金魚鉢の中にいた二匹の内、片方が死んだ。
一匹は夏祭りで捕まえた奴で、もう一匹の方は水槽の中に一匹だけだと寂しいだろうと思って買ってきたもので、死んだのは夏祭りで捕まえた方だった。
思い出補正も相まって中々に心苦しいものがある。いつも何をしようと反応を返さないもう一匹と一生懸命コミュニケーションを取ろうとする愉快な奴だった。
その日の朝も自分が目を覚ました時には既に賢明なアプローチを続けていて微笑ましく思ったというのに、何の前触れもなく逝ってしまった。気が付いたら死んでいて、逆さになって浮かんでいた。
原因が分からなかったので調べて見る。すると一つの可能性に辿り着く。
どうやら除虫菊とも呼ばれるムシヨケギクとやらが有している殺虫成分が、魚にもかなり効いてしまうようで。
昼間に部屋にばらまいた殺虫剤を見れば件の成分がふんだんに含まれているようで、自分の行いで金魚を殺してしまったかもしれないと思うとやるせない気分になった。
金魚鉢には、もう一匹の金魚が浮いている。もう要らなくなってしまった金魚の餌の残りをそいつが我が物顔で浮かぶ金魚鉢へとぱらぱらと入れてやる。案の定そいつは食事も摂らず、呼吸もせず、ただぷかぷかと水に揺られている。
当然の話だ。こいつは最初から生きていないのだから。寂しいだろうかと案じて買った偽物の金魚。本物が随分と構ってやっていたが、結局残ったのは偽物の方だった。いつかはそうなると判っていたが、あまりにも心の準備ができていなかった。
しばらくそいつを慰めにして水を変えては餌を放り込み、いつも通りに努めてみた。
そうしているうちにようやく金魚が死んだことを受け入れられて、ちょうどそのあたりで金魚の餌が底をついた。
次に魚を飼うときは殺虫剤に気を付けよう。その教訓と共に思い出を仕舞い込もうとしたのだが、しばらくの間そこにあった金魚鉢がなくなるのはなんだか寂しい気持ちになってしまって。
偽物は今日も何の反応もせず、ただそこに居続ける。面白味はないが、それでもいなくならない安心感がそこに在った。
こいつが寂しくないよう、熱帯魚ショップか何かで別の金魚を買ってこようかと思った。
簡単プロット
祭りで買ってきた金魚が死んだ。突然のことで訳が分からず、原因を調べたらどうやら殺虫剤の成分が原因のようだ。除虫菊と呼ばれるその花が持つ成分は天然の殺虫成分のようで、それがどうやら金魚にも効いてしまったようだ。ひとりだと寂しいだろうと入れた偽物の魚だけが金魚鉢に浮いていた。
短かったので本文に後書き
この文体にしてから割と調子はいい気がします。平均レベルが上がった感覚。
とはいえそろそろ何か別のインプットもしないとまた戻ってしまいそうなので、インプットも忘れないようにしたいと思います。
時間はなんと16分。短いからまあこんなもんですね。しかし単純計算で一時間3500は行けそうなペース。若かりし頃の作者の最高ペースが2500字/hであったことを考慮するならばかなりの成長を感じますね。いつかこの掌編ぐらいなら10分を切るぐらいになる日が来るんでしょうか。