約束の場所に辿り着いてみれば、待ち人の姿はまだなかった。
浅はかだったと思う。日付だけ決めて時間を決めないなんて。十年前はまだ耐えられたこの時期の暑さはもう死人が出るほどのそれに移ろいでいて、炎天下の中で人を待つのは自殺行為に思えてならない。
幸い約束の場所は屋根を有しているため、しばらくの間は日差しを凌げそうだ。しかし昼を過ぎると日の向きが変わって屋根が意味を為さなくなるため、そこが実質的なタイムリミットなのかもしれなかった。
十年前、中学最後の部活の大会終わりに交わした約束をふと思い出して、既に一人暮らしを初めて街を離れていたというのにここに足を運んだ。自分はたまたま思い出せたが、あいつはちゃんと覚えているだろうか。いや、普通に考えればあんな約束を本気にする方がどうかしている。石に自分たちだけのマークとして彫った謎の文様は、年月が経つにつれて何が掛かれていたのか思い出せなくなった。ちゃんと二人で決めたモチーフがあったはずなのだが、そんなものは記憶の彼方に置き忘れてしまっている。
念のため水はペットボトルに入れて持ってきたが、あと何時間待てばいいのだろうか。あいつが自分がいる間にここに来るかというより、自分の根気が持つかの勝負なのかもしれなかった。もう既に帰りたいという欲が顔を出していた。
なーご。
突然、猫の鳴き声が聞こえた。
下の方から聞こえたその呼び声に視線を下げると、足元で黒猫がこちらを見上げている。黒猫はこちらが自分に気が付いたことを悟ったのか、足元に置いていたであろう何かを加えてこちらに見せつけてくる。
一瞬ネズミか何かだろうかと思って身構えたが、どうやらそれは無生物で、無機物のようで。壁に寄りかかっていた体を戻して
奇妙な予感がしてどうにか黒猫から石を貰えないかと案じていたら、それを悟られたのか黒猫は手を出せと言うように頭を振り始める。そうして出した手に置かれた石は、自分の待ち人と互いを確認し合うための印章であった。
たまたまそういう模様が付いたのかもしれないと考えたが、あいつが持っていった石にだけ付けられた傷やミスの形が自分の中にある記憶とあまりにも酷似していて、違うものだとは思えない。
盗まれたのか、落としたのか、はたまたあいつがこの黒猫になってしまったのか。
荒唐無稽なことを考えていると黒猫はこちらに飛び掛かってきて、無遠慮に、しかし器用にこちらの肩の上を歩き回る。最終的に引き離してまじまじと見つめたその瞳は、どこかあいつに似ているような気がした。
結局その黒猫と戯れてるうちに日陰がなくなったので、戻ってきたついでに実家に立ち寄った。
そこで初めて、あいつが数年前に事故で無くなっていたことを知らされた。黒猫は実家の近くまではついて来ていたのだが、いつの間にかその姿を消していた。
簡単プロット
十年後の八月七日に、この場所で。そんな約束を覚えているのは自分だけだろうか。
そう思っていたら黒猫がやってきた。自分が手に持つものと同じ印章を咥えながら。
プロットに肉を付けたイメージでいい感じに書けたのでは。タイムもたまたま22分22秒で猫でした(実際のタイマーストップは22分26秒064)
ペース的にも内容的にも満足です。ワンチャン一時間4000字が見えてきましたね。そのぐらい没頭できるプロットを作りたいものです。