないのですが、特別にお二人を厨房にご案内いたします」
その言葉に、店内はざわめき出す。
それはつまり、ミートパイの材料を明かすということに他ならないからである。先程店員が言っていた企業秘密という言葉にも反する。
しかしそれはクレームに対して真摯に向き合い、自らの潔白を証明しようとする行為である。その言葉を受けて母親の溜飲は少しだけおさまって、他の客は店の対応に目を瞬いた。
「では皆様、引き続き穏やかな午後をお過ごしください」
厨房側に親子を案内し、扉を閉じる前にコック姿の男は一礼する。
扉の向こうから何か機械の音が聞こえてきていたようだったが、オルゴールの音でかき消される。店内にいる客たちは、それをミキサーかオーブンか、その辺りだろうと勝手に自分で納得した。
しかし、厨房に通された親子だけは、そうではなかった。
「何よこれ! こんなの! 許されるわけがない!」
喚く母親と、震えて声が出ない男の子。既に店内と厨房を隔てる分厚い扉は締め切られており、しかも扉の前には自分たちをこの場に招き入れた男が立っている。
厨房に入ってしまった二人が選択を誤ったことに気付いたときには、もう既に逃げ場はなくなっていた。
「お気付きになられましたか」
先程と変わらぬ口調でそう話す男の口からは、秘密が明かされてしまった焦燥やこれが外部に漏れてしまう懸念のようなものを抱いているようには感じられない。
それ即ち、この事実が露見することはないという確信があるということ。
「当店は、お客様と同じ『人間』の肉を使用させていただいております」
そう言って頭を垂れた男を見て、その隙に逃げ出そうと母親は厨房を走り出す。しかし見回した先に、出口は見当たらない。従業員出口はないのか。通用口は厨房にないのか。そんなことを考えるが、現実は無常であった。
気配を感じて振り返れば、コック姿の男が三人、こちらを見て笑みを浮かべていた。その手には肉切包丁のような大きな刃物が握られていて、自分の運命を悟る。
厨房に、大きな悲鳴が響き渡る。続いて、小さな嗚咽が聞こえて、それもすぐに止んだ。
そんなことが裏側で行われているとは露知らず。
店内には楽しそうなオルゴールの音だけが響いていた。
簡単プロット
オルゴールの音が鳴り響くお菓子屋さん。その店の一番の売りはミートパイであった。
ある子供が違和感に気が付いて、その母親が抗議に来る。店側は調理法を紹介すると言って厨房へ招き、彼女たちを殺してミートパイの材料にするのだった。
迷いなくこうなりました。仕方がない。
ホラーとコメディを反復横跳びしてますが、書きやすいのが原因ですね。ミステリーは三題噺にするには少し文量が足りないし、恋愛は作者が苦手なので。
今日のお話で言えば、ながら作業だったのでいつもの倍近い45分での執筆となっています。文量だけなら多分30分もあれば余裕があったはずです。気を取り直して明日はスパッと書きましょう。
クオリティは概ね満足。余りそうなオルゴールもいい感じで役目を果たしてくれました。