職業に行きそうなところを無理やりハンドルを切りました。
誠司は妻である愛美と馴染みの喫茶店を訪れ、優雅な午後の時間を過ごしてーーはいなかった。
彼の前にあるのは般若のような顔をした妻が不機嫌そうな様子を隠そうともせず、机に置いた手がタンタンと一定のリズムで苛立ちを主張している。
そしてそれらを差し置いて最も重要なのは、誠司とその妻である愛美の中間地点に置かれた一枚の書類、既に妻の名前が記入された離婚届であることは間違いないだろう。
そう、この喫茶店は彼らが別れ話をしようとする度にやってくる、二人で話すのにちょうどいい店なのである。
「待ってくれ愛美! 俺を捨てないでくれぇえ!」
「さっさと書類にサインしなさい。今回ばかりは流石に堪忍袋の尾が切れたわ」
その台詞は既にこの場所で幾度となく発された言葉ではあるものの、眼前の一枚の紙切れが今までとは一線を画す覚悟があるのだと言うことを物語っていた。
それが故に誠司は焦る。愛美は自分がいなくても問題無く生きていくだろうという考えが浮かぶことより、自分は愛美がいなければ生きていけないだろうという確信があったからだ。
「頼むよぉお! お前がいなかったら俺は死んじまうって!」
「知ってるわ。でも今回ばかりはダメ。あなた自分がしたことわかってる?」
いつもは頼み込めば許してくれる妻が、今回ばかりはその態度を崩さずに頑として譲らない。その理由に心当たりがあったが故に、誠司は机に頭を擦り付けるようにして無様な姿を晒し、愛美の鬱憤が冷めるのを待つことしかできない。というより、誠司はそれ以外の謝り方を知らなかった。
「競馬もゲームもお金を使ってもいいけど、将来のために貯める貯金には手を出さないって約束したでしょ! あと数年経ったら子供も作ろうって話してたのに、どうしてそんな事ができるの!」
「今回は自信があったんだ! 絶対当たるはずと思ってーー」
「やっぱり競馬に突っ込んだのね! 終わりよ終わり! 子供ができたら子供の高校大学用の貯金に手を出すに決まってるわ!」
「そんなこと言わないでくれー! まなみぃ! 許してくれよー!」
今回の発端は、愛美が通帳で預金残高を確認したことで発覚したことだった。今月分の貯金を入れた時に、自分の知らない引き出し履歴があったことに気が付いたのである。今までは共用の口座から引き落としたりクレジットカードで馬鹿をやるぐらいだったから良かったものの、将来の子供用の貯金に手をつけたことが愛美の逆鱗に触れてしまったのである。
それがゲームや何かの道具に注ぎ込んだのであれば良かった。それであればまだ一緒に楽しんだり、ものによっては便利なものだったりすることもあるので、マイナス分を共用口座から補填すればいいと考えていたのだ。
だが、競馬は違う。失えば、それで終わり。増える可能性も確かに存在するが、誠司が馬券を当てているところは愛美の記憶にない。当てていたとしてもかけた金額よりも払い戻しが安いパターンでのみが当たるだけで、誠司がいわゆる勝ったと言う状態になっているのを見た事がなかった。
「本当は1.3倍になるはずだったんだぁ! なんで俺がかけた時だけ銀行が破綻するんだよぉ!」
「うっさい! さっさと書きなさい!」
「嫌だァ! 俺は絶対離婚なんてしねぇ! 一生愛美のふくらはぎにしがみついてでも一緒にいるんだ!」
「こンのぉ……」
何度やっても学習しない自分の夫に、青筋を立てる愛美。是が非でも別れたくないとみっともなく訴える誠司。
そのヒートアップした空気に割って入るように、店員が申し訳なさそうに声をかける。
「あのぉすみませーん、他のお客様のご迷惑になりますので、さっさと出ていってもらっていいでしょうか?」
ここだけ聞くとあんまりな接客だと思うかもしれないが、誠司と愛美がここに別れ話をしにくるのは既に両の指では足りないほどである。毎回喫茶店に来たら険悪なムードで別れ話をされ、その度に大の大人の醜態を見せられる店員の立場にもなると、雑な対応をされても仕方のないことなのかもしれなかった。
追い出されてしまった二人は会計をしようとして、誠司が財布を開き、次の瞬間には縋るように愛美の方を見た。
それにブチ切れようとした愛美が声を発する前に店員に「痴話喧嘩は外でやってくださいねー」と声をかけられてしまって、二人はすごすごと喫茶店を去る。
「俺、変わるから。愛美の理想に近づけるよう、頑張るから」
だから捨てないでくれ。口にしなかった要求の、なんと情けないことか。
しかし決意を新たに目に光を宿した誠司を見て、愛美は呆れたように一つ息をつき、
「それを聞くのももう、五回目なのよ! 誠実さを司るって名前なんだから、一つぐらいはやりきりなさいな!」
「今回は、今回だけは本当だから!」
全く誠司の言葉を信用しない愛美が足早に歩いて行こうとすると、誠司がそれにしがみついて離さない。
絶対ちゃんとやるから。その言葉を信じてもう、何回裏切られたことか。
愛美は今回こそはちゃんとこの不良債権を処分すると決めて足元の誠司を見て、捨てられた子犬のような表情でこちらを見る自分の夫に歯噛みする。
「次はないから!」
その言葉も、十回以上は聞いてるよ。
反射的にそう口にしてしまいそうになった誠司はなんとかそれを押し留め、先を歩いていってしまった愛美のことを追いかけるのだった。
2分で考えた簡単プロット
馴染みの喫茶店で、誠司は妻である愛美に離婚届を叩きつけられ、捨てないでくれと許しを請うていた。競馬で大負けしたことから始まって、真実は淡々と誠司に離婚理由を淡々と突きつける。
結局誠司が離婚届に判を押さなかったことで、二人の関係は続くことになる。
脳死で書いた。残業で頭がやられてますね。クオリティは知りません。
ちなみに40分クオリティです。展開が決まってた分ちょっと若干スムーズだったか。あと1週間耐えればパソコンで執筆できるので、そうなれば少しは楽になるでしょう。
しかし25分を測っているので、iPadになってからオーバーしまくりです。35分設定にしてもいいかもしれませんね。もう少し短く物語をまとめる力が欲しいものです。精進あるのみ。ぱわー。