お題が難しくないですか? 私には難しかったです。
潜水艇は機能を停止し、ただ日の届かない海の底で波に流され続けている。
あるはずのヒューズが軒並み消え失せ、電源を入れることが不可能になったためだ。予備のヒューズまで含めて失われている事を考えれば、これは事故ではなく人為的に引き起こされた事件だと言うほかなかった。
当然、すぐに犯人探しが始まった。真っ先に疑われたのは電気室の担当のマグアインだったが、彼の部屋からはヒューズが出て来ず、シフト的にもアリバイ的にも彼が犯人だとは考えづらい状況だった。
船外作業をも取りやめ、全六名のすべての船室が捜索されたが、目的のものは出てくることはなく、犯人の解明は早速暗礁に乗り上げた。
これが人を入れられる地上であれば警察などの手によって証拠を集め、解決する事が可能だったのかもしれないが、彼らの現在地は日のささぬ
「どうするよ、船長。このままじゃ全員仲良く海の藻屑だぜ?」
「会議を開くつもりだ。ミリーから請われてな」
「ミリーが?」
船長であるウルクと話していたマグアインは、突然上がった名前に目を瞬いた。
ミリーは今回の船員の中で調査員ではなく、調理担当として付いてきているメンバーだった。おどおどした印象を受ける女性で、しかし料理を誰かが美味いと言えばぎこちなく笑みを見せるようなところもある憎めないやつである。
彼女はあまり積極的に犯人探しなどをするような人間には思えなかったので、マグアインはウルクの言葉に思わず聞き返す。
「話したいことがあるんだとよ。まあなんとなく想像はつくがな」
ウルクの言葉に同意するように、マグアインは一つ息をつく。
調理担当の彼女から話があると言うことは、十中八九食糧関係だろう。カレンダーを見なくなってから体感で一週間は過ぎている気がするし、食料保管庫用の非常用電源も昨日ついに落ちてしまった。終わりが近づいていることを告げなくてはいけないと彼女は思ったのかもしれない。
ウルクが他のメンバーを呼びにいくと言ったので、マグアインは先に会議室の部屋へと向かうことにする。途中で発起人であるミリーに遭遇して、その顔色が随分と悪いことに気がついたマグアインは声をかける。
「ミリー、どうした? 顔が真っ青だぞ」
「あ、マグ、アイン、さん。えと、その、ご、ごめんなさい!」
そう言って駆け出してしまったマリーを追いかけようかと思ったが、この廊下の先は会議室しかないと気がついてそのままの足で向かうことにした。
会議室に着けば、ミリーは自分の席で所在なさそうに首を垂れていた。膝の上に置かれた手が血が滲みそうなほど強く握られているのを見つけてしまい、マグアインはやはり声をかけることを選んだ。
「大丈夫か、ミリー。無理そうなら、戻っててもーー」
「だ、ダメです!」
いきなり声を張り上げたミリーにマグアインが理由を問おうとする前に、背後の扉が開いて船長たちが他の船員を連れて入ってくる。
それを見たマグアインはミリーの容体を案じながらも自身の席に移動し、着席する。
程なく船長が会議を始める旨を宣言して、まずミリーから話があると彼女の方へその意識を向けさせた。
全員の視線が集中したミリーはヒュッと喉を鳴らし、身体を強張らせる。
その様子に気づいた船長がこちらに目を向けてきて何か知っているかと目線で問いかけてくるが、マグアインはそれに対して首を横に振る以外の選択肢を持ち合わせてはいなかった。
そして、ミリーは絞り出したかのようにそれを告げた。
「犯人は、私です」
会議室に動揺が走った。
ミリーは今回の調査で初めて同行した調理担当で、船のことを知らなかった。故に皆が真っ先に犯人の候補から外していたからである。
皆が半信半疑ではあるものの、他に自分がやったと言うものが出ないのならば、彼女が犯人ということになってしまう。
皆の動揺を悟ったウルクが船員を代表して努めて冷静な声音で彼女に問う。
「なぜ、こんなことを?」
「本当は、私が乗るはずじゃなかったんです。先輩の代わりにいきなり乗れって言われて、カレンダーに書いてた予定は全部パアになって。だから、事故でも起きたらすぐに帰ることになるんじゃないかって思ったんです」
そんな理由で、彼女はヒューズを隠したのか。
呆れるような幼稚な理由だったが、予定を崩されてしまった彼女にも同情する部分はある。だが、彼女の行いでカレンダーがより一層無意味なものになったのはどういう意図なのだろう。こんな大事になるとは思っていなかったということなのだろうか。
そこまで考えて、マグアインは嫌な想像が頭に思い浮かんでしまって、縋るように彼女に問う。
「ミリー、ヒューズはどこだ?」
「すぐ見つかっちゃうと思ったんです。ほんとに、こんなとになるなんて思ってなくて、少しみんなに嫌がらせができて、こんな奴は信用できないから一旦戻ろうって話になれば、それで良かったんです」
この潜水艇は船外作業をしに外の出る際に水圧の対策と水が流れ込んでこないようにするための対策として、二重の扉が用意されている。宇宙船と同じような仕組みのそれは、船内から扉を開こうとすると外の扉が閉まるようになっており、普段は内側の扉だけが閉まっている状態である。
それは調査メンバーなら誰でも知っていることで、しかし調査用の扉と船に入る時の扉は別のところに位置していることもあって、調査員以外の人間でなければ知らなくてもおかしいことではない。
「なんで皆あそこだけ避けるんだろうって、なんで他のところは血眼になって探すのに、あそこだけは調べようとしないんだろうって、ずっと思っていたんです。もうこんなことを言っても意味ないですけど、本当に、ほんとの本当に、こんなつもりじゃ、なかったんです」
全員がその言葉の意味を理解して、空いた口が塞がらなくなる。
彼女は見てしまったのだ。知ってしまったのだ。彼女がヒューズを隠した場所は、決して物を隠すのに適した場所ではなかったのだということを。
そして、船員たちも知ってしまった。自分たちがもう、助かる事がないことを。
責める気にはならなかった。だって彼女の言う通り、そんなことをしても意味がないのだから。
簡単プロット
日の届かぬ潜水艇は壊れた。船員の誰かによる人的な事故だった。
すでに事故から一週間以上経っており、これ以上犯人を見つけられなければ死を待つしかない。
ミリーの請願によって開かれた会議で、ミリーは自分が犯人だと声を上げた。
制限時間を大幅オーバーしたこと以外は満足の出来ですかね。55分で2500字とすると悪くはないですが、PCならもう少し早く書けそう。あと実際の潜水艦は船外調査なんてしなかったはず。水圧で死にますからね。そこはお題が悪いよ、お題が。水族館とかの話にしとけば良かったって? それはそう。舞台設定選びに関しても精進あるのみです。ぱわー。