家主のいなくなった水車小屋。
その入り口には小さな影が慣れた動きでその中を覗いていた。もう既に二月以上小屋の持ち主が戻ってきていないというのに、小さな影は一日たりとてその行動を欠かすことはない。ロウルは慎重派なのだ。
人がいないことを確かめたロウルは、小屋の中に入って扉を閉める。そうすれば背丈の小さなロウルは窓から見えることはないからだ。無論、箱に乗って棚の上部にあるものを取ったり机の上にものを乗せたりしているときはその限りではないが、その時もまたロウルは慎重に窓の外を確認してから行うので、これまでロウルの行動が悟られたことはない。もしかすると隣人たちは見て見ぬふりをしてくれているだけなのかもしれないが、何も言われないのであればロウルにとって問題はない。
箱を机の側に動かし、窓の外を確かめてから机の上のすり鉢へと持ってきた菜っ葉をいくつか放り込む。それからタイミングを見てすり鉢に水車の力が加わるように切り替える。
それからしばらくの間、ロウルは水車が自分の持ってきた草をすりつぶしてくれるのを待つ。
ガコガコと木がぶつかったり擦れたりする音がするこの時間のことが、ロウルはそこまで嫌いではなかった。
落ち着いて考えをまとめる時間になるし、単純に結果が待ち遠しいというのもある。
それ故にロウルはいつもこの水車小屋の家主はどうしてここを手放したのだろうと思わずにはいられない。
水車は問題なく動いているし、天井も壊れていなければ中に何かが散乱しているわけでもない。単純に機械化が進んで使う必要がなくなっただけであることに思い至らないのは、ロウルが機械を目にする機会が少ないからである。村の気質として、汗水垂らして働いたやつの方が偉い、という価値観がロウルにも少なからず存在している部分も大きいかもしれない。
そろそろかもしれないと思ったロウルは、窓の外を見て人がいることに気が付いて、その人が離れるのを待つ。
しかしその人物の足音はだんだんとこちらに近付いてきていて、ロウルは慌てて棚の裏へとその身を隠した。
「なんだ? 誰か勝手に使ってやがるな?」
扉を開いたのはぶっきらぼうに喋る男だった。ロウルはその話し方からその男がこの小屋の家主なのかもしれないと思ったが、声が若く確証が持てなかった。
そうして息を潜めている間に別の声がして、ロウルはこの水車小屋に入ってきたのが二人だと気が付いた。
「構わんよ。少し見せてもらっても?」
最初に入ってきた男よりも年を重ねているように思える、落ち着きのある男の声だった。
その男は最初に入ってきた男が周りを見てくると出て行った後に机の方に近付き、すり鉢の中身を確認しているようだった。
そしてその確認を終えて動き出したかと思えば、ロウルの隠れている方へ迷い無い足取りで近付いてきた。
マズいと思ったロウルは観念して隠れ場所から飛び出して、頭を下げる。自分から謝れば許されるかもしれないと思ったからである。
ロウルが謝罪の言葉を口にするより早く、男がロウルに向かって言葉を投げた。
「君、私の弟子になる気はないかね?」
草木の匂いがする男の言葉に、ロウルの目は爛々と輝いた。
所要時間30分。調べものしながら書くことが増えましたね。水車の構造が分からなかったのですごく困った。勉強にはなりました。
簡単プロット
家主のいなくなった水車小屋。ロウルはそこに潜り込んで水車の力を利用する。ロウルは薬屋になりたいのだ。菜っ葉を持ち込んですりつぶして、ロウルは今日も新しい薬を考える。
後半をプロットから変更したので想定より5分ぐらい伸びましたね。
ただこちらの方が終わりがきれいなので個人的には満足。今日は三人称で書いてみましたがこういう固めの文体の方が性に合っている気はします。もうちょっと続けてみたいですね。