適当にいつもとは違うツールでGLを描けと要求されたのでこうなりました。
美夜は朝起きてまず、届いているメッセージを確認する。今日の予定の確認を昨夜時点で読んですらいなかった愚か者が集合時間を確認したかどうかをチェックするためである。
美夜の予想通り既読という文字はなく、こちらの送信時刻の上には空欄がその場を占拠している。美夜の行動は決まった。あの愚か者を、花方涼を一発殴ってやらないと気が済まない。今年に入ってから既に何回か取り換えたはずの堪忍袋の緒が切れた。
「涼、いる? いるでしょ?」
玄関チャイムを押しながら美夜は家の中へ声を掛ける。あの出不精が自らの意思で外に出るとも思えないので、在宅なのは確実なはずである。
しかし家の中ではなく別の場所にいる可能性はある。そこに辿り着いた美夜は涼のお気に入りの場所であるガレージへと回ってみることにした。
そうして家の周囲を歩きながらガレージの方へ向かっていくと、美夜の想像通り涼がガレージにいるのはすぐに確信に変わる。美夜が聞き違えるはずのない涼の歌声が、ガレージに近付く美夜の耳にも届いていたからである。
ようやくガレージが目に入るようになったところで、美夜は足を止めてしまう。彼女の瞳に移った花方涼という女が、あまりにも綺麗だったから。目を閉じて心底幸せをかみしめているような顔で調べを奏でる涼の姿で、美夜の怒りはいつも吹き飛んでしまう。その度に、自分はこいつに勝てないのだと美夜は思い知る。
「涼、今日の予定、忘れてないよね?」
だからこそ、美夜は何でもない風を装って涼の側へと歩み寄る。
意識しているのは自分だけだと判っているから、ただの友人として振る舞うことを意識する。
「あ、美夜じゃん。予定? あー、あったね、忘れた」
「やっぱり。昨日メッセージで送ったんだけど」
「メッセージ? あ、スマホ、充電切れてる……」
はあ、と美夜はわざとらしく大きく息を吐く。
マイペースな涼のこういうところはあまり好きではない。いつも自分の調子を崩されるし、約束をほったらかされることも一度や二度でも下らなかった。
それでも美夜が涼から逃げられないのは、それ以上に彼女に心を奪われてしまっているからにほかならない。
「あ、涼。めちゃくちゃ爪伸びてるじゃない!」
「ほんとだ。美夜、切ってよ」
当然のことのように言うこの人間の言葉に逆らればどれだけ良かったか。そんなことが可能だったなら、そんな判断を下せるほど正常だったなら、そもそも涼と縁を切っているはずの美夜は、従う以外の選択肢を持ち合わせていない。
爪切りの場所を聞けば、涼が化粧ポーチから爪切りを取り出して、美夜に手渡す。そんなものだけはちゃんと持ち歩いていることに、やっぱり少しだけいら立ちが募ってしまう。
それでも、美夜はそれを口に出さず、涼の手に触れてその爪の処理を始める。
「体勢キツかったら言ってね」
「もう疲れてきた」
「あっそ。頑張って」
くだらないことを言う涼の戯言を無視して、美夜は想い人の手に触れる機会を堪能しつつ丁寧にその作業を進める。
「美夜はさ、結構いいお嫁さんになりそうだよね。結構世話焼きだしさ」
女同士の場合は、どちらが嫁になるのだろうか。
一瞬だけそんなことを考えた頭を振り払って、反対の手を出せと涼へ要求する。
美夜は自分が好意を向けられているなどと露ほども思っていないような涼し気な顔をしている目の前の人間に辟易しつつ、嫌われたくない一心で完璧に涼の爪きりを完遂する。
「さっさと出かける準備をして、涼」
「終わってる。今日はドライブと洒落込まない?」
「一応予定を組んでたんだけど……」
こういうところがあるから、涼の事を憎めない。わざとやっているのか、天然なのか、恋愛経験少ない美夜には分からない。
でも、この時間が少しでも長く続けばいい。そんなことを考えてしまっている自分に気が付いて、美夜は大きく息を吐いてからガレージの車へ乗り込むのだった。
所要時間30分ぴったし。プロット通り。及第点。
書き終えてから思いましたが『ガレージの中』は若干違う気も。どうすればいいのかわかりませんね。精進あるのみです。ぱわー。