家族や知人からは何度も止められているものの、雑賀はあの鍛冶屋以上に腕のいい鍛冶屋を知らず、そして何より彼の作ったものでしか満足できなくなってしまっている。余りにも隔絶した出来のため、彼が作るもので固めないと物足りなくなってしまったのである。
しかし雑賀とて、周囲の人間が自身を止めに来る理由に心当たりがあった。
その鍛冶屋は決して自分の工房を見せようとしないのだ。
いつも依頼は村の中で口頭のやり取りを行い、出来上がりは近くの山の麓で落ち合って受け取ることになっている。自分たちの村の反対方向に去っていくので山のどこかにあるのだと踏んでいるが、雑賀は探しに行こうとは思わなかった。
「ほら、依頼されたものだ」
「ありがとう。確かに」
物を受け取ってその出来に感心しつつ、雑賀は約束通りの代金をその鍛冶屋の手に落とす。
普段ならばそこで次の依頼の話の口火が切られるのだが、その日は鍛冶屋の様子がいつもと異なっていた。
だが、雑賀とて既に理解している。どれだけその鍛冶屋の工房に興味があっても、それを口に出してはいけないということを。
「次に作ってもらいたいものなんだけど――」
仕事の話になって自分に向けられていた名状しがたい視線が切り替わり、雑賀はふっと胸を撫で下ろす。
そして話の中で自然と視線を下げた先に彼が持参していた手提げ袋が見えて、雑賀は自分の鼓動が早くなったのを自覚した。
悟られないように普通を装いつつ、雑賀は依頼の話を終えて踵を返す。
背後からの気配が少し止まっていたことに僅かばかり肝を冷やして、しかし離れていく足音を耳に捉えて雑賀は大きく息を吐いて安堵した。
「大丈夫。私は、大丈夫」
先程見えた手提げ袋が脳裏に蘇り、自分はそうはならないと言い聞かせる。
あれが何かと聞いてしまえば自分は終わるのだと、雑賀は不思議と確信を抱いていた。あの想像に難くない赤く滴ったような汚れの正体を詰めてしまえば、きっと連れて行かれてしまう。
西洋の吸血鬼と同類の何か。相手の言質を以て悪辣を為す化け物。
明らかに自分を誘うような動きをした鍛冶屋に危機感を覚えて、しかしもう満足できない自分はまたあの鍛冶屋に依頼をするのだろうという確信がある。
目を付けられた。だが、屈してなどやるものか。
自分はあれを上手く利用することができていると自分に言い聞かせ、雑賀は帰り道を急いだ。
簡単プロット
雑賀には鍛冶屋の知り合いがいた。いつも依頼すれば何でも作ってくれて、山の麓で渡してくれる人。
雑賀は鍛冶屋が何をしている人なのか知ろうとは思わない。その手提げが赤く滴る何かで汚れていたとして、雑賀は知らない振りをした。
わりと困らずに書けました。プロットの時間含めても20分は超えていないかと。
クオリティも個人的には満足です。このぐらいのものを量産していければいいなと思います。
明日はコメディにできるお題にしてほしい。「鍛冶屋(人)」が扱いに困ってホラーになっちまったので。ちなみに正体は架空の妖なので雑に解釈してみてください。